2014年12月28日日曜日

リツェアクベバ(メイチャン) | 精油類を買うときには注意して!(38)

今年も一年ご愛読くださいまして、有難うございました。
来年もよろしくお願いします。
高山 林太郎


リツェアクベバ(Litsea cubeba)油
 
 
 学名 Litsea cubeba Lam. , 別名 Laurus cubeba Lour. , Lindera citriodora Sieb. et zucc.
 
 リツェアクベバは、クスノキ科ハマビワ属の双子葉植物。ハマビワ属は落葉または常緑の高木。熱帯から温帯にかけて広範に分布し、アフリカとヨーロッパとを除く世界各地に、この近縁種がおよそ400種も生育している。これを「リトセア」などと発音してはNG
 L. cubebaは、和名をアオモジ、タイワンヤマクロモジといい、英名はMoutain spice tseeまたはMay chang tree、中国では山鶏椒などと呼んだりする。この木は強い芳香を放ち、わが国では本州西部、九州に生えており、西マレーシアの熱帯に広く分布し、熱帯では常緑になる。果実は香味料にされ、木材は楊枝(ようじ)になる。現在、この主要産地は、中国南部、台湾。
 
 
・精油の抽出 この木のコショウに似た果実を採取して、これを水蒸気蒸留して採油する。
 
 
・主要成分(%で示す。およその目安である)
 ゲラニアール    40.6
 ネラール      33.8
 α-ピネン      0.9
 β-ピネン      0.4
 ミルセン      3.0
 シトロネラール   0.6
 
 
・偽和の問題
 この精油は、ずっと安価なレモングラス油で偽和されることがよくある。
 
 
・毒性
 LD50値
   ラットで >5g/kg(経口)
   ウサギで >5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で皮膚に適用した場合、いずれも認められなかった。
 
 光毒性
  まだ、これで試験した例はないようだ。
 
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で(in vitroで)この精油は強力な鎮痙作用を示した。リツェアクベバ油をモルモットの腹腔内に注射したり、モルモットにこの精油の蒸気を吸入させたりして投与すると、あらかじめ気管支収縮(狭窄)剤を吸入させて惹起した喘息発作を抑えることがわかった。
 リツェアクベバ油はまた、ラットにおける皮膚のアナフィラキシー(誘発性過敏症)を、さらにモルモットにおける卵の蛋白質への感作によるアナフィラキシーショックをそれぞれ抑制することが判明している。
 
 抗菌効果 25種の各種細菌において、その16〜18種に、またリステリア属の標準種の細菌Listeria monocytogenesに対して抗菌作用があることが研究者によって確かめられている。
 
 抗真菌効果 各種の真菌に対して、強弱さまざまな効果がある。
 
 抗酸化作用 この活性はない。

2014年12月16日火曜日

ラベンダー(真正ならびにスパイク種) | 精油類を買うときには注意して!(37)

ラベンダー(真正、ならびにスパイク種)油
 
 
 さあ、みなさん、いよいよアロマテラピーで使用される精油のスターの登場だ。この精油の効用は、昔から南フランスの農民たちが知っていて、これを外用にしたり内用したりして、外傷とかやけどとか、腹痛の緩和とかに活用していた。
それを香料会社を経営していたルネ=モーリス・ガットフォセが自分の負った全治三ヶ月にも及ぶ上半身の大やけどに適用してみて、その効果を自分の体で実感して「アロマテラピー、aromathérapie」と名付け、精油を用いた自然療法の可能性を唱えた。この際のエピソードについて、ずいぶん長いことウソ八百がまかり通ってきたことは何度もこのブログで私が述べてきた通りである。その責任の一端はジャン・バルネ博士にあり、その著作をパクった英国人のロバート・ティスランドにあり、さらにこの両者の著作をそれぞれフランス語・英語の原典から訳したこの私にもある。この場をかりておわび申し上げる。
 
 ラベンダーはシソ科の小低木で、ご存知のように7〜8月ごろにうす紫色の小さい花を長い花 柄の先端に6〜10個ずつ輪状につける。地中海からアルプスの山腹にかけて、標高800〜1800メートルのアルカリ性土壌の土地に生える。
 ラベンダーは日本に江戸時代の文化年間、つまり1804年から1818年に蘭学者の書いたものに「ラワンデル」として記載されており、当時すでに、何らかのかたちでこの植物が日本に渡来していたと考えてよいだろう。また、スパイクラベンダーも「ヒロハラワンデル」として蘭学者が紹介している。
 
 現在、真正ラベンダーの主要な産地は、ブルガリア、フランス、イタリア、スペイン、中国、タスマニア、米国の一部などである。日本でも北海道で富田忠雄氏らの努力で、真正ラベンダーの一種「オカムラサキ」などが植栽されている(精油の生産量は決して多くはないが)。
 アロマテラピー発祥の地、フランスでの真正ラベンダー油の生産量は毎年減少の一途をたどっている。そして、その代りにラバンジン油がどんどん増産されている。この事情は前回記した通りである。
 
 
 学名 Lavandula angustifolia var. angustifolia P. Miller
    またL. officinalis, L. veraという別名もある。
    (ただし、ブルガリアの研究者によるとL. angustifoliaとL. veraとは、極めて近縁ながらそれぞれ別種だとのこと)
 
 精油の抽出 花の咲いた先端部分(てっぺんから20〜30センチぐらい)を水蒸気蒸留して採油する。
 
 ラバンジンは、上述の真正ラベンダーとスパイクラベンダー(L. spicaあるいはL. latifoliaと略記する)との交雑種である。
 スパイクラベンダーは、真正ラベンダーより、標高の低い土地に生育する。これらのラベンダーの精油について、その主要成分をマリア=リズ・バルチン博士は下記のように示している。
 
主要成分(%で示す。生育条件により変動があることは言うまでもない)
              真正ラベンダー    スパイクラベンダー    ラバンジン
 リナロール         6〜50       11〜54       24〜41
 リナリルアセテート     7〜56       0.8〜15        2〜34
 1,8-シネオール       0〜5        25〜37       6〜26
 ラバンズロール       0〜7        0.3〜0.7        0.8〜1.4
 ラバンズリルアセテート   5〜30       0           <3.5
 カンファー         0〜0.8        9〜60        0.4〜12
 
 これらのラベンダーには、微小成分としてシス-オシメン、トランス-オシメン、3-オクタノンなどが含まれる。真正ラベンダーにはまた、ボルネオールが最高1.8%まで含まれる。
 
・偽和の問題
 ISO基準は、真正ラベンダー油は25〜45%のリナリルアセテートの含有量であること、またリナロールは25〜38%含むことを求めている。そこで成分をアセチル化したラバンジン油、合成したリナリルアセテート、合成リナロール、芳樟油の留分などを加えて増量することがひろく行われている。そういう業者に限って、もっともらしい分析表をつけたりする。真正ラベンダー油よりずっと安価なラバンジン油を真正ラベンダー油と偽って売ることはザラである。
 
・毒性
 LD50値
  真正ラベンダー油・ラバンジン油ともに、
   >5g/kg(経口) ラットにおいて
   >5g/kg(経皮) ウサギにおいて
  スパイクラベンダー油は、
   4g/kg(経口) ラットにおいて
   >2g/kg(経皮) ウサギにおいて
 刺激性・感作性
   真正ラベンダー油は、ヒトにおいて10%濃度でこれらはいずれも認められなかった。スパイクラベンダー油はヒトにおいて8%濃度で、またラバンジン油はヒトにおいて5%濃度でこれらはみられなかった。
 光毒性
   真正ラベンダー油、スパイクラベンダー油、ラバンジン油のいずれにおいても、光毒性が認められたとの報告はゼロである。
 
・作用
 薬理学的作用 上記の各種ラベンダー油は、たいていどれもモルモットの回腸において(in vitroで)、鎮痙効果がみられた。しかし、それに先立って、まず痙攣惹起効果が上記の実験動物のおよそ半分で認められた。イヌにおいて(in vitroで)、平滑筋のトーヌス(正常な緊張)、律動性収縮運動、蠕動運動のそれぞれが、これらのラベンダー油の投与によって向上することが判明した。
 
 抗菌作用 真正ラベンダー油の作用については、試験例によってさまざまな変動がある。精油自体は、およそ5分の3の細菌で活性を示している。
 またこの精油の上記は、約5分の1の細菌に有効であった。ラバンジン油は、蒸散させたかたちで試験対象の細菌類のおよそ5分の1に効果を発揮し、スパイクラベンダー油は約25分の18に対して活性があった。
 
 抗真菌作用 真正ラベンダー油ならびにラバンジン油は、試験に供した5種の真菌に対し、すべてこの効果を示した。しかし、研究者によっては、さしてこの作用は強くなかったと報告しているものもいる。ラバンジン油とスパイクラベンダー油とは、一般に真正ラベンダー油にくらべて、この効果は低いようだ。
 
 その他の作用 真正ラベンダー油は、マウスとヒトとの双方において、鎮静作用を発揮することが確かめられている。ヒトの場合、CNVの波形データも、この事実を裏付けている。
  真正ラベンダー油およびラバンジン油には、一定の抗酸化効果が認められるが、スパイクラベンダー油にはこの作用は期待できない。
  ルネ=モーリス・ガットフォセは、「脱テルペン」した真正ラベンダー油を未希釈で適用すると開放創の治療によいとしている。脱テルペンしたものが、マックスの効果を発揮すると、彼はくどくいっている。
  英国などのアロマセラピストが伝えているこの精油の効果については、ここではとても書ききれない。私にはあまり信じられないような真正ラベンダー油の「効きめ」も少なくない。まあ一つ、私が訳したもののうち、J.ローレスの『ラベンダー油』、W. セラーの『アロマテラピーのための84の精油』などをごらんください。
 
付記①
 真正ラベンダー油の芳香は、欧米人は90%ぐらいの人が好むが、日本人の2人に1人、あるいは3人に1人は、この精油のにおいが嫌いなようだ。私の長年の友人で、ハーブ専門家・園芸家の槙島みどり氏は、ご母堂が重い病気で入院した折、その足をラベンダー油でマッサージしたところ、同じ病室の女性患者からヒステリックに 「やめて!そのにおい嫌いなの!」 とどなられた経験をお持ちと聞いた。私が英国人にその話をしたら、「あんなに良い香りなのに、信じられない!」といわれたことがある。タイム油の香りも日本人と英米人、フランス人とでは、ずいぶんうけとりかたががちがう。においに対する好き嫌いには、民族によって違いがあるのは仕方がない。嫌いな香りの精油を適用されても、効きめは期待できまい。心理的なバリアがせっかくの効果の発現を抑制してしまうからである。「そこがアロマテラピーのツレエところよ」と寅さんが言いそうだ。
 
付記②
 フランスのハーバリストのモーリス・メッセゲは、その著作『メッセゲ氏の薬草療法』の中で書いている。
 「ある日、悲劇がおきました。家の飼い犬のミスが、マムシに咬まれてしまったのです。父はすぐさま丘のほうにでかけて行き、一束のラベンダーをとってきて、それでミスの傷のところを時間をかけてこすってやっていました。翌日になると、愛犬の容体は快方にむかい、その次の日には、ミスは完全に助かりました。ラベンダーの一種がどうしてアスピック(アルプスに住むクサリヘビ科の毒蛇。英語でspike)などと呼ばれているのか、いまではよくわかります。これが爬虫類の毒に対してよく効く解毒剤になるからです。」
 アスピック(aspic)は、フランス語でスパイクラベンダーのことでもある。
 この話が逆転してか、ラベンダーの花には毒ヘビがすむとして、ヨーロッパでは花輪などにはこれを決して入れない。その花言葉にも「沈黙」、「疑惑」などというのがある。ラベンダーエッセンスの鎮静作用が反映されているのかもしれない。
 
付記③
 どの精油・エッセンスに関してもいえることだが、アロマテラピー用のものは、絶対に100パーセント天然の、すなわち野生もしくは栽培された植物から直接抽出したものでなければならない。アロマテラピーのスター的な精油、ラベンダー油に関しては、とりわけそうである。
 
 しかし、「100パーセント天然ですよ」と言わない業者はいないから、コトは厄介だ。ラベンダー油についていうと、天然のものだ、100パーセントピュアだといっても、香料会社系の業者は、いろいろな地域でとれたラベンダーから採油したさまざまな「真正ラベンダー油」を混ぜ合わせることがよくある。これを「調合精油」という。こうした業者は、本来は香水・賦香剤の原料としてラベンダー油を売っている。その一部をアロマテラピー用に販売しているわけである。
 ラベンダー油は香水では主役にならないが、主役となる精油なりエッセンスなりの芳香をぐんと引き立てる名脇役だ。だから、多くの香水にラベンダー油が配合されている。でも、このラベンダー油はテラピー用ではないので、合成増量剤で水増しした精油であるのがふつうである。調合精油はやや「良心的」ではあるが、これもあくまで香水などの世界でのみ通用する話に過ぎない。
 
 はっきり言うが、この調合精油も、アロマテラピー用には利用できない。天然精油の持つ「生命力」を殺し、ただの化学的成分の集団にしてしまっているからである。これでは工業製品と何ら変わりがない。アロマテラピー用の精油は、年々歳々成分が変動する「生きもの」であって、断じて工業製品ではない。
 
 もう一つ言わせて頂こう。いまアロマテラピーの発祥の地、フランスでの真正ラベンダー精油の生産量が激減していることは前述の通りだが、その抽出方法もひどい状態になっている。いいですか、以前は大気圧を少し上回る圧力下で、蒸気の温度も102℃ぐらいで、12時間もかけてゆっくりと蒸留していた。こうしてできた精油には、十分に有効成分が有機的に、いわば植物の生命力を保存しながら含まれていた。これが本来の天然の100パーセントピュアなアロマテラピー用の精油の要件を満足するものである。だが、遺憾ながら、現在のフランスでは、ラベンダーに高圧をかけ、当然高熱の蒸気にさらして、たったの15分ぐらいでラベンダー油が抽出されている。これでは多くの有効成分がメチャメチャに破壊されてしまう。これではたまったものではない。
これは「天然100パーセント」という看板を掲げたニセモノとしか言いようがない。
 
 英国で精油会社を経営するマギー・ティスランドさんと話をしたとき、私は彼女がこの事実をなんとも思っていないのに愕然とした。マギーさんの売っているラベンダー精油は、まさにこの手のフランス産の品である。マギーさんは好感のもてる女性だし、マッサージオイルにサザンカ油を活用してはどうかとの私の提案も受け入れてくれ、実地に施術したり、被術者になったりして、その有効性を確認してくれて、「高山さん、サザンカ油良かったわよ!」などとその結果を来日して私に知らせてくれてもくれた。惜しむらくは、彼女は以前の連れ合いの自称アロマラピー専門家、あのヒッピー崩れのロバート・ティスランドの悪影響をうけ、それからまだ抜け出せずにいることである。迷信深く、バッチのフラワーレメディーの盲信派だったりするところも、ロバートそっくりだ。まあ、彼女も「ヒッピー崩れ」なんだからやむを得ない面もあるが、マギーさんにはもう少し科学的・批判的な精神をもってほしいと私は友人の一人として切に願っている。
 
 付記④
 天然の真正ラベンダー油に、合成リナロールを加えたニセモノは多いが、ガスクロマトグラフィーで分析すれば、ニセモノにはジヒドロリナロールが検出されるので、一目でそれとわかる。

2014年12月11日木曜日

ラバンジン | 精油類を買うときには注意して!(36)

ラバンジン油
 
 ラバンジンは、シソ科の小低木、真正ラベンダー(Lavandula angustifolia var. angustifolia)と、同じくシソ科の小低木スパイクラベンダー(L. latifolia var. spica)との属間交雑種のラベンダーの一種であり、その次の世代がつくれない。動物でも植物でも、界(kingdom)・門(phylum)・網(class)・自(order)・科(family)・属(genus)・種(species)・亜種(subspecies)という分類をするが、属まで同じなら、遺伝的に分化した二種の生物間でも雑種が生じることがある。種まで同一なら、交雑種は容易にでき、二代目も三代目もできる。現在、日本で広く栽培されているイネ・コムギなどはほとんど人為的に作り出された交配種、すなわち品種である。自然界の交雑種は変種という。
 
 ラバンジンは標高400〜800mの土地に生えるL. latifolia var. spicaと標高900〜1500mの山地で生育するL. angustifolia var. angustifoliaとが昆虫が花粉媒介することによって自然に生じた交雑種である。真正ラベンダーは、むかしはフランスの農民たちが山に自然に育ったものを刈り取って香料会社に納入していた。しかし、真正ラベンダーの需要が増大するにつれ、農民たちはこれを栽培するようになった。その畑に、上記の交雑種が出現した。
 
 初めのうちは、農民たちはこの交雑種の存在に気付かなかった。そしてこれを真正種といっしょに香料会社に納めたり、両者を区別せずに蒸留して得た精油を香料を扱う会社に納入したりしていた。しかし、経験を重ねるうち、在来のラベンダーと異なって二代目ができず、形も大きい種類のラベンダー、すなわち標記のラバンジン(フランス語ではlavandinラヴァンダン)を、それとはっきり農民たちは認識するようになった。
 
 このラバンジンは、真正ラベンダーとちがって二代目ができないので、すべて挿し木でふやす(クローン栽培)。これは、病害虫にも強く、精油の取れる量も多い。つまり収油率が高い。現在、ラベンダー畑の写真として紹介されているものは、ほとんどすべてこのラバンジン畑のものだ。日本で千葉県や富士山麓などで植えられていて、テレビで「ラベンダーの花がいちめんに咲いています」などと紹介されたりするものは、まず間違いなくラバンジンである。ラバンジンもラベンダーの一種なのだから、あながちウソとも言えないのだが。
 
 フランスのある作家が真正ラベンダーのことを「巨大なウニ」にたとえた。うまいことをいうものだ。まさにその通り、一株ごとにハリを立てたウニそっくりである。対してラバンジンは、きっちり同じ長さの挿し木を畝(うね)にずらりと植えるので、南仏のプロバンスあたりでは、そりゃあきれいに見えますよ。風が吹けば、まるでミンクの毛皮のコートがあたり全体にひろがっているような錯覚をおこす。思わずカメラのシャッターを切りたくもなる。一般のフランス人には、真正ラベンダーとラバンジンとの区別も知らない者が多い。
 
 現在のフランスでは、このラバンジンが真正ラベンダーよりもはるかにたくさん栽培されている。真正ラベンダーを1とすると、ラバンジンは9もの割合である。標高の低い土地でも元気に育つし、大型の刈取り機を畝にまたがらせれば、ひろい畑でもたちまち花の咲いた先端部分を上から20〜30センチほどの長さにさっさとカットし、束ねて畝のそばにヒョイヒョイとその機械が並べてもくれる。
 
 ラバンジンは、「シュペールSuper」、「レドヴァンReydovan」、「マイエットMaillette」、「グロッソGrosso」、「アブリアリスAbrialis」、「エメリックEmeric」などの種類がある。シュペールを「スーパーラベンダー」なんて、アホな呼び方をしてはいけない。ここではSuper、Reydovanの両種をとりあげる。
 
 学名 ラバンジン(シュペール・クローン種)Lavandula × burnatii
     別名 Lavandula hybrida, L. intermedia
    ラバンジン(レドヴァン・クローン種)Lavandula × burnatii
     別名 シュペールに同じ
 
 真正ラベンダーとラバンジンとの各精油の成分を調べると、ラバンジンは、リナロール分が真正ラベンダーよりやや少なめ、リナリルアセテートは真正ラベンダーより少ない。ラバンジンは、1,8-シネオールがより多く、ラバンズリルアセテートは真正ラベンダーよりぐんと少ない。
 この比較は、「ラベンダー(37)」の項で表示するつもりである。その折に、スパイクラベンダーについても触れることにする。
 ラバンジンは、真正ラベンダーの花粉がスパイクラベンダーのめしべについたか、スパイクラベンダーの花粉が真正ラベンダーのめしべについたかによって幾つかの種類が生じた
 
主要成分(%で示す)
◎ラバンジン・シュペール
 モノテルペン類(およそ5%)
    ー リモネン0.75%、シス-およびトランス-オシメン1.35%〜2.45%
 アルコール(モノテルペン)
    ー (-)-リナロール30%、ボルネオール2.25%
 リナリルアセテート(エステル類)
    ー 40%、そのほかボルニルアセテート、ラバンズリルアセテート(15%)、ゲラニルアセテート(0.35%)
 カンファー(ケトン類)
    ー 5.45%
 痕跡量成分として、クマリン、ヘルニアリン
 
◎ラバンジン・レドヴァン
 モノテルペン類(α,β-ピネン)
    ー 変動あり
 アルコール(リナロール)
    ー 変動あり
 リナリルアセテート(エステル類)
    ー 25%
 オキシド類
    ー 1,8-シネオール 変動あり
 
・偽和の問題
 このラバンジン油は、真正ラベンダー油のニセモノを作る際によく使われる(成分をアセチル化したラバンジン油を用いる)。あるいはラバンジン油を真正ラベンダー油と詐称して売る。おフランス産なんかいちばんアブナイ。こんなインチキ精油は、ヤケドにも効果がありません。安い安いラバンジン油自体を、わざわざ偽和してまで売るバカはいない。合成物質を加えれば、よほど高くついてしまうから。
 私は、在日フランス大使館の通商代表部の人間に、「なぜ、あなたはそんなにラバンジン油を嫌うのか」と詰め寄られたこともある。私は答えた。「そりゃ、理由はカンタンです。日本人が真正ラベンダー油に期待する効果を、ラバンジン油は発揮しないからです」。
 
・毒性
 LD50値
   >5g/kg(経口) ラットにおいて
   >5g/kg(経皮) ウサギにおいて
 刺激性・感作性 ヒトにおいて、5%濃度でいずれも認められなかった。
 光毒性 報告されていない。
 
・作用
 ラバンジン油は、一般に真正ラベンダー油に比べて抗菌作用において劣るように思われる。
 シュペール種およびレドヴァン種のいずれも、かなり強力な抗微生物、殺菌、殺ウイルス作用がある。
 そのほか、強壮、神経強壮、抗カタル、去痰の各効果を示す。
 したがって、感染性腸炎、鼻咽頭炎、気管支炎、無力症への効果が期待される。
 また、生理学的用量においては、禁忌はどちらについても知られていない。
 
(付記)現在、フランスで生産される真正ラベンダー油は、年間10トン程度で、それに対してラバンジン油は年産100トン以上にもなる。
 いま世界一の真正ラベンダー油生産国はブルガリアだが(年産40トン)、それが輸出されてフランス人の手に渡ると、たちまち10倍くらいに伸ばされる。つまり、偽和され、増量される。
中国も新疆ウイグル自治区で真正ラベンダー油を年間30トンくらい生産している。その大半はブルガリアと同様にフランスに輸出されている。それがどう処理されているかはおよそ想像がつく。

2014年12月3日水曜日

モツヤク(没薬)、ミルラ、マー | 精油・アブソリュート類を買うときには注意して!(35)

 モツヤク(没薬)、ミルラ、マー(Commiphora myrrha)油
 
 学名 Commiphora myrrha (Nees) Engler
    別名 C. abyssinica (Berg) Engler
       C. myrrha var. molmol Engler
 
 没薬樹は、カンラン科のミルラノキ属の低木で、多くはトゲを持ち、北東アフリカから、リビア、イラン、インドにかけての乾燥地帯・砂漠地帯に生育するじょうぶな植物。200にのぼる種類がある。この木の幹にできた裂けめ・傷から樹脂が滲出し、これが空気に触れて固まる。同じカンラン科のニュウコウ(乳香)とよく似ている。C. myrrhaをモツヤクジュ、C. abyssinicaをアラビアモツヤクジュと呼んで区別する。
 
 この固まった樹脂を採取して、水蒸気蒸留し、精油を得る。しかし、アロマテラピー用に使われる「モツヤク油」の大半は、実はこの樹脂をエタノールで処理したもので、アブソリュートといったほうが正しい。このアブソリュートは濃い赤褐色で、精油のほうは濃淡の差はあるが、こはく色をしているのと極めて対照的である。
 
 歴史 モツヤクは同じカンラン科のニュウコウ(乳香)とともに、古代エジプト・古代ギリシャ・古代ローマなどで、広く薫香として、油脂に溶かして香油として、化粧料として、エジプトではミイラ製作用剤として利用された。また、これを軟膏にして、疱瘡治療に、消毒・癒傷のために、消炎症目的のために人びとはこれをひろく用いた。
 古代ギリシャの市民たちには兵役の義務があったので、人びとは戦場でうけた傷の手当て用に、モツヤクの軟膏を皮の小袋に入れて戦いにおもむいた。アテナイ市民のたくましい哲人、ソクラテスももとよりそうしたはずである。古代ローマの兵士たちも、これを戦場に携行したと伝えられる。
 これが、幼な子イエスに乳香・黄金とともに捧げられたエピソードは有名だ(新約聖書、マタイ伝)。
 
 しかし、時代の変遷につれ、乳香とは対蹠的(たいせきてき)に、没薬の人気は薄れてしまった。これが薬剤として使いにくい(水には溶けないし、アルコールにも難溶)ものだったからかも知れないが、理由は判然としない。ある人は乳香を太陽に、没薬を月にたとえている。
 
主要成分(%で示す)
 クルゼレン         11.9
 クルゼレノン        11.7
 フラノエウデスマ-1-3-ジエン 12.5
 リンデストレン       3.5
 
・偽和の問題
 オポポナックス(オポパナックスとも呼ぶ芳香樹脂の1種)をまぜて増量することがよくある。また、アブソリュートを脱色して、貴重な「没薬油」でございといって売る人間もいる。くれぐれも、ご油断めさるな。
 
・毒性
 LD50値
   没薬の「精油」: ラットで1.7g/kg(経口)
            経皮毒性に関しては、まだテストされていない。
   没薬の「アブソリュート」: 経口毒性・経皮毒性とも未試験
 
 刺激性・感作性
  没薬の「精油」:ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
  没薬の「アブソリュート」:ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。しかし、安息香(ベンゾイン)油に触れて接触皮膚炎をおこした患者が、没薬アブソリュートに接触して交差感作を生じた例が報告されている。
 
 光毒性
  この精油とアブソリュートとのいずれも、まだテストされた例を聞かない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で(in vitroで)強烈な痙攣惹起作用を示した。
 
 抗菌効果 きわめて弱いといわざるを得ない。25種の細菌にたいして有効性を示したのは、6例弱だった。食中毒の原因となるリステリア菌についても、実験に供した菌25種のうち、やはり6例しか有効性がみられなかった。これでは古代のギリシャ、ローマの兵士にも、没薬はあまり役立たなかったのではないか。
 
 抗真菌効果 多くの本に、これが水虫などの真菌症に有効だと記されているが、これは疑問である。試験の結果、抗真菌作用は極めて微弱、あるいは皆無であることがはっきりしている。市販のHow to本にだまされてはダメですよ。コピペにコピペを重ねた無責任な記述ばかりがヤタラに目につくこの頃だ。これに限らずね。
 
 その他 抗酸化作用は、没薬の精油においてもアブソリュートにおいても、まったく期待できない。
 
(付記)没薬は、たぶん他の香料と混ぜて薫香にされ、それが相乗的に働いて、精神を明るく高揚させ、無気力状態・疲労困憊状態を改善させたものと思う。カトリックの教会堂内の振り香炉は有名で、巡礼地として名高いスペインのサンチアゴ・デ・コンポステラに疲れきってたどり着いた信者たちの上で振り回される没薬その他を入れて発煙させた振り香炉は、プラシーボ効果もあるだろうが、それ以上の疲労回復効果が確かにありそうだと、その光景に接して私は感じた。