2015年2月25日水曜日

レモングラス|精油を買うときには注意して!(40)

レモングラス油

学名 Cymbopogon citratus Stapf.
主産地 インドネシア、ベトナム、西インド諸島、ブラジル、グアテマラ、米国など

 レモングラスは、イネ科オガルカヤ属の単子葉の多年草。英語でWest Indian lemongrass、中国語で檸檬香茅(ニンモンシャンマオ)と呼ぶ。フランス語では、Citronnelle(シトロネル)あるいはVerveine des Indes(ヴェルヴェーヌ・デ・ザンド)と称する。

 インド原産。草丈は高く、1mから1.5mにもなり、茎は太く、葉は長さ50cm(幅は1.5㎝)ぐらいにまで生長する。葉の色は淡い緑色。多数の花序をもつ。

 草全体にレモンを思わせる芳香を放つエッセンスが含まれる。レモングラスは熱帯、亜熱帯で香料用に栽培されている。葉を細かくきざんでスープやカレーなどの香りづけに使うほか、中国では草全体を薬用にし、風邪に伴う頭痛、関節痛の緩和などに利用してきた。

 上述の植物「ウェストインディアンレモングラス」とは近縁ながら別種のものがあり、これも「レモングラス」、あるいは「イーストインディアンレモングラス」と呼ばれる。主産地は東南アジアである。その学名を下に示す。

学名 Cymbopogon flexuosus(Steud.)Wats

 これも前記のレモングラスと同様に、香料植物としてその精油がひろく使われる。

精油の抽出
 ウェスト、イーストの各レモングラスとも、生長した茎・葉を刈りとって細切し、水蒸気蒸留して精油を得る。

精油の成分(%で示す)

(ウェストインディアンレモングラスの場合)
リモネン 1-11
シトラール ネラール(22-33)、ゲラニアール(37-45.5)
シトロネラール 1-13.5

(イーストインディアンレモングラスの場合)
α‐テルピネオール 2.25
ボルネオール 1.9
ゲラニオールおよびネロール 1.5
ファルネソール 12.8
シトラール類 ネラール(2.8-33)、ゲラニアール(47)
ファルネサール 3

偽和の問題
 レモングラス油は、数ある精油のなかでも、もっとも安価なものの一つなので、これにわざわざ合成化学成分などを加えたりすることは、まずないといってよい。中国では、レモングラス油に代えてリツェアクベバ油を利用するケースもあるが、これはもとより「偽和」ではない。このリツェアクベバ油も、シトラール含量が多い。レモングラスは、ビタミンA剤ならびに香料のイヨノン類の生産原料としても利用されている。

毒性の問題
・LD50値
 (ウェストインディアンレモングラスの場合)
 >5g/kg(経口) ラットにおいて
 >5g/kg(経皮) ウサギにおいて

 (イーストインディアンレモングラスの場合)
 >5g/kg(経口) ラットにおいて
 >2g/kg(経皮) ウサギにおいて

・刺激性・感作性(ウェスト・イースト両種)
 ヒトにおいて、4%濃度で皮膚に適用しても、問題はみられなかった。

・光毒性(ウェスト・イースト両種)
 これまでに報告されたケースはない。

作用(ウェスト・イースト両種)
・薬理的作用
 モルモットの回腸において(in vitroで)、強い痙攣惹起作用を示した(この点で、P.フランコム氏の見解には疑義がある)。

・抗菌作用
 かなり強力である。空気中の雑菌にたいして、殺菌ないし静菌効果が期待できる。

・抗真菌作用
 これもかなり強力。皮膚糸状菌(ひろい意味での白癬菌)を起因とする各種の疾患の治療に利用できそうである。

・その他の作用
 レモングラス油をヒトが嗅いだ場合、そのCNVの波形を見ると、若干ではあるものの、この精油に刺激興奮作用があることがわかる。また、この精油にはある程度、抗酸化作用が認められる。

付記①
 フランスではレモン様の香りをもつハーブ類、あるいはそれらから採れる精油類を、あまり区別しないで、ひとまとめにCitronnelle(シトロネル)と俗称している(もちろん学者は、そんなことはしないが)。
例えば、
Cymbopogon citratus → Citronnelle
C.nardus → Citronnelle
さらに、Melissa officinalis → Citronnelle
といったぐあいである。まあ、M.officinalisは「メリス」とちゃんと区別して呼ぶ人もいるが、やっぱり少数派である。

付記②
 レモングラス油は、昆虫忌避剤としては、あまり有効でない。蚊やり目的だったら、従来の蚊とり線香のほうがずっとよい。

2015年2月18日水曜日

レモン | エッセンス類を買うときには注意して!(39)

レモン エッセンス
学名 Citrus limon (L.) Burm.f.
    C. limon Risso
主産地 イタリア、スペイン、米国、アルゼンチンなど

 レモンは、ヒマラヤ、インド北東部が原産地のミカン科の常緑のカンキツ類果樹。フランス語ではシトロン(Citron)と称する。しかし、学問的にはこれは誤りで、本物のシトロンはCitrus medicaである。
 しかし、C. limonとC. medicaとが近縁であることは確かであり、C. medicaからC. limonが派生したようだ(Citrus limonという学名は、以前はC. limonumと表記した)。

 ヨーロッパにはアラブ人によって北アフリカに伝えられ、12世紀にはスペインやカナリア諸島などに伝播(でんぱ)し、13世紀にはイタリア半島にもちこまれ、シチリア島を中心にレモン栽培が産業化された。

 中国には宋の時代(960~1279)に伝わった。米大陸にはコロンブスの新大陸到達の1492年の翌年に早くももちこまれ、以降カリフォルニア、アリゾナで広範に栽培された。

 日本には1873年に伝来し、太平洋戦争前には気候が地中海に似た瀬戸内海の島々で、レモンの果実が年間3000トンほど収穫されていたが、敗戦後は米国からの輸入レモンに圧倒され、わが国のレモン栽培は衰えてしまった。

 現在では米国から年間10万~1 3万トンもの果実を輸入しているが、米国の業者は日本向けに輸出するレモンには発ガン性のある防カビ剤をたっぷりかけ、そうしたポストハーベスト剤にやかましい欧州への輸出レモンには、こうしたことをしないようにしている(だから、紅茶にはミルクを入れて飲むことを、ぜひともお勧めする。「レモンティー」はおやめなさい。紅茶にレモン片などを入れて飲むのは、そもそも邪道です、と警視庁特命係の杉下右京が言っていた)。

エッセンスの抽出
 レモンの果皮を集めて、これを冷搾してエッセンスを得る。レモンエッセンス1kgを採るのに、3000個分の果皮が必要。この果皮を水蒸気蒸留して抽出したものはレモンエッスンスではなく、レモン油である。ここをまちがえないでいただきたい。このエッセンスは、爽やかな香りを放ち、無色、淡黄色ないし緑がかった色を呈する。

レモンエッセンスの主要成分(%で示す)


d‐リモネン 60-80
α‐ピネン 1-4
β‐ピネン 0.4-15
γ‐テルピネン 6-14
ゲラ二アール 1-3
ネラール 0.2-1.3
ミルセン 0-13
p‐シメン 0-2
α‐ベルガモテン 0-2.5

微少成分
 フロクマリン類

偽和の問題
 レモンエッセンスを含むいろいろなカンキツ類のエッセンスは、folding(フォールディング)とwashing(ウォッシング)という方法で処理することが多い。これらの処置を施すと、原料が希薄な空気中で加熱されてテルペン類の一部が蒸散し、またアルコールを溶かした水に原料を入れて洗い24時間も撹拌すると、さらに脱テルペンがどんどん進行する。これでは、天然自然のエッセンスからほど遠いものになってしまう(ルネ=モーリス・ガットフォセが、これをよしとしていたことを忘れてはならない)。

 レモンエッセンスは、果皮を蒸留してとったレモン精油で偽和されることも多い。脱テルペン精油、脱セスキテルペン精油、合成リモネン、合成シトラール、合成ジペンテンを加えて増量することも多々ある。

 この手の偽和は、ガスクロマトグラフィーによる分析でも看破することはむずかしい。安く手に入るレモングラス油からとったシトラールを添加する業者も少なくない。オレンジ油をレモンエッセンスに加えて増量する輩もザラである(真正のレモンエッセンスは、オレンジ油の10倍もすることを念願におかれたい)。

 また、カンキツ類のエッセンスはいずれも酸化して劣化しやすいために、各種の抗酸化剤をこっそりこれらに加えて棚おき寿命を伸ばそうとする悪党どももアトを絶たない。

毒性の問題
・LD50値
 >5g/kg (経口) ラットにおいて
 >5g/kg (経皮) ウサギにおいて

・刺激性・感作性
 10%から100%まで濃度を変えてテストしたが、いずれも認められなかった。

・光毒性
 試験に供したレモンエッセンスの化学的な組成、ならびに被験者の感受性に依存して結果が変動するので、一概にはいえない。

作用
・薬理学的作用 モルモットの回腸において(in vitroで)、強烈な痙攣惹起作用を示した。

・抗菌作用
 最近の研究によれば、一般に弱いことがわかった。ジャン・バルネ博士が強力な殺菌力があるといっているのは、あくまでもレモンの果汁のことである。

・抗真菌作用
 テストした真菌の種類によって、各種各様の結果がみられた。一概にはいえない。

・その他の作用
 レモンエッセンスはCNVの波形を見ると鎮静効果があることがわかる。しかしまた、病院にいる患者の近くでこれをスプレーすると、その「うつ状態」が改善をみたとの報告もある。さらに、d‐リモネンを配合した薬剤が胆石を溶解するために利用されてきたことも付言しておきたい。

2015年2月2日月曜日

間もなく再開いたします

中国洛陽で行う講演の準備のため、ブログ更新が遅れています。

間もなく再開いたしますのでしばらくお待ち下さい。