2014年5月28日水曜日

『ジャン・バルネ博士の植物=芳香療法』はどうして復刊されないできたのか

高山林太郎
 
 現代アロマテラピーの医学的・科学的な基盤を築いた偉人といえば、フランスのジャン・バルネ医学博士をまっさきにあげる人は、日本でもヨーロッパでもたくさんいるでしょう。
 
 博士の名著 ”AROMATHÉRAPIE - Traitement des maladies par les essences de plantes” 邦訳題名『ジャン・バルネ博士の植物=芳香療法』は、私が30年以上もむかし、苦心に苦心を重ねて翻訳した、私にとって記念碑的な書物です。しかし、アロマテラピーのアの字も見たことのない日本人にこの療法を初めて紹介するには、フランスで10回以上も版を重ねた一般人向けの本とはいえ、むずかしすぎました。
 
 そこで、いろいろな問題点はあったものの、英国人、ロバート・ティスランドの ”The Art of Aromatherapy” (邦訳題名『アロマテラピー―〈芳香療法〉の理論と実際』)を最初に訳出・刊行することで、いままで日本人のほとんどが知らなかったアロマテラピーという、芳香植物の精油を利用する新しい自然療法を知らせるよすがにしようと考えたのです。
 
 「生活が苦しかったから、ロバートの著書を訳したんだろう」などという、ゲスな人間の批判もインターネットで見ました。アホな人間は、自分の下劣な考えを、こともあろうにこの私も同じように抱くとしか思えないのでしょう。思えば、気の毒な人です。自分がバカだからといって、世の中の人間すべてが自分と同じレベルのバカだなどとしか考えられない人間は、ホモ・サピエンス(人間)の名に値しません。反論する気もおきません。私はイヌ・ネコなみの動物とけんかするほど、悪趣味ではありません。
 
 私は当時、フランスからハーブを輸入する会社の研究開発部長を勤めていて、それなりに高給を食(は)んでいました。このころの私は、フランス・英国そのほかのヨーロッパ諸国のハーブ類の薬効の研究に、日夜いそしんでいました。当時、ハーブというものに興味を寄せる女性たちが多くなりはじめていました。でも、当時、西洋の薬用植物の薬理的な効果については、私ほど知識を持っていた人間は、たぶんほかにあまりいなかったと思います。
 
 さて、ある日のこと、某出版社の社長が「アロマテラピー」という新たなヨーロッパ生まれの植物療法の一種を紹介したいのだが、翻訳して頂けまいか、といって十数冊の英仏の原書を私のもとにもってきて、相談に乗ってほしいと依頼しました。私は、びっくりしました。私自身、アロマテラピーを新しい植物療法として捉え、これに深い興味を寄せて、すでにジャン・バルネ博士の前述の書物を訳し、知り合いの医師たちに読んでもらい、感想を尋ねてまわっていたのですから。
 
 もし、このとき私がジャン・バルネ博士の本の訳稿を、この出版社社長に「これを刊行して下さい」と頼んでいたらどうだったでしょうか。たぶん、全国で100冊も売れなかったでしょう。そして、今日のようにイヌ・ネコなみの動物まで「アロマテラピー」などと口にする世の中になっていなかったにちがいありません。
 でも、このときは何をおいてもまず、「アロマテラピー(芳香療法)」ということばそのものを知る人間を、一人でも増やすことが、なんとしても必要でした。私のこのときの決断が正しかったのか否かは、歴史が決めてくれるでしょう。いまの私は「功罪相半ばする」と考えています。
 
 ロバート・ティスランドの本は、ジャン・バルネ博士の「科学的な精神を逸脱しない」著書をネタ本にして、英国の大衆に俗うけするように、ホメオパシー・バッチ療法・占星術などをそこにおもしろおかしくまぶし、古代や中近世などのヨーロッパの医療をめぐる歴史をいわば講談調にまくしたて、オカルト的に中国伝統医学までとりあげて人を煙に巻き、根拠も明らかにせず「精油のレシピ」集などを並べました。
 ロバート・ティスランドは、バルネ博士の英訳本(英国ではほとんど売れませんでした)をパクって、その科学性などすっかり無視したわけですが、そのかいあってか(?)、英国の低俗な雑誌の編集者たちがこの本をおもしろがり、このネタをうまく使って、自分たちの雑誌の読者の関心を呼んで雑誌の販売部数をぐんと増大させようと企て、競ってロバートのこの本を話題にとりあげ、aromatherapy(アロマセラピー)という新しい言葉を英国全土にはやらせました。
 
 ジャン・バルネ博士は何度か英国を訪れていますが、博士はロバートのこの本を見て、すぐにこれが自分の本を換骨奪胎(かんこつだったい)し、自分が提唱した科学的アロマテラピーをふみにじったものだと知って憤慨し、正しくアロマテラピーが伝わらなかったことを悲しみました。せっかく訪英したバルネ博士に、ロバートは全く会おうともしませんでした。
 ロバートがフランス語など話せも読めもしない無教養な人間だったこともあるでしょうが、やはり博士に会わせる顔がなく、博士と通訳を介しても内容のある話ひとつ交わせないヒッピー崩れの、およそ知性において欠けた男だったからです(金にあかせてブレーンやゴーストライターなどを何人か使って、もっともらしい本を出していたのだと、故・藤田忠男博士は言っていました)。
 
 しかし、ロバート・ティスランドの俗流書を先に出版したために、日本でも「アロマテラピー」、「アロマセラピー」ということばが流行しはじめ、私がその出版社から出したいろいろなアロマテラピー書がひろく売れはじめました。
 
 そして、ようやくジャン・バルネ博士の前述の本が出せるようになりました。日本の人びとも、ロバートの著書よりも程度の高いアロマテラピーの書物を求めるようになったからです。
 
 この本は、同社で3000部ほど出しました。まもなく売り切れました。当然、版を重ねるべきなのに、同社の編集長は、訳者として当然の権利として私が受けとった数冊の翻訳書まで返せと要求してきました。もちろん、私は断りました。
 
 すると、この出版社の編集長と社長とは、見本に残しておいたバルネ博士の著書をコピー機で何百部か何千部かわかりませんが、まるまる一冊分コピーして、この定価7500円の本をなんとワンセット一万円でどんどん注文者に売ったのです。どれほどもうけたのだろうか。これは当然帳簿上には記載できない数字です。脱税の罪も立派に成立しますね。でもウラ帳簿などは今ではとっくに処分してしまったはずです。
 
 これは、日本とフランスとの両方の著作権管理会社にたいするひどい契約違反ですし、日本語版の翻訳・著作権者である私にたいする手ひどい背信行為です(私は、80年代から90年代にかけて私の本でここの社長・社員を食わせていたのです)。編集長がノータリンだったので、コピーしてこの本をどんどん販売していることをうっかり口走ってしまって、私にことの次第がばれてしまいました。コピーじゃダメだ、本をくれという注文者がいたので、私に渡した本を返せなどと言ってきたわけです。ある人が言っていましたが、コピーしたこの博士の本に、無断転載複写禁止と印刷されていたらお笑いですね。
 
 これで、この出版社は大儲けしかたどうかわかりませんが、コピーを買った人間が日仏両方の仲介業者にこの事実を知らせ、結果として、ジャン・バルネ博士もこの同社の悪事を知ることになり、博士は激怒して、二度と日本人などに自分の著書を訳させるものか、と身近な人びとに言っていたそうです。
悪事千里を走るとは、まさにこのことでしょう。
 
 私の厳重な抗議など、まったく無視してコピー商売を続けたこんな会社の幹部たちは、出版人の風上にもおけないヤクザ・泥棒同然の人間でなくてなんでしょう。なるほど、この犯罪行為はもう時効です。いまさらなにをいっても、顔に小便をかけられたカエルのようにケロリとして、この悪党どもはしらじらしい態度をとることは容易に想像できます。
 でも、このブログをごらんになった方々は、日本のアロマテラピーを推進させてきたと称する出版社が、倫理とか道徳とかといったものをまるで忘れたどんなに汚ない会社かがよくおわかりかと思います
 
 この犯罪には、上述のように時効の壁があって、いまさらどうにもなりますまい。しかし、国際的な道義を踏みにじり、日本と日本人の顔とに泥を塗った同社のこの悪行は、決して決して忘れないで下さい。
 
 私が無念でならないのは、この私が、翻訳者であるこの私までが、この悪事に加担したと、私の尊敬してやまないジャン・バルネ博士に思われてしまったこと(訳者なのですから当然です)、そして博士に、私が同社に厳重に抗議して、この悪党どもが不当に儲けた不浄の金などビタ一文も手にしなかったと弁明する機会もないまま、あの世に行かれてしまったことに尽きます。
 
 
 しかし、パンドラの箱に希望は残りました。
 バルネ博士の家族関係はかなり複雑で、博士の死後数年して博士夫人も死去しましたが、その有形無形の遺産の相続問題が穏便に片付いたら、話はまた変ってくるでしょう。ジャン・バルネ博士のこの不朽の名著の復刊を願ってやまない方がたは、その日をぜひとも楽しみにお待ち下さい。 

2014年5月21日水曜日

タイム | 精油類を買うときには注意して!⑮

タイム(Thymus vulgaris)油
 
 シソ科の小低木(生長してもせいぜい30〜40cmぐらいにしかならない)タイムは、昔からヨーロッパでひろく薬用され、また料理の香味料として使用されてきた。
 
 タイムには、さまざまなケモタイプがある。その主要なものをあげる。
 
 Thymus vulgaris L. geranioliferum(ゲラニオールケモタイプ)
  モノテルペノールのゲラニオールを主成分とする。
 Thymus vulgaris L. linaloliferum(リナロールケモタイプ)
  モノテルペノールのリナロールを60〜80%含有する。
 Thymus vulgaris L. paracymeniferum(パラシメンケモタイプ)
  モノテルペンのパラシメンが主要成分。
 Thymus vulgaris L. thujanoliferum(ツヤノールケモタイプ)
  モノテルペノール類の(+)-トランスツヤノール-4,(+)-テルピネン-1-オール-4,(-)-リナロールを合計50%含む。
 Thymus vulgaris L. thymoliferum(チモールケモタイプ)
  テルペンフェノール類(チモールおよびカルバクロール)を成分にもつ。
 
 そのほかに、セルビルムあるいはワイルドタイムと呼ばれているものがある。学名はThymus serpyllum L. という。タイムと成分上、大差はない。
 
 また、スパニッシュタイム、別名レッドタイム、ホワイトタイム、スウィートタイムなどという呼び方もある。
 いずれも、タイムは生乾きのものを水蒸気蒸留して精油を抽出する。タイムの産地は、スペイン、フランス、イタリア、トルコ、東欧諸国、米国など。日本のイブキジャコウソウはセルピルムのごく近縁である。タイムは和名をタチジャコウソウという。
 
 ごくふつうに「タイム」といっている、レッドとホワイトとの両タイムの2種の分析結果をを次に示す。
 
主要成分(%で示す)
レッドタイム(チモールケモタイプ)
ホワイトタイム、別名スウィートタイム(ゲラニオールケモタイプ)
 
          レッドタイム   ホワイトタイム(スウィートタイム)
 チモール      45〜48     0
 カルバクロール   2.5〜3.5      0.7
 ゲラニオール    0         30.4
 ゲラニルアセテート 0         50.1
 β-カリオフィレン  1.3〜7.8        4.1
 α-ピネン       0.5〜5.7      0
 p-シメン        18.5〜21.4       0
 1,8-シネオール       3.6〜15.3        0
 テルピノレン    1.8〜5.6        0
 
 以上は、いちおうの目安とお考え頂きたい。タイムには地方によってさまざまなケモタイプ、品種、変種がたくさんあり、その成分も資料によって大きな差がある。市販のタイム油の大半は、いわゆるレッドタイムとホワイトタイムである。60%をこす量のチモールを含有するレッドタイムを精留したものがホワイトタイム。
ふつうは、レッドタイム油を「タイム」油の代表格にしている。
 
・偽和の問題
 市販の「タイム」油というのは、実はオリガナム油その他の精油を増量剤として加えた商品が大部分である。ことにホワイトタイム油には、パイン油のカスみたいな留分、ローズマリー油、ユーカリ油、オリガナム油、いずれも合成したテルピネオール、p-シメン、ピネン、リモネン、カリオフィレンなどをうんと加えているのがふつうだ。牧 伸二じゃないが、書いていて「あ〜あ、やんなっちゃった」といいたくなる。
 
・毒性
 LD50値 ー レッドタイム
  ラットで4.7g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性 ー レッドタイム
  ヒトにおいて8%濃度に稀釈して皮膚に塗布したケースで、いずれもこれらは生じなかった。しかし、実験動物の皮膚に未稀釈でこの精油を適用したところ、激烈な刺激性を示した。
 
・作用
 レッドタイムの精油は、モルモットの回腸にin vivoで痙攣を惹起することがわかっている。
 
 抗菌・殺菌作用 レッドタイム油は広範囲にわたって、殺菌・抗菌効果がきわめて強力である。しかし、ホワイトタイム油の方は、それほど抗菌・殺菌力は強くない。レッドの半分くらいである。
 
 抗真菌作用  レッド・ホワイトの両タイム精油とも、かなり強力。
 抗酸化作用  かなり強力である。
 CNV(随伴性陰性変動)のデータを見ると、タイム油には刺激効果があることがわかる。
 
・用途
 タイム油は、洗口液、うがい薬、せき止め、のどの痛み止めによく用いられてきた。私も子供のころ(つまり敗戦直後)これを入れた「チミッシン」というカゼ薬をよく飲んだ。甘みがあっておいしかった。当時、甘味に飢えていた私は、チミッシンのほかに、母の唯一の化粧品だったグリセリンなどもなめた記憶がある。
オリーブ油その他の植物油にタイム油を入れて、引赤剤にし、刺激痛を鎮静させるのにも使ったりする。 

2014年5月14日水曜日

セージ(薬用サルビア) | 精油類を買うときには注意して!⑭

セージ(Salvia officinalis)油
 
セージはシソ科の小低木。古代からヨーロッパでその葉は香味料として(ソーセージづくりには不可欠。もっともソーセージのセージは、「塩」を意味するラテン語に由来する)、また薬として使われてきた。ローマ人は、ヘルバ・サクラherba sacra(聖なる草)とも呼んだ。salviaはsalvation(「救い」を意味する英語)と同じ語源から来ている。
英語では、これをダルメシアンセージ、トルーセージ、レッドセージ、イングリッシュセージともいう。
この原産地は英国とされる。グループサウンズのサイモン&ガーファンクルのヒットソング「スカボローフェア」の「パスリ、セージ、ローズマリー、アンド、タイム」というリフレインの歌詞は有名だ。
 
これと近縁の別種の“セージ”として、スパニッシュセージ(Salvia lavandulaefolia)があり、これもアロマテラピーで使用されることがときどきある。原産地はスペインである。
 
いずれも生乾き状態の葉を水蒸気蒸留して精油をとる。
 
 
主要成分(%で示す)
          ダルメシアン種   スパニッシュ種
 1,8-シネオール    8〜24     18〜54
 α-ツヨン        15〜48      0
 β-ツヨン        2〜25      0
 カンファー       2〜27     1〜36
 リナロール       0〜32      0〜9
 α-ピネン         痕跡量      4〜20
 β-ピネン         痕跡量      6〜19
 カンフェン        痕跡量        4〜30
 p-シメン         痕跡量      1〜5
 
ごらんのように、これら2種のセージはそれぞれ成分に差があるだけでなく、クラリセージ油ともちがった組成をしている。

・偽和の問題
 ダルメシアンセージ油は、これとは別種のグリークセージ(Salvia triloba)の精油で偽和されることがよくある。グリークセージは、1,8-シネオール含量が42〜64%にも達する。また、ヴァージニアン シダーウッド油または前述のグリークセージ油から分離したツヨンを添加することも多い。パルマローザ(Cymbopogon martinii)油を加えることも往々ある。人間の悪知恵にはキリがありません。
 
・毒性
 LD50値
 ダルメシアンセージ油  ラットで2.6g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 スパニッシュセージ油  ラットで>5g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 グリークセージについてはまだ報告例がない。
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で、これらは認められなかった。
 光毒性
  スパニッシュセージ油は、光毒性はない。ダルメシアンセージ油については、いまだに試験例がない。
 その他
  ツヨンは、ふつう有毒とみなされている。しかし、α-ツヨン、β-ツヨンとも、英米では食品用香料として、ごく少量ならば、その使用が許されている。
  含有ツヨン分のせいで中毒患者を多くだしたフランスのアブサン酒のほうは、1915年に製造が禁止されている。しかし、そのもとになったヒソップ(Hyssopus officinalis)は、この生育地によってツヨン分をほとんど、あるいはまったく含まないケモタイプがある。フランスの有名なリキュールの「シャルトルーズ」は、そうしたヒソップを使っているので、これまで、何もトラブルをおこした例はない。
  セージはツヨンを多く含むので、多量に摂取すると中枢神経系に毒性を示し、麻痺を惹起する。特に女性はツヨンに弱いらしく、セージ油を用いたマッサージをうけたり、沐浴用に多くて10滴湯に落として用いたりしただけで腹痛に襲われたり(子宮の異常収縮に起因するものだ)、ひどい月経過多になったりしたケースが報告されている。多くのセラピストは、このためにこれに代えてクラリセージ油を利用している。ダルメシアンセージ油は幼児に使ってはダメ。癲癇(てんかん)の素質のある人間に使用するのも、妊娠中の女性に用いるのも、いずれも禁忌。
  また、食品添加物として許されるのは、体重1kgあたり10mgから35mgの範囲である。添加量を10mg/kg以下にしなければならないのは、アルコール飲料だ。
ダルメシアンセージよりもはるかに安全な、近縁のクラリセージ油を用いてマッサージをうけたあとでも、アルコール飲料を摂取すると、ひどく悪酔いする。クラリセージ油を用いたマッサージを受けた後、車を運転するのもいけないといっている人もいる。
 
・作用
 ダルメシアン・スパニッシュの両セージは、体内からとりだしたモルモットの回腸で痙攣惹起作用を示した。
 抗菌作用   細菌の種類にもよるが、総じてあまり強いとはいえない。
 抗真菌作用  真菌の種類によって、さまざまである。
 駆風作用   両種のセージとも、この働きを示した。
 酸化防止作用 ダルメシアンセージに、これが認められる。
 痙攣惹起作用 ラットでもヒトでも、多量に使うと痙攣をひきおこす。内用はもとより、外用でもそうである。 

2014年5月7日水曜日

ジュニパー | 精油類を買うときには注意して!⑬

ジュニパー(Juniperus communis)油
 
 
ヒノキ科の低木で、成熟(2〜3年で実をつけるまでに成熟)すると、甘い液果を実らせるジュニパー。乾燥させて細かく砕いたこの液果を、水蒸気蒸留してこの精油を抽出する。液果を発酵させて抽出した成分は、ジン・ブランデーに添加される。本来は、これらは熱病になどに用いる薬用酒であった。
和名は、セイヨウネズ。木部からも精油を抽出するが、これはたいていより高価な液果油の増量のために利用される。
 
原産地
 ハンガリーをはじめとするヨーロッパ諸国
 
 
主要成分(%で示す)
 α-ピネン       33〜71
 サビネン       0.3〜27
 ミルセン         5〜18
 リモネン       2〜9
 γ-テルピネン       0.3〜3.7
 テルピネン-4-オール  4〜10
 
 
・偽和の問題
 ジュニパー油(厳密にはジュニパー液果油)の真正品は、めったに売っていない。たいていは、合成したピネン、カンフェン、ミルセン、それにターペンタイン油の留分などが加えられたしろものだ。上述したジュニパー木部油、またジュニパーの小枝から水蒸気蒸留抽出した精油も、この偽和(増量)の目的で用いる。あなたのお手持ちのジュニパー油は、失礼ながらまずまちがいなくこの手の品である。
 
 
・毒性
 LD50値
 ラットで8g/kg(経口)、ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性  ヒトにおいて8%濃度で、これらは認められなかった。100%濃度で、20人を対象にして行ったテスト(24時間にわたって実施)でも、刺激性が発現したものは、そのうちの2名にとどまった。
 光毒性  認められない。
 
 
・作用
 薬理学的作用  ジュニパー液果油の場合、若干の痙攣惹起効果がみられた。
 抗菌作用    報告されていない。これに殺菌作用があるなどという人間のコトバを信じてはいけない。
 抗真菌作用   真菌の種類を問わず、あまり強くない。
 利尿作用    腎臓の所に適度に稀釈して塗布するとよいが、腎臓に疾患のある人間には禁忌。
 そのほか特筆すべき作用・効果は、報告されていない。
 
 ジュニパー油は駆風作用があり、鼓腸・疝痛の際に用いると効果的。痔疾にも、この精油をぬるま油に数滴落として肛門と患部周辺を洗うと良い。浸出性湿疹にも有効である。
 
 また、これはハーブ療法に属することだが、ハーブティー用に市販されているジュニパーの乾燥果を乳鉢などで5〜6粒、すりつぶして、水で飲みこむと、血糖値がドラスティックに下がったケースが日本であった。1日に3〜4回このジュニパー液果粉末を服用するとよい。その患者のかかりつけの医師が驚いたそうである。