2014年10月28日火曜日

ミント類| 精油を買うときには注意して!(32)

ミント類
 
  ミントはシソ科のハッカ属の一年草または多年草。40もの種類があるが、どれにも強弱の差こそあれ、芳香がある。北半球の温暖な地域に広範に分布している。ハッカの仲間は古来有名で、古代エジプト、古代ローマでも香味料、薬剤原料として利用された。新約聖書でも、これについての言及がある。
 ミント類でとくに有名なのは、ペパーミント、スペアミント、コーンミント(別名 ジャパニーズミント)である。そのほかベルガモットミント、フィールドミント、ホースミントなども広く知られている。現在、ミント類の主要生産国は、米国と南米である。
 
ペパーミント 学名 Mentha x piperita L.
 セイヨウハッカとも呼ばれる。ヨーロッパに生育する多年草で、ベルガモットミント(M. aquatica)とスペアミント(M. spicata)との自然交雑によって生じた。これは各地で栽培される。草丈は30〜40cm。茎の先端に紫または白色の穂状の花序をつける(ここが、ジャパニーズミントすなわち和種ハッカとの外観上の大きな相違点)。花は8〜9月ごろ咲く。この花の咲いた先端を蒸留してとった精油は、チューインガム・洋菓子・ゼリーの香料にされ、練り歯磨き・化粧品の賦香にも利用される。また、薬剤として強心剤・興奮剤などとしても用いられる。
 
スペアミント 学名 Mentha spicata L.(別名 M. viridis L. ミドリハッカ、オランダハッカ)
 中央ヨーロッパ原産の多年草。M. longifoliaとM. aquaticaとの交雑種。中国では留蘭香という。メントール含量が少なく、カルボンを58〜70%含む。米国ミシガン州、日本では北海道で栽培される。
 
コーンミント(別名 ジャパニーズミント) 学名 Mentha arvensis var. piperascens Holms
 日本、朝鮮、シベリアに生える多年草。草丈は60cmぐらいにまでなる。7〜8月に葉腋に淡紫色の花を咲かせる。中国語で家薄荷という。このハッカはメントール(ハッカ脳とも呼ぶ)含量が高く、以前は世界のハッカ脳の需要量の四分の三を日本がまかなっていた。生産地は北海道の北見だった。しかし、第二次大戦後は、主要生産地は米国や南米などに移り、合成品も多量に生産されるようになって、北見では昔の面影はなくなってしまった。
 
・精油の抽出
 ミント類は、いずれも花の咲いた時期の先端部を採取して、水蒸気蒸留して、それぞれの精油を得る。原料植物を生乾き状態にして蒸留する場合もある。
 
 
主要成分(%で示す)各成分含量はおおよその目安である。
           ペパーミント     スペアミント     コーンミント
 メントール     27〜51      0.1〜0.3       65〜80
 メントン      13〜52      0.7〜2        3.4〜15
 イソメントン    2〜10       痕跡量        1.9〜4.8
 1,8-シネオール   5〜14       1〜2        0.1〜0.3
 リモネン      1〜3        8〜12       0.7〜6.2
 カルボン      0          58〜70      0
 
 
・偽和の問題
 いちばん偽和されるのは、ペパーミント油である。たいてい、ずっと価格の安いコーンミントで増量する。あるいはコーンミント油自体をペパーミント油と詐称する。詳しい説明は省くが、この偽和は看破するのがかなり困難である。
 
・毒性
 LD50値
   ペパーミント 4.4g/kg(経口) ラットにおいて
   コーンミント 1.2g/kg(経口) ラットにおいて
   スペアミント 試験例は報告されていない
 
 刺激性・感作性
  ペパーミント
   刺激性を示すことがあり、また各種のアレルギー反応を生じさせる場合がある。角砂糖にこの精油を数滴落として服用しただけで、胸焼けを生じさせたり、その強烈な香りのせいで窒息しそうになったという人もいる。
   アレルギー反応は、この精油を多量に配合した練り歯磨きをたくさん使用したり、またこの精油を入れたスウィーツ類を食べすぎたりしたときに生じるケースがある。しかし、あまり多量に摂取しない限り、そんなに心配することはない。それほど危険なものだったら、厚生労働省が放置しておくわけがない。
  スペアミント
   4%濃度で摂取しても、問題はない。アレルギー反応をおこした人間の例も皆無ではないが、まず心配する必要はない。よほど非常識に大量を摂取しない限り、ペパーミントより危険性はずっと低い。
 
 光毒性
  ミント類の精油で、光毒性を見出したケースはない。
 
・作用
 薬理作用 イヌにおいて、ペパーミント油、スペアミント油を水によくまぜて(水には不溶性だが)4%(敏感な人間には0.1%)濃度くらいで与えたところ、胃壁を弛緩させる効果がみられ、回腸・大腸の緊張・収縮力が減退した。ペパーミント油はマウスの大・小腸とモルモットの回腸とにおいていずれもin vitroで鎮痙作用を示した(マリア・リズ=バルチン博士による)。
 
 抗菌作用 細菌の種類により、ペパーミント油の抗菌力は多様で、強弱さまざまである。
 
 抗真菌作用 あまり強くない。
 抗酸化作用 なし。
 抗てんかん作用 各種のミント精油をエアロゾルとして噴霧することで、てんかんの発作を抑制ないし緩和する効果がみられた。
 
付記 ミント類には、ほかにペニロイヤルミント(M. pulegium〔これは有毒成分が多いので要注意。これには北米種とヨーロッパ種との2大ケモタイプがある〕)、スコッチペパーミント(M. cardiaca)など多数の種類がある。フランスのハーバリスト、モーリス・メッセゲが来日したとき、彼はmenthe verte(スペアミント)と講演で発言したのに、植物に詳しくない通訳が「ソフトミント」などと妙な訳をした。ソフトミント、ハードミントなどという英名のハッカ類は存在しない。通訳は、最低限の専門用語はマスターしなければいけない。ひどい通訳になると、problem(一般には「問題」という意味だが、そこでは「障害・病気」などと訳すべきところだった)を誤訳した。私は見かねて、その通訳にメモを渡して注意した。「問題が解決した」は「病気がなおった」と訳しなさい、と。 

2014年10月21日火曜日

精油のシナジー効果を利用した精油の新しいレシピ(2)

症状 ー 怖気(おじけ)、人前であがること
   (俳優の)舞台負け、実力の発揮の不能など
 
人間は、人にもよるが、実力はちゃんとあるのに、人の前では何かのパフォーマンスをしようとするとき、「あがって」しまい、心身が思うように働かなくなってしまうことが(うまく口がきけなくなることを含めて)ある。受験生などがこれに襲われると、落ち着いて試験問題に取り組めず、普段の学力が発揮できなくなり、その結果、試験に落ちてしまうことがある。入社試験などでも、同じことがいえる。
 
これもストレスの一種であろうが、これによって他の疾病が通常、随伴的に惹起されるほどのものではない。しかし、この「症状」に襲われた当人にとっては、これはことと次第によっては人生が左右されてしまう大問題ともなる。
 
これは日本人に特に多く見られるものと思っていたが、芝居っ気たっぷりのフランス人にもやっぱりあることを知った。私が若い頃、フランスのコメディー・フランセーズ(1680年ルイ14世の命で建設されたフランスでもっとも古い国立劇場)の所属俳優学校を出たばかりの男性俳優の一人が、私たちの前でヴェルレーヌだったか、ボードレールだったか忘れたが、そうした詩人の名詩を朗読した。ところがやっぱり「あがって」しまったのだろう。朗々と詩を詠んでいた彼がハタと口をつぐんでしまった。前の席にいた私が低い声で、その俳優にその詩句を教えると、彼はホッとした顔で無事にその詩を詠じ終えた。そして、私にチラッと感謝の視線を投げた。これは自慢でも何でもない。私だって人前で「あがって」しまって、妙なことを口走った経験は何度もある。しかも肝心なときに。
 
私はオペラ歌手と話したこともある。その歌手が言うには、ヴェルディーとかプッチーニとかといった作曲家による歌いなれた歌劇ではどうということもないが、新しい歌劇、それも稽古量が少ないもの、とくにそれを自覚しているときに何度も失敗したものだ、神様は意地悪な方さ、と笑って言っていた。
 
○今回のレシピ
 使用する精油は以下のとおり。
 
 Laurus nobilis(ローレル、ローリエ、ゲッケイジュ)油
 Lavandula angustifolia(真正ラベンダー)油
 Mentha pipertia(ペパーミント)油
 Ocimum basilicum(バジル)油
 
これらの精油をホホバ油のキャリヤーに5〜6%濃度に稀釈して、腎臓の上に1日に3〜4回すりこむ。おわかりかと思うが、念のために申し上げる。下腹に両手の親指をあてて手のひらを背中にあてる。その手のひらのところが腎臓の部位である。これにより、標記の「症状」(医学的な意味とは少し違うが)が好転すれば、これにこしたことはない。「症状」が好転したと思ったら、塗布はやめる。
 
 
このブレンドに用いる精油について
 
 ローレル油
   活性成分として ー
    モノテルペン類:α-ピネン(4〜6%)、β-ピネン(3〜5%)他
    モノテルペノール類:リナロール(8〜16%)、α-テルピネオール他
    テルペンエステル類:テルピニルアセテート(2.5〜6.5%)他
    フェノール類:オイゲノール(3%)
    フェノールメチルエーテル類:オイゲノールメチルエーテル(2.5〜7.5%)
    オキシド類:1,8-シネオール(35〜45%)
    セスキテルペンラクトン類(3%)
 
 
   特性として ー
    交感神経と副交感神経の平衡回復
    強力な鎮痙、冠状動脈拡張
    強力な鎮痛の各作用
 
 真正ラベンダー油
   活性成分として ー
    エステル類(非テルペンおよびテルペン):リナリルアセテート(42〜52%)他
    アルコール類(非テルペンおよびテルペン):リナロール(32〜42%)、テルピネン-1-オール-4(2.8〜3.6%)他
    ケトン類(非テルペンおよびテルペン):1-オクテン-3-オン(1.3%)他
 
   特性として ー
    強力な鎮痛、神経鎮静、筋肉弛緩、血圧低下、他
    強壮、強心
    血流のスムーズ化
   指示 ー
    神経症、不眠症、苦悶(強力な作用がある)、痙攣、頻脈、やけど、血液の凝固性過多
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、特にない。
 
 ペパーミント油
   活性成分として ー
    モノテルペン類(2.5〜18%):α-ピネン(2%)、β-ピネン(4%)、リモネン(2.3%)他
    モノテルペノール類:メントール(38〜48%)
    モノテルペノン類:メントン(20〜60%)、イソメントン、ネオメントン、プレゴン、他
    テルペンオキシド類:1,8-シネオール(5.75%)他
    テルペンエステル類:メンチルアセテート(2.8〜10%)他
 
   特性として ー
    神経強壮(およびその平衡回復)
   指示 ー
    自律神経ジストニー、無力症、頭痛
 
 バジル油
   活性成分として ー
    テルペンアルコール類:リナロール(0.6〜3.45%)、シトロネロール(0.3%)他
    フェノールメチルエーテル類(およそ90%):カビコールメチルエーテル(85〜88%)、オイゲノールメチルエーテル(1.6%)他
    オキシド類(<3%):1,8-シネオール(2.2%)他
 
   特性として ー
    強力な鎮痙、延髄および交感神経の調整作用(きわめて強力)
    鎮痛(強力)、血管内のうっ血除去
   指示 ー
    神経症、不安症(強力)、一部の抑うつ症、無力症
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
付記:
 現在、何かほかの疾患で病院・医院等を受診し、処方薬を服用している場合には、かならず、かかりつけの医師にこのブレンド精油の使用の可否を相談すること。
 
また、
あてに注文した精油をかならず用いること。それ以外の精油を使用した場合には、効果はないものと思って頂きたい。
これは、あくまで自己責任において自己治療するものであることを心に刻んでほしい。
「精油のシナジー効果」については、前回挙げたレシピ(1)の説明をじっくり参照されたい。 

2014年10月14日火曜日

マージョラム | 精油類を買うときには注意して!(31)

マージョラム(Origanum majorana)油
 
 マージョラムは、シソ科のハナハッカ属の双子葉植物で、多年草または亜低木(一部が木質化する)。地中海沿岸のフランス・スペインなどが原産地で、25種類ほどあり、現在も、この地域で香味料にされ、また観賞用に植栽されたりしている。
英語で、スウィートマージョラム、フレンチマージョラムと呼ばれるOriganum majoranaがマージョラムの代表格になっている。
 
 学名 Origanum majorana Moench.
 別名 Majorana hortensis L.
 
 これのごく近縁種にハナハッカ(コモンマージョラム、ワイルドマージョラム、オレガノ、オリガナムとも称される)がある。これもマージョラムとよく似た多年草で、マージョラム同様、香味料にされ、観賞用にもされる。マージョラムとほとんど同一視されている。この学名はO. vulgareという。オレガノはイタリア料理・メキシコ料理に不可欠の香味料。
マージョラムもハナハッカも、草丈30〜60cm。葉にはいずれもよい香りがあり、食べるとやや苦みがあるが、いける味だ。マージョラムは、以前はマヨラナと呼んだ。
 
1980年代に日本にハーブブームがおこったとき、そのリーダー的な存在だった熊井明子氏は、ちゃんと「マージョラム」と正しく発音しておられたのに、その弟子の一人で、ハーブ界に影響力をもつある女性が、これを「マジョラム」という奇怪な呼び方をした。しかも、「ジョ」の部分に変に高いアクセントをつけて。以来、この誤った呼称が一般に広まってしまった。悪貨が良貨を駆逐したのだ。
 
だから、私はこのハーブの話を人の前でするときには、「マーーーーーーーージョラム」とホワイトボード、黒板いっぱいに書いている。「盗んだ棒を返せ!」といいながら。
 
このハーブは、日本には江戸末期に渡来した。マヨラナは、学名の属名(あるいは種小名)をとったものである。これを「マヨナラ」などと、とんでもない発音をまじめでする連中が、20年くらい前までいた。それもたいてい男性だった。こんな奴らは絶対インポだったに相違ない。失礼、ちょっと興奮してしまった。英国人にも、この学名の種小名をmarjoranaなんて書くバカがいるからご注意下さい。
 
・精油の抽出
 マージョラム、ハナハッカともに葉と花の咲いた先端とを水蒸気蒸留して精油を得る。
 
マージョラムには、上述のスウィートマージョラム(O. majorana)のほか、スパニッシュマージョラムと呼ばれるハーブがある。これは、ハナハッカ属のスウィートマージョラムと違い、イブキジャコウソウ属で、学名はThymus capitatus(これはタイムの近縁植物。これもアロマテラピーで用いられる)という。
 
主要成分(%で示す)
          スウィート(フレンチ)マージョラム   スパニッシュマージョラム
 1,8-シネオール      0〜58               50〜62
 α-テルピネン       0                  1〜4
 γ-テルピネン       3〜16               0.4〜5
 テルピノレン       13〜19              10〜20
 α-テルピネオール     2〜6                2〜4
 テルピネン-4-オール    0〜30               0
 β-カリオフィレン     0〜2                0〜2
 
マージョラムには、スウィート・スパニッシュの両種とも、様々な種類があり、またケモタイプも多々あるので、それらの精油の成分にも、大きな変動がある。
 
・偽和の問題
 真正のスウィート(フレンチ)マージョラム油に、ティートリー油を加えたり、他の精油を脱テルペン処理して、本来捨てるはずのテルペン分をたっぷり添加したり、フレンチマージョラム油にスパニッシュマージョラム油やタイム油などを大量に混入させたり、スパニッシュマージョラム油自体をフレンチマージョラム油と詐称して販売する悪党も多い。いわゆるブランド品など、もっともヤバいといってもよい。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで2.2g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて濃度6%で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  スウィートマージョラム油については、まだ報告例がない。スパニッシュマージョラム油では光毒性はなかった。
 
・作用
 薬理作用 スウィートマージョラム油は、モルモットの回腸で、in vitroで、軽微な鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 スウィートマージョラム油は、各種の細菌にたいして殺菌・抗菌作用を示したとする報告がいろいろとなされている。フレンチ・スパニッシュの両精油にこうした効果があるとされてきた。しかし、リステリア菌(食中毒をおこす細菌)には不活性だったとの報告例もあるので、今後、さらに研究を重ねていく必要がある。
 
 抗真菌効果 スウィートマージョラム油・スパニッシュマージョラム油ともに、中程度ないし強力な作用を発揮する。
 
 抗酸化作用 試験に供したマージョラム油により(スウィート、スパニッシュ両種とも)ゼロから強力と言えるまでの効果を示すので、一概にはいえない。
 
 その他の作用 CNVの波形では、スウィートマージョラム油は鎮静効果を示した。
 
付記
 スウィートマージョラムには「制淫作用」があるとかまびすしく言われるが、本当だろうか。この精油が副交感神経を興奮させ、血管を拡張させ、結果として血圧を降下させて気分を鎮静させることは事実であるが、それがそのまま性的強迫感を抑制し、性器の過敏を鎮めるまでの効果につながるかどうかを、しかと見極めるにはもう少しコントロール(実験対照)をおいた各種の動物実験などを十分に行うべきだと私は考える。性急な結論は控えよう。ことに人間のような複雑な存在を考える場合には特にそうだろう。