2014年8月26日火曜日

プチグレン | 精油類を買うときには注意して!(26)

プチグレン(Citrus aurantium L. ssp. amara、別名 C. bigaradia)油
 
 プチグレンという植物は存在しない。俗にビターオレンジ、あるいはビガラディアレモン、ビガラディアオレンジと呼ばれるミカン科のカンキツ類果樹の葉・小枝を、ときにはそのほかのカンキツ類の同じ部位を水蒸気蒸留して抽出した精油を、一般にプチグレン油と称する。
 
 フランス、イタリア、アルジェリア、チュニジア、モロッコ、スペイン、パラグアイなどで生産される。
 ミカン科の果樹は、東南アジアあるいはインドなどが原産地と考えられており、12世紀以降、ヨーロッパにポルトガル人・スペイン人らにより導入された。
 
 ミカン科の果実は、非常に多い。日本でもウンシュウミカン、イヨミカンを筆頭に、ネーブルオレンジ、スウィートオレンジ、ナツミカン、ポンカン、デコポン、キンカン、ブンタン、カボス、ユズ、スダチ、サンポウカン、シトロン(Citrus medica)、レモン(フランスではレモン〔C. limon〕のことをシトロンという)、ハッサク、ベルガモット、イヨカン、ライム、サワーオレンジ、タンカン、タンジェリン、マンダリン、沖縄のシークヮーサーなど、いくつもこの仲間があげられる。交配すると、すぐに雑種ができる(美味かどうかは別として)。
 最近では、ユズのエッセンスが高知県で生産されている。私はこれをイカのシオカラにちょっとたらして食べるのが大好きだ。一度ためしてごらんなさい。ヤミツキになるから。
 
主要成分(%で示す。これはC. aurantium L. ssp. amaraの成分だが、それも、産地により大幅な変動がある。一つの目安とされたい)
 リナロール     19〜20
 リナリルアセテート 46〜55
 ネリルアセテート  2〜3
 α-テルピネオール  4〜8
 ゲラニオール    2〜4
 ミルセン      1〜6
 
注) C. aurantium L. ssp. amara以外のミカン科果実を併用したり、あるいは代用としたりすることが多いため、その成分も、同じ「プチグレン」といいながら、大幅に製品によって異なり、当然その香りもちがってくる。いわんや偽和品においておやである。
 
・微小成分について
 プチグレン油には、400種以上の成分が含まれる。今後の研究で、この数はさらに増えるだろう。それがプチグレン油の特異な香りの源になっている。私は南仏グラースで、ビターオレンジの葉をとって、揉んで香りを嗅いだが、あの香りこそ、ほんもののプチグレン油の香りだったと、いまにしてつくづく思う。
 
これの微小成分としてβ-ダマスケノン、β-イオノン、2-イソプロピル-3-メトキシピラジン、それにα-テルピニルアセテートなどがあげられる。これらは、薬効にはさして寄与するものではないが、これらもプチグレン油の香りを形成するのに大きく貢献する。
 
・偽和の問題
 プチグレン油の偽和には、レモングラス油がよく利用される。レモングラス油をプチグレン油と詐称して売るヤカラもいる。また、合成したシトラール、レモン油なども偽和・増量のためによく使われる。
また、プチグレン油自体も、もっとずっと高価なネロリ油の偽和に使われる。プチグレン油をネロリ油だといって販売するメーカーもたくさんある。
同じ果樹の花を使うか、葉・小枝を用いるかの差だけなので、こんなインチキはかんたんにできるわけだ。
 
petit grain(プチグレン)は、フランス語で「小さい粒」という意味。この精油を顕微鏡でのぞいて見ると、小さい粒々がたくさん浮いていることから、この名ができたとされる。また、その他の説もいろいろある。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ビターオレンジのプチグレン油では7%濃度で、またビガラディアレモンでは10%濃度でいずれも認められなかった。ただし、極めて稀な例として、200人の皮膚炎患者のうち1人が感作性を示したケースが報告されている。
 
 光毒性
  認められない。
 
注)プチグレン油は、ビガラディアレモンまたはビガラディアオレンジの葉・小枝を水蒸気蒸留して抽出する文字通りの精油である。だから、果皮を冷搾して得られるエッセンスではない。したがって、光毒性のあるフロクマリン類などは一切含まれない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、最初痙攣惹起作用をおこし、ついで鎮痙効果を示した。
 
 抗菌効果 各種細菌にたいして強力な抗菌作用を示したとの報告があるが、そうした作用は認められなかったとする学者もおり、最終的な結論は、まだ出ていない。
 
 抗真菌効果 一般的に、真菌の種類により強弱の差はあるものの抗真菌力はかなりあるといってよい。
 
 抗酸化力 微弱ながら、あるとされる。 

2014年8月19日火曜日

〔コラム〕精油レシピ集を発表するにあたって

 私は、これまで、この「R林太郎語録」を通じて、日本に最初にアロマテラピーを紹介した者として、多くの「アロマテラピー」関係者が無視し、あるいは軽視してきた観点から、私がアロマテラピーをいかに日本人に伝えてきたかをできるだけ誠実に記述してきた。

 これを「暴露」だと騒ぎ立てる超低IQの、到底ホモ・サピエンスの要件を満足させているとは考えられぬ一見人間型の動物どもが存在する。イヌ・ネコは、どこまでいってもイヌ・ネコである。真実をきちんと述べることを「暴露」とほざくなら、私はこれからも真実を暴露し続けていくことを、明治のジャーナリスト黒岩涙香に倣って、おのれの使命としてみずからに課していくつもりである。
 いままで、自分がアロマテラピーを、法外な高い料金をとって生徒たちに教えてきたこの亜人間どもは、それがデタラメだったことが多くの生徒たちに知られ、自分の権威(笑わせてはいけない)が失墜してしまうので、この私を「筆者の人格を疑う」だの「いままでの筆者にたいする評価がぐんと下がってしまった」だのと、酔いどれのろれつのまわらぬタワゴトのような下らぬ感想を並べている。
 私に異論があるなら、堂々とシラフで言うがよい。冷静に常識と論理とをもって私を論破してみるがよい。幼稚園児にもあざけられるようなバカらしい愚劣なセリフをならべて恥ずかしいとも思わないのだから、この連中は「亜人間」ないし人間型の動物としか、私には彼らを形容するすべがない。
 人間が完璧な存在でないことは、私自身よく知っている。しかし、何かを記述し、とくにそれを人に教示する場合には、自分の力の及ぶ限りの努力をして、他人の説くところが真実であるか否かをを徹底的に吟味し、その真偽を能(あた)う限り調べあげなければならない。私だってまちがったことはいくどもある。
 しかし、そのつど、外国へ行ってその説を唱えた本人に直接会っておのれが十二分に納得するまでその当人に問いつめたし、さまざまな意味で信頼のおける専門家に面会して見解を求めたり、そうした人々の著書をつねに批判的に読んだりして、おのれの理解を深めてきた。自分が誤解していたことを人に伝えてしまったような場合には、土下座でもなんでもしてあやまったものだ。
 だから、私は「個人崇拝」など絶対にしない。ルネ=モーリス・ガットフォセであれ、マルグリット・モーリーであれ、ジャン・バルネ博士であれ、間違っていると思われる部分は容赦なく剔抉(てっけつ)し、批判をしていく。それが、アロマテラピーをさらに深く私自身が理解し、亜人間どもとちがって正常な知性をもってアロマテラピーを考える方がたを助けることになるのだから。
 
 ここまで20数種にわたる精油(アブソリュートも含めて)について、いま市販されている品の私なりの評価をしてきた。精油を扱う良心的な業者の方がたのご意見もじっくりうけたまわって、このままでは「アロマテラピー」がもはやテラピーたる資格を失ってしまう危機感をひしひしと覚えた。その気持ちが、どれほどの人びとに伝わっただろうか。だが、ものを考えることのできる人間ならば、断じて大勢に盲従してはならない、と私は強く強く訴えたい。
 ここで少し話を変える。私は、いま書店に並んでいるアロマテラピー関係書を手に取ってみて、それがことごとく、How to本だと思わずにはいられない。
 しかし、私は故・藤田忠男博士の表現を借りれば「焚書」にされた私の本でもこの「語録」でも、How to的態度をとらず、Why soという哲学的な観点からアロマテラピーを考えてきたつもりだ。そして、それはそれで正しいと私は思っている。
 しかし、多くの人びとから個人的に私に寄せられる意見として、世間にでまわっているコピペにコピペを重ねた無責任な精油のレシピではない、きちんと理論的に整合性のある、「人体のさまざまな反射作用を活発化させ」、「ホルモンの調整作用を強化し」、「体内の諸酵素の働きを活性化し」、「血液の状態を正常化し、調和させ」、「体液のバイオエレクトリカルな要素の均衡(これの詳細については〔アロマテラピー大全〕を参照されたい)の回復を図る」ことをめざした精油の新しいレシピを示してほしいというご意見に接して、その声にお応えするのも、アロマテラピーをご理解頂く一つの道だと考えるようになった。
 
 そこで、これから残るところあと10数種あまりの精油の解説と合わせて、随時そうしたレシピをいくつか提示させて頂くつもりでいる。
 ただし、その際に用いる精油は、以下の要件を満足するものでなければ、これらのレシピは無益なものとなってしまうと心得られたい。すなわち、
 ・その精油の原料植物が、100パーセントまちがいなく、その植物だと同定されているものであること。
 ・その原料植物が正しいやりかたで収穫されたものであること。
 ・ケモタイプを十分に考慮に入れていること。
 ・水蒸気蒸留抽出(エッセンスならば圧搾抽出)したものであること。
 ・100パーセント自然なピュアな精油であること(たとえ天然精油でも、いくつかの産地の精油を調合したものは、天然自然の精油とはいえない)。
 ・脱色処理、過酸化処理、特定の成分の人為的除去などをうけていない精油であること。
 ・搾油してからあまり時間が経過しておらず、かつ光と熱とから離れたところに保管されたものであること。
 ・およそ天然自然からかけ離れた、化学的な増量剤などを含んでいる香水用の精油は論外である。絶対に使用しないこと。
 
なお、このほか必要な事項は、その都度記述していくつもりである。
 
 レシピは、順不同に掲載させて頂く。
 はじめに、簡単な例をあげておこう。今回はここまでにしておく。
 
 ●不整脈(そのほか各種の心臓の律動異常)
  アンジェリカ(Angelica alchangelica)油
  スウィートオレンジ(Citrus aurantium var. dulce)油
  ヘリクリスム(Helichrysum italicum)油
  ラベンダー(Lavandula angustifolia var. angustifolia)油
  バジル(Ocimum basilicum)油
  ローズマリー・カンファーケモタイプ(Rosmarinus officinaris camphoriferum)油
 
 これらを両手首、両足の裏、とくに土踏まずの部分にすりこむ。
 これらの各種精油を、ホホバ油そのほかのキャリヤーオイルに5〜6%濃度に稀釈したものをそれぞれいっしょに(等量ずつ)合わせて、それを指定した箇所にすりこむ(1日に3〜4回)。この稀釈の度合い、ブレンドの仕方、トリートメントは、これに続く各レシピのすべてでおおむね同様にする。 

2014年8月12日火曜日

フェンネル(ウイキョウ) | 精油類を買うときには注意して!(25)

フェンネル油
 
 フェンネルは、セリ科ウイキョウ属の1年草あるいは多年草。私にはさして魅力的とは思えないその散形花には、開花期には昆虫がたくさん集まる。
 ヨーロッパからアジアにかけて数種が分布する。
 
学名① Foeniculum vulgare var. amara Miller
    英名はBitter fennel(ビターフェンネル)、日本ではフェンネル、茴香(ウイキョウ。これは、中国語の茴香〔フイシャン〕に由来し、鮮度の落ちた魚類を用いた料理で、この実を香味料にすると、その香りを回〔かえ〕す、すなわちフレッシュなよい香りに戻すとの意味をあらわす)と称される。
 草高1〜2メートルになる大型草本。中国には4〜5世紀に西城から伝来し、日本には9世紀前に中国から渡来した。フェンネルは古代ギリシャではマラトン(Marathon)と呼ばれた。これはマラソン競技が行われた土地が、これの群生地だったことによる。それはどうでもいいが。中世以来、ヨーロッパではフランス、イタリア、ロシアなどの料理にこの実が香味料としてひろく利用されるようになった。
 インドでも香味料として古来から使用された。
 中国では、腹部・胸部の鎮痛剤としても用いられている。
 日本では、長野・岩手・富山の各県で栽培される。
 
学名② Foeniculum vulgare var. dulce Miller
    英名はSweet fennel(スイートフェンネル)、Florence fennel(フローレンスフェンネル)、日本ではイタリアウイキョウ、アマウイキョウと称される。
 このウイキョウは、①のビターフェンネル同様に、その実が香味料としても使われるが、それよりもウドのように軟白栽培して、野菜としてその群生葉の基部(直径10cmくらいになる)を煮て食べる。これがうまいんだな。
 
 ビター、スウィートの両種とも、その実を採取して水蒸気蒸留して精油を抽出する。
 現在、スペイン・東欧諸国で多く栽培されている。
 
 
主要成分(%で示す。ビター・スウィート両種をひっくるめたおおよそのパーセンテージである)
 トランス-アネトール   30〜75
 シス-アネトール     0〜0.3
 フェンコン       10〜25
 メチルカビコール    1〜5
 リモネン        1〜55
 α-ピネン        1.5〜55
 
・偽和の問題
 アロマテラピーで、というよりも、香料工業において重要視されるのは、スウィートフェンネル油のほうである。そこで、ビターフェンネル油でこれが偽和されることは往々ある。そしてまた、いずれも安あがりに合成したトランス-アネトール、フェンコン、メチルカビコール、リモネンなども偽和のために大いに利用される。そのほか、フェンネルの近縁のセリ科植物の実を蒸留した各種留分も、増量のために使われる。
 
・毒性
 LD50値
  ビターフェンネル油:
   ラットで4.5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
  スウィートフェンネル油:
   ラットで3.8g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ビター・スウィートの両種で、ヒトにおいて4%濃度でこれらは一切認められなかった。しかし、スウィートフェンネルを未稀釈でマウスの皮膚に適用したところ、激烈な反応を呈し、ウサギの皮膚でテストしたところ、相当な反応が見られた。
 アネトールは一般にアレルギーを惹起する作用を示し、有毒成分の一つに数えられる。
 
 光毒性
  認められない。
 
・作用
 薬理作用 スウィートフェンネル油は、モルモットの回腸で、in vitroで強烈な鎮痙惹起作用をあらわし、ついで鎮痙作用を示した。
 フェンネル油は、エストロゲン様作用(女性の発情性ホルモン的な働き)を示すとされる。これが、女性のバストを大きくするか、また泌乳量を増加させるかは目下、研究中。
 ハーブとしてのフェンネルを摂取させた家畜にも、そうした作用のせいで繁殖上の問題を生じたというケースがいくつも報告されている。なお、妊娠中の女性のこの精油の摂取を禁忌とする学者もいる。
 抗菌効果 あまり強力とはいえない。あることはあるといった程度。
 
 抗真菌効果 かなり強力。
 
 駆風作用 とくに小児において顕著とされる。しかし、私はこれを摂取した子供がブウブウ放屁するのに接した記憶はいまのところない。 

2014年8月7日木曜日

パルマローザ | 精油類を買うときには注意して!(24)

パルマローザ(Cymbopogon martinii Stapf. var. motia、別名 Andropogon martinii Roxb. var. motia)油

 イネ科のオガルカヤ属の多年草。これに属するものは、アフリカ・アジアの熱帯と亜熱帯との各地方に生える。
 イーストインディアン油、ターキッシュゼラニウム油とも称される。バラを思わせるフローラルな甘い香りの精油。
 原産地 インド、マダガスカル、中央アメリカ、ブラジル。
     現在も、これらの地域で栽培されている。ほかにコモロ諸島およびセーシェル諸島でも、これが栽培され、精油が生産される。
 精油 花の咲く前に収穫した全草を、1週間ほど乾燥させてから水蒸気蒸留して搾油する。

主要成分(%で示す)
 ゲラニオール     76〜83
 ゲラニルアセテート  5〜11.8
 リナロール      2.3〜3.9
 ネラール       0.3〜0.6
 ファルネソール    0.3〜1.5
 β-カリオフィレン   1〜1.8

 以上はおおよその目安であり、産地その他の条件により、成分に相当な変動がある。
 パルマローザの近縁植物に、Cymbopogon martiinii Stapf. var. sofiaがある。これは「ジンジャーグラス」と呼ばれる。これからジンジャーグラス油を蒸留抽出する。
 C. martinii var. motiaとC. martinii var. sofiaとをまとめてパルマローザ油と称することもある。Var. motiaのほうが品質のよい洗練された香りの精油と考える人のほうが多い。

・偽和の問題
 ジンジャーグラス(Var. sofia)は、野生で収穫しやすいことから、これからとった精油を偽和剤とすることがひろく行われている。しかし、ジンジャーグラス油のゲラニオール含有量は、Var. motiaよりも少ない。偽和のために、さらにテレビン油、シトロネラ油、合成したゲラニオールが加えられることもよくある。
 また、このパルマローザ油自体も、ゼラニウム油、バラ油の増量のために利用されることが多い。

・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)

 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で認められなかった。

 光毒性
  報告例なし。

・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで鎮痙作用を示した。
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、かなり強力な抗菌力を発揮する。

 抗真菌効果 中程度の抗真菌作用を示すことが報告されている。

 その他の作用 かなりの酸化防止力がある。また、CNVの波形を見ると、この精油の芳香にはリラックス作用があることがわかる。