2014年11月19日水曜日

ユーカリ | 精油類を買うときには注意して!(34)

ユーカリ(Eucalyptus globulus)油
 
 ユーカリは、フトモモ科ユーカリ属の常緑の大高木で、実に700にも及ぶ種類があり、ほとんどがオーストラリアとタスマニア島とに分布する。しかし、現在では世界各地に移植されている。成木の葉を陽光などにすかして見ると、油点が見られ、葉をもみ潰すとそのエッセンスが強く香る。幹にキノ(kino)と称される赤褐色のガム(樹脂状物質で、オーストラリア原住民が薬として利用してきたもの)を滲出させることが多いため、英名ではユーカリプタスのほかに、ガムトリー(gum tree)という別名もある。
 19世紀にヨーロッパにも移植され、スペインなどがこの精油の生産地になっている。しかし、地中海沿岸で育つユーカリは、オーストラリアのユーカリほど高木にならない。オーストラリアでは、100〜150メートルもの樹高のユーカリがあるが、ヨーロッパのものは、せいぜい40メートルどまりである。日本では千葉県松戸市でユーカリが同市の木にされているが、日本の気候風土にはあまり合わないようだ。
 オーストラリアの珍獣コアラは、ユーカリの葉が主食だが、そのユーカリも数ある種類のうち、20種類ぐらいのユーカリのものしか口にしない。その理由も推測の域を出ていない。しかし、日本に移植したユーカリは食べてくれるので、動物園の飼育担当者がホッとしたというエピソードを聞いたことがある。
 
 ユーカリの代表格は、標記のE. globulusだが、そのほかにアロマテラピーで有名なのは、E. citriodora(レモンユーカリ)、E. radiata(ラディアータ種ユーカリ)である。
 
 学名 Eucalyptus globulus Labill.(ユーカリ)
     英名はsouthern(またはTasmanian) blue gum, fever tree, blue tree, gum tree
    Eucalyptus citriodora Hooker.(レモンユーカリ)
     英名はLemon scented gum, spotted gum
    Eucalyptus radiata R. T. Baker(ラディアータ種ユーカリ)
 
 精油の抽出 ユーカリの葉と小枝とを水蒸気蒸留して得る。
 
主要成分(%で示す)
          E. globulus   E. citriodora  E. radiata
 1,8-シネオール    90.8     0.6      84.0
  α-ピネン       6.1      0.8      1.6
 シトラール      0      85.0      0
 メントン       0      3.7        0
 シトロネロール    0      4.7        0
 α-テルピネオール   0      0         7.5
 p-シメン       0.8     0        0
 
  (付記)そのほか、E. macarthuriは70ないし80%のゲラニルアセテートを含有。
      E. polybracteaおよびE. smithiiはシネオールを90%も含む。
      なお、E. globulusの精油は、日本薬局方に収載されている精油のひとつである。
 
・偽和の問題
 アロマテラピーでよく用いられるE. globulus、E. radiataからは、大量にコストもかけずに精油が得られるので、偽和されることはあまりない。しかし、E. citriodoraの精油には合成したシトロネラールが加えられることが往々あり、E. smithiiの精油にも合成ゲラニルアセテートが添加され、増量されることがある。
 
・毒性
 LD50値
   E. globulus ラットで4.4g/kg(経口)  ウサギで>5g/kg(経皮)
   E. citriodora ラットで>5g/kg(経口)  ウサギで2.5g/kg(経皮)
   E. radiata 経口毒性・経皮毒性とも未試験
 
 刺激性・感作性
  E. globulusおよびE. citriodoraの各精油を、ヒトにおいて10%濃度で皮膚に適用したが、これらの毒性は見られなかった。
 
 光毒性
  E. globulusおよびE. citriodoraの両精油において、光毒性は皆無であった。
 
(付記)ユーカリ油(たぶんE. globulusだろうと思われる)を内用した例について報告する。3.5ないし21ミリリットルを経口摂取した人間が死に至った。また致命的ではなかったものの、この精油の内用によって、上胃部の灼けつくような痛み、吐き気、めまい、筋肉の弱体化、頻拍、窒息するような感じ、せん妄(知覚障害、思考・記憶の障害など)、激しい痙攣などにみまわれたケースは数多く報告されている。
 
・作用
 薬理作用 E. citriodora精油は、モルモットの回腸で(in vitroで)強い鎮痙作用を示した。同じ濃度でE. globulus油でテストしたが、そうした効果は見られず、E. radiataでは微弱な作用しか観察されなかった。
 
 抗菌効果 E. citriodora油は、5〜6種の細菌にたいして強い活性を発揮した。その他の種類のユーカリ油も、総じて抗菌・殺菌作用がある。
 
 抗真菌効果 E. citriodora油は、各種の真菌にたいして高い抗真菌・殺真菌活性を示した。ことにカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)には、この精油が、E. globulus油・E. radiata油よりもはるかに有効であった。カンジダ症へのこの精油の適切な利用が強く示唆されるところである。 

2014年11月13日木曜日

〔コラム〕ペットへのアロマテラピーについて一言

 近ごろでは、少子化と裏腹にペットを飼う人間が異常というか、異様にふえている。
ペットとして飼養される動物のチャンピオンは、なんといっても、イヌとネコだろう。あとは、小鳥や魚類(古典的な金魚、あるいは熱帯魚、広い池が邸内にあればニシキゴイなんてところか)や、ゲテモノ好きにはヘビ・トカゲ・カメレオン・カメなどの爬虫類などもあげられるだろう。
 
 ここでは、イヌ・ネコに限ってお話ししたい。身近にこれらを飼っている人間がとくに多いからだ。
 では、本題に入る。
 私がアロマテラピーを足かけ30年前に日本に紹介してから、英国・フランス以上に、わが国ではそれこそ猫も杓子(しゃくし)もこの自然療法を、その実体を、その本質をろくに理解しないままもてはやすようになった。
 その結果、インチキな「アロマテラピー」がさまざまな形態で横行することになり、市販の「アロマテラピー用精油」の90パーセント以上が完全な偽物精油という状況が生まれてしまった。これについては、強調しすぎることはあるまい。
 
 日本人は、本当におとなしい。こんな精油で効果(プラシーボ効果以上の効果)が生じたら、キリストの復活以来の奇跡といってよい。高価な精油を購入し、それを自分の体に適用して効果がみられない場合、欧米人だったら精油の販売店に、精油のメーカーないし販売代理店にクレームをつけずにはおくまい。しかし、「お・も・て・な・し」の「美風」をよしとする大半の日本人は、それが中国産・韓国産のものだったら、目を三角にしてイキリ立つかもしれないが、おフランス産とかオーストラリア産とかいったラベルの精油・エッセンスになると、「アタシの体のほうが悪いんだわ」とムリヤリ自分を納得させてしまう。そして、この療法自体にムリがあるのではないかとの疑問を公けにするとか、「アタシの買った精油、本当にピュアなの? その証拠を見せてちょうだい」などと販売店にネジこんだりとかする行為には、まず絶対に走らない。私のようなヘソ曲がりは、千人に一人ぐらいなんだろう。
 
 しかし、その精油を使ったら、体調を崩してしまったと口に出していえる人間はまだよい。近ごろでは、自分の飼っているイヌ・ネコに、強引にアロマテラピーを施す人間がいる。よく考えてほしい。精油はテルペン類・アルデヒド類・テルペノール類・エステル類・ケトン類・酸類・フェノール類・オキシド類、例外的だが硫化物類などからなっている。人間の肉体は、これらを吸収してしかじかの効果を発揮させたのち、これらを代謝・分解し、排せつする働きが備わっている。むろんその精油が本物で、用法・用量が適切だったらの話ですよ。
 しかし、イヌ・ネコのような本来、肉食系の動物には、これらの成分のうち、代謝・分解できないものがあるのだ(代謝するための酵素がもともとつくれない)。それは、イヌ・ネコにとって毒物になってしまい、イヌ・ネコを病気にしたり、その命までも奪ったりしてしまう結果をもたらす。比喩として、穏当を欠くかもしれないが、ネコもヒトも体内で代謝分解できないメチル水銀が原因で、水俣病がおこったことを想起されたい。いま、たくさんのペットが、無知な飼い主の施す「アロマテラピー」の犠牲になって死んでいる。古い昔からの人類の友であるこうした動物たちの日本における実状を知ってほしい。
 
 半可通の、というより何も知らぬ人間の得手勝手なひとりよがりで「アロマテラピー」の犠牲にされるペットたちこそ哀れである。
 獣医師でもアロマテラピーについて、またそれを動物に施す際の的確な技術について十全に通じているものは、稀有といってよい。いままで、従来のさまざまな技術で動物の病気をちゃんと治してきた獣医たちが、何が悲しくて「アロマテラピー」などをいま慌てて採用する必要性が、必然性があるのか。
 
 結論として申しあげる。イヌ・ネコなどのペットを対象としたアロマテラピーは、不必要の一語に尽きる。 

2014年11月6日木曜日

メリッサ | 精油類を買うときには注意して!(33)

メリッサ(Melissa officinalis)油
 
 メリッサは、セイヨウヤマハッカ属のシソ科の多年草。地中海沿岸地域からユーラシア大陸東部にかけて、数種が分布する。寒さに強い植物である。
 
 学名 Melissa officinalis
 別名 レモンバーム、ビーバーム、和名 セイヨウヤマハッカ、コウスイハッカ、メリッサソウ
 産地 原産地はヨーロッパ南部。現在の主要産地はフランス。しかし、英国その他の土地でもひろくみられる。
 特色 草全体に芳香がある。香味料として、サラダやスープなどの香りづけに利用される。メリッサはハーバルティーとしてもヨーロッパで愛飲され、またこれが、頭痛・歯痛止めに、さらには発汗を促すために薬用された。
 精油の抽出 葉とこのハーブの先端部分、さらに茎部もあわせて水蒸気蒸留して得る。しかし、このハーブは水分ばかり多く含んでいて、エッセンスの分泌腺が極端に少ないので、非常に多量の原料からごく少量の精油しかとれない。もっぱら香料として使われる精油である。
 
 
主要成分(%で示す)マリア・リズ=バルチン博士は、2カ所の蒸留所で試験的に抽出したメリッサ油の組成成分を次のように示している。
           A蒸留所のメリッサ油      B蒸留所のメリッサ油
 β-カリオフィレン     11.7              29.0
 ゲラニアール       25.0              17.3
 ネラール         15.3              10.9
 シトロネラール      24.6              2.2
 フムレン         0               2.1
 γ-カジネン        0               2.1
 
 以上は、それぞれにメリッサの精油の組成成分の比率が、その原料植物の生育地によって大きく異なることを示している。どちらも、いっさい化学合成物質を入れたりしていない真正メリッサ油である。
市販品は99.9%まで化学合成物質ないし別の植物に由来する精油を加えて増量したニセモノと考えられるので、分析すればどんな成分が、どれほど検出されるか知れたものではない。真正メリッサ油の価格は真正のバラ油と同じくらいと心得られたい。つまり同じ重さの黄金と同価格だということだ。
 
・偽和の問題
 上述したように、メリッサ油は莫大なコストをかけても、ほんの少量しか原料から得られないために、真正メリッサ油は極めて高価である。市販の「メリッサ油」と称するものは、ほとんどが化学合成した成分のブレンド品か、さもなければレモンエッセンス、レモンバーベナ(Lippia citriodora)油、レモングラス(Cymbopogon citratus)油、シトロネラ(Cymbopogon nardus)油のうち1種ないし複数の精油の留分をごく少量の真正メリッサ油にたっぷり加えて増量したものかのいずれかである。つまりニセモノということだ。
 
・毒性 真正のメリッサ油の正確な信頼のおけるデータは残念ながらまだ得られていない。インチキ市販品などを用いてテストしてもナンセンスである。
 LD50値 データなし
 刺激性・感作性 データなし
 光毒性 データなし
 
注)もっともらしい研究結果報告に接したこともあるが、それが真正メリッサ油を用いたという、信じるに足りる証明がないかぎり、私たちは信じるべきではない。
一般にメリッサ油は、過度に速い呼吸と心拍を鎮め、月経周期を規則的にする効果があるとされる。だが、それはその精油がホンモノだという確証がなければ、いずれも説得力がない。
 
・作用
 市販のあるブランドの「メリッサ油」は、モルモットの回腸で(in vitroで)弱い鎮痙作用を示した。しかしこのメリッサ油が真正品だという保証はないので、真正メリッサ油の作用として、これをあげるわけにはいかない。
また、抗菌作用についても、抗真菌作用についても、書店のHow to本にもっともらしく書かれているものは、およそ信頼に値しない。
さらにメリッサ油には、抗ウイルス特性があるなどというデタラメな報告もなされたことがあるが、絶対に真に受けないでほしい。
ハーブとしてのメリッサを利用すれば、確かに抗ウイルス効果があるが、それはこのハーブをハーバルティーとして用いたときに出てくるタンニンの効果である。タンニンは水溶性成分であるために精油中には含まれない。したがってメリッサ油を蒸散させても、空気中のウイルスを殺したりすることは不可能である。まず「メリッサ油」は敬遠なさったほうがよい。香料としてならともかく、アロマテラピー用にこれを買う人の気が知れない。
 
・ハーブとしてのメリッサ
 アロマテラピーではないが、メリッサを乾燥させてハーバルティーとして飲用すると、駆風作用があり、心身をリラックスさせることが経験的に確かめられている。英国などでは干したメリッサを枕につめて安眠を促すために用いた。どれほど実効があったか疑問だが。なおメリッサは別名レモンバームというが、これをクマツヅヅラ科のレモンバーベナ、同じくクマツヅヅラ科のバーベイン(Verbena officinalis)と混同しないでいただきたい。