2014年12月28日日曜日

リツェアクベバ(メイチャン) | 精油類を買うときには注意して!(38)

今年も一年ご愛読くださいまして、有難うございました。
来年もよろしくお願いします。
高山 林太郎


リツェアクベバ(Litsea cubeba)油
 
 
 学名 Litsea cubeba Lam. , 別名 Laurus cubeba Lour. , Lindera citriodora Sieb. et zucc.
 
 リツェアクベバは、クスノキ科ハマビワ属の双子葉植物。ハマビワ属は落葉または常緑の高木。熱帯から温帯にかけて広範に分布し、アフリカとヨーロッパとを除く世界各地に、この近縁種がおよそ400種も生育している。これを「リトセア」などと発音してはNG
 L. cubebaは、和名をアオモジ、タイワンヤマクロモジといい、英名はMoutain spice tseeまたはMay chang tree、中国では山鶏椒などと呼んだりする。この木は強い芳香を放ち、わが国では本州西部、九州に生えており、西マレーシアの熱帯に広く分布し、熱帯では常緑になる。果実は香味料にされ、木材は楊枝(ようじ)になる。現在、この主要産地は、中国南部、台湾。
 
 
・精油の抽出 この木のコショウに似た果実を採取して、これを水蒸気蒸留して採油する。
 
 
・主要成分(%で示す。およその目安である)
 ゲラニアール    40.6
 ネラール      33.8
 α-ピネン      0.9
 β-ピネン      0.4
 ミルセン      3.0
 シトロネラール   0.6
 
 
・偽和の問題
 この精油は、ずっと安価なレモングラス油で偽和されることがよくある。
 
 
・毒性
 LD50値
   ラットで >5g/kg(経口)
   ウサギで >5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で皮膚に適用した場合、いずれも認められなかった。
 
 光毒性
  まだ、これで試験した例はないようだ。
 
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で(in vitroで)この精油は強力な鎮痙作用を示した。リツェアクベバ油をモルモットの腹腔内に注射したり、モルモットにこの精油の蒸気を吸入させたりして投与すると、あらかじめ気管支収縮(狭窄)剤を吸入させて惹起した喘息発作を抑えることがわかった。
 リツェアクベバ油はまた、ラットにおける皮膚のアナフィラキシー(誘発性過敏症)を、さらにモルモットにおける卵の蛋白質への感作によるアナフィラキシーショックをそれぞれ抑制することが判明している。
 
 抗菌効果 25種の各種細菌において、その16〜18種に、またリステリア属の標準種の細菌Listeria monocytogenesに対して抗菌作用があることが研究者によって確かめられている。
 
 抗真菌効果 各種の真菌に対して、強弱さまざまな効果がある。
 
 抗酸化作用 この活性はない。

2014年12月16日火曜日

ラベンダー(真正ならびにスパイク種) | 精油類を買うときには注意して!(37)

ラベンダー(真正、ならびにスパイク種)油
 
 
 さあ、みなさん、いよいよアロマテラピーで使用される精油のスターの登場だ。この精油の効用は、昔から南フランスの農民たちが知っていて、これを外用にしたり内用したりして、外傷とかやけどとか、腹痛の緩和とかに活用していた。
それを香料会社を経営していたルネ=モーリス・ガットフォセが自分の負った全治三ヶ月にも及ぶ上半身の大やけどに適用してみて、その効果を自分の体で実感して「アロマテラピー、aromathérapie」と名付け、精油を用いた自然療法の可能性を唱えた。この際のエピソードについて、ずいぶん長いことウソ八百がまかり通ってきたことは何度もこのブログで私が述べてきた通りである。その責任の一端はジャン・バルネ博士にあり、その著作をパクった英国人のロバート・ティスランドにあり、さらにこの両者の著作をそれぞれフランス語・英語の原典から訳したこの私にもある。この場をかりておわび申し上げる。
 
 ラベンダーはシソ科の小低木で、ご存知のように7〜8月ごろにうす紫色の小さい花を長い花 柄の先端に6〜10個ずつ輪状につける。地中海からアルプスの山腹にかけて、標高800〜1800メートルのアルカリ性土壌の土地に生える。
 ラベンダーは日本に江戸時代の文化年間、つまり1804年から1818年に蘭学者の書いたものに「ラワンデル」として記載されており、当時すでに、何らかのかたちでこの植物が日本に渡来していたと考えてよいだろう。また、スパイクラベンダーも「ヒロハラワンデル」として蘭学者が紹介している。
 
 現在、真正ラベンダーの主要な産地は、ブルガリア、フランス、イタリア、スペイン、中国、タスマニア、米国の一部などである。日本でも北海道で富田忠雄氏らの努力で、真正ラベンダーの一種「オカムラサキ」などが植栽されている(精油の生産量は決して多くはないが)。
 アロマテラピー発祥の地、フランスでの真正ラベンダー油の生産量は毎年減少の一途をたどっている。そして、その代りにラバンジン油がどんどん増産されている。この事情は前回記した通りである。
 
 
 学名 Lavandula angustifolia var. angustifolia P. Miller
    またL. officinalis, L. veraという別名もある。
    (ただし、ブルガリアの研究者によるとL. angustifoliaとL. veraとは、極めて近縁ながらそれぞれ別種だとのこと)
 
 精油の抽出 花の咲いた先端部分(てっぺんから20〜30センチぐらい)を水蒸気蒸留して採油する。
 
 ラバンジンは、上述の真正ラベンダーとスパイクラベンダー(L. spicaあるいはL. latifoliaと略記する)との交雑種である。
 スパイクラベンダーは、真正ラベンダーより、標高の低い土地に生育する。これらのラベンダーの精油について、その主要成分をマリア=リズ・バルチン博士は下記のように示している。
 
主要成分(%で示す。生育条件により変動があることは言うまでもない)
              真正ラベンダー    スパイクラベンダー    ラバンジン
 リナロール         6〜50       11〜54       24〜41
 リナリルアセテート     7〜56       0.8〜15        2〜34
 1,8-シネオール       0〜5        25〜37       6〜26
 ラバンズロール       0〜7        0.3〜0.7        0.8〜1.4
 ラバンズリルアセテート   5〜30       0           <3.5
 カンファー         0〜0.8        9〜60        0.4〜12
 
 これらのラベンダーには、微小成分としてシス-オシメン、トランス-オシメン、3-オクタノンなどが含まれる。真正ラベンダーにはまた、ボルネオールが最高1.8%まで含まれる。
 
・偽和の問題
 ISO基準は、真正ラベンダー油は25〜45%のリナリルアセテートの含有量であること、またリナロールは25〜38%含むことを求めている。そこで成分をアセチル化したラバンジン油、合成したリナリルアセテート、合成リナロール、芳樟油の留分などを加えて増量することがひろく行われている。そういう業者に限って、もっともらしい分析表をつけたりする。真正ラベンダー油よりずっと安価なラバンジン油を真正ラベンダー油と偽って売ることはザラである。
 
・毒性
 LD50値
  真正ラベンダー油・ラバンジン油ともに、
   >5g/kg(経口) ラットにおいて
   >5g/kg(経皮) ウサギにおいて
  スパイクラベンダー油は、
   4g/kg(経口) ラットにおいて
   >2g/kg(経皮) ウサギにおいて
 刺激性・感作性
   真正ラベンダー油は、ヒトにおいて10%濃度でこれらはいずれも認められなかった。スパイクラベンダー油はヒトにおいて8%濃度で、またラバンジン油はヒトにおいて5%濃度でこれらはみられなかった。
 光毒性
   真正ラベンダー油、スパイクラベンダー油、ラバンジン油のいずれにおいても、光毒性が認められたとの報告はゼロである。
 
・作用
 薬理学的作用 上記の各種ラベンダー油は、たいていどれもモルモットの回腸において(in vitroで)、鎮痙効果がみられた。しかし、それに先立って、まず痙攣惹起効果が上記の実験動物のおよそ半分で認められた。イヌにおいて(in vitroで)、平滑筋のトーヌス(正常な緊張)、律動性収縮運動、蠕動運動のそれぞれが、これらのラベンダー油の投与によって向上することが判明した。
 
 抗菌作用 真正ラベンダー油の作用については、試験例によってさまざまな変動がある。精油自体は、およそ5分の3の細菌で活性を示している。
 またこの精油の上記は、約5分の1の細菌に有効であった。ラバンジン油は、蒸散させたかたちで試験対象の細菌類のおよそ5分の1に効果を発揮し、スパイクラベンダー油は約25分の18に対して活性があった。
 
 抗真菌作用 真正ラベンダー油ならびにラバンジン油は、試験に供した5種の真菌に対し、すべてこの効果を示した。しかし、研究者によっては、さしてこの作用は強くなかったと報告しているものもいる。ラバンジン油とスパイクラベンダー油とは、一般に真正ラベンダー油にくらべて、この効果は低いようだ。
 
 その他の作用 真正ラベンダー油は、マウスとヒトとの双方において、鎮静作用を発揮することが確かめられている。ヒトの場合、CNVの波形データも、この事実を裏付けている。
  真正ラベンダー油およびラバンジン油には、一定の抗酸化効果が認められるが、スパイクラベンダー油にはこの作用は期待できない。
  ルネ=モーリス・ガットフォセは、「脱テルペン」した真正ラベンダー油を未希釈で適用すると開放創の治療によいとしている。脱テルペンしたものが、マックスの効果を発揮すると、彼はくどくいっている。
  英国などのアロマセラピストが伝えているこの精油の効果については、ここではとても書ききれない。私にはあまり信じられないような真正ラベンダー油の「効きめ」も少なくない。まあ一つ、私が訳したもののうち、J.ローレスの『ラベンダー油』、W. セラーの『アロマテラピーのための84の精油』などをごらんください。
 
付記①
 真正ラベンダー油の芳香は、欧米人は90%ぐらいの人が好むが、日本人の2人に1人、あるいは3人に1人は、この精油のにおいが嫌いなようだ。私の長年の友人で、ハーブ専門家・園芸家の槙島みどり氏は、ご母堂が重い病気で入院した折、その足をラベンダー油でマッサージしたところ、同じ病室の女性患者からヒステリックに 「やめて!そのにおい嫌いなの!」 とどなられた経験をお持ちと聞いた。私が英国人にその話をしたら、「あんなに良い香りなのに、信じられない!」といわれたことがある。タイム油の香りも日本人と英米人、フランス人とでは、ずいぶんうけとりかたががちがう。においに対する好き嫌いには、民族によって違いがあるのは仕方がない。嫌いな香りの精油を適用されても、効きめは期待できまい。心理的なバリアがせっかくの効果の発現を抑制してしまうからである。「そこがアロマテラピーのツレエところよ」と寅さんが言いそうだ。
 
付記②
 フランスのハーバリストのモーリス・メッセゲは、その著作『メッセゲ氏の薬草療法』の中で書いている。
 「ある日、悲劇がおきました。家の飼い犬のミスが、マムシに咬まれてしまったのです。父はすぐさま丘のほうにでかけて行き、一束のラベンダーをとってきて、それでミスの傷のところを時間をかけてこすってやっていました。翌日になると、愛犬の容体は快方にむかい、その次の日には、ミスは完全に助かりました。ラベンダーの一種がどうしてアスピック(アルプスに住むクサリヘビ科の毒蛇。英語でspike)などと呼ばれているのか、いまではよくわかります。これが爬虫類の毒に対してよく効く解毒剤になるからです。」
 アスピック(aspic)は、フランス語でスパイクラベンダーのことでもある。
 この話が逆転してか、ラベンダーの花には毒ヘビがすむとして、ヨーロッパでは花輪などにはこれを決して入れない。その花言葉にも「沈黙」、「疑惑」などというのがある。ラベンダーエッセンスの鎮静作用が反映されているのかもしれない。
 
付記③
 どの精油・エッセンスに関してもいえることだが、アロマテラピー用のものは、絶対に100パーセント天然の、すなわち野生もしくは栽培された植物から直接抽出したものでなければならない。アロマテラピーのスター的な精油、ラベンダー油に関しては、とりわけそうである。
 
 しかし、「100パーセント天然ですよ」と言わない業者はいないから、コトは厄介だ。ラベンダー油についていうと、天然のものだ、100パーセントピュアだといっても、香料会社系の業者は、いろいろな地域でとれたラベンダーから採油したさまざまな「真正ラベンダー油」を混ぜ合わせることがよくある。これを「調合精油」という。こうした業者は、本来は香水・賦香剤の原料としてラベンダー油を売っている。その一部をアロマテラピー用に販売しているわけである。
 ラベンダー油は香水では主役にならないが、主役となる精油なりエッセンスなりの芳香をぐんと引き立てる名脇役だ。だから、多くの香水にラベンダー油が配合されている。でも、このラベンダー油はテラピー用ではないので、合成増量剤で水増しした精油であるのがふつうである。調合精油はやや「良心的」ではあるが、これもあくまで香水などの世界でのみ通用する話に過ぎない。
 
 はっきり言うが、この調合精油も、アロマテラピー用には利用できない。天然精油の持つ「生命力」を殺し、ただの化学的成分の集団にしてしまっているからである。これでは工業製品と何ら変わりがない。アロマテラピー用の精油は、年々歳々成分が変動する「生きもの」であって、断じて工業製品ではない。
 
 もう一つ言わせて頂こう。いまアロマテラピーの発祥の地、フランスでの真正ラベンダー精油の生産量が激減していることは前述の通りだが、その抽出方法もひどい状態になっている。いいですか、以前は大気圧を少し上回る圧力下で、蒸気の温度も102℃ぐらいで、12時間もかけてゆっくりと蒸留していた。こうしてできた精油には、十分に有効成分が有機的に、いわば植物の生命力を保存しながら含まれていた。これが本来の天然の100パーセントピュアなアロマテラピー用の精油の要件を満足するものである。だが、遺憾ながら、現在のフランスでは、ラベンダーに高圧をかけ、当然高熱の蒸気にさらして、たったの15分ぐらいでラベンダー油が抽出されている。これでは多くの有効成分がメチャメチャに破壊されてしまう。これではたまったものではない。
これは「天然100パーセント」という看板を掲げたニセモノとしか言いようがない。
 
 英国で精油会社を経営するマギー・ティスランドさんと話をしたとき、私は彼女がこの事実をなんとも思っていないのに愕然とした。マギーさんの売っているラベンダー精油は、まさにこの手のフランス産の品である。マギーさんは好感のもてる女性だし、マッサージオイルにサザンカ油を活用してはどうかとの私の提案も受け入れてくれ、実地に施術したり、被術者になったりして、その有効性を確認してくれて、「高山さん、サザンカ油良かったわよ!」などとその結果を来日して私に知らせてくれてもくれた。惜しむらくは、彼女は以前の連れ合いの自称アロマラピー専門家、あのヒッピー崩れのロバート・ティスランドの悪影響をうけ、それからまだ抜け出せずにいることである。迷信深く、バッチのフラワーレメディーの盲信派だったりするところも、ロバートそっくりだ。まあ、彼女も「ヒッピー崩れ」なんだからやむを得ない面もあるが、マギーさんにはもう少し科学的・批判的な精神をもってほしいと私は友人の一人として切に願っている。
 
 付記④
 天然の真正ラベンダー油に、合成リナロールを加えたニセモノは多いが、ガスクロマトグラフィーで分析すれば、ニセモノにはジヒドロリナロールが検出されるので、一目でそれとわかる。

2014年12月11日木曜日

ラバンジン | 精油類を買うときには注意して!(36)

ラバンジン油
 
 ラバンジンは、シソ科の小低木、真正ラベンダー(Lavandula angustifolia var. angustifolia)と、同じくシソ科の小低木スパイクラベンダー(L. latifolia var. spica)との属間交雑種のラベンダーの一種であり、その次の世代がつくれない。動物でも植物でも、界(kingdom)・門(phylum)・網(class)・自(order)・科(family)・属(genus)・種(species)・亜種(subspecies)という分類をするが、属まで同じなら、遺伝的に分化した二種の生物間でも雑種が生じることがある。種まで同一なら、交雑種は容易にでき、二代目も三代目もできる。現在、日本で広く栽培されているイネ・コムギなどはほとんど人為的に作り出された交配種、すなわち品種である。自然界の交雑種は変種という。
 
 ラバンジンは標高400〜800mの土地に生えるL. latifolia var. spicaと標高900〜1500mの山地で生育するL. angustifolia var. angustifoliaとが昆虫が花粉媒介することによって自然に生じた交雑種である。真正ラベンダーは、むかしはフランスの農民たちが山に自然に育ったものを刈り取って香料会社に納入していた。しかし、真正ラベンダーの需要が増大するにつれ、農民たちはこれを栽培するようになった。その畑に、上記の交雑種が出現した。
 
 初めのうちは、農民たちはこの交雑種の存在に気付かなかった。そしてこれを真正種といっしょに香料会社に納めたり、両者を区別せずに蒸留して得た精油を香料を扱う会社に納入したりしていた。しかし、経験を重ねるうち、在来のラベンダーと異なって二代目ができず、形も大きい種類のラベンダー、すなわち標記のラバンジン(フランス語ではlavandinラヴァンダン)を、それとはっきり農民たちは認識するようになった。
 
 このラバンジンは、真正ラベンダーとちがって二代目ができないので、すべて挿し木でふやす(クローン栽培)。これは、病害虫にも強く、精油の取れる量も多い。つまり収油率が高い。現在、ラベンダー畑の写真として紹介されているものは、ほとんどすべてこのラバンジン畑のものだ。日本で千葉県や富士山麓などで植えられていて、テレビで「ラベンダーの花がいちめんに咲いています」などと紹介されたりするものは、まず間違いなくラバンジンである。ラバンジンもラベンダーの一種なのだから、あながちウソとも言えないのだが。
 
 フランスのある作家が真正ラベンダーのことを「巨大なウニ」にたとえた。うまいことをいうものだ。まさにその通り、一株ごとにハリを立てたウニそっくりである。対してラバンジンは、きっちり同じ長さの挿し木を畝(うね)にずらりと植えるので、南仏のプロバンスあたりでは、そりゃあきれいに見えますよ。風が吹けば、まるでミンクの毛皮のコートがあたり全体にひろがっているような錯覚をおこす。思わずカメラのシャッターを切りたくもなる。一般のフランス人には、真正ラベンダーとラバンジンとの区別も知らない者が多い。
 
 現在のフランスでは、このラバンジンが真正ラベンダーよりもはるかにたくさん栽培されている。真正ラベンダーを1とすると、ラバンジンは9もの割合である。標高の低い土地でも元気に育つし、大型の刈取り機を畝にまたがらせれば、ひろい畑でもたちまち花の咲いた先端部分を上から20〜30センチほどの長さにさっさとカットし、束ねて畝のそばにヒョイヒョイとその機械が並べてもくれる。
 
 ラバンジンは、「シュペールSuper」、「レドヴァンReydovan」、「マイエットMaillette」、「グロッソGrosso」、「アブリアリスAbrialis」、「エメリックEmeric」などの種類がある。シュペールを「スーパーラベンダー」なんて、アホな呼び方をしてはいけない。ここではSuper、Reydovanの両種をとりあげる。
 
 学名 ラバンジン(シュペール・クローン種)Lavandula × burnatii
     別名 Lavandula hybrida, L. intermedia
    ラバンジン(レドヴァン・クローン種)Lavandula × burnatii
     別名 シュペールに同じ
 
 真正ラベンダーとラバンジンとの各精油の成分を調べると、ラバンジンは、リナロール分が真正ラベンダーよりやや少なめ、リナリルアセテートは真正ラベンダーより少ない。ラバンジンは、1,8-シネオールがより多く、ラバンズリルアセテートは真正ラベンダーよりぐんと少ない。
 この比較は、「ラベンダー(37)」の項で表示するつもりである。その折に、スパイクラベンダーについても触れることにする。
 ラバンジンは、真正ラベンダーの花粉がスパイクラベンダーのめしべについたか、スパイクラベンダーの花粉が真正ラベンダーのめしべについたかによって幾つかの種類が生じた
 
主要成分(%で示す)
◎ラバンジン・シュペール
 モノテルペン類(およそ5%)
    ー リモネン0.75%、シス-およびトランス-オシメン1.35%〜2.45%
 アルコール(モノテルペン)
    ー (-)-リナロール30%、ボルネオール2.25%
 リナリルアセテート(エステル類)
    ー 40%、そのほかボルニルアセテート、ラバンズリルアセテート(15%)、ゲラニルアセテート(0.35%)
 カンファー(ケトン類)
    ー 5.45%
 痕跡量成分として、クマリン、ヘルニアリン
 
◎ラバンジン・レドヴァン
 モノテルペン類(α,β-ピネン)
    ー 変動あり
 アルコール(リナロール)
    ー 変動あり
 リナリルアセテート(エステル類)
    ー 25%
 オキシド類
    ー 1,8-シネオール 変動あり
 
・偽和の問題
 このラバンジン油は、真正ラベンダー油のニセモノを作る際によく使われる(成分をアセチル化したラバンジン油を用いる)。あるいはラバンジン油を真正ラベンダー油と詐称して売る。おフランス産なんかいちばんアブナイ。こんなインチキ精油は、ヤケドにも効果がありません。安い安いラバンジン油自体を、わざわざ偽和してまで売るバカはいない。合成物質を加えれば、よほど高くついてしまうから。
 私は、在日フランス大使館の通商代表部の人間に、「なぜ、あなたはそんなにラバンジン油を嫌うのか」と詰め寄られたこともある。私は答えた。「そりゃ、理由はカンタンです。日本人が真正ラベンダー油に期待する効果を、ラバンジン油は発揮しないからです」。
 
・毒性
 LD50値
   >5g/kg(経口) ラットにおいて
   >5g/kg(経皮) ウサギにおいて
 刺激性・感作性 ヒトにおいて、5%濃度でいずれも認められなかった。
 光毒性 報告されていない。
 
・作用
 ラバンジン油は、一般に真正ラベンダー油に比べて抗菌作用において劣るように思われる。
 シュペール種およびレドヴァン種のいずれも、かなり強力な抗微生物、殺菌、殺ウイルス作用がある。
 そのほか、強壮、神経強壮、抗カタル、去痰の各効果を示す。
 したがって、感染性腸炎、鼻咽頭炎、気管支炎、無力症への効果が期待される。
 また、生理学的用量においては、禁忌はどちらについても知られていない。
 
(付記)現在、フランスで生産される真正ラベンダー油は、年間10トン程度で、それに対してラバンジン油は年産100トン以上にもなる。
 いま世界一の真正ラベンダー油生産国はブルガリアだが(年産40トン)、それが輸出されてフランス人の手に渡ると、たちまち10倍くらいに伸ばされる。つまり、偽和され、増量される。
中国も新疆ウイグル自治区で真正ラベンダー油を年間30トンくらい生産している。その大半はブルガリアと同様にフランスに輸出されている。それがどう処理されているかはおよそ想像がつく。

2014年12月3日水曜日

モツヤク(没薬)、ミルラ、マー | 精油・アブソリュート類を買うときには注意して!(35)

 モツヤク(没薬)、ミルラ、マー(Commiphora myrrha)油
 
 学名 Commiphora myrrha (Nees) Engler
    別名 C. abyssinica (Berg) Engler
       C. myrrha var. molmol Engler
 
 没薬樹は、カンラン科のミルラノキ属の低木で、多くはトゲを持ち、北東アフリカから、リビア、イラン、インドにかけての乾燥地帯・砂漠地帯に生育するじょうぶな植物。200にのぼる種類がある。この木の幹にできた裂けめ・傷から樹脂が滲出し、これが空気に触れて固まる。同じカンラン科のニュウコウ(乳香)とよく似ている。C. myrrhaをモツヤクジュ、C. abyssinicaをアラビアモツヤクジュと呼んで区別する。
 
 この固まった樹脂を採取して、水蒸気蒸留し、精油を得る。しかし、アロマテラピー用に使われる「モツヤク油」の大半は、実はこの樹脂をエタノールで処理したもので、アブソリュートといったほうが正しい。このアブソリュートは濃い赤褐色で、精油のほうは濃淡の差はあるが、こはく色をしているのと極めて対照的である。
 
 歴史 モツヤクは同じカンラン科のニュウコウ(乳香)とともに、古代エジプト・古代ギリシャ・古代ローマなどで、広く薫香として、油脂に溶かして香油として、化粧料として、エジプトではミイラ製作用剤として利用された。また、これを軟膏にして、疱瘡治療に、消毒・癒傷のために、消炎症目的のために人びとはこれをひろく用いた。
 古代ギリシャの市民たちには兵役の義務があったので、人びとは戦場でうけた傷の手当て用に、モツヤクの軟膏を皮の小袋に入れて戦いにおもむいた。アテナイ市民のたくましい哲人、ソクラテスももとよりそうしたはずである。古代ローマの兵士たちも、これを戦場に携行したと伝えられる。
 これが、幼な子イエスに乳香・黄金とともに捧げられたエピソードは有名だ(新約聖書、マタイ伝)。
 
 しかし、時代の変遷につれ、乳香とは対蹠的(たいせきてき)に、没薬の人気は薄れてしまった。これが薬剤として使いにくい(水には溶けないし、アルコールにも難溶)ものだったからかも知れないが、理由は判然としない。ある人は乳香を太陽に、没薬を月にたとえている。
 
主要成分(%で示す)
 クルゼレン         11.9
 クルゼレノン        11.7
 フラノエウデスマ-1-3-ジエン 12.5
 リンデストレン       3.5
 
・偽和の問題
 オポポナックス(オポパナックスとも呼ぶ芳香樹脂の1種)をまぜて増量することがよくある。また、アブソリュートを脱色して、貴重な「没薬油」でございといって売る人間もいる。くれぐれも、ご油断めさるな。
 
・毒性
 LD50値
   没薬の「精油」: ラットで1.7g/kg(経口)
            経皮毒性に関しては、まだテストされていない。
   没薬の「アブソリュート」: 経口毒性・経皮毒性とも未試験
 
 刺激性・感作性
  没薬の「精油」:ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
  没薬の「アブソリュート」:ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。しかし、安息香(ベンゾイン)油に触れて接触皮膚炎をおこした患者が、没薬アブソリュートに接触して交差感作を生じた例が報告されている。
 
 光毒性
  この精油とアブソリュートとのいずれも、まだテストされた例を聞かない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で(in vitroで)強烈な痙攣惹起作用を示した。
 
 抗菌効果 きわめて弱いといわざるを得ない。25種の細菌にたいして有効性を示したのは、6例弱だった。食中毒の原因となるリステリア菌についても、実験に供した菌25種のうち、やはり6例しか有効性がみられなかった。これでは古代のギリシャ、ローマの兵士にも、没薬はあまり役立たなかったのではないか。
 
 抗真菌効果 多くの本に、これが水虫などの真菌症に有効だと記されているが、これは疑問である。試験の結果、抗真菌作用は極めて微弱、あるいは皆無であることがはっきりしている。市販のHow to本にだまされてはダメですよ。コピペにコピペを重ねた無責任な記述ばかりがヤタラに目につくこの頃だ。これに限らずね。
 
 その他 抗酸化作用は、没薬の精油においてもアブソリュートにおいても、まったく期待できない。
 
(付記)没薬は、たぶん他の香料と混ぜて薫香にされ、それが相乗的に働いて、精神を明るく高揚させ、無気力状態・疲労困憊状態を改善させたものと思う。カトリックの教会堂内の振り香炉は有名で、巡礼地として名高いスペインのサンチアゴ・デ・コンポステラに疲れきってたどり着いた信者たちの上で振り回される没薬その他を入れて発煙させた振り香炉は、プラシーボ効果もあるだろうが、それ以上の疲労回復効果が確かにありそうだと、その光景に接して私は感じた。

2014年11月19日水曜日

ユーカリ | 精油類を買うときには注意して!(34)

ユーカリ(Eucalyptus globulus)油
 
 ユーカリは、フトモモ科ユーカリ属の常緑の大高木で、実に700にも及ぶ種類があり、ほとんどがオーストラリアとタスマニア島とに分布する。しかし、現在では世界各地に移植されている。成木の葉を陽光などにすかして見ると、油点が見られ、葉をもみ潰すとそのエッセンスが強く香る。幹にキノ(kino)と称される赤褐色のガム(樹脂状物質で、オーストラリア原住民が薬として利用してきたもの)を滲出させることが多いため、英名ではユーカリプタスのほかに、ガムトリー(gum tree)という別名もある。
 19世紀にヨーロッパにも移植され、スペインなどがこの精油の生産地になっている。しかし、地中海沿岸で育つユーカリは、オーストラリアのユーカリほど高木にならない。オーストラリアでは、100〜150メートルもの樹高のユーカリがあるが、ヨーロッパのものは、せいぜい40メートルどまりである。日本では千葉県松戸市でユーカリが同市の木にされているが、日本の気候風土にはあまり合わないようだ。
 オーストラリアの珍獣コアラは、ユーカリの葉が主食だが、そのユーカリも数ある種類のうち、20種類ぐらいのユーカリのものしか口にしない。その理由も推測の域を出ていない。しかし、日本に移植したユーカリは食べてくれるので、動物園の飼育担当者がホッとしたというエピソードを聞いたことがある。
 
 ユーカリの代表格は、標記のE. globulusだが、そのほかにアロマテラピーで有名なのは、E. citriodora(レモンユーカリ)、E. radiata(ラディアータ種ユーカリ)である。
 
 学名 Eucalyptus globulus Labill.(ユーカリ)
     英名はsouthern(またはTasmanian) blue gum, fever tree, blue tree, gum tree
    Eucalyptus citriodora Hooker.(レモンユーカリ)
     英名はLemon scented gum, spotted gum
    Eucalyptus radiata R. T. Baker(ラディアータ種ユーカリ)
 
 精油の抽出 ユーカリの葉と小枝とを水蒸気蒸留して得る。
 
主要成分(%で示す)
          E. globulus   E. citriodora  E. radiata
 1,8-シネオール    90.8     0.6      84.0
  α-ピネン       6.1      0.8      1.6
 シトラール      0      85.0      0
 メントン       0      3.7        0
 シトロネロール    0      4.7        0
 α-テルピネオール   0      0         7.5
 p-シメン       0.8     0        0
 
  (付記)そのほか、E. macarthuriは70ないし80%のゲラニルアセテートを含有。
      E. polybracteaおよびE. smithiiはシネオールを90%も含む。
      なお、E. globulusの精油は、日本薬局方に収載されている精油のひとつである。
 
・偽和の問題
 アロマテラピーでよく用いられるE. globulus、E. radiataからは、大量にコストもかけずに精油が得られるので、偽和されることはあまりない。しかし、E. citriodoraの精油には合成したシトロネラールが加えられることが往々あり、E. smithiiの精油にも合成ゲラニルアセテートが添加され、増量されることがある。
 
・毒性
 LD50値
   E. globulus ラットで4.4g/kg(経口)  ウサギで>5g/kg(経皮)
   E. citriodora ラットで>5g/kg(経口)  ウサギで2.5g/kg(経皮)
   E. radiata 経口毒性・経皮毒性とも未試験
 
 刺激性・感作性
  E. globulusおよびE. citriodoraの各精油を、ヒトにおいて10%濃度で皮膚に適用したが、これらの毒性は見られなかった。
 
 光毒性
  E. globulusおよびE. citriodoraの両精油において、光毒性は皆無であった。
 
(付記)ユーカリ油(たぶんE. globulusだろうと思われる)を内用した例について報告する。3.5ないし21ミリリットルを経口摂取した人間が死に至った。また致命的ではなかったものの、この精油の内用によって、上胃部の灼けつくような痛み、吐き気、めまい、筋肉の弱体化、頻拍、窒息するような感じ、せん妄(知覚障害、思考・記憶の障害など)、激しい痙攣などにみまわれたケースは数多く報告されている。
 
・作用
 薬理作用 E. citriodora精油は、モルモットの回腸で(in vitroで)強い鎮痙作用を示した。同じ濃度でE. globulus油でテストしたが、そうした効果は見られず、E. radiataでは微弱な作用しか観察されなかった。
 
 抗菌効果 E. citriodora油は、5〜6種の細菌にたいして強い活性を発揮した。その他の種類のユーカリ油も、総じて抗菌・殺菌作用がある。
 
 抗真菌効果 E. citriodora油は、各種の真菌にたいして高い抗真菌・殺真菌活性を示した。ことにカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)には、この精油が、E. globulus油・E. radiata油よりもはるかに有効であった。カンジダ症へのこの精油の適切な利用が強く示唆されるところである。 

2014年11月13日木曜日

〔コラム〕ペットへのアロマテラピーについて一言

 近ごろでは、少子化と裏腹にペットを飼う人間が異常というか、異様にふえている。
ペットとして飼養される動物のチャンピオンは、なんといっても、イヌとネコだろう。あとは、小鳥や魚類(古典的な金魚、あるいは熱帯魚、広い池が邸内にあればニシキゴイなんてところか)や、ゲテモノ好きにはヘビ・トカゲ・カメレオン・カメなどの爬虫類などもあげられるだろう。
 
 ここでは、イヌ・ネコに限ってお話ししたい。身近にこれらを飼っている人間がとくに多いからだ。
 では、本題に入る。
 私がアロマテラピーを足かけ30年前に日本に紹介してから、英国・フランス以上に、わが国ではそれこそ猫も杓子(しゃくし)もこの自然療法を、その実体を、その本質をろくに理解しないままもてはやすようになった。
 その結果、インチキな「アロマテラピー」がさまざまな形態で横行することになり、市販の「アロマテラピー用精油」の90パーセント以上が完全な偽物精油という状況が生まれてしまった。これについては、強調しすぎることはあるまい。
 
 日本人は、本当におとなしい。こんな精油で効果(プラシーボ効果以上の効果)が生じたら、キリストの復活以来の奇跡といってよい。高価な精油を購入し、それを自分の体に適用して効果がみられない場合、欧米人だったら精油の販売店に、精油のメーカーないし販売代理店にクレームをつけずにはおくまい。しかし、「お・も・て・な・し」の「美風」をよしとする大半の日本人は、それが中国産・韓国産のものだったら、目を三角にしてイキリ立つかもしれないが、おフランス産とかオーストラリア産とかいったラベルの精油・エッセンスになると、「アタシの体のほうが悪いんだわ」とムリヤリ自分を納得させてしまう。そして、この療法自体にムリがあるのではないかとの疑問を公けにするとか、「アタシの買った精油、本当にピュアなの? その証拠を見せてちょうだい」などと販売店にネジこんだりとかする行為には、まず絶対に走らない。私のようなヘソ曲がりは、千人に一人ぐらいなんだろう。
 
 しかし、その精油を使ったら、体調を崩してしまったと口に出していえる人間はまだよい。近ごろでは、自分の飼っているイヌ・ネコに、強引にアロマテラピーを施す人間がいる。よく考えてほしい。精油はテルペン類・アルデヒド類・テルペノール類・エステル類・ケトン類・酸類・フェノール類・オキシド類、例外的だが硫化物類などからなっている。人間の肉体は、これらを吸収してしかじかの効果を発揮させたのち、これらを代謝・分解し、排せつする働きが備わっている。むろんその精油が本物で、用法・用量が適切だったらの話ですよ。
 しかし、イヌ・ネコのような本来、肉食系の動物には、これらの成分のうち、代謝・分解できないものがあるのだ(代謝するための酵素がもともとつくれない)。それは、イヌ・ネコにとって毒物になってしまい、イヌ・ネコを病気にしたり、その命までも奪ったりしてしまう結果をもたらす。比喩として、穏当を欠くかもしれないが、ネコもヒトも体内で代謝分解できないメチル水銀が原因で、水俣病がおこったことを想起されたい。いま、たくさんのペットが、無知な飼い主の施す「アロマテラピー」の犠牲になって死んでいる。古い昔からの人類の友であるこうした動物たちの日本における実状を知ってほしい。
 
 半可通の、というより何も知らぬ人間の得手勝手なひとりよがりで「アロマテラピー」の犠牲にされるペットたちこそ哀れである。
 獣医師でもアロマテラピーについて、またそれを動物に施す際の的確な技術について十全に通じているものは、稀有といってよい。いままで、従来のさまざまな技術で動物の病気をちゃんと治してきた獣医たちが、何が悲しくて「アロマテラピー」などをいま慌てて採用する必要性が、必然性があるのか。
 
 結論として申しあげる。イヌ・ネコなどのペットを対象としたアロマテラピーは、不必要の一語に尽きる。 

2014年11月6日木曜日

メリッサ | 精油類を買うときには注意して!(33)

メリッサ(Melissa officinalis)油
 
 メリッサは、セイヨウヤマハッカ属のシソ科の多年草。地中海沿岸地域からユーラシア大陸東部にかけて、数種が分布する。寒さに強い植物である。
 
 学名 Melissa officinalis
 別名 レモンバーム、ビーバーム、和名 セイヨウヤマハッカ、コウスイハッカ、メリッサソウ
 産地 原産地はヨーロッパ南部。現在の主要産地はフランス。しかし、英国その他の土地でもひろくみられる。
 特色 草全体に芳香がある。香味料として、サラダやスープなどの香りづけに利用される。メリッサはハーバルティーとしてもヨーロッパで愛飲され、またこれが、頭痛・歯痛止めに、さらには発汗を促すために薬用された。
 精油の抽出 葉とこのハーブの先端部分、さらに茎部もあわせて水蒸気蒸留して得る。しかし、このハーブは水分ばかり多く含んでいて、エッセンスの分泌腺が極端に少ないので、非常に多量の原料からごく少量の精油しかとれない。もっぱら香料として使われる精油である。
 
 
主要成分(%で示す)マリア・リズ=バルチン博士は、2カ所の蒸留所で試験的に抽出したメリッサ油の組成成分を次のように示している。
           A蒸留所のメリッサ油      B蒸留所のメリッサ油
 β-カリオフィレン     11.7              29.0
 ゲラニアール       25.0              17.3
 ネラール         15.3              10.9
 シトロネラール      24.6              2.2
 フムレン         0               2.1
 γ-カジネン        0               2.1
 
 以上は、それぞれにメリッサの精油の組成成分の比率が、その原料植物の生育地によって大きく異なることを示している。どちらも、いっさい化学合成物質を入れたりしていない真正メリッサ油である。
市販品は99.9%まで化学合成物質ないし別の植物に由来する精油を加えて増量したニセモノと考えられるので、分析すればどんな成分が、どれほど検出されるか知れたものではない。真正メリッサ油の価格は真正のバラ油と同じくらいと心得られたい。つまり同じ重さの黄金と同価格だということだ。
 
・偽和の問題
 上述したように、メリッサ油は莫大なコストをかけても、ほんの少量しか原料から得られないために、真正メリッサ油は極めて高価である。市販の「メリッサ油」と称するものは、ほとんどが化学合成した成分のブレンド品か、さもなければレモンエッセンス、レモンバーベナ(Lippia citriodora)油、レモングラス(Cymbopogon citratus)油、シトロネラ(Cymbopogon nardus)油のうち1種ないし複数の精油の留分をごく少量の真正メリッサ油にたっぷり加えて増量したものかのいずれかである。つまりニセモノということだ。
 
・毒性 真正のメリッサ油の正確な信頼のおけるデータは残念ながらまだ得られていない。インチキ市販品などを用いてテストしてもナンセンスである。
 LD50値 データなし
 刺激性・感作性 データなし
 光毒性 データなし
 
注)もっともらしい研究結果報告に接したこともあるが、それが真正メリッサ油を用いたという、信じるに足りる証明がないかぎり、私たちは信じるべきではない。
一般にメリッサ油は、過度に速い呼吸と心拍を鎮め、月経周期を規則的にする効果があるとされる。だが、それはその精油がホンモノだという確証がなければ、いずれも説得力がない。
 
・作用
 市販のあるブランドの「メリッサ油」は、モルモットの回腸で(in vitroで)弱い鎮痙作用を示した。しかしこのメリッサ油が真正品だという保証はないので、真正メリッサ油の作用として、これをあげるわけにはいかない。
また、抗菌作用についても、抗真菌作用についても、書店のHow to本にもっともらしく書かれているものは、およそ信頼に値しない。
さらにメリッサ油には、抗ウイルス特性があるなどというデタラメな報告もなされたことがあるが、絶対に真に受けないでほしい。
ハーブとしてのメリッサを利用すれば、確かに抗ウイルス効果があるが、それはこのハーブをハーバルティーとして用いたときに出てくるタンニンの効果である。タンニンは水溶性成分であるために精油中には含まれない。したがってメリッサ油を蒸散させても、空気中のウイルスを殺したりすることは不可能である。まず「メリッサ油」は敬遠なさったほうがよい。香料としてならともかく、アロマテラピー用にこれを買う人の気が知れない。
 
・ハーブとしてのメリッサ
 アロマテラピーではないが、メリッサを乾燥させてハーバルティーとして飲用すると、駆風作用があり、心身をリラックスさせることが経験的に確かめられている。英国などでは干したメリッサを枕につめて安眠を促すために用いた。どれほど実効があったか疑問だが。なおメリッサは別名レモンバームというが、これをクマツヅヅラ科のレモンバーベナ、同じくクマツヅヅラ科のバーベイン(Verbena officinalis)と混同しないでいただきたい。 

2014年10月28日火曜日

ミント類| 精油を買うときには注意して!(32)

ミント類
 
  ミントはシソ科のハッカ属の一年草または多年草。40もの種類があるが、どれにも強弱の差こそあれ、芳香がある。北半球の温暖な地域に広範に分布している。ハッカの仲間は古来有名で、古代エジプト、古代ローマでも香味料、薬剤原料として利用された。新約聖書でも、これについての言及がある。
 ミント類でとくに有名なのは、ペパーミント、スペアミント、コーンミント(別名 ジャパニーズミント)である。そのほかベルガモットミント、フィールドミント、ホースミントなども広く知られている。現在、ミント類の主要生産国は、米国と南米である。
 
ペパーミント 学名 Mentha x piperita L.
 セイヨウハッカとも呼ばれる。ヨーロッパに生育する多年草で、ベルガモットミント(M. aquatica)とスペアミント(M. spicata)との自然交雑によって生じた。これは各地で栽培される。草丈は30〜40cm。茎の先端に紫または白色の穂状の花序をつける(ここが、ジャパニーズミントすなわち和種ハッカとの外観上の大きな相違点)。花は8〜9月ごろ咲く。この花の咲いた先端を蒸留してとった精油は、チューインガム・洋菓子・ゼリーの香料にされ、練り歯磨き・化粧品の賦香にも利用される。また、薬剤として強心剤・興奮剤などとしても用いられる。
 
スペアミント 学名 Mentha spicata L.(別名 M. viridis L. ミドリハッカ、オランダハッカ)
 中央ヨーロッパ原産の多年草。M. longifoliaとM. aquaticaとの交雑種。中国では留蘭香という。メントール含量が少なく、カルボンを58〜70%含む。米国ミシガン州、日本では北海道で栽培される。
 
コーンミント(別名 ジャパニーズミント) 学名 Mentha arvensis var. piperascens Holms
 日本、朝鮮、シベリアに生える多年草。草丈は60cmぐらいにまでなる。7〜8月に葉腋に淡紫色の花を咲かせる。中国語で家薄荷という。このハッカはメントール(ハッカ脳とも呼ぶ)含量が高く、以前は世界のハッカ脳の需要量の四分の三を日本がまかなっていた。生産地は北海道の北見だった。しかし、第二次大戦後は、主要生産地は米国や南米などに移り、合成品も多量に生産されるようになって、北見では昔の面影はなくなってしまった。
 
・精油の抽出
 ミント類は、いずれも花の咲いた時期の先端部を採取して、水蒸気蒸留して、それぞれの精油を得る。原料植物を生乾き状態にして蒸留する場合もある。
 
 
主要成分(%で示す)各成分含量はおおよその目安である。
           ペパーミント     スペアミント     コーンミント
 メントール     27〜51      0.1〜0.3       65〜80
 メントン      13〜52      0.7〜2        3.4〜15
 イソメントン    2〜10       痕跡量        1.9〜4.8
 1,8-シネオール   5〜14       1〜2        0.1〜0.3
 リモネン      1〜3        8〜12       0.7〜6.2
 カルボン      0          58〜70      0
 
 
・偽和の問題
 いちばん偽和されるのは、ペパーミント油である。たいてい、ずっと価格の安いコーンミントで増量する。あるいはコーンミント油自体をペパーミント油と詐称する。詳しい説明は省くが、この偽和は看破するのがかなり困難である。
 
・毒性
 LD50値
   ペパーミント 4.4g/kg(経口) ラットにおいて
   コーンミント 1.2g/kg(経口) ラットにおいて
   スペアミント 試験例は報告されていない
 
 刺激性・感作性
  ペパーミント
   刺激性を示すことがあり、また各種のアレルギー反応を生じさせる場合がある。角砂糖にこの精油を数滴落として服用しただけで、胸焼けを生じさせたり、その強烈な香りのせいで窒息しそうになったという人もいる。
   アレルギー反応は、この精油を多量に配合した練り歯磨きをたくさん使用したり、またこの精油を入れたスウィーツ類を食べすぎたりしたときに生じるケースがある。しかし、あまり多量に摂取しない限り、そんなに心配することはない。それほど危険なものだったら、厚生労働省が放置しておくわけがない。
  スペアミント
   4%濃度で摂取しても、問題はない。アレルギー反応をおこした人間の例も皆無ではないが、まず心配する必要はない。よほど非常識に大量を摂取しない限り、ペパーミントより危険性はずっと低い。
 
 光毒性
  ミント類の精油で、光毒性を見出したケースはない。
 
・作用
 薬理作用 イヌにおいて、ペパーミント油、スペアミント油を水によくまぜて(水には不溶性だが)4%(敏感な人間には0.1%)濃度くらいで与えたところ、胃壁を弛緩させる効果がみられ、回腸・大腸の緊張・収縮力が減退した。ペパーミント油はマウスの大・小腸とモルモットの回腸とにおいていずれもin vitroで鎮痙作用を示した(マリア・リズ=バルチン博士による)。
 
 抗菌作用 細菌の種類により、ペパーミント油の抗菌力は多様で、強弱さまざまである。
 
 抗真菌作用 あまり強くない。
 抗酸化作用 なし。
 抗てんかん作用 各種のミント精油をエアロゾルとして噴霧することで、てんかんの発作を抑制ないし緩和する効果がみられた。
 
付記 ミント類には、ほかにペニロイヤルミント(M. pulegium〔これは有毒成分が多いので要注意。これには北米種とヨーロッパ種との2大ケモタイプがある〕)、スコッチペパーミント(M. cardiaca)など多数の種類がある。フランスのハーバリスト、モーリス・メッセゲが来日したとき、彼はmenthe verte(スペアミント)と講演で発言したのに、植物に詳しくない通訳が「ソフトミント」などと妙な訳をした。ソフトミント、ハードミントなどという英名のハッカ類は存在しない。通訳は、最低限の専門用語はマスターしなければいけない。ひどい通訳になると、problem(一般には「問題」という意味だが、そこでは「障害・病気」などと訳すべきところだった)を誤訳した。私は見かねて、その通訳にメモを渡して注意した。「問題が解決した」は「病気がなおった」と訳しなさい、と。 

2014年10月21日火曜日

精油のシナジー効果を利用した精油の新しいレシピ(2)

症状 ー 怖気(おじけ)、人前であがること
   (俳優の)舞台負け、実力の発揮の不能など
 
人間は、人にもよるが、実力はちゃんとあるのに、人の前では何かのパフォーマンスをしようとするとき、「あがって」しまい、心身が思うように働かなくなってしまうことが(うまく口がきけなくなることを含めて)ある。受験生などがこれに襲われると、落ち着いて試験問題に取り組めず、普段の学力が発揮できなくなり、その結果、試験に落ちてしまうことがある。入社試験などでも、同じことがいえる。
 
これもストレスの一種であろうが、これによって他の疾病が通常、随伴的に惹起されるほどのものではない。しかし、この「症状」に襲われた当人にとっては、これはことと次第によっては人生が左右されてしまう大問題ともなる。
 
これは日本人に特に多く見られるものと思っていたが、芝居っ気たっぷりのフランス人にもやっぱりあることを知った。私が若い頃、フランスのコメディー・フランセーズ(1680年ルイ14世の命で建設されたフランスでもっとも古い国立劇場)の所属俳優学校を出たばかりの男性俳優の一人が、私たちの前でヴェルレーヌだったか、ボードレールだったか忘れたが、そうした詩人の名詩を朗読した。ところがやっぱり「あがって」しまったのだろう。朗々と詩を詠んでいた彼がハタと口をつぐんでしまった。前の席にいた私が低い声で、その俳優にその詩句を教えると、彼はホッとした顔で無事にその詩を詠じ終えた。そして、私にチラッと感謝の視線を投げた。これは自慢でも何でもない。私だって人前で「あがって」しまって、妙なことを口走った経験は何度もある。しかも肝心なときに。
 
私はオペラ歌手と話したこともある。その歌手が言うには、ヴェルディーとかプッチーニとかといった作曲家による歌いなれた歌劇ではどうということもないが、新しい歌劇、それも稽古量が少ないもの、とくにそれを自覚しているときに何度も失敗したものだ、神様は意地悪な方さ、と笑って言っていた。
 
○今回のレシピ
 使用する精油は以下のとおり。
 
 Laurus nobilis(ローレル、ローリエ、ゲッケイジュ)油
 Lavandula angustifolia(真正ラベンダー)油
 Mentha pipertia(ペパーミント)油
 Ocimum basilicum(バジル)油
 
これらの精油をホホバ油のキャリヤーに5〜6%濃度に稀釈して、腎臓の上に1日に3〜4回すりこむ。おわかりかと思うが、念のために申し上げる。下腹に両手の親指をあてて手のひらを背中にあてる。その手のひらのところが腎臓の部位である。これにより、標記の「症状」(医学的な意味とは少し違うが)が好転すれば、これにこしたことはない。「症状」が好転したと思ったら、塗布はやめる。
 
 
このブレンドに用いる精油について
 
 ローレル油
   活性成分として ー
    モノテルペン類:α-ピネン(4〜6%)、β-ピネン(3〜5%)他
    モノテルペノール類:リナロール(8〜16%)、α-テルピネオール他
    テルペンエステル類:テルピニルアセテート(2.5〜6.5%)他
    フェノール類:オイゲノール(3%)
    フェノールメチルエーテル類:オイゲノールメチルエーテル(2.5〜7.5%)
    オキシド類:1,8-シネオール(35〜45%)
    セスキテルペンラクトン類(3%)
 
 
   特性として ー
    交感神経と副交感神経の平衡回復
    強力な鎮痙、冠状動脈拡張
    強力な鎮痛の各作用
 
 真正ラベンダー油
   活性成分として ー
    エステル類(非テルペンおよびテルペン):リナリルアセテート(42〜52%)他
    アルコール類(非テルペンおよびテルペン):リナロール(32〜42%)、テルピネン-1-オール-4(2.8〜3.6%)他
    ケトン類(非テルペンおよびテルペン):1-オクテン-3-オン(1.3%)他
 
   特性として ー
    強力な鎮痛、神経鎮静、筋肉弛緩、血圧低下、他
    強壮、強心
    血流のスムーズ化
   指示 ー
    神経症、不眠症、苦悶(強力な作用がある)、痙攣、頻脈、やけど、血液の凝固性過多
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、特にない。
 
 ペパーミント油
   活性成分として ー
    モノテルペン類(2.5〜18%):α-ピネン(2%)、β-ピネン(4%)、リモネン(2.3%)他
    モノテルペノール類:メントール(38〜48%)
    モノテルペノン類:メントン(20〜60%)、イソメントン、ネオメントン、プレゴン、他
    テルペンオキシド類:1,8-シネオール(5.75%)他
    テルペンエステル類:メンチルアセテート(2.8〜10%)他
 
   特性として ー
    神経強壮(およびその平衡回復)
   指示 ー
    自律神経ジストニー、無力症、頭痛
 
 バジル油
   活性成分として ー
    テルペンアルコール類:リナロール(0.6〜3.45%)、シトロネロール(0.3%)他
    フェノールメチルエーテル類(およそ90%):カビコールメチルエーテル(85〜88%)、オイゲノールメチルエーテル(1.6%)他
    オキシド類(<3%):1,8-シネオール(2.2%)他
 
   特性として ー
    強力な鎮痙、延髄および交感神経の調整作用(きわめて強力)
    鎮痛(強力)、血管内のうっ血除去
   指示 ー
    神経症、不安症(強力)、一部の抑うつ症、無力症
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
付記:
 現在、何かほかの疾患で病院・医院等を受診し、処方薬を服用している場合には、かならず、かかりつけの医師にこのブレンド精油の使用の可否を相談すること。
 
また、
あてに注文した精油をかならず用いること。それ以外の精油を使用した場合には、効果はないものと思って頂きたい。
これは、あくまで自己責任において自己治療するものであることを心に刻んでほしい。
「精油のシナジー効果」については、前回挙げたレシピ(1)の説明をじっくり参照されたい。 

2014年10月14日火曜日

マージョラム | 精油類を買うときには注意して!(31)

マージョラム(Origanum majorana)油
 
 マージョラムは、シソ科のハナハッカ属の双子葉植物で、多年草または亜低木(一部が木質化する)。地中海沿岸のフランス・スペインなどが原産地で、25種類ほどあり、現在も、この地域で香味料にされ、また観賞用に植栽されたりしている。
英語で、スウィートマージョラム、フレンチマージョラムと呼ばれるOriganum majoranaがマージョラムの代表格になっている。
 
 学名 Origanum majorana Moench.
 別名 Majorana hortensis L.
 
 これのごく近縁種にハナハッカ(コモンマージョラム、ワイルドマージョラム、オレガノ、オリガナムとも称される)がある。これもマージョラムとよく似た多年草で、マージョラム同様、香味料にされ、観賞用にもされる。マージョラムとほとんど同一視されている。この学名はO. vulgareという。オレガノはイタリア料理・メキシコ料理に不可欠の香味料。
マージョラムもハナハッカも、草丈30〜60cm。葉にはいずれもよい香りがあり、食べるとやや苦みがあるが、いける味だ。マージョラムは、以前はマヨラナと呼んだ。
 
1980年代に日本にハーブブームがおこったとき、そのリーダー的な存在だった熊井明子氏は、ちゃんと「マージョラム」と正しく発音しておられたのに、その弟子の一人で、ハーブ界に影響力をもつある女性が、これを「マジョラム」という奇怪な呼び方をした。しかも、「ジョ」の部分に変に高いアクセントをつけて。以来、この誤った呼称が一般に広まってしまった。悪貨が良貨を駆逐したのだ。
 
だから、私はこのハーブの話を人の前でするときには、「マーーーーーーーージョラム」とホワイトボード、黒板いっぱいに書いている。「盗んだ棒を返せ!」といいながら。
 
このハーブは、日本には江戸末期に渡来した。マヨラナは、学名の属名(あるいは種小名)をとったものである。これを「マヨナラ」などと、とんでもない発音をまじめでする連中が、20年くらい前までいた。それもたいてい男性だった。こんな奴らは絶対インポだったに相違ない。失礼、ちょっと興奮してしまった。英国人にも、この学名の種小名をmarjoranaなんて書くバカがいるからご注意下さい。
 
・精油の抽出
 マージョラム、ハナハッカともに葉と花の咲いた先端とを水蒸気蒸留して精油を得る。
 
マージョラムには、上述のスウィートマージョラム(O. majorana)のほか、スパニッシュマージョラムと呼ばれるハーブがある。これは、ハナハッカ属のスウィートマージョラムと違い、イブキジャコウソウ属で、学名はThymus capitatus(これはタイムの近縁植物。これもアロマテラピーで用いられる)という。
 
主要成分(%で示す)
          スウィート(フレンチ)マージョラム   スパニッシュマージョラム
 1,8-シネオール      0〜58               50〜62
 α-テルピネン       0                  1〜4
 γ-テルピネン       3〜16               0.4〜5
 テルピノレン       13〜19              10〜20
 α-テルピネオール     2〜6                2〜4
 テルピネン-4-オール    0〜30               0
 β-カリオフィレン     0〜2                0〜2
 
マージョラムには、スウィート・スパニッシュの両種とも、様々な種類があり、またケモタイプも多々あるので、それらの精油の成分にも、大きな変動がある。
 
・偽和の問題
 真正のスウィート(フレンチ)マージョラム油に、ティートリー油を加えたり、他の精油を脱テルペン処理して、本来捨てるはずのテルペン分をたっぷり添加したり、フレンチマージョラム油にスパニッシュマージョラム油やタイム油などを大量に混入させたり、スパニッシュマージョラム油自体をフレンチマージョラム油と詐称して販売する悪党も多い。いわゆるブランド品など、もっともヤバいといってもよい。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで2.2g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて濃度6%で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  スウィートマージョラム油については、まだ報告例がない。スパニッシュマージョラム油では光毒性はなかった。
 
・作用
 薬理作用 スウィートマージョラム油は、モルモットの回腸で、in vitroで、軽微な鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 スウィートマージョラム油は、各種の細菌にたいして殺菌・抗菌作用を示したとする報告がいろいろとなされている。フレンチ・スパニッシュの両精油にこうした効果があるとされてきた。しかし、リステリア菌(食中毒をおこす細菌)には不活性だったとの報告例もあるので、今後、さらに研究を重ねていく必要がある。
 
 抗真菌効果 スウィートマージョラム油・スパニッシュマージョラム油ともに、中程度ないし強力な作用を発揮する。
 
 抗酸化作用 試験に供したマージョラム油により(スウィート、スパニッシュ両種とも)ゼロから強力と言えるまでの効果を示すので、一概にはいえない。
 
 その他の作用 CNVの波形では、スウィートマージョラム油は鎮静効果を示した。
 
付記
 スウィートマージョラムには「制淫作用」があるとかまびすしく言われるが、本当だろうか。この精油が副交感神経を興奮させ、血管を拡張させ、結果として血圧を降下させて気分を鎮静させることは事実であるが、それがそのまま性的強迫感を抑制し、性器の過敏を鎮めるまでの効果につながるかどうかを、しかと見極めるにはもう少しコントロール(実験対照)をおいた各種の動物実験などを十分に行うべきだと私は考える。性急な結論は控えよう。ことに人間のような複雑な存在を考える場合には特にそうだろう。

2014年9月30日火曜日

芳樟(ホウショウ、芳〔ホウ〕) | 精油類を買うときには注意して!(30)

芳樟(または芳)(Cinnamomum camphora var. nominale)油
 
 学名 Cinnamomum camphora var. nominale Hayata subvar. hosho Hatusima
 別名 C. camphora L. Ness & Ebermeier, C. camphora Sieb.
 
 カンファー(クスノキ)の亜変種のクスノキ科の常緑樹。中国南部から台湾に分布している。クスノキに比べて、花も果実も小型である。日本では薩摩半島南部で36haほど栽培されている。英名はHo leaf。葉と小枝とを蒸留して精油を採取する。
 原産地は日本、ブラジルと言われるが、こいつは少々怪しい。やっぱり中国南部だろう。現在では、華南、台湾が主産地になっている。ホウショウ油はクスノキすなわちカンファーの精油に比較して上品な香りの精油で、高級香料とされる。むかし、台湾が日本の領地になっていた時代には、この精油は年間300トンから400トンも同地で生産されていた。カンファー油が日本人の手で台湾で広く生産され、セルロイド原料として欧米に盛んに輸出されていたころ、原木のクスノキにホウショウがまじってしまうことがあった。ホウショウにはカンファー分が含まれず、リナロール分ばかりが多いため、この木がカンファー油の質を落とすとしてカンファー油生産者たちに憎まれ、こいつは芳樟じゃねえ、「臭樟」だなどとののしられ、鼻つまみものにされたことも再三あった。
 
主要成分(%で示す)
 リナロール       85〜95
 リナリルアセテート   2〜5
 各種のテルペン類化合物 0.1〜0.5
 
注) ごらんのように、この精油には、カンファー分が全く含まれていない。クスノキすなわちカンファーには、カンファーが50.8%も含有されている。組成成分がカンファー油と全く異なることがおわかりと思う。
また、毒性が低いため、欧米で一時、食品添加物として承認されたこともあった。
 
・偽和の問題
 合成したリナリルアセテート、合成リナロールで真正精油が増量されることがよくある。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで3.8g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて濃度10%で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  まだ試験例は報告されていない。
 
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 各種の細菌を殺したり、その増殖を抑制する力がかなり強力。
 
 抗真菌効果 強力。
 
 抗酸化力 みるべきものがある。
 
付記
 現在、Aniba rosaeodora、すなわちローズウッドが乱伐のせいで絶滅が危惧され、真正のローズウッド油は、まず入手できない。これは、サンダルウッド同様に原木を伐採してしまうせいである。現在、このローズウッド油(ボア・ド・ローズ油)に代えてそれに成分的に近く、しかも木を伐採せず葉・小枝のみを利用するこのホウショウ油を用いようと主張する人びとが増加しつつあり、環境保護面で明るい展望が開けつつある。ただし、香りが違うのはいかんともしがたい。しかし、このホウショウ油もよい香りである。
また、精油としても近縁のカンファーの精油よりも、ホウショウ油ははるかに毒性が低い点も評価される。生理的に適切な用量なら、こども・妊婦の使用も何ら問題はない。 
なお、このホウショウ油が有毒であるために、ローズウッド油の代用にはならないと主張する人が一部にいるが、これは全くの間違いである。

2014年9月23日火曜日

ベルガモット Citrus bergamia | エッセンスを買うときには注意して!(29)

ベルガモット(Citrus bergamia)エッセンス
 
 ベルガモットは、南国産のミカン科の常緑低木である。
 レモンに近いカンキツ類。ダイダイの近縁植物。白い香りの良い花を咲かせる。シトロンとも近縁である。ちなみに、フランス人はレモンのことをシトロンと呼ぶ。そこでいわゆるレモネードのことをシトロナードと俗称する。しかしレモンとシトロンとは別種のカンキツ類で、レモンはCitrus limon、シトロンはC. medicaである。
 イタリア南部、シチリア島などが主要な産地で、数百年前からベルガモットエッセンスが利用され、輸出されてきている。
 英名はBergamot orange、中国名は香檸檬(シャンニンメン)。
 
学名 Citrus bergamia Risso
    Citrus aurantium L. ssp. bergamia Wright & Arn.
 
エッセンスの抽出 ベルガモットの果皮を圧搾してエッセンスを抽出する。ベルガモット油というと、果皮を蒸留したベルガモット精油と混同されるので、果皮を冷搾したものはかならずエッセンスと呼んでほしい。
 
主要成分(%で示す) 産地やその年の気候などの要因でこの数値は変動することは言うまでもない。
 リナリルアセテート  23〜25
 リモネン       19〜38
 リナロール      4〜29
 α-テルピネン     4〜13
 β-テルピネン     3〜13
 
微量成分として注目に値するのは、
①フロクマリン(およそ0.44%)が光毒性の原因物質である。FCFベルガモット油というのは、この果皮を水蒸気蒸留してとる精油であり、エッセンスと違って、フロクマリンが分解してしまうため、光毒性がない。
②痕跡量成分類
 (-)-グアイエノール、ネロリドール、(+)-スペツレノール、ファルネソール、β-シネンサール
 
これらがベルガモットエッセンスの芳香に大きく寄与する。このエッセンスはオーデコロンによく利用され、石けんの香料としてもひろく用いられる。日本でも小豆島などで試験的に栽培されるが、およそ商売にならない。経済的にひきあわないのである。
 
・偽和の問題
 安いエッセンスには、合成したリナリルアセテート、リナロールが入っている。
 合成リモネンも往々添加される。
 また合成したものではないが、ビターオレンジエッセンス、ライムエッセンス、さらに、いずれも合成したシトラール、テルピニルアセテート、ジエチルフタレートなどが増量剤として加えられることも多い。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>10g/kg(経口)
   ウサギで>20g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて30%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  ベルガモットエッセンス(その他のカンキツ類エッセンスも、程度の差はあるが)を皮膚につけて日光あるいはサンベッドのUV光線にあたると、皮膚にシミができる。ベルロック皮膚炎という。ベルロックはフランス語でペンダントの意味で、このエッセンスを配合した香水をつけた女性に、この形の皮膚炎が生じたことからこう命名された。配合されたエッセンスの量に依存して皮膚炎ないしヤケド様症状はさまざまである。
 同じカンキツ類エッセンスといっても、その症状の度合いは、ベルガモットエッセンスが最高最悪で、つぎにライムエッセンス、ビターオレンジエッセンス、レモンエッセンス、グレープフルーツエッセンス、スウィートオレンジエッセンス、タンジェリンエッセンス、マンダリンエッセンス、タンジェロエッセンスという順になる。
フロクマリンの含有量が0.0075パーセント以下なら問題は特にないとマリア・リズ=バルチン博士は指摘している(つまりベルガモット以外のエッセンスは、フロクマリン含量が格段に少ないのでさほど心配するにはあたらないのだ)。
また、良質のベルガモットエッセンスを肌につけて、日光やUV光源などにあたらずに8時間たてば、もうトラブルを恐れることはない。11時間も待つ必要などない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、最初痙攣を惹起したが、その後鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、かなり強力な効果を発揮した。蒸散させた場合にも、相当な殺菌力があった。
 
 抗真菌効果 あまり強くない。
 その他   CNVの波形を調べて、ベルガモットエッセンスは鎮静効果があることがわかった。また、抗酸化作用もかなり強いことが判明している。 このエッセンスは、疱疹のウイルスを抑制する力があるので、帯状疱疹(ヘルペス)の痛みを和らげることができる。また、ベルガモットは気分を晴朗にすることでも有名である。

2014年9月16日火曜日

ベチバー | 精油類を買うときには注意して!(28)

ベチバー(Vetiveria zizanoides)油
 
 イネ科の単子葉植物。多年草。熱帯アフリカ、アジア、オーストラリア、アフリカ、南米などに、およそ10種が分布する。
 
学名:Vetiveria zizanoides Staph.
   V. odorata Virey
   Andropogon muricatus
 
 英名ベチバー(vetiver)で広く呼ばれる。ベチベル(ソウ)といったころもあった。
 
精油の抽出:この草(1年に2度収穫できるところもある)の根および根茎を採取して日光にあてて干したものを水蒸気蒸留して抽出する。
      生育地によって、その芳香と化学組成とに大きな差異がある。
 
 
主要成分(%で示す)
 ベチベロール     10
 ベチベロン      9
 ベチベロンエステル類 各種各様
 
 (注)ベチバー油は、米国のFDA(食品医薬品局)で食品添加物に認定されている。
 
・偽和の問題
 サイベラスのような他の草本の根とともに蒸留され、精油の量を増やす手が使われている。他の植物からとったベチベロールが加えられることもある。合成したカリオフィレン、シダーウッドの成分、アミリス油が添加されることも多い。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、弱い鎮痙作用が生じた。
 
 抗菌効果 ベチバー油を蒸散させて、5種類の細菌のうち1種に有効であった。
 
 抗真菌効果 弱い。 
 
英国のアロマテラピー研究家、マギー・ティスランドは、毎日乳房を美しく保つためにツバキ油のキャリヤーにこのベチバー油あるいはゼラニウム油を混ぜてマッサージをしているそうである。

2014年9月11日木曜日

精油のシナジー効果を利用した精油の新しいレシピ(1)

①精油のシナジー効果について
 現在、フランスならびに、とくにスイス(そのフランス語圏)において、各種の精油のシナジー(英語:synergy、フランス語でsynergie〔シネルジー〕)効果を活用したブレンドを利用する、アロマテラピー実践家が増えてきている。
シナジー、あるいはシネルジーは「ある一つの目的を達成するために、複数のファクターを恊働させること」と定義できる。
したがって、精油のシナジー(シネルジー)という場合には、それぞれの精油成分の秩序のとれた、複合的な各種の働きが、極めて明確な一つまたはそれ以上の効果を的確に発現させることを含意する。
 
基本的なシナジー効果
 a) 鎮静:神経筋、自律神経系鎮静、蓄積され停滞したエネルギーの分散、筋肉拘縮弛緩
 b) 強壮:精油を適用した箇所のエネルギーの喚起、あるいはその部分へのエネルギーの供給。脊柱上部(頸部と肩甲骨上部)にブレンド精油を適用する。神経系ならびに心臓・呼吸器関連神経系へのエネルギーの充足を目的とする。
 c) 刺激:上述のb)とほぼ同じ目的であるが、c)ではとくに脊柱下部(その下部背面・仙腰椎)の強壮をめざす。腎臓の排泄・消化機能のエネルギー充填をめざす。
 
これのほか、個人個人の体質に応じたシナジー効果、体組織の刺激と強化とをめざすシナジー効果の発現を目的とする。
 
 
②現実にブレンド精油を適用する箇所は、そのほかさまざまある。
①でのべたのは、あくまでも現在行われているトリートメントの基本的な概略を示したもので、実際には、足裏の反射ゾーンや太陽神軽叢(みぞおち)の部分その他にも、ブレンド精油を適用して、めざす効果の発現を図る。
 
今回のレシピ
 ストレスは、さまざまな病気の原因となる。これはストレスが主として自己免疫力、自己治癒力の低下を招来するためである。
 今回は特に、ストレスに起因する心理的なわだかまりがいつも心を離れず、うつうつとしたり、夜もよく眠れぬような状態におちいったときに適用するとよいレシピである。
 
④注意事項
 ストレスに悩まされている場合、以下の精油を、それぞれホホバ油のキャリヤーに5〜6%の濃度に稀釈し、これらを合わせる。そして、この含剤を胸部全体に、また太陽神経叢(みぞおち)に、また両足の裏の「腎臓」の反射ゾーンにそれぞれ1日に3回ないし4回、1回に10〜20分かけてよくすりこむ。
使用する精油は以下のとおり。
 
 Chamaemelum nobile(ローマンカモミール)油
 Hyssopus officinalis(ヒソップ)油
 Ocimum basilicum(バジル)油
 Pelargonium graveolens(ローズゼラニウム、ゼラニウム、ニオイテンジクアオイ)油
 Thymus vulgaris linaloliferum(タイム・リナロールケモタイプ)油
 
これらの精油について若干の説明を加えたい。
 
 ローマンカモミール油
   ストレス関連活性成分として ー
    テルペンアルコール類 :トランスビノカルベオール、ファルネソール、脂肪族アルコール類(75〜80%)
    アセテート類     :イソアミルブチレート、イソブチルイソブチレート、その他
    モノテルペンケトン類 :ピノカルボン(13%)
    セスキテルペンケトン類:3−デヒドロノビリン
   などがあげられる。
   特性として ー
    鎮痙、中枢神経系鎮静(強力)
    抗炎症(かなり強力)
    抗神経性ショック(強力)
   禁忌はない。
 
 ヒソップ油
   ストレス関連活性成分として ー
    モノテルペン類(<20%):α,β-ピネン(それぞれ3.66%、2.78%)、カンフェン(2.46%)、ミルセン(2.07%)、リモネン(5%)
    セスキテルペン類(<8%):α-コパエン、γ-ブルボネン、他
    テルペンエステル類(<2%):リナリルアセテート(1.2%)、ラバンズリルアセテート、ゲラニルアセテート
    オキシド類(およそ60%):トランスリナロールオキシド(57%)、他
   特性として ー
    交感神経および太陽神経叢への作用
   指示 ー
    神経性抑うつ症(強力)、苦悶、心拍異常
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
 バジル油
   ストレス関連活性成分として ー
    モノテルペン類(2%):α,β-ピネン
    セスキテルペン類:イソカリオフィレン、β-カリオフィレン、β-エレメン
    非テルペンおよびテルペンアルコール類(65%)
    フェノールメチルエーテル類(10〜15%)
    テルペンオキシド類(6%)
   特性として ー
    神経強壮(かなり強力)
   指示 ー
    神経性抑うつ症、無力症
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
 ローズゼラニウム油
   ストレス関連活性成分として ー
    モノテルペノール類(55%):リナロール(3.8%)、シトロネロール(44.5%)、ゲラニオール(6.5%)
    テルペンエステル類(25%)
    モノテルペン類
    テルペンオキシド類
   特性として ー
    全身的強壮、鎮痛
   指示 ー
    神経疲労、無力症、他
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
 タイム(リナロールケモタイプ)油
   ストレス関連活性成分として ー
    モノテルペノール類:リナロール(60〜80%)、テルピネン-1-オール-4
    テルペンエステル類:リナリルアセテート
   特性として ー
    強壮、神経強壮(中枢神経系、延髄、小脳)
   指示 ー
    神経疲労(強力)、ブドウ球菌性腸炎(強力)、他
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
 
付記①
 私は、知り合いの心療内科の医師2名(いずれも大学病院の准教授)、メンタルクリニックの院長1名、ならびに有名製薬会社の研究開発部長1名に、これらの精油の外用によって、万が一、そのトリートメントを自分の体にたいしておこなう人間が、たとえばストレスに起因した疾病を患っていて、医師から処方された薬剤を摂取している場合、それと望ましくない相互作用を惹起しないかどうか尋ねてみた。
 この人々は、ストレス性の各種疾患を列挙して、消化器系、各種神経系、循環器系、呼吸器系、生殖器系、泌尿器系、内分泌系などにストレスが原因して発症し得るほとんどすべての疾患において、これらの精油のブレンドがまず危険ではない、少なくともその精油類が100%天然自然のもので、化学的増量剤など一切配合されていないかぎり、それらの精油が体内に浸透する量を考慮して、まず心配は不要であるとの見解を一致して示した。むろん、この医師たちはアロマテラピーについて、すべて一定の理解をしている人びとである。
 
付記②
 アロマテラピー用精油を販売しているショップは、全国に多数ある。そうした店の責任者には、責任感が強く、精油とその効果とについて不断に勉強を怠らない人もいるが、中には残念ながら、精油についての知識が乏しく、精油につけてある成分表、分析表すら理解できず、詳しく聞いても何一つ答えられず、回答を求める顧客に逆ギレして、ヤクザまがいの対応をする店長がたくさんいることも確かである。最近、マスメディアで話題になった認知症予防騒動をふまえて、このことをハッキリ申し上げておく。
人間には本来自己免疫力、自己治癒力がある。そうしたものを強化すること自体は現行の薬事法・医師法になんら抵触するものではない。そこで、これから紹介する各種のブレンド用精油は、かならず下記の注文先から購入して頂きたい。他店でお買いになった精油について生じた結果については、当方としても責任のとりようがないからだ。
ここで言っておくが、現在有名なブランドの精油は9割以上は、増量剤などが加えられたニセものである。そうしたことを十分にご考慮願いたい。
 
 問い合わせ先・注文先(ご注文の精油の在庫がない場合もあるかも知れない。その場合は、少々時間を頂きたい。何らかの原因で入手不能になるケースもあろう。ここでは一定のブランド品を売ることを目的とせず、世界で入手できるもっとも信頼できる精油をさがしてお取り次ぎすることをめざしているからである)
 
 
繰り返すが、アロマテラピー用の精油は100%天然のものでなくてはならない。
このブレンドを使用するにあたって、現在、何らかの疾患で医師の処方した薬剤を摂取している場合は、かならず医師の見解を問い、それに従うこと。
精油は購入後、出来るだけ早く使い切ること(冷暗所に保存して頂きたい)。
精油は各種の不自然な処理をうけたものであってはならない(脱テルペン、調合、過度の高圧高温下での抽出など)。

2014年9月2日火曜日

フランキンセンス(乳香) | 精油類を買うときには注意して!(27)

フランキンセンス(Boswellia carterii)油
 
 フランキンセンス(ニュウコウジュ)は、カンラン科ボスウェリア属の常緑の低木あるいは小高木。アフリカ・アラビア半島・インドなどに数種類が分布している。
 ジャン・バルネ博士は、アラビア半島のオマーン産のものを特に上質と考えていたそうだ。
 
学名 Boswellia carterii Birdw.(乳香樹〔ニュウコウジュ〕)
 
 英名はfrankincence(フランキンセンス)、 olibanum(オリバナム)。アラビア半島からトルコにかけて分布する。この樹(樹皮)からとれる芳香性のガム樹脂を乳香、フランキンセンス、オリバナムと称する。幹に切り傷をつけると汁液がミルクのような色を呈して滲み出すところからこの名がある。もっとも、「乳香」という語は中国語で、薫陸香(くんろくこう)の異名もある。古代から薫香として用いられた。
 
主産地はソマリア、アラビア南部ドラマウト地方など。没薬とともに古代オリエントの代表的薫香。
 
西暦前4〜3世紀の古代ギリシャの哲学者で「植物誌」「植物原因論」などを書いたテオプラストスもこれについて触れ、西暦1世紀の大プリニウス(プリニー大公ではない!)の「博物誌」にもこの植物についての記載が見られる。
新約聖書で、これが没薬・黄金とともに幼な子イエスに捧げられたエピソードはあまりにも有名(マタイによる福音書)。
 
精油の抽出 樹皮から滲出した涙滴状あるいはその他の形状をしたオレオ ガム レジン(含油樹脂)を水蒸気蒸留して得る。
 
主要成分(%で示す)
 α-ピネン       1.0(ないし43)アデン産
 α-ツエン       0〜2(インド産のものは、61にも及ぶ)
 p-シメン       0.1(アデン産のものは8に達する)
 リナロール      0.2(エリトレア産のものは3にもなる)
 n-オクチルアセテート 0〜5(エリトレア産は>5)
 n-オクタノール    0〜4(エリトレア産ではおよそ8)
 
 この成分は、産地によって大幅な変動がある。国際的なグレードの基準は、ピネン含量で決められる。最高級のものは、その含有量が37〜42%のフランキンセンスである。もっとも、インド産のものはピネン含量が極めて低いにもかかわらず非常によい香りを放つことで有名。α-ツエン分のためであろう。
フランキンセンスは食品添加物としても使われる。
 
 
・偽和の問題
 フランキンセンス油の成分の多くが、合成したもので代用される。とくに品質基準物質のα-ピネンを化学合成品でごまかした製品がでまわっている。こうしたニセモノには、くれぐれもご用心のほどを。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  まだ試験例は報告されていない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、強烈な痙攣惹起作用を示した。
 
 抗菌効果 フランキンセンス油は、多種多様な細菌にたいして非常に強力な殺菌・抗菌作用を示す。
 
 抗真菌効果 弱い。
 
 抗酸化作用 認められない。
 
(注)ダニエル・ペノエル博士らによると、この精油は免疫機能不全に起因する各種症状に有効とのことである。 

2014年8月26日火曜日

プチグレン | 精油類を買うときには注意して!(26)

プチグレン(Citrus aurantium L. ssp. amara、別名 C. bigaradia)油
 
 プチグレンという植物は存在しない。俗にビターオレンジ、あるいはビガラディアレモン、ビガラディアオレンジと呼ばれるミカン科のカンキツ類果樹の葉・小枝を、ときにはそのほかのカンキツ類の同じ部位を水蒸気蒸留して抽出した精油を、一般にプチグレン油と称する。
 
 フランス、イタリア、アルジェリア、チュニジア、モロッコ、スペイン、パラグアイなどで生産される。
 ミカン科の果樹は、東南アジアあるいはインドなどが原産地と考えられており、12世紀以降、ヨーロッパにポルトガル人・スペイン人らにより導入された。
 
 ミカン科の果実は、非常に多い。日本でもウンシュウミカン、イヨミカンを筆頭に、ネーブルオレンジ、スウィートオレンジ、ナツミカン、ポンカン、デコポン、キンカン、ブンタン、カボス、ユズ、スダチ、サンポウカン、シトロン(Citrus medica)、レモン(フランスではレモン〔C. limon〕のことをシトロンという)、ハッサク、ベルガモット、イヨカン、ライム、サワーオレンジ、タンカン、タンジェリン、マンダリン、沖縄のシークヮーサーなど、いくつもこの仲間があげられる。交配すると、すぐに雑種ができる(美味かどうかは別として)。
 最近では、ユズのエッセンスが高知県で生産されている。私はこれをイカのシオカラにちょっとたらして食べるのが大好きだ。一度ためしてごらんなさい。ヤミツキになるから。
 
主要成分(%で示す。これはC. aurantium L. ssp. amaraの成分だが、それも、産地により大幅な変動がある。一つの目安とされたい)
 リナロール     19〜20
 リナリルアセテート 46〜55
 ネリルアセテート  2〜3
 α-テルピネオール  4〜8
 ゲラニオール    2〜4
 ミルセン      1〜6
 
注) C. aurantium L. ssp. amara以外のミカン科果実を併用したり、あるいは代用としたりすることが多いため、その成分も、同じ「プチグレン」といいながら、大幅に製品によって異なり、当然その香りもちがってくる。いわんや偽和品においておやである。
 
・微小成分について
 プチグレン油には、400種以上の成分が含まれる。今後の研究で、この数はさらに増えるだろう。それがプチグレン油の特異な香りの源になっている。私は南仏グラースで、ビターオレンジの葉をとって、揉んで香りを嗅いだが、あの香りこそ、ほんもののプチグレン油の香りだったと、いまにしてつくづく思う。
 
これの微小成分としてβ-ダマスケノン、β-イオノン、2-イソプロピル-3-メトキシピラジン、それにα-テルピニルアセテートなどがあげられる。これらは、薬効にはさして寄与するものではないが、これらもプチグレン油の香りを形成するのに大きく貢献する。
 
・偽和の問題
 プチグレン油の偽和には、レモングラス油がよく利用される。レモングラス油をプチグレン油と詐称して売るヤカラもいる。また、合成したシトラール、レモン油なども偽和・増量のためによく使われる。
また、プチグレン油自体も、もっとずっと高価なネロリ油の偽和に使われる。プチグレン油をネロリ油だといって販売するメーカーもたくさんある。
同じ果樹の花を使うか、葉・小枝を用いるかの差だけなので、こんなインチキはかんたんにできるわけだ。
 
petit grain(プチグレン)は、フランス語で「小さい粒」という意味。この精油を顕微鏡でのぞいて見ると、小さい粒々がたくさん浮いていることから、この名ができたとされる。また、その他の説もいろいろある。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ビターオレンジのプチグレン油では7%濃度で、またビガラディアレモンでは10%濃度でいずれも認められなかった。ただし、極めて稀な例として、200人の皮膚炎患者のうち1人が感作性を示したケースが報告されている。
 
 光毒性
  認められない。
 
注)プチグレン油は、ビガラディアレモンまたはビガラディアオレンジの葉・小枝を水蒸気蒸留して抽出する文字通りの精油である。だから、果皮を冷搾して得られるエッセンスではない。したがって、光毒性のあるフロクマリン類などは一切含まれない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、最初痙攣惹起作用をおこし、ついで鎮痙効果を示した。
 
 抗菌効果 各種細菌にたいして強力な抗菌作用を示したとの報告があるが、そうした作用は認められなかったとする学者もおり、最終的な結論は、まだ出ていない。
 
 抗真菌効果 一般的に、真菌の種類により強弱の差はあるものの抗真菌力はかなりあるといってよい。
 
 抗酸化力 微弱ながら、あるとされる。 

2014年8月19日火曜日

〔コラム〕精油レシピ集を発表するにあたって

 私は、これまで、この「R林太郎語録」を通じて、日本に最初にアロマテラピーを紹介した者として、多くの「アロマテラピー」関係者が無視し、あるいは軽視してきた観点から、私がアロマテラピーをいかに日本人に伝えてきたかをできるだけ誠実に記述してきた。

 これを「暴露」だと騒ぎ立てる超低IQの、到底ホモ・サピエンスの要件を満足させているとは考えられぬ一見人間型の動物どもが存在する。イヌ・ネコは、どこまでいってもイヌ・ネコである。真実をきちんと述べることを「暴露」とほざくなら、私はこれからも真実を暴露し続けていくことを、明治のジャーナリスト黒岩涙香に倣って、おのれの使命としてみずからに課していくつもりである。
 いままで、自分がアロマテラピーを、法外な高い料金をとって生徒たちに教えてきたこの亜人間どもは、それがデタラメだったことが多くの生徒たちに知られ、自分の権威(笑わせてはいけない)が失墜してしまうので、この私を「筆者の人格を疑う」だの「いままでの筆者にたいする評価がぐんと下がってしまった」だのと、酔いどれのろれつのまわらぬタワゴトのような下らぬ感想を並べている。
 私に異論があるなら、堂々とシラフで言うがよい。冷静に常識と論理とをもって私を論破してみるがよい。幼稚園児にもあざけられるようなバカらしい愚劣なセリフをならべて恥ずかしいとも思わないのだから、この連中は「亜人間」ないし人間型の動物としか、私には彼らを形容するすべがない。
 人間が完璧な存在でないことは、私自身よく知っている。しかし、何かを記述し、とくにそれを人に教示する場合には、自分の力の及ぶ限りの努力をして、他人の説くところが真実であるか否かをを徹底的に吟味し、その真偽を能(あた)う限り調べあげなければならない。私だってまちがったことはいくどもある。
 しかし、そのつど、外国へ行ってその説を唱えた本人に直接会っておのれが十二分に納得するまでその当人に問いつめたし、さまざまな意味で信頼のおける専門家に面会して見解を求めたり、そうした人々の著書をつねに批判的に読んだりして、おのれの理解を深めてきた。自分が誤解していたことを人に伝えてしまったような場合には、土下座でもなんでもしてあやまったものだ。
 だから、私は「個人崇拝」など絶対にしない。ルネ=モーリス・ガットフォセであれ、マルグリット・モーリーであれ、ジャン・バルネ博士であれ、間違っていると思われる部分は容赦なく剔抉(てっけつ)し、批判をしていく。それが、アロマテラピーをさらに深く私自身が理解し、亜人間どもとちがって正常な知性をもってアロマテラピーを考える方がたを助けることになるのだから。
 
 ここまで20数種にわたる精油(アブソリュートも含めて)について、いま市販されている品の私なりの評価をしてきた。精油を扱う良心的な業者の方がたのご意見もじっくりうけたまわって、このままでは「アロマテラピー」がもはやテラピーたる資格を失ってしまう危機感をひしひしと覚えた。その気持ちが、どれほどの人びとに伝わっただろうか。だが、ものを考えることのできる人間ならば、断じて大勢に盲従してはならない、と私は強く強く訴えたい。
 ここで少し話を変える。私は、いま書店に並んでいるアロマテラピー関係書を手に取ってみて、それがことごとく、How to本だと思わずにはいられない。
 しかし、私は故・藤田忠男博士の表現を借りれば「焚書」にされた私の本でもこの「語録」でも、How to的態度をとらず、Why soという哲学的な観点からアロマテラピーを考えてきたつもりだ。そして、それはそれで正しいと私は思っている。
 しかし、多くの人びとから個人的に私に寄せられる意見として、世間にでまわっているコピペにコピペを重ねた無責任な精油のレシピではない、きちんと理論的に整合性のある、「人体のさまざまな反射作用を活発化させ」、「ホルモンの調整作用を強化し」、「体内の諸酵素の働きを活性化し」、「血液の状態を正常化し、調和させ」、「体液のバイオエレクトリカルな要素の均衡(これの詳細については〔アロマテラピー大全〕を参照されたい)の回復を図る」ことをめざした精油の新しいレシピを示してほしいというご意見に接して、その声にお応えするのも、アロマテラピーをご理解頂く一つの道だと考えるようになった。
 
 そこで、これから残るところあと10数種あまりの精油の解説と合わせて、随時そうしたレシピをいくつか提示させて頂くつもりでいる。
 ただし、その際に用いる精油は、以下の要件を満足するものでなければ、これらのレシピは無益なものとなってしまうと心得られたい。すなわち、
 ・その精油の原料植物が、100パーセントまちがいなく、その植物だと同定されているものであること。
 ・その原料植物が正しいやりかたで収穫されたものであること。
 ・ケモタイプを十分に考慮に入れていること。
 ・水蒸気蒸留抽出(エッセンスならば圧搾抽出)したものであること。
 ・100パーセント自然なピュアな精油であること(たとえ天然精油でも、いくつかの産地の精油を調合したものは、天然自然の精油とはいえない)。
 ・脱色処理、過酸化処理、特定の成分の人為的除去などをうけていない精油であること。
 ・搾油してからあまり時間が経過しておらず、かつ光と熱とから離れたところに保管されたものであること。
 ・およそ天然自然からかけ離れた、化学的な増量剤などを含んでいる香水用の精油は論外である。絶対に使用しないこと。
 
なお、このほか必要な事項は、その都度記述していくつもりである。
 
 レシピは、順不同に掲載させて頂く。
 はじめに、簡単な例をあげておこう。今回はここまでにしておく。
 
 ●不整脈(そのほか各種の心臓の律動異常)
  アンジェリカ(Angelica alchangelica)油
  スウィートオレンジ(Citrus aurantium var. dulce)油
  ヘリクリスム(Helichrysum italicum)油
  ラベンダー(Lavandula angustifolia var. angustifolia)油
  バジル(Ocimum basilicum)油
  ローズマリー・カンファーケモタイプ(Rosmarinus officinaris camphoriferum)油
 
 これらを両手首、両足の裏、とくに土踏まずの部分にすりこむ。
 これらの各種精油を、ホホバ油そのほかのキャリヤーオイルに5〜6%濃度に稀釈したものをそれぞれいっしょに(等量ずつ)合わせて、それを指定した箇所にすりこむ(1日に3〜4回)。この稀釈の度合い、ブレンドの仕方、トリートメントは、これに続く各レシピのすべてでおおむね同様にする。 

2014年8月12日火曜日

フェンネル(ウイキョウ) | 精油類を買うときには注意して!(25)

フェンネル油
 
 フェンネルは、セリ科ウイキョウ属の1年草あるいは多年草。私にはさして魅力的とは思えないその散形花には、開花期には昆虫がたくさん集まる。
 ヨーロッパからアジアにかけて数種が分布する。
 
学名① Foeniculum vulgare var. amara Miller
    英名はBitter fennel(ビターフェンネル)、日本ではフェンネル、茴香(ウイキョウ。これは、中国語の茴香〔フイシャン〕に由来し、鮮度の落ちた魚類を用いた料理で、この実を香味料にすると、その香りを回〔かえ〕す、すなわちフレッシュなよい香りに戻すとの意味をあらわす)と称される。
 草高1〜2メートルになる大型草本。中国には4〜5世紀に西城から伝来し、日本には9世紀前に中国から渡来した。フェンネルは古代ギリシャではマラトン(Marathon)と呼ばれた。これはマラソン競技が行われた土地が、これの群生地だったことによる。それはどうでもいいが。中世以来、ヨーロッパではフランス、イタリア、ロシアなどの料理にこの実が香味料としてひろく利用されるようになった。
 インドでも香味料として古来から使用された。
 中国では、腹部・胸部の鎮痛剤としても用いられている。
 日本では、長野・岩手・富山の各県で栽培される。
 
学名② Foeniculum vulgare var. dulce Miller
    英名はSweet fennel(スイートフェンネル)、Florence fennel(フローレンスフェンネル)、日本ではイタリアウイキョウ、アマウイキョウと称される。
 このウイキョウは、①のビターフェンネル同様に、その実が香味料としても使われるが、それよりもウドのように軟白栽培して、野菜としてその群生葉の基部(直径10cmくらいになる)を煮て食べる。これがうまいんだな。
 
 ビター、スウィートの両種とも、その実を採取して水蒸気蒸留して精油を抽出する。
 現在、スペイン・東欧諸国で多く栽培されている。
 
 
主要成分(%で示す。ビター・スウィート両種をひっくるめたおおよそのパーセンテージである)
 トランス-アネトール   30〜75
 シス-アネトール     0〜0.3
 フェンコン       10〜25
 メチルカビコール    1〜5
 リモネン        1〜55
 α-ピネン        1.5〜55
 
・偽和の問題
 アロマテラピーで、というよりも、香料工業において重要視されるのは、スウィートフェンネル油のほうである。そこで、ビターフェンネル油でこれが偽和されることは往々ある。そしてまた、いずれも安あがりに合成したトランス-アネトール、フェンコン、メチルカビコール、リモネンなども偽和のために大いに利用される。そのほか、フェンネルの近縁のセリ科植物の実を蒸留した各種留分も、増量のために使われる。
 
・毒性
 LD50値
  ビターフェンネル油:
   ラットで4.5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
  スウィートフェンネル油:
   ラットで3.8g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ビター・スウィートの両種で、ヒトにおいて4%濃度でこれらは一切認められなかった。しかし、スウィートフェンネルを未稀釈でマウスの皮膚に適用したところ、激烈な反応を呈し、ウサギの皮膚でテストしたところ、相当な反応が見られた。
 アネトールは一般にアレルギーを惹起する作用を示し、有毒成分の一つに数えられる。
 
 光毒性
  認められない。
 
・作用
 薬理作用 スウィートフェンネル油は、モルモットの回腸で、in vitroで強烈な鎮痙惹起作用をあらわし、ついで鎮痙作用を示した。
 フェンネル油は、エストロゲン様作用(女性の発情性ホルモン的な働き)を示すとされる。これが、女性のバストを大きくするか、また泌乳量を増加させるかは目下、研究中。
 ハーブとしてのフェンネルを摂取させた家畜にも、そうした作用のせいで繁殖上の問題を生じたというケースがいくつも報告されている。なお、妊娠中の女性のこの精油の摂取を禁忌とする学者もいる。
 抗菌効果 あまり強力とはいえない。あることはあるといった程度。
 
 抗真菌効果 かなり強力。
 
 駆風作用 とくに小児において顕著とされる。しかし、私はこれを摂取した子供がブウブウ放屁するのに接した記憶はいまのところない。 

2014年8月7日木曜日

パルマローザ | 精油類を買うときには注意して!(24)

パルマローザ(Cymbopogon martinii Stapf. var. motia、別名 Andropogon martinii Roxb. var. motia)油

 イネ科のオガルカヤ属の多年草。これに属するものは、アフリカ・アジアの熱帯と亜熱帯との各地方に生える。
 イーストインディアン油、ターキッシュゼラニウム油とも称される。バラを思わせるフローラルな甘い香りの精油。
 原産地 インド、マダガスカル、中央アメリカ、ブラジル。
     現在も、これらの地域で栽培されている。ほかにコモロ諸島およびセーシェル諸島でも、これが栽培され、精油が生産される。
 精油 花の咲く前に収穫した全草を、1週間ほど乾燥させてから水蒸気蒸留して搾油する。

主要成分(%で示す)
 ゲラニオール     76〜83
 ゲラニルアセテート  5〜11.8
 リナロール      2.3〜3.9
 ネラール       0.3〜0.6
 ファルネソール    0.3〜1.5
 β-カリオフィレン   1〜1.8

 以上はおおよその目安であり、産地その他の条件により、成分に相当な変動がある。
 パルマローザの近縁植物に、Cymbopogon martiinii Stapf. var. sofiaがある。これは「ジンジャーグラス」と呼ばれる。これからジンジャーグラス油を蒸留抽出する。
 C. martinii var. motiaとC. martinii var. sofiaとをまとめてパルマローザ油と称することもある。Var. motiaのほうが品質のよい洗練された香りの精油と考える人のほうが多い。

・偽和の問題
 ジンジャーグラス(Var. sofia)は、野生で収穫しやすいことから、これからとった精油を偽和剤とすることがひろく行われている。しかし、ジンジャーグラス油のゲラニオール含有量は、Var. motiaよりも少ない。偽和のために、さらにテレビン油、シトロネラ油、合成したゲラニオールが加えられることもよくある。
 また、このパルマローザ油自体も、ゼラニウム油、バラ油の増量のために利用されることが多い。

・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)

 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で認められなかった。

 光毒性
  報告例なし。

・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで鎮痙作用を示した。
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、かなり強力な抗菌力を発揮する。

 抗真菌効果 中程度の抗真菌作用を示すことが報告されている。

 その他の作用 かなりの酸化防止力がある。また、CNVの波形を見ると、この精油の芳香にはリラックス作用があることがわかる。

2014年7月29日火曜日

バラ | 精油・アブソリュート類を買うときには注意して!(23)

バラ油
 
 バラ油と一口に言っても、さまざまな種類がある。
 ◎ ブルガリアン ローズ油、ダマスク ローズ油、ローズ オットー、ターキッシュ ローズ油(いずれも同じ種類のバラ油)
 ・学名 上記のバラはRosa damascena(ロサ・ダマスケナ〔ダマセナなどとは決して発音しないこと〕。ダマスクローズの意)
 ◎ フレンチ ローズ油、モロカンローズ油、キャベジ ローズ油(いずれも同じ種類のバラ油)
 ・学名 上記のバラはRosa centifolia(ロサ・ケンティフォリア、100も花弁をもつ〔これは大げさだが〕バラの意)
 ◎そのほかのバラ油 ガリカバラ油(これをフレンチローズ油としている人もいる)
 Rosa gallica(ロサ・ガリカ) ガリカバラ(ガリア〔今日のフランス・スイス〕のバラの意)
 Rosa alba(ロサ・アルバ) アルババラ(白バラの意)
 
 バラはバラ科の双子葉植物で、落葉または常緑の低木。またはつる性の木本。
 茎・葉にトゲが多い。北半球の亜寒帯から熱帯にかけて分布。200種の野生種がある。美しい香り高い花をつけ、香料の原料にもされる。
 現在、私たちが目にするバラは、複雑な交配育種(ことに1800年以降の)の結果、つくられたものである。日本古来のバラとしてはノイバラ、テリハノイバラ、タカネバラ、ハマナスなど十数種があげられる。
 
 精油 早朝(おそくとも午前10時ごろまで)に採取したバラの花を水蒸気蒸留して抽出。ブルガリアはバラ(ダマスクローズ)の名産地で、この地を支配していたトルコ人が持ち込んだものである。
 アブソリュート ベンゼン、アセトン、四塩化炭素、石油エーテルなどの有機溶剤にバラの花弁を浸し、花のワックスと芳香成分とが一体になった「コンクリート」をつくり、これを78℃で沸騰するエチルアルコールで蒸留してアブソリュートを得る。アブソリュートは、最終産物に発ガン性溶剤が残るため、原則としてアロマテラピーでは用いられない。
 
主要成分(%で示す) 各種のバラの大まかな目安と考えて頂きたい。
              バラ油     バラアブソリュート
 シトロネロール     18〜55      18〜22
 ゲラニオール      12〜40      10〜15
 ネロール         3〜9        3〜9
 フェニルエチルアルコール 1〜3       60〜65
 ステアロプテン       0         8〜22
 
 微小成分(精油・アブソリュート)
 ローズオキシド  0.1〜0.5
 β-ダマスコン   0.01
 β-ダマスケノン  0.14
 β-イオノン    痕跡量〜0.03
 
 注 バラ油には、少なく見積もっても300種もの成分が含まれている。
 そのうち、わずか0.14%しか含まれていないβ-ダマスケノンが、あのバラのいかにもバラらしい香りのもととなっている。
 
・偽和の問題
 精油にせよアブソリュートにせよ、バラは市場でもっとも高価なものの一つなので、偽和の技術も巧妙を極めていて、看破するのは容易ではない。偽和には、数多くの合成化学物質が用いられ、少量の真正成分を大幅に増量させている。いずれも合成したフェニルエチルアルコール、ジエチルフタレート、シトロネロール、ゲラニオール、イソオイゲノール、ヘリオトロピン、シクラマール、アミルサリチレートが多量に加えられ、さらにゼラニウム油からとったロジノールなども添加したものが「バラ油」と称して売られているものの大半だ。まず日本では100%純粋なバラ油というものは、もはや入手不可能だと思っていただきたい。
 アブソリュートもパルマローザ油の成分(というか、やはり合成したもの)、ペルーバルサム油、コスタス油、クローブ花芽油などを加えて偽和するのが、当然のように行われている。
 ローズオットーも、最初に蒸留した真正バラ油と、再留したバラ油とを組み合わせてフェニルエチルアルコール分を大幅に水増ししてあるのがふつうである。「バラ油」にせよ、「バラ アブソリュート」にせよ、薬効を期待するならもっとずっと安価な別の精油を利用した方が、フトコロも痛まないし、体にも良いだろう。
 
・毒性
 LD50値
  Rosa damascena および R. centifoliaの各精油では
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで2.5g/kg(経皮)
  Rosa centifoliaのアブソリュートでは
   ラットで>5g/kg(経口)
   経皮値は定かでない。
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて2%濃度で認められず(精油・アブソリュートの双方とも)。
 
 光毒性
  報告例なし。
 
・作用(もちろんホンモノでなければ、いわゆる「効果」など論じるのはナンセンスである)
 薬理作用 各種のバラ油・アブソリュートで、モルモットの回腸においてin vivoで鎮痙作用が認められた。
 抗菌効果 ブルガリアのカザンリク産のRosa damascenaで若干の抗菌作用が確認されている。
 
 抗真菌効果 報告例なし。
 
 その他の作用 バラ油はマウスの活動に一切影響を及ぼさなかった。CNVでも特段の鎮静ないし刺激効果は示さないことがわかった。
 この精油は女性の冷感症と男性のインポテンスに有効と言われるが、正確なデータに基づいた報告ではない(第一、このような秘事の正確なデータなど、どうすればとれるというのだろう)。 
 また、この精油は女性特有の各種疾患に有効だとされるが、あまり大げさに受け止めるべきではないと思う。理由は、おおむね上に述べたことと同様である。

2014年7月22日火曜日

パチュリ Pogostemon cablin | 精油類を買うときには注意して!(22)

パチュリ油
 
 学名 Pogostemon cablin Benth, 別名P. patchouli Hook
    厳密には、これらは少し異なった種類。しかし、用途は同じで、産地でも混同されることが多い。ほかにも近似種は30種近くある。「パチョリ」とも呼ぶ。
 
 特徴 東南アジア、マレーシアやインドなどを原産地とし、これらの地域で栽培されるシソ科の双子葉の多年草(亜低木化することもある)。高さは30〜80cm。多くは、葉を4〜5日干して独特の芳香を持つ精油を蒸留する。正確に言うと、シソ科ヒゲオシベ属に分類されるシソ科のハーブで、ヨーロッパの各種のシソ科ハーブ類とは大きな違いがある植物。
  なお、パチュリ油を保管する場合には、光のあたらない、15℃を超えない恒温の場所で保存するのがよいと言われる。
 
主要成分(%で示す)
 パチュリアルコール    31〜46
 α-グアイエン       10〜15
 カリオフィレン      2〜4
 α-ブルネセン       13〜17
 セーシェレン       6〜9.4
 α-パチュリン       3.9〜5.9
 β-パチュリン       1.7〜4.8
 ポゴストール       0〜2.7
 
 含有成分の鉄分を人為的に除去することもある。こうすると、香りに「軽み」が出るためである。上にはあげなかったが、微小成分類、痕跡量成分の(+)-ノルパチュレノール(0.5%以下の含有量)、ノルテトラパチュロール(含有量0.001%)などが、バチュリ油独特の芳香に大きく貢献する。
 
・偽和の問題
 シダーウッド油、クローブ油から抽出したセスキテルペン類、またシダーウッド油の誘導体類、さらにメチルアビエテート、ヒドロアビエテートアルコール類、ベチバー油を抽出したあとの残留物(つまりカスだ)、カンファー油抽出時の残留物、ガージャンバルサム油(これはα-グルユネンの存在でそれと検出できる)、コパイババルサム油、ヒマシ油、イソボルニルアセテートなどをめちゃくちゃに加えて、カットにカットを重ねた(すなわち増量された)パチュリ油が、市場をほとんど占拠している。あなたのお手持ちのパチュリ油も99.9%の確率でこの手の製品である。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで>5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて20%濃度でいずれもゼロ。
  ただし皮膚病患者の場合は、0.1%以下の濃度で用いるべきであると、マリア・リズ=バルチン博士は言っている。
 
 光毒性
  報告例なし。
 
・作用(もちろんホンモノでなければ、いわゆる「効果」など論じるのはナンセンスである)
 薬理作用 モルモットの回腸に、in vitroで、強い鎮痙効果を示した。
 抗菌効果 試験に用いるパチュリ油の種類によって、変動がある。一定の抗菌効果は期待できるとだけ言っておこう。蒸散させる方法でも、同様のことがいえる。
 
 抗真菌効果 きわめて弱い抗真菌力しかない。
 
 その他の作用 抗酸化力はない。パチュリ油をベースにしたスプレー剤が、入院中の患者の気分を明るくしたという報告がある。
 パチュリ油を蒸散させてマウスに嗅がせたところ、その動作が目立って活発化したとの例がある。
 
随想①
 私は、パチュリ油の香りを嗅ぐたびに、江戸時代の俳人、与謝蕪村(よさ・ぶそん)の『白梅(はくばい)や墨芳(かんば)しき鴻臚館(こうろかん)』という句を思い出す。鴻臚館とは王朝時代、外国使臣接待のため、太宰府、京都、難波の3カ所に設けられた迎賓館。白梅香る鴻臚館の広間で、内外の貴紳が集まり、詩文の献酬が交わされ、芳しい墨の香りが部屋のなかにゆかしく漂うようすを詠んだ秀句である。この墨の香りこそ、パチュリ油の芳香なのである。加えて白梅の花の香りも流れ、白い梅の花と墨痕の黒さとの対比も連想させ、蕪村の共感覚的なところを匂わせて、私を酔わせて止まない。
 
随想②
 インドなどでは、衣服や枕などにこのパチュリ油で香りづけをする。
 インドから英国に送られたショールには、パチュリの香りがして(ウール地を食う虫よけにパチュリの葉をそのままはさんだらしい)、それが英国人の心を捉えた。私も、こどものころ母が持っていたこの香りのするショールをいつも思い出す。中国伝統医学では、このパチュリ(藿香〔かっこう〕)を感冒、嘔吐、下痢、産前産後の腹痛などに用いる。 

2014年7月15日火曜日

バジル Ocimum basilicum | 精油類を買うときには注意して!(21)

バジル(Ocimum basilicum)油
 
 バジルはシソ科の双子葉草本。一年草または多年草。亜低木化することもある。和名はメボウキという。この小さい種子を皿などに入れて水を注いで放置すると、寒天状の物質ができる。江戸時代に到来したハーブである。日本人はこの寒天のような物質を利用し、目に入ったゴミをとったり、かすみ目を治療したりした。そこで「目箒(めぼうき)」の和名がつけられた。イタリア料理でよく利用されることから、そのイタリア語名バジリコの名も日本で広く知られている。
 
 原産地 熱帯アジア。しかし、現在では温暖な世界各地(フランス、米国、イタリアなど)で植えられている。日本でも最近では野菜としてスーパーマーケットなどで売っている。
 
歴史 ギリシャでは、古くからこれを貴族などが香料として使ったので、ギリシャでbasilicon(バシリコン、高貴な、あるいは王の、の意)と呼んだ。ギリシャ語では「王」のことをbasilius,バシレウスという。しかし、アフリカの砂漠に生息し、ひと睨み、あるいはひと息で人を殺すという伝説上の爬虫類的な怪物、basilisk(バシリスク)との混同が生じ、この怪物の毒気を消す霊力のある草と信じられたりもした。Ocimumという属名は、以前にはOcymumと表わした。
 ヨーロッパ、アフリカ、インドなどでは、昔から香味料、矯臭料、鎮咳薬、解熱薬として利用した。また、野菜としてサラダ・スープ・パスタ・ピザに使ってきた。メボウキ属にはいろいろな種類があるが、いずれも香味料とか薬用植物とかとして、人びとに活用される。
 
精油 花が咲いた先端部分と葉とを蒸留して抽出する。いまではどうか知らないが、私がアロマテラピーを日本に紹介した当時(1985年)には、香料会社ではバジル油のことを「ベージル油」と称していた。スウィート感・清涼感・アニス様・花様の香りを持つ香水材料の一つとして使われる精油である。
 
ケモタイプについて
  スウィートバジル油(コモンバジル油) ー リナロールケモタイプ
  エキゾチックバジル油 ー カンファー・エストラゴールケモタイプ
  そのほか、メチルシンナメートケモタイプなどさまざまなものがある。
  一般にスウィートバジル油を「バジル」油の代表格にしている。
 
主要成分(%で示す)
            スウィート種   エキゾチック種   メチルシンナメート種
 1,8-シネオール     3〜27      3〜7        5.6
 メチルカビコール    0〜30     68〜87       2.2
 メチルオイゲノール   0〜7       0.5〜2.4       0
 オイゲノール      0〜7       痕跡量        0
 Z-メチルシンナメート   0         0         4.7
 E-メチルシンナメート   0         0         32
 リナロール       44〜69     0.3〜2.2       41.7
 β-カリオフィレン    0.7〜14.4       0         0
 
 (注)各種のケモタイプにより、また同じ種類のバジルでも、生育地により成分の変動はきわめて大きい。上記の値も、いちおうの目安ととっていただきたい。また、バジルはその各部位によっても、組成成分がそれぞれ異なる。
 
・偽和の問題
 エキゾチックバジル油にはとくに、合成リナロールが加えられるケースが多い。
 
・毒性
 LD50値 スウィートバジル油
  ラットで1.4(<3.5)g/kg(経口)
  ウサギで0.5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて、4%濃度で、いずれもゼロ。
 
 光毒性
  報告例なし。
  (注)メチルカビコールは感作性があることが疑われているので、人にもよるが、感作性を示す反応が生じることが考えられる。その他、フィジー産のメチルシンナメートケモタイプなどについては、まだ試験例がない。
 
・作用
 薬理作用 in vitroでテストしたモルモットの回腸で、痙攣惹起作用を示し、ついで鎮痙効果を表わした。
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、強い抗菌力を示した例が、多く報告されている。蒸散させても、この力を発揮する。
 
 抗真菌効果 スウィートバジル油は、広範な種類の真菌にたいして強力な効果がある。メチルカビコール分の多いバジル油もパワフルな効果を示す。
 
 その他の作用 バジル油は、CNVの波形観察で脳への刺激作用があることが明らかになっている。なお、バジル油には抗酸化活性はみられない。 

2014年7月8日火曜日

パイン(スコッチ) | 精油類を買うときには注意して!⑳

パイン(スコッチ)(Pinus sylvestris)油
 
 スコッチパイン(マツ)の針葉・球果を蒸留して抽出する。
 原産地は、北欧、シベリア、スカンジナビア。現在ではもっぱらスコットランド、ノルウェイで採油される。
 スコッチパインはマツ科の大きな針葉樹。80種にのぼる種類がある。赤みがかった樹皮、灰緑色の針葉が特徴。
 
主要成分
 α-ピネン
 β-ピネン
 リモネン
 ボルネオール
 ボルニルアセテート
 γ-カレン
 
 いずれも、原木の産地・種類により大幅な変動があるため、一概に数値表示できない。
 
・偽和の問題
 他の木々に由来した(あるいは合成した)カンフェン、ピネン類、イソボルニルアセテートなどが、偽和・増量の目的で利用される。ダニエル・ペノエル博士らによると、近年では発ガン性のある溶剤で、これをアブソリュートとして抽出するにいたっており、そのことによる労働者への健康被害が多発している。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで>5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて20%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
 
・作用
 特筆すべき薬理学的効果は報告されていないが、いちおうあげておく。
 
 抗菌効果
  細菌類の5分の4はこれによって多かれ少なかれ影響をうける。しかし、パイン油以外の精油類と併用して、その効果が増大することがわかっている。パイン油類は結核菌には、別段影響を及ぼさない。マツ林の空気が肺結核に有効だというのは、医学的な根拠のないデタラメである。
  ただ、この精油を、週に1回ずつ、結核を人為的に発症させたモルモットに投与したところ(オリーブ油に2%濃度に稀釈して筋肉注射)、治療効果が認められた。
 
 抗真菌効果 
  各種の真菌に一定の効果がある。ただし、病原性真菌類にたいする効果は弱く、期待できないといったほうがよい。 

2014年7月1日火曜日

インドシナ戦争時のジャン・バルネ博士

Dr Jean Valnet at Vinh-Yen.ベトナムのトンキン軍管区第1前進外科処置部隊主任として負傷兵の処置にあたる軍医隊長、ジャン・バルネ大尉(ヴィン=イェンの戦闘において)
photo : Ch.K.女史提供 
 
 
 
インドシナ戦争時のジャン・バルネ博士
 高山 林太郎
 
 1946年から54年にかけて、新たに建国したベトナム民主共和国が、インドシナの支配権の回復をもくろむフランスに対して行った独立戦争をインドシナ戦争という。
 米国からの膨大な援助資金と武器との支援をうけて、制空権を握ったにもかかわらず、54年5月ディエンビエンフーでの決戦で、フランス軍は大敗した。
 思えば、ナポレオンがロシアで大敗して以降のフランス軍は、ヘナヘナというイメージしかない。
 
 このフランス軍のほとんどは、いわゆる「外人部隊」(旧ナチスドイツ兵、アルジェリア兵、南ベトナムで徴兵した兵士など)からなっていた。旧ナチスドイツ兵は第二次大戦中、東部戦線でソ連軍に徹底的に粉砕され、祖国ドイツは米英空軍の猛爆で廃墟同然になり、働き口もなかったので、やむなく昨日まで自分たちが支配していたフランスの、その外人部隊に自分の身体と命とを売ったのだ。
 つい先日まで自分たちにペコペコしていたフランス人にアゴでこき使われるドイツ人たちは、なんの恨みもないベトナム人を相手に、地球の裏側で、ド・カストリなる焼酎みたいな名前のフランス軍司令官の命令下で戦わされた。戦意などわくわけがない。ドイツ人たちはヤケになってナチスの軍歌を高唱していた。体格も貧弱なベトナム兵の闘志には、最新式の米国製の航空機も大砲も歯が立たなかった。
 このベトナム兵たちの戦いを見たジャン・バルネが、自分自身パルチザン兵として活躍したおのれのかつての姿をそこに重ね合わせなかったはずはない。とはいえ、フランス軍の軍医大尉として、ジャン・バルネは負傷者たちの手当てに懸命にあたった。
 大国フランスは、弱小なベトナム民主共和国に敗北した。ド・カストリ司令官は、ベトナム軍の捕虜の身となった。帝国主義・植民地主義の時代は終わったのである(それにつづくベトナム戦での米国の悪あがきやアルジェリアの対仏独立戦争などはあったが)。
 
 このとき、ジャン・バルネは、オーストラリア・ニュージーランドから送られてきたティートリー油などの精油を実験的に「初めて」使用し、アロマテラピーを実践した。第二次大戦中から彼がアロマテラピーを行っていたように言う人間もいるが、みんな嘘八百だ。
 ジャン・バルネの心中を察するに、これ以降、ほとほと彼は戦争が嫌になったのだろう。政府はレジオン・ドヌール勲章を贈って彼をひきとめようとしたが、ジャン・バルネは軍籍を離れ、民間の病院医となった。彼は決してベトナム人を殺さなかった。第二次大戦中もパルチザンの衛生兵として、祖国のために尽力した。しかし、みずからの手でドイツ兵を殺傷したわけではない。このときは、友軍のため、同志のためにペニシリンを配布し、ドイツに降伏して、その傀儡になった時のフランスのヴィシー政権にさからって、傷ついた戦友たちの命を救ったのである。
 ハーバリストのモーリス・メッセゲは、南仏の一介の民間人にすぎなかったが、ナチスドイツの収容所に送られそうになったときに脱走し、パルチザンの一員となった。彼は自分の手に余るようなサイズの拳銃を与えられ、ドイツ兵を狙撃しようとしたが、ついにその引き金を引けなかったと告白している。
 
 医学により、民間の医術により、人を健康にしようとし、人間の命を救おうと心の底から思うものには、どんな理由があろうとも、人の命を奪うことなどできないのだ。
 この二人のことを考える私は、そう信じて疑わない。アロマテラピーを研究し、実践しているみなさんも、きっと同じ考えをお持ちのことと思う。 
 
なお、民間医となったジャン・バルネ博士は、現代薬学の花形とされた抗生物質剤の使用に疑問を持つようになり「よほど差し迫った状況でないかぎり、抗生物質剤を使わないように」と主張した。
博士は1995年に死去するまで、このことを強く訴え続けた。「植物=芳香療法」は博士にとって抗生物質療法に対する代案の一つだったのである。
母を抗生物質クロラムフェニコールの副作用で失った私の心に、博士のこの言葉は重く響いた。

そして、博士はアロマテラピーを復権させ、これを広めようと本を書いたり、民間の病院で密かに実践したりしたことも付け加えておきたい。
精神病院を含む各種の病院でこれを実践しながら、フランス伝統の植物療法を質的にブレイクスルーさせるものとして、つまりアトミックな植物療法としてのアロマテラピーの体系を構築していったのである。
博士が、雑誌記者のインタビューに答えて、ルネ=モーリス・ガットフォセのいう「アロマテラピー」からはその名前を除いては一切影響を受けていない、と言っているのはそのことを意味しているのだろう。
これが、バルネ博士をアロマテラピーの中興の祖と私が呼ぶゆえんである。

2014年6月24日火曜日

ネロリ(オレンジ花) | 精油類を買うときには注意して!⑲

以前から予定していた、ジャン・バルネ博士についての記事は、次回にまわさせていただきます。
可能であれば、バルネ博士がインドシナ戦争に従軍して負傷兵の治療にあたっている際の日本初公開の写真も載せたいと考えています。
高山 林太郎

ネロリ(Citrus aurantium ssp. amara 、別名 C. bigaradia)油
 
 原産地はインド。ただし現在の主要産地は、イタリア、フランス、モロッコ、チュニジアなど。
 抽出方法はビガラディアオレンジ(C. bigaradia)の花を蒸留して抽出。
 
主要成分(%で示す)
 リナロール      23.8
 リナリルアセテート  68.5
 ゲラニオール     5.9
 リモネン       痕跡量
 
 以上はもとよりいちおうの目安であることは、いうまでもない。市場に出まわっているもののほとんどは合成成分をテンコ盛りしたニセモノと考えてよい。こうしたニセモノ精油はホンモノの、つまりピュアなネロリ油とは成分がおよそ異なっている。リナリルアセテート(もちろん合成品だ)だけしか入っていない、ひどい「ネロリ油」もたくさん売られている。こんなことをする悪人どもは、ガラスをダイヤと偽って販売する奴らと完全に同罪だ。つまり詐欺師だということである。こんな連中が逮捕されないのは、警察・検察関係者がこの方面の知識を学ぼうとしない、税金泥棒の集団だからである。ひどい冤罪(えんざい)はさんざんデッチあげるくせにね。
 
・偽和の問題
 ホンモノのネロリ油は値が張るので、上述のようにニセモノで市場は占拠されているといってさしつかえない。むかし、この精油を愛してやまなかったイタリアのネロラ公国のアンナ=マリア公妃がもし現代の「ネロリ」油を嗅いだら、鼻をつまんで逃げ出すだろう。
プチグレン油をネロリ油と詐称して売る奴らも多い。プチグレン油のテルペノイド類を抽出し、そこにビターオレンジエッセンス、合成リナロール、合成リナリルアセテート、合成ネロール、合成ネロリドール、合成フェニルエチルアルコール、合成デカノール、合成ノナナール、合成イソジャスモンなどをまぜて平然として売っている悪党はザラだ。誰も取り締まらないからね。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで4.5g/kg(経口)
  ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて4%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
  マウス、ブタにおいても刺激性はみられなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
・作用
 抗菌効果 ネロリ油は、ホンモノだったらフェノール(石炭酸)の5.5倍もの殺菌力がある。殺菌作用のスペクトラムも広い。
 
 抗真菌効果 かなり強力。ことに植物を病気にする真菌に対する効果にはみるべきものがある。
 
 その他 ネロリ油はジヒドロストレプトマイシン(抗生物質)と併用すると、人為的に結核を発症させたモルモットに若干の治癒力を発揮した。大したこともない研究結果だが、いちおうご報告しておこう。 

2014年6月17日火曜日

ナツメグ | 精油類を買うときには注意して!⑱

ナツメグ(Myristica fragrans)油
 
 ナツメグは肉荳蔲(にくずく)といわれるニクズク科の高木で、樹高は10メートルぐらいになる。雌雄異株で黄白色の花を咲かせ、球形の液果をつける。正確には、この種子の仁(にん)がニクズクで、香りがあって、中国人は7〜8世紀ごろからこれを薬用にしていた。健胃作用を利用したのである。ヨーロッパ人がこのニクズクすなわちナツメグを香味料として使いはじめたのは15世紀以降(中国人は香味料としては後代までこれを用いなかった)である。
 このニクズクの実を蒸留抽出した精油がナツメグ油で、淡い黄色を帯び、強い芳香を放つ。
 
 原産地は、インドネシア、マレー半島、スリランカ、パプアなど。
 この熟した実を前述のように、乾燥させたのち蒸留して精油をとる。
 
主要成分(%で示す)ウエストインディアン種とイーストインディアン種とがある。この2種は、それぞれ若干の成分差がある。
           ウエストインディアン種   イーストインディアン種
 α-ピネン         10.6〜13.2        19.2〜26.5
 β-ピネン          7.8〜12.1          9.7〜17.7
 サビネン         43.0〜50.7        2.2〜3.7
 ミルセン         3.4〜3.5         2.2〜3.7
 α-テルピネン        0.8〜4.2         0.8〜4.0
 リモネン          3.1〜4.4         2.7〜3.6
 1,8-シネオール      2.3〜4.2          1.5〜3.2
 γ-テルピネン       1.9〜4.7          1.9〜6.8
 テルピネン-4-オール    3.5〜6.1        2.0〜10.9
 エレミシン        1.2〜1.4        0.3〜4.6
 ミリスチシン       0.5〜0.9        3.3〜13.5
 
 イーストインディアン種ナツメグのほうが一般に調香師に好まれる。
 
・偽和の問題
 合成したモノテルペン類(ミルセン、カンフェン、テルピノレン、ピネン)を加えたり、ティートリー油や各種の植物から安上がりに抽出したミリスチシンを入れたり、脱テルペンしたナツメグ油のテルペン類を再利用して増量することが、ひんぱんに行われているのが現状と思って頂きたい。
 
・毒性
 LD50値
  ラットで0.6 - 2.6g/kg(経口)
  マウスで5g/kg(経口)
  ハムスターで5g/kg(経皮)
  ウサギで>10g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて2%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  試験例は報告されていない。
 
 注 ナツメグの毒性は、主としてそのミリスチシンに由来する。その毒性の強弱は、ミリスチシンの含有量に依存する。ナツメグを挽いた粉を多量に服用すると、幻覚を見たり、視覚障害が生じたり、錯乱状態になったり、異常な睡眠状態を誘発したりする。
 また、ナツメグを過剰摂取すると、嘔吐を催したり、顔面潮紅をおこしたり、ドライマウスになったり、癲癇様の発作をおこしたりする。
 これは中枢神経系に異常が起きるためである。
 
・作用
 In vitroで試験した結果、モルモットの回腸で激しい痙攣惹起作用を示した。サルにミリスチシンを投与したところ、運動機能障害と失見当識(自分がいまどこにいるか、相手が誰なのか、どうしてここにいるのか、人間だったら何者なのか、いまは何年何月何日なのか、といった認識ができなくなってしまう状態)とが生じた。ネコにミリスチシンを与えると、モルヒネを投与した場合と同様な興奮状態を呈したという報告もある。
ただし、実験ザルの失見当識というものがどういう症状を呈するのか、私にも見当がつかないが。
 
 抗菌効果 この作用は極めて強力。
 
 抗真菌効果 さして強力ではない。
 
 抗酸化作用 相当強力な抗酸化作用がウエスト・イースト両種のナツメグの精油において報告された。
 
・用途
 ナツメグ油と、それが含むミリスチシンとエレミシンは、ヒトに対して鎮静効果を発揮し、気持ちを鎮め、安心させる力がある。ナツメグ油は、駆風作用がある(あまりアルコール度数の高くないアルコール飲料〔1mlぐらい〕に、その10%程度のこの精油を入れて飲用する。腸内ガスが屁となって排出される)。ナツメグ油は、プロスタグランジン(多くの組織中にある生理活性物質の1種。降圧作用・気管支収縮・子宮収縮・血管収縮およびその正反対の血管拡張・血小板凝集の誘発またはその阻害・免疫抑制・利尿・睡眠誘発などさまざまな効果を示すホルモン様物質)の合成を阻害する働きがある。これに関連して、プロスタグランジンのせいでおこる下痢症状をなおしたケースが多々報告されている。
また、ナツメグ油は血小板の凝集を阻害することが in vitroで認められている。したがって、冠状動脈血栓症などに効果がありそうに思われる。
さらに、ナツメグ油は獣医学でも用いられてきている。用途は多岐にわたるが、とくに下痢に有効だそうである。