ラベル 精油およびエッセンス類を買うときには注意して! の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 精油およびエッセンス類を買うときには注意して! の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2015年3月14日土曜日

ローズマリー|精油類を買うときには注意して!(42)

ローズマリー油

学名:Rosmarinus officinalis L.

 学名は上記のとおりだが、P.フランコム氏は、これの「ケモタイプ」を3種あげ、それぞれに下記のような学名をあてている。すなわち、
  1. Rosmarinus officinalis L. camphoriferum(カンファーケモタイプ)
  2. R. officinalis L. cineoliferum(シネオールケモタイプ)
  3. R. officinalis L. verbenoniferum(ベルベノンケモタイプ)
さらに、また同氏はR. officinalisの近縁種として、R. pyramidalisを紹介している(“Aromatherapie exactement”邦訳題名『フランス・アロマテラピー大全』高山林太郎訳)。

 ローズマリーは、シソ科マンネンロウ属の常緑小低木で、南欧地中海周辺に上掲の4種が生育している。和名はマンネンロウ、英語でrosemary、フランス語でromarin(ロマラン)、中国名は迷迭香(ミディエシャン)、ドイツ語でRosmarin(ロスマリン)、イタリア語でrosmarino(ロスマリーノ)、スペイン語でromero(ロメロ)という。

 学名は、ラテン語のros marinus(海の露、海のしずく)、すなわち波がうちよせる岩場の近くにこの植物がむらがって生え、4~5月ごろに咲く薄紫の小さな無数の花々が、あたかも砕ける波のしぶきを連想させることからRosmarinusと命名されたらしい。ローズマリーとか、ロスマリンとかという名は、女性の名としてよく使われる。

 この小低木は、高さ60~130㎝、葉は細長く、長さは3㎝ほど。葉の裏側には、びっしりとワタ毛が生えていて、葉がたくさんついた茎をかるく握ってスーッと滑らせると、てのひらに独特の爽やかな芳香が移る。これがローズマリーのエッセンスの香りである。この精油は、香料として広く利用される。また、ローズマリーはハーブの1種として、野菜料理、肉料理によい風味を添え、シチューやスープなどにも加えられる。
 
 ローズマリーの花の蜂蜜は私の好物で、フランスに行ったときには、ラベンダーの蜂蜜とともに、よく味わっている。日本でも、モーリス・メッセゲのハーブティーを扱っているショップなどで、この手の蜂蜜が購入できるだろう(ユーカリの蜂蜜、ヒマワリの鮮黄色の蜂蜜、タイムの蜂蜜なんていうのもオツなものですよ、それぞれの植物の風味がちゃんと残っている)。

 ヨーロッパでは、このローズマリーはハーブ薬として黄疸(おうだん)の治療に、また堕胎の目的などに使われ、さらに病気をもたらす瘴気(しょうき)を消し、悪魔を払うのに燻蒸剤として使用された。今日のチューインガムのように、この葉を噛んで口臭を消すのにも用いられた。

 中国では迷迭香として、胃を健やかにし、各種の痛みを鎮めるなどの目的で薬用される。
 日本には、文政年間(1818~1830)に入ってきた植物である。

原産地
フランス、イタリア、スペインなど地中海沿岸。今日ではロシア、中東などでも生育している。

精油の抽出
葉、あるいは木質化した部分をとり除いた花の咲いた先端・葉・茎の全体を水蒸気蒸留して精油を得る。

精油の化学成分(%で示す。各種のケモタイプにより大幅な差がある)
1,8-シネオール 7-60
ミルセン 0-10
α‐ピネン 3-34
β‐ピネン 1-8
p‐シメン 0-3
カンファー 3-30
ベルベノン 15-37
ボルネオール 1-12
ボルニルアセテート 2-3

(注)
R. officinalis camphoriferumは、カンファーを30%も含み、カンフェンは22%、1,8‐シネオールは30%それぞれ含有する。
R. officinalis cineoliferumには、1,8‐シネオールが60%も含まれる。
R. officinalis verbenoniferumは、ベルベノンを37%、α‐ピネンを最高34%おのおの含有する。
R. pyramidalisについては、含まれる成分の正確な数値はまだ十分に把握されていない。ただ、1,8‐シネオール分、αおよびβ‐ピネン分の含量はかなり高いとみられる。

偽和の問題
少量のローズマリー油に合成したシネオール、各種のテルペン類(αおよびβ‐ピネン、カンフェンその他)、サイプレス油、カンファー油、ユーカリ油(Eucalyptus globulusおよびE. radiate)、ターペンタインの留分、合成テルピネオール、シダーウッドの留分などでうんと増量したものが市場に出回っている。低価格で入手できるスペインのローズマリー花の脱テルペン精油を添加して、高級感をかもしだすという手のこんだ詐欺行為をする業者もいる。いわゆるブランド品の精油など、もっともタチが悪いと心得られよ。喝!

毒性の問題
・LD50値
 >5g/kg(経口)ラットにおいて
 >5g/kg(経皮)ウサギにおいて

・刺激性・感作性
 ヒトにおいて、10%濃度で皮膚に適用したが、これらはいずれも認められなかった。

・光毒性
 まだ、この試験報告はない、しかし、真正ローズマリー油の成分からみて、この作用はあまり考えられない。


作用
・薬理学的作用
ローズマリー油は、モルモットの回腸で(in vitroで)著明な痙攣惹起作用を示した。しかし、逆説的に一定の平滑筋弛緩作用、鎮痙作用も看取された。ウサギを用いての試験で、その気管の平滑筋を弛緩させる効果が認められた。

・抗菌作用
ほとんどの細菌にたいして、きわめて強力。ただ、この精油を蒸散させた場合は、その効果はかなり落ちる。

・抗真菌作用
真菌の種類によって、弱から中程度の効果を示した。

・その他の作用
抗酸化作用は、さまざまなテストの結果、この精油には期待できないことが判明している。ローズマリー油は、マウスを刺激し、興奮させる作用を示した。CNVの波形の観察によって、この精油がヒトの脳にもマウスと同様の効果があることがわかった。でも、だからといって、ローズマリー油に記銘能力を向上させるとか、果ては認知症を予防したり治療したりする力があるなどと性急な結論を出すのは、つつしみましょう、どこかの大学の先生がた。…

また、癲癇患者はもとより、遺伝的にその素質のある人間にローズマリー油のオイルマッサージを施すと、その発作を惹起するとされている。なにせカンファー分が多いからね。

付記1
 ヨーロッパでは、古代ギリシャの昔から、バラを花の女王と考える人びとが多い。古代ギリシャの美の女神アプロディーテー、古代ローマの美の女神ウェヌスを象徴する花として香り高く、色も美しいバラが選ばれたのも当然であった。こうしたヘレニズム文化と、そこに突如わりこんできたヘブライズム文化(ユダヤ教も母胎としたキリスト教的世界観を核とする文化)とのせめぎ合いが、のちのヨーロッパ文化を形成した。古代ギリシャ文化が後世のヨーロッパ文化に直結したものだなんていう奴には、ウソもいいかげんにしやがれ、とドヤしつけてやりたい。

 ところで、カトリック教会は宣教の方便として聖書にもろくな記述がない「聖母マリア」なる1種の女神を発明した。けだし母親への慕情はsomething internationalだからだ。で、この女神を崇敬するためにささげるものとして、ユリの花が選ばれた。汚らわしい、淫乱な多神教の女神を賛えるバラなど、もってのほかだというわけである。しかし、rosemaryというコトバの誕生後、その語源とは関係なくrose + mary、すなわち聖母マリアとバラが結びつけられて考えられるようになり、バラがこの一神教では本来、存在してはならぬ「女神」の像や絵画などに添えられるようになった。これも一種の「ルネサンス」だろう。このことはハーブとしてそのローズマリー、アロマテラピー用精油としてのローズマリー油とは、直接結びつくものではないが、ちょっと私がつれづれなるままに連想した一席である。

付記2
 シェークスピアの四大悲劇の1つ『ハムレット』で、忘れがたいセリフの一つに,復仇のために狂人を装ったハムレットにじゃけんに扱われ、なかば気がふれた哀れなオフィーリアのこういうことばがある。
“There’s rosemary, that’s for rememberance.”
(ローズマリーをどうぞ、忘れないで、というしるしよ)

 中近世のヨーロッパのハーバリズム(植物療法)でも、これの香り、あるいは香りのもとのローズマリーが、記憶を留める効果があるとされていたようである。また疫病の蔓延防止(これは理解できる)、不老、魂の不滅化(これはあまりアテにはならない)の目的でローズマリーが使用された。

 ローズマリーの花言葉は「変わらない愛と記憶」、「貞節・誠実」などである。どれもアテにならぬものばかりです。

付記3
 なんでもそうだが、CO2抽出法にもポジティブな面とネガティブな面とがある。たとえばラベンダー油に含まれるリナリルアセテート、ジャーマンカモミール油に含有されるカマズレンはいずれも水蒸気蒸留中に一定の圧力と熱とのもとで、化学的に自然に生成する成分なので、CO2抽出法でとったこれらのアブソリュートには、リナリルアセテートもカマズレンも入っていない。だから、それらの成分のもたらす諸効果も全く期待できない。

 しかし、ローズマリーのエッセンスは、CO2抽出法でとった場合、成分が変化しないので、なまのハーブそのままの成分が保持され、香りもローズマリー精油より格段によい。一度嗅ぐと、あっと驚くことうけあいである。ぜひ専門家にこの「効果」を臨床的に研究してほしいと願うこと切なり、だ。
ただし、原料植物が有機栽培・無農薬品でなければダメだが。


精油をお探しの方へ 信頼できる精油を探していらっしゃる方にご紹介することも可能です。
お電話は、または以下よりお気軽にご相談ください。
http://form1.fc2.com/form/?id=957132
080-5424-2837 (髙山 林太郎 直通)

2015年3月5日木曜日

ローズウッド(ボア・ド・ローズ)|精油類を買うときには注意して!(41)

ローズウッド(ボア・ド・ローズ)油

学名 Aniba rosaeodora var.amazonica Ducke.
         Aniba parviflora Mez.
         Ocotea caudate Mez.

 南米の熱帯地方ガイアナ、ブラジル、ペルーなどに生育するクスノキ科の常緑高木、樹高30~40mになる。このローズウッドは南米ガイアナ、アマゾン川流域の低地の熱帯雨林にとくに広く分布する。
この木材には、リナロールが多量に含まれ、バラを思わせるその香りからrosewoodの名がつけられた。
香料業界ではこの木はもっぱらそのフランス語のbois de rose(ボア・ド・ローズ)の名で呼ばれ、かなり以前からこの材から採れる精油が香水などの原料に使用されてきた。
アロマテラピーにこの精油が用いられるようになったのは、比較的近年になってからである。

精油の抽出
 ローズウッドの原木をチップ状にしたり、オガクズのように細かく砕いたりして、それを水蒸気蒸留して精油を得る。

主要成分(%で示す)
リナロール 85.3-94
1,8‐シネオール 0-1.6
リモネン 0.6
シス‐リナロールオキシド 0-1.5
トランス‐リナロールオキシド 0-1.3
テルピネン‐4‐オール 0.4
α‐テルピネオール 3.5

偽和の問題
 ローズウッドは、現在、ワシントン条約で商取引が禁じられている絶滅危惧種の植物の一つなので、まともなルートでは本物のローズウッド油はまず入手できない。そこで、合成リナロール、合成リナリルアセテートそのほかの成分で偽造した「ローズウッド油」が横行することになる。

 ローズウッドは生長するのに時間がかかるので、その木を切り倒したら、かならずローズウッドの苗木を1本植えることがブラジルで義務づけられたりしたが、これで自然破壊を食い止めることは無理である。そこで、ローズウッドの葉を採取して、その木材に代用しようという提案も行われた。
しかし、葉と材とでは含有成分が異なるので、これも却下された。そこで成分がかなり似ている芳樟(Cinnamomum camphora)の精油がローズウッド油に代えて利用されることが、近年とみに多くなっている(本ブログの「芳樟油(30)」を参照されたい)。以下参照
http://rintarotakayama.blogspot.jp/2014/09/blog-post_30.html
ローズウッド油は、それに代わるもっと安い精油は複数あるので、それらの活用をおすすめしたい。

毒性の問題
・LD50値
 >5g/kg(経口)ラットにおいて
 >5g/kg(経皮)ウサギにおいて

・刺激性・感作性
 ローズウッド油をヒトの皮膚で、12%濃度で適用したが、いずれも認められなかった。

・光毒性
 これまでに報告された例はない。

作用
・薬理学的作用
 モルモットの回腸で(in vitroで)、鎮痙作用がみられた。

・抗菌作用
 細菌の種類にもよるが、総じてきわめて強力である。

・抗真菌作用
 試験に供した真菌の種類によって、強弱さまざまな力を示すので、一概にはいえない(弱ないし中程度というところだろう)。

・その他の作用
 ローズウッド油には、抗酸化作用は、まず期待することはできない。この精油は、ヒトの皮膚にも粘膜にもきわめて穏和である。


付記
 Aniba属には、40種以上ある。Aniba terminalisからもA. rosaeodoraと似た精油がとれる。また、A. canelillaの樹皮にはシナモンと同様の芳香があって、ペルーではこれを茶として利用しているそうである。こんど、折があったら日本緑茶センター株式会社の北島社長にこれについてご教授を仰ごうと思っている。

2015年2月25日水曜日

レモングラス|精油を買うときには注意して!(40)

レモングラス油

学名 Cymbopogon citratus Stapf.
主産地 インドネシア、ベトナム、西インド諸島、ブラジル、グアテマラ、米国など

 レモングラスは、イネ科オガルカヤ属の単子葉の多年草。英語でWest Indian lemongrass、中国語で檸檬香茅(ニンモンシャンマオ)と呼ぶ。フランス語では、Citronnelle(シトロネル)あるいはVerveine des Indes(ヴェルヴェーヌ・デ・ザンド)と称する。

 インド原産。草丈は高く、1mから1.5mにもなり、茎は太く、葉は長さ50cm(幅は1.5㎝)ぐらいにまで生長する。葉の色は淡い緑色。多数の花序をもつ。

 草全体にレモンを思わせる芳香を放つエッセンスが含まれる。レモングラスは熱帯、亜熱帯で香料用に栽培されている。葉を細かくきざんでスープやカレーなどの香りづけに使うほか、中国では草全体を薬用にし、風邪に伴う頭痛、関節痛の緩和などに利用してきた。

 上述の植物「ウェストインディアンレモングラス」とは近縁ながら別種のものがあり、これも「レモングラス」、あるいは「イーストインディアンレモングラス」と呼ばれる。主産地は東南アジアである。その学名を下に示す。

学名 Cymbopogon flexuosus(Steud.)Wats

 これも前記のレモングラスと同様に、香料植物としてその精油がひろく使われる。

精油の抽出
 ウェスト、イーストの各レモングラスとも、生長した茎・葉を刈りとって細切し、水蒸気蒸留して精油を得る。

精油の成分(%で示す)

(ウェストインディアンレモングラスの場合)
リモネン 1-11
シトラール ネラール(22-33)、ゲラニアール(37-45.5)
シトロネラール 1-13.5

(イーストインディアンレモングラスの場合)
α‐テルピネオール 2.25
ボルネオール 1.9
ゲラニオールおよびネロール 1.5
ファルネソール 12.8
シトラール類 ネラール(2.8-33)、ゲラニアール(47)
ファルネサール 3

偽和の問題
 レモングラス油は、数ある精油のなかでも、もっとも安価なものの一つなので、これにわざわざ合成化学成分などを加えたりすることは、まずないといってよい。中国では、レモングラス油に代えてリツェアクベバ油を利用するケースもあるが、これはもとより「偽和」ではない。このリツェアクベバ油も、シトラール含量が多い。レモングラスは、ビタミンA剤ならびに香料のイヨノン類の生産原料としても利用されている。

毒性の問題
・LD50値
 (ウェストインディアンレモングラスの場合)
 >5g/kg(経口) ラットにおいて
 >5g/kg(経皮) ウサギにおいて

 (イーストインディアンレモングラスの場合)
 >5g/kg(経口) ラットにおいて
 >2g/kg(経皮) ウサギにおいて

・刺激性・感作性(ウェスト・イースト両種)
 ヒトにおいて、4%濃度で皮膚に適用しても、問題はみられなかった。

・光毒性(ウェスト・イースト両種)
 これまでに報告されたケースはない。

作用(ウェスト・イースト両種)
・薬理的作用
 モルモットの回腸において(in vitroで)、強い痙攣惹起作用を示した(この点で、P.フランコム氏の見解には疑義がある)。

・抗菌作用
 かなり強力である。空気中の雑菌にたいして、殺菌ないし静菌効果が期待できる。

・抗真菌作用
 これもかなり強力。皮膚糸状菌(ひろい意味での白癬菌)を起因とする各種の疾患の治療に利用できそうである。

・その他の作用
 レモングラス油をヒトが嗅いだ場合、そのCNVの波形を見ると、若干ではあるものの、この精油に刺激興奮作用があることがわかる。また、この精油にはある程度、抗酸化作用が認められる。

付記①
 フランスではレモン様の香りをもつハーブ類、あるいはそれらから採れる精油類を、あまり区別しないで、ひとまとめにCitronnelle(シトロネル)と俗称している(もちろん学者は、そんなことはしないが)。
例えば、
Cymbopogon citratus → Citronnelle
C.nardus → Citronnelle
さらに、Melissa officinalis → Citronnelle
といったぐあいである。まあ、M.officinalisは「メリス」とちゃんと区別して呼ぶ人もいるが、やっぱり少数派である。

付記②
 レモングラス油は、昆虫忌避剤としては、あまり有効でない。蚊やり目的だったら、従来の蚊とり線香のほうがずっとよい。

2015年2月18日水曜日

レモン | エッセンス類を買うときには注意して!(39)

レモン エッセンス
学名 Citrus limon (L.) Burm.f.
    C. limon Risso
主産地 イタリア、スペイン、米国、アルゼンチンなど

 レモンは、ヒマラヤ、インド北東部が原産地のミカン科の常緑のカンキツ類果樹。フランス語ではシトロン(Citron)と称する。しかし、学問的にはこれは誤りで、本物のシトロンはCitrus medicaである。
 しかし、C. limonとC. medicaとが近縁であることは確かであり、C. medicaからC. limonが派生したようだ(Citrus limonという学名は、以前はC. limonumと表記した)。

 ヨーロッパにはアラブ人によって北アフリカに伝えられ、12世紀にはスペインやカナリア諸島などに伝播(でんぱ)し、13世紀にはイタリア半島にもちこまれ、シチリア島を中心にレモン栽培が産業化された。

 中国には宋の時代(960~1279)に伝わった。米大陸にはコロンブスの新大陸到達の1492年の翌年に早くももちこまれ、以降カリフォルニア、アリゾナで広範に栽培された。

 日本には1873年に伝来し、太平洋戦争前には気候が地中海に似た瀬戸内海の島々で、レモンの果実が年間3000トンほど収穫されていたが、敗戦後は米国からの輸入レモンに圧倒され、わが国のレモン栽培は衰えてしまった。

 現在では米国から年間10万~1 3万トンもの果実を輸入しているが、米国の業者は日本向けに輸出するレモンには発ガン性のある防カビ剤をたっぷりかけ、そうしたポストハーベスト剤にやかましい欧州への輸出レモンには、こうしたことをしないようにしている(だから、紅茶にはミルクを入れて飲むことを、ぜひともお勧めする。「レモンティー」はおやめなさい。紅茶にレモン片などを入れて飲むのは、そもそも邪道です、と警視庁特命係の杉下右京が言っていた)。

エッセンスの抽出
 レモンの果皮を集めて、これを冷搾してエッセンスを得る。レモンエッセンス1kgを採るのに、3000個分の果皮が必要。この果皮を水蒸気蒸留して抽出したものはレモンエッスンスではなく、レモン油である。ここをまちがえないでいただきたい。このエッセンスは、爽やかな香りを放ち、無色、淡黄色ないし緑がかった色を呈する。

レモンエッセンスの主要成分(%で示す)


d‐リモネン 60-80
α‐ピネン 1-4
β‐ピネン 0.4-15
γ‐テルピネン 6-14
ゲラ二アール 1-3
ネラール 0.2-1.3
ミルセン 0-13
p‐シメン 0-2
α‐ベルガモテン 0-2.5

微少成分
 フロクマリン類

偽和の問題
 レモンエッセンスを含むいろいろなカンキツ類のエッセンスは、folding(フォールディング)とwashing(ウォッシング)という方法で処理することが多い。これらの処置を施すと、原料が希薄な空気中で加熱されてテルペン類の一部が蒸散し、またアルコールを溶かした水に原料を入れて洗い24時間も撹拌すると、さらに脱テルペンがどんどん進行する。これでは、天然自然のエッセンスからほど遠いものになってしまう(ルネ=モーリス・ガットフォセが、これをよしとしていたことを忘れてはならない)。

 レモンエッセンスは、果皮を蒸留してとったレモン精油で偽和されることも多い。脱テルペン精油、脱セスキテルペン精油、合成リモネン、合成シトラール、合成ジペンテンを加えて増量することも多々ある。

 この手の偽和は、ガスクロマトグラフィーによる分析でも看破することはむずかしい。安く手に入るレモングラス油からとったシトラールを添加する業者も少なくない。オレンジ油をレモンエッセンスに加えて増量する輩もザラである(真正のレモンエッセンスは、オレンジ油の10倍もすることを念願におかれたい)。

 また、カンキツ類のエッセンスはいずれも酸化して劣化しやすいために、各種の抗酸化剤をこっそりこれらに加えて棚おき寿命を伸ばそうとする悪党どももアトを絶たない。

毒性の問題
・LD50値
 >5g/kg (経口) ラットにおいて
 >5g/kg (経皮) ウサギにおいて

・刺激性・感作性
 10%から100%まで濃度を変えてテストしたが、いずれも認められなかった。

・光毒性
 試験に供したレモンエッセンスの化学的な組成、ならびに被験者の感受性に依存して結果が変動するので、一概にはいえない。

作用
・薬理学的作用 モルモットの回腸において(in vitroで)、強烈な痙攣惹起作用を示した。

・抗菌作用
 最近の研究によれば、一般に弱いことがわかった。ジャン・バルネ博士が強力な殺菌力があるといっているのは、あくまでもレモンの果汁のことである。

・抗真菌作用
 テストした真菌の種類によって、各種各様の結果がみられた。一概にはいえない。

・その他の作用
 レモンエッセンスはCNVの波形を見ると鎮静効果があることがわかる。しかしまた、病院にいる患者の近くでこれをスプレーすると、その「うつ状態」が改善をみたとの報告もある。さらに、d‐リモネンを配合した薬剤が胆石を溶解するために利用されてきたことも付言しておきたい。

2014年12月28日日曜日

リツェアクベバ(メイチャン) | 精油類を買うときには注意して!(38)

今年も一年ご愛読くださいまして、有難うございました。
来年もよろしくお願いします。
高山 林太郎


リツェアクベバ(Litsea cubeba)油
 
 
 学名 Litsea cubeba Lam. , 別名 Laurus cubeba Lour. , Lindera citriodora Sieb. et zucc.
 
 リツェアクベバは、クスノキ科ハマビワ属の双子葉植物。ハマビワ属は落葉または常緑の高木。熱帯から温帯にかけて広範に分布し、アフリカとヨーロッパとを除く世界各地に、この近縁種がおよそ400種も生育している。これを「リトセア」などと発音してはNG
 L. cubebaは、和名をアオモジ、タイワンヤマクロモジといい、英名はMoutain spice tseeまたはMay chang tree、中国では山鶏椒などと呼んだりする。この木は強い芳香を放ち、わが国では本州西部、九州に生えており、西マレーシアの熱帯に広く分布し、熱帯では常緑になる。果実は香味料にされ、木材は楊枝(ようじ)になる。現在、この主要産地は、中国南部、台湾。
 
 
・精油の抽出 この木のコショウに似た果実を採取して、これを水蒸気蒸留して採油する。
 
 
・主要成分(%で示す。およその目安である)
 ゲラニアール    40.6
 ネラール      33.8
 α-ピネン      0.9
 β-ピネン      0.4
 ミルセン      3.0
 シトロネラール   0.6
 
 
・偽和の問題
 この精油は、ずっと安価なレモングラス油で偽和されることがよくある。
 
 
・毒性
 LD50値
   ラットで >5g/kg(経口)
   ウサギで >5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で皮膚に適用した場合、いずれも認められなかった。
 
 光毒性
  まだ、これで試験した例はないようだ。
 
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で(in vitroで)この精油は強力な鎮痙作用を示した。リツェアクベバ油をモルモットの腹腔内に注射したり、モルモットにこの精油の蒸気を吸入させたりして投与すると、あらかじめ気管支収縮(狭窄)剤を吸入させて惹起した喘息発作を抑えることがわかった。
 リツェアクベバ油はまた、ラットにおける皮膚のアナフィラキシー(誘発性過敏症)を、さらにモルモットにおける卵の蛋白質への感作によるアナフィラキシーショックをそれぞれ抑制することが判明している。
 
 抗菌効果 25種の各種細菌において、その16〜18種に、またリステリア属の標準種の細菌Listeria monocytogenesに対して抗菌作用があることが研究者によって確かめられている。
 
 抗真菌効果 各種の真菌に対して、強弱さまざまな効果がある。
 
 抗酸化作用 この活性はない。

2014年12月16日火曜日

ラベンダー(真正ならびにスパイク種) | 精油類を買うときには注意して!(37)

ラベンダー(真正、ならびにスパイク種)油
 
 
 さあ、みなさん、いよいよアロマテラピーで使用される精油のスターの登場だ。この精油の効用は、昔から南フランスの農民たちが知っていて、これを外用にしたり内用したりして、外傷とかやけどとか、腹痛の緩和とかに活用していた。
それを香料会社を経営していたルネ=モーリス・ガットフォセが自分の負った全治三ヶ月にも及ぶ上半身の大やけどに適用してみて、その効果を自分の体で実感して「アロマテラピー、aromathérapie」と名付け、精油を用いた自然療法の可能性を唱えた。この際のエピソードについて、ずいぶん長いことウソ八百がまかり通ってきたことは何度もこのブログで私が述べてきた通りである。その責任の一端はジャン・バルネ博士にあり、その著作をパクった英国人のロバート・ティスランドにあり、さらにこの両者の著作をそれぞれフランス語・英語の原典から訳したこの私にもある。この場をかりておわび申し上げる。
 
 ラベンダーはシソ科の小低木で、ご存知のように7〜8月ごろにうす紫色の小さい花を長い花 柄の先端に6〜10個ずつ輪状につける。地中海からアルプスの山腹にかけて、標高800〜1800メートルのアルカリ性土壌の土地に生える。
 ラベンダーは日本に江戸時代の文化年間、つまり1804年から1818年に蘭学者の書いたものに「ラワンデル」として記載されており、当時すでに、何らかのかたちでこの植物が日本に渡来していたと考えてよいだろう。また、スパイクラベンダーも「ヒロハラワンデル」として蘭学者が紹介している。
 
 現在、真正ラベンダーの主要な産地は、ブルガリア、フランス、イタリア、スペイン、中国、タスマニア、米国の一部などである。日本でも北海道で富田忠雄氏らの努力で、真正ラベンダーの一種「オカムラサキ」などが植栽されている(精油の生産量は決して多くはないが)。
 アロマテラピー発祥の地、フランスでの真正ラベンダー油の生産量は毎年減少の一途をたどっている。そして、その代りにラバンジン油がどんどん増産されている。この事情は前回記した通りである。
 
 
 学名 Lavandula angustifolia var. angustifolia P. Miller
    またL. officinalis, L. veraという別名もある。
    (ただし、ブルガリアの研究者によるとL. angustifoliaとL. veraとは、極めて近縁ながらそれぞれ別種だとのこと)
 
 精油の抽出 花の咲いた先端部分(てっぺんから20〜30センチぐらい)を水蒸気蒸留して採油する。
 
 ラバンジンは、上述の真正ラベンダーとスパイクラベンダー(L. spicaあるいはL. latifoliaと略記する)との交雑種である。
 スパイクラベンダーは、真正ラベンダーより、標高の低い土地に生育する。これらのラベンダーの精油について、その主要成分をマリア=リズ・バルチン博士は下記のように示している。
 
主要成分(%で示す。生育条件により変動があることは言うまでもない)
              真正ラベンダー    スパイクラベンダー    ラバンジン
 リナロール         6〜50       11〜54       24〜41
 リナリルアセテート     7〜56       0.8〜15        2〜34
 1,8-シネオール       0〜5        25〜37       6〜26
 ラバンズロール       0〜7        0.3〜0.7        0.8〜1.4
 ラバンズリルアセテート   5〜30       0           <3.5
 カンファー         0〜0.8        9〜60        0.4〜12
 
 これらのラベンダーには、微小成分としてシス-オシメン、トランス-オシメン、3-オクタノンなどが含まれる。真正ラベンダーにはまた、ボルネオールが最高1.8%まで含まれる。
 
・偽和の問題
 ISO基準は、真正ラベンダー油は25〜45%のリナリルアセテートの含有量であること、またリナロールは25〜38%含むことを求めている。そこで成分をアセチル化したラバンジン油、合成したリナリルアセテート、合成リナロール、芳樟油の留分などを加えて増量することがひろく行われている。そういう業者に限って、もっともらしい分析表をつけたりする。真正ラベンダー油よりずっと安価なラバンジン油を真正ラベンダー油と偽って売ることはザラである。
 
・毒性
 LD50値
  真正ラベンダー油・ラバンジン油ともに、
   >5g/kg(経口) ラットにおいて
   >5g/kg(経皮) ウサギにおいて
  スパイクラベンダー油は、
   4g/kg(経口) ラットにおいて
   >2g/kg(経皮) ウサギにおいて
 刺激性・感作性
   真正ラベンダー油は、ヒトにおいて10%濃度でこれらはいずれも認められなかった。スパイクラベンダー油はヒトにおいて8%濃度で、またラバンジン油はヒトにおいて5%濃度でこれらはみられなかった。
 光毒性
   真正ラベンダー油、スパイクラベンダー油、ラバンジン油のいずれにおいても、光毒性が認められたとの報告はゼロである。
 
・作用
 薬理学的作用 上記の各種ラベンダー油は、たいていどれもモルモットの回腸において(in vitroで)、鎮痙効果がみられた。しかし、それに先立って、まず痙攣惹起効果が上記の実験動物のおよそ半分で認められた。イヌにおいて(in vitroで)、平滑筋のトーヌス(正常な緊張)、律動性収縮運動、蠕動運動のそれぞれが、これらのラベンダー油の投与によって向上することが判明した。
 
 抗菌作用 真正ラベンダー油の作用については、試験例によってさまざまな変動がある。精油自体は、およそ5分の3の細菌で活性を示している。
 またこの精油の上記は、約5分の1の細菌に有効であった。ラバンジン油は、蒸散させたかたちで試験対象の細菌類のおよそ5分の1に効果を発揮し、スパイクラベンダー油は約25分の18に対して活性があった。
 
 抗真菌作用 真正ラベンダー油ならびにラバンジン油は、試験に供した5種の真菌に対し、すべてこの効果を示した。しかし、研究者によっては、さしてこの作用は強くなかったと報告しているものもいる。ラバンジン油とスパイクラベンダー油とは、一般に真正ラベンダー油にくらべて、この効果は低いようだ。
 
 その他の作用 真正ラベンダー油は、マウスとヒトとの双方において、鎮静作用を発揮することが確かめられている。ヒトの場合、CNVの波形データも、この事実を裏付けている。
  真正ラベンダー油およびラバンジン油には、一定の抗酸化効果が認められるが、スパイクラベンダー油にはこの作用は期待できない。
  ルネ=モーリス・ガットフォセは、「脱テルペン」した真正ラベンダー油を未希釈で適用すると開放創の治療によいとしている。脱テルペンしたものが、マックスの効果を発揮すると、彼はくどくいっている。
  英国などのアロマセラピストが伝えているこの精油の効果については、ここではとても書ききれない。私にはあまり信じられないような真正ラベンダー油の「効きめ」も少なくない。まあ一つ、私が訳したもののうち、J.ローレスの『ラベンダー油』、W. セラーの『アロマテラピーのための84の精油』などをごらんください。
 
付記①
 真正ラベンダー油の芳香は、欧米人は90%ぐらいの人が好むが、日本人の2人に1人、あるいは3人に1人は、この精油のにおいが嫌いなようだ。私の長年の友人で、ハーブ専門家・園芸家の槙島みどり氏は、ご母堂が重い病気で入院した折、その足をラベンダー油でマッサージしたところ、同じ病室の女性患者からヒステリックに 「やめて!そのにおい嫌いなの!」 とどなられた経験をお持ちと聞いた。私が英国人にその話をしたら、「あんなに良い香りなのに、信じられない!」といわれたことがある。タイム油の香りも日本人と英米人、フランス人とでは、ずいぶんうけとりかたががちがう。においに対する好き嫌いには、民族によって違いがあるのは仕方がない。嫌いな香りの精油を適用されても、効きめは期待できまい。心理的なバリアがせっかくの効果の発現を抑制してしまうからである。「そこがアロマテラピーのツレエところよ」と寅さんが言いそうだ。
 
付記②
 フランスのハーバリストのモーリス・メッセゲは、その著作『メッセゲ氏の薬草療法』の中で書いている。
 「ある日、悲劇がおきました。家の飼い犬のミスが、マムシに咬まれてしまったのです。父はすぐさま丘のほうにでかけて行き、一束のラベンダーをとってきて、それでミスの傷のところを時間をかけてこすってやっていました。翌日になると、愛犬の容体は快方にむかい、その次の日には、ミスは完全に助かりました。ラベンダーの一種がどうしてアスピック(アルプスに住むクサリヘビ科の毒蛇。英語でspike)などと呼ばれているのか、いまではよくわかります。これが爬虫類の毒に対してよく効く解毒剤になるからです。」
 アスピック(aspic)は、フランス語でスパイクラベンダーのことでもある。
 この話が逆転してか、ラベンダーの花には毒ヘビがすむとして、ヨーロッパでは花輪などにはこれを決して入れない。その花言葉にも「沈黙」、「疑惑」などというのがある。ラベンダーエッセンスの鎮静作用が反映されているのかもしれない。
 
付記③
 どの精油・エッセンスに関してもいえることだが、アロマテラピー用のものは、絶対に100パーセント天然の、すなわち野生もしくは栽培された植物から直接抽出したものでなければならない。アロマテラピーのスター的な精油、ラベンダー油に関しては、とりわけそうである。
 
 しかし、「100パーセント天然ですよ」と言わない業者はいないから、コトは厄介だ。ラベンダー油についていうと、天然のものだ、100パーセントピュアだといっても、香料会社系の業者は、いろいろな地域でとれたラベンダーから採油したさまざまな「真正ラベンダー油」を混ぜ合わせることがよくある。これを「調合精油」という。こうした業者は、本来は香水・賦香剤の原料としてラベンダー油を売っている。その一部をアロマテラピー用に販売しているわけである。
 ラベンダー油は香水では主役にならないが、主役となる精油なりエッセンスなりの芳香をぐんと引き立てる名脇役だ。だから、多くの香水にラベンダー油が配合されている。でも、このラベンダー油はテラピー用ではないので、合成増量剤で水増しした精油であるのがふつうである。調合精油はやや「良心的」ではあるが、これもあくまで香水などの世界でのみ通用する話に過ぎない。
 
 はっきり言うが、この調合精油も、アロマテラピー用には利用できない。天然精油の持つ「生命力」を殺し、ただの化学的成分の集団にしてしまっているからである。これでは工業製品と何ら変わりがない。アロマテラピー用の精油は、年々歳々成分が変動する「生きもの」であって、断じて工業製品ではない。
 
 もう一つ言わせて頂こう。いまアロマテラピーの発祥の地、フランスでの真正ラベンダー精油の生産量が激減していることは前述の通りだが、その抽出方法もひどい状態になっている。いいですか、以前は大気圧を少し上回る圧力下で、蒸気の温度も102℃ぐらいで、12時間もかけてゆっくりと蒸留していた。こうしてできた精油には、十分に有効成分が有機的に、いわば植物の生命力を保存しながら含まれていた。これが本来の天然の100パーセントピュアなアロマテラピー用の精油の要件を満足するものである。だが、遺憾ながら、現在のフランスでは、ラベンダーに高圧をかけ、当然高熱の蒸気にさらして、たったの15分ぐらいでラベンダー油が抽出されている。これでは多くの有効成分がメチャメチャに破壊されてしまう。これではたまったものではない。
これは「天然100パーセント」という看板を掲げたニセモノとしか言いようがない。
 
 英国で精油会社を経営するマギー・ティスランドさんと話をしたとき、私は彼女がこの事実をなんとも思っていないのに愕然とした。マギーさんの売っているラベンダー精油は、まさにこの手のフランス産の品である。マギーさんは好感のもてる女性だし、マッサージオイルにサザンカ油を活用してはどうかとの私の提案も受け入れてくれ、実地に施術したり、被術者になったりして、その有効性を確認してくれて、「高山さん、サザンカ油良かったわよ!」などとその結果を来日して私に知らせてくれてもくれた。惜しむらくは、彼女は以前の連れ合いの自称アロマラピー専門家、あのヒッピー崩れのロバート・ティスランドの悪影響をうけ、それからまだ抜け出せずにいることである。迷信深く、バッチのフラワーレメディーの盲信派だったりするところも、ロバートそっくりだ。まあ、彼女も「ヒッピー崩れ」なんだからやむを得ない面もあるが、マギーさんにはもう少し科学的・批判的な精神をもってほしいと私は友人の一人として切に願っている。
 
 付記④
 天然の真正ラベンダー油に、合成リナロールを加えたニセモノは多いが、ガスクロマトグラフィーで分析すれば、ニセモノにはジヒドロリナロールが検出されるので、一目でそれとわかる。

2014年12月11日木曜日

ラバンジン | 精油類を買うときには注意して!(36)

ラバンジン油
 
 ラバンジンは、シソ科の小低木、真正ラベンダー(Lavandula angustifolia var. angustifolia)と、同じくシソ科の小低木スパイクラベンダー(L. latifolia var. spica)との属間交雑種のラベンダーの一種であり、その次の世代がつくれない。動物でも植物でも、界(kingdom)・門(phylum)・網(class)・自(order)・科(family)・属(genus)・種(species)・亜種(subspecies)という分類をするが、属まで同じなら、遺伝的に分化した二種の生物間でも雑種が生じることがある。種まで同一なら、交雑種は容易にでき、二代目も三代目もできる。現在、日本で広く栽培されているイネ・コムギなどはほとんど人為的に作り出された交配種、すなわち品種である。自然界の交雑種は変種という。
 
 ラバンジンは標高400〜800mの土地に生えるL. latifolia var. spicaと標高900〜1500mの山地で生育するL. angustifolia var. angustifoliaとが昆虫が花粉媒介することによって自然に生じた交雑種である。真正ラベンダーは、むかしはフランスの農民たちが山に自然に育ったものを刈り取って香料会社に納入していた。しかし、真正ラベンダーの需要が増大するにつれ、農民たちはこれを栽培するようになった。その畑に、上記の交雑種が出現した。
 
 初めのうちは、農民たちはこの交雑種の存在に気付かなかった。そしてこれを真正種といっしょに香料会社に納めたり、両者を区別せずに蒸留して得た精油を香料を扱う会社に納入したりしていた。しかし、経験を重ねるうち、在来のラベンダーと異なって二代目ができず、形も大きい種類のラベンダー、すなわち標記のラバンジン(フランス語ではlavandinラヴァンダン)を、それとはっきり農民たちは認識するようになった。
 
 このラバンジンは、真正ラベンダーとちがって二代目ができないので、すべて挿し木でふやす(クローン栽培)。これは、病害虫にも強く、精油の取れる量も多い。つまり収油率が高い。現在、ラベンダー畑の写真として紹介されているものは、ほとんどすべてこのラバンジン畑のものだ。日本で千葉県や富士山麓などで植えられていて、テレビで「ラベンダーの花がいちめんに咲いています」などと紹介されたりするものは、まず間違いなくラバンジンである。ラバンジンもラベンダーの一種なのだから、あながちウソとも言えないのだが。
 
 フランスのある作家が真正ラベンダーのことを「巨大なウニ」にたとえた。うまいことをいうものだ。まさにその通り、一株ごとにハリを立てたウニそっくりである。対してラバンジンは、きっちり同じ長さの挿し木を畝(うね)にずらりと植えるので、南仏のプロバンスあたりでは、そりゃあきれいに見えますよ。風が吹けば、まるでミンクの毛皮のコートがあたり全体にひろがっているような錯覚をおこす。思わずカメラのシャッターを切りたくもなる。一般のフランス人には、真正ラベンダーとラバンジンとの区別も知らない者が多い。
 
 現在のフランスでは、このラバンジンが真正ラベンダーよりもはるかにたくさん栽培されている。真正ラベンダーを1とすると、ラバンジンは9もの割合である。標高の低い土地でも元気に育つし、大型の刈取り機を畝にまたがらせれば、ひろい畑でもたちまち花の咲いた先端部分を上から20〜30センチほどの長さにさっさとカットし、束ねて畝のそばにヒョイヒョイとその機械が並べてもくれる。
 
 ラバンジンは、「シュペールSuper」、「レドヴァンReydovan」、「マイエットMaillette」、「グロッソGrosso」、「アブリアリスAbrialis」、「エメリックEmeric」などの種類がある。シュペールを「スーパーラベンダー」なんて、アホな呼び方をしてはいけない。ここではSuper、Reydovanの両種をとりあげる。
 
 学名 ラバンジン(シュペール・クローン種)Lavandula × burnatii
     別名 Lavandula hybrida, L. intermedia
    ラバンジン(レドヴァン・クローン種)Lavandula × burnatii
     別名 シュペールに同じ
 
 真正ラベンダーとラバンジンとの各精油の成分を調べると、ラバンジンは、リナロール分が真正ラベンダーよりやや少なめ、リナリルアセテートは真正ラベンダーより少ない。ラバンジンは、1,8-シネオールがより多く、ラバンズリルアセテートは真正ラベンダーよりぐんと少ない。
 この比較は、「ラベンダー(37)」の項で表示するつもりである。その折に、スパイクラベンダーについても触れることにする。
 ラバンジンは、真正ラベンダーの花粉がスパイクラベンダーのめしべについたか、スパイクラベンダーの花粉が真正ラベンダーのめしべについたかによって幾つかの種類が生じた
 
主要成分(%で示す)
◎ラバンジン・シュペール
 モノテルペン類(およそ5%)
    ー リモネン0.75%、シス-およびトランス-オシメン1.35%〜2.45%
 アルコール(モノテルペン)
    ー (-)-リナロール30%、ボルネオール2.25%
 リナリルアセテート(エステル類)
    ー 40%、そのほかボルニルアセテート、ラバンズリルアセテート(15%)、ゲラニルアセテート(0.35%)
 カンファー(ケトン類)
    ー 5.45%
 痕跡量成分として、クマリン、ヘルニアリン
 
◎ラバンジン・レドヴァン
 モノテルペン類(α,β-ピネン)
    ー 変動あり
 アルコール(リナロール)
    ー 変動あり
 リナリルアセテート(エステル類)
    ー 25%
 オキシド類
    ー 1,8-シネオール 変動あり
 
・偽和の問題
 このラバンジン油は、真正ラベンダー油のニセモノを作る際によく使われる(成分をアセチル化したラバンジン油を用いる)。あるいはラバンジン油を真正ラベンダー油と詐称して売る。おフランス産なんかいちばんアブナイ。こんなインチキ精油は、ヤケドにも効果がありません。安い安いラバンジン油自体を、わざわざ偽和してまで売るバカはいない。合成物質を加えれば、よほど高くついてしまうから。
 私は、在日フランス大使館の通商代表部の人間に、「なぜ、あなたはそんなにラバンジン油を嫌うのか」と詰め寄られたこともある。私は答えた。「そりゃ、理由はカンタンです。日本人が真正ラベンダー油に期待する効果を、ラバンジン油は発揮しないからです」。
 
・毒性
 LD50値
   >5g/kg(経口) ラットにおいて
   >5g/kg(経皮) ウサギにおいて
 刺激性・感作性 ヒトにおいて、5%濃度でいずれも認められなかった。
 光毒性 報告されていない。
 
・作用
 ラバンジン油は、一般に真正ラベンダー油に比べて抗菌作用において劣るように思われる。
 シュペール種およびレドヴァン種のいずれも、かなり強力な抗微生物、殺菌、殺ウイルス作用がある。
 そのほか、強壮、神経強壮、抗カタル、去痰の各効果を示す。
 したがって、感染性腸炎、鼻咽頭炎、気管支炎、無力症への効果が期待される。
 また、生理学的用量においては、禁忌はどちらについても知られていない。
 
(付記)現在、フランスで生産される真正ラベンダー油は、年間10トン程度で、それに対してラバンジン油は年産100トン以上にもなる。
 いま世界一の真正ラベンダー油生産国はブルガリアだが(年産40トン)、それが輸出されてフランス人の手に渡ると、たちまち10倍くらいに伸ばされる。つまり、偽和され、増量される。
中国も新疆ウイグル自治区で真正ラベンダー油を年間30トンくらい生産している。その大半はブルガリアと同様にフランスに輸出されている。それがどう処理されているかはおよそ想像がつく。

2014年12月3日水曜日

モツヤク(没薬)、ミルラ、マー | 精油・アブソリュート類を買うときには注意して!(35)

 モツヤク(没薬)、ミルラ、マー(Commiphora myrrha)油
 
 学名 Commiphora myrrha (Nees) Engler
    別名 C. abyssinica (Berg) Engler
       C. myrrha var. molmol Engler
 
 没薬樹は、カンラン科のミルラノキ属の低木で、多くはトゲを持ち、北東アフリカから、リビア、イラン、インドにかけての乾燥地帯・砂漠地帯に生育するじょうぶな植物。200にのぼる種類がある。この木の幹にできた裂けめ・傷から樹脂が滲出し、これが空気に触れて固まる。同じカンラン科のニュウコウ(乳香)とよく似ている。C. myrrhaをモツヤクジュ、C. abyssinicaをアラビアモツヤクジュと呼んで区別する。
 
 この固まった樹脂を採取して、水蒸気蒸留し、精油を得る。しかし、アロマテラピー用に使われる「モツヤク油」の大半は、実はこの樹脂をエタノールで処理したもので、アブソリュートといったほうが正しい。このアブソリュートは濃い赤褐色で、精油のほうは濃淡の差はあるが、こはく色をしているのと極めて対照的である。
 
 歴史 モツヤクは同じカンラン科のニュウコウ(乳香)とともに、古代エジプト・古代ギリシャ・古代ローマなどで、広く薫香として、油脂に溶かして香油として、化粧料として、エジプトではミイラ製作用剤として利用された。また、これを軟膏にして、疱瘡治療に、消毒・癒傷のために、消炎症目的のために人びとはこれをひろく用いた。
 古代ギリシャの市民たちには兵役の義務があったので、人びとは戦場でうけた傷の手当て用に、モツヤクの軟膏を皮の小袋に入れて戦いにおもむいた。アテナイ市民のたくましい哲人、ソクラテスももとよりそうしたはずである。古代ローマの兵士たちも、これを戦場に携行したと伝えられる。
 これが、幼な子イエスに乳香・黄金とともに捧げられたエピソードは有名だ(新約聖書、マタイ伝)。
 
 しかし、時代の変遷につれ、乳香とは対蹠的(たいせきてき)に、没薬の人気は薄れてしまった。これが薬剤として使いにくい(水には溶けないし、アルコールにも難溶)ものだったからかも知れないが、理由は判然としない。ある人は乳香を太陽に、没薬を月にたとえている。
 
主要成分(%で示す)
 クルゼレン         11.9
 クルゼレノン        11.7
 フラノエウデスマ-1-3-ジエン 12.5
 リンデストレン       3.5
 
・偽和の問題
 オポポナックス(オポパナックスとも呼ぶ芳香樹脂の1種)をまぜて増量することがよくある。また、アブソリュートを脱色して、貴重な「没薬油」でございといって売る人間もいる。くれぐれも、ご油断めさるな。
 
・毒性
 LD50値
   没薬の「精油」: ラットで1.7g/kg(経口)
            経皮毒性に関しては、まだテストされていない。
   没薬の「アブソリュート」: 経口毒性・経皮毒性とも未試験
 
 刺激性・感作性
  没薬の「精油」:ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
  没薬の「アブソリュート」:ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。しかし、安息香(ベンゾイン)油に触れて接触皮膚炎をおこした患者が、没薬アブソリュートに接触して交差感作を生じた例が報告されている。
 
 光毒性
  この精油とアブソリュートとのいずれも、まだテストされた例を聞かない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で(in vitroで)強烈な痙攣惹起作用を示した。
 
 抗菌効果 きわめて弱いといわざるを得ない。25種の細菌にたいして有効性を示したのは、6例弱だった。食中毒の原因となるリステリア菌についても、実験に供した菌25種のうち、やはり6例しか有効性がみられなかった。これでは古代のギリシャ、ローマの兵士にも、没薬はあまり役立たなかったのではないか。
 
 抗真菌効果 多くの本に、これが水虫などの真菌症に有効だと記されているが、これは疑問である。試験の結果、抗真菌作用は極めて微弱、あるいは皆無であることがはっきりしている。市販のHow to本にだまされてはダメですよ。コピペにコピペを重ねた無責任な記述ばかりがヤタラに目につくこの頃だ。これに限らずね。
 
 その他 抗酸化作用は、没薬の精油においてもアブソリュートにおいても、まったく期待できない。
 
(付記)没薬は、たぶん他の香料と混ぜて薫香にされ、それが相乗的に働いて、精神を明るく高揚させ、無気力状態・疲労困憊状態を改善させたものと思う。カトリックの教会堂内の振り香炉は有名で、巡礼地として名高いスペインのサンチアゴ・デ・コンポステラに疲れきってたどり着いた信者たちの上で振り回される没薬その他を入れて発煙させた振り香炉は、プラシーボ効果もあるだろうが、それ以上の疲労回復効果が確かにありそうだと、その光景に接して私は感じた。

2014年11月19日水曜日

ユーカリ | 精油類を買うときには注意して!(34)

ユーカリ(Eucalyptus globulus)油
 
 ユーカリは、フトモモ科ユーカリ属の常緑の大高木で、実に700にも及ぶ種類があり、ほとんどがオーストラリアとタスマニア島とに分布する。しかし、現在では世界各地に移植されている。成木の葉を陽光などにすかして見ると、油点が見られ、葉をもみ潰すとそのエッセンスが強く香る。幹にキノ(kino)と称される赤褐色のガム(樹脂状物質で、オーストラリア原住民が薬として利用してきたもの)を滲出させることが多いため、英名ではユーカリプタスのほかに、ガムトリー(gum tree)という別名もある。
 19世紀にヨーロッパにも移植され、スペインなどがこの精油の生産地になっている。しかし、地中海沿岸で育つユーカリは、オーストラリアのユーカリほど高木にならない。オーストラリアでは、100〜150メートルもの樹高のユーカリがあるが、ヨーロッパのものは、せいぜい40メートルどまりである。日本では千葉県松戸市でユーカリが同市の木にされているが、日本の気候風土にはあまり合わないようだ。
 オーストラリアの珍獣コアラは、ユーカリの葉が主食だが、そのユーカリも数ある種類のうち、20種類ぐらいのユーカリのものしか口にしない。その理由も推測の域を出ていない。しかし、日本に移植したユーカリは食べてくれるので、動物園の飼育担当者がホッとしたというエピソードを聞いたことがある。
 
 ユーカリの代表格は、標記のE. globulusだが、そのほかにアロマテラピーで有名なのは、E. citriodora(レモンユーカリ)、E. radiata(ラディアータ種ユーカリ)である。
 
 学名 Eucalyptus globulus Labill.(ユーカリ)
     英名はsouthern(またはTasmanian) blue gum, fever tree, blue tree, gum tree
    Eucalyptus citriodora Hooker.(レモンユーカリ)
     英名はLemon scented gum, spotted gum
    Eucalyptus radiata R. T. Baker(ラディアータ種ユーカリ)
 
 精油の抽出 ユーカリの葉と小枝とを水蒸気蒸留して得る。
 
主要成分(%で示す)
          E. globulus   E. citriodora  E. radiata
 1,8-シネオール    90.8     0.6      84.0
  α-ピネン       6.1      0.8      1.6
 シトラール      0      85.0      0
 メントン       0      3.7        0
 シトロネロール    0      4.7        0
 α-テルピネオール   0      0         7.5
 p-シメン       0.8     0        0
 
  (付記)そのほか、E. macarthuriは70ないし80%のゲラニルアセテートを含有。
      E. polybracteaおよびE. smithiiはシネオールを90%も含む。
      なお、E. globulusの精油は、日本薬局方に収載されている精油のひとつである。
 
・偽和の問題
 アロマテラピーでよく用いられるE. globulus、E. radiataからは、大量にコストもかけずに精油が得られるので、偽和されることはあまりない。しかし、E. citriodoraの精油には合成したシトロネラールが加えられることが往々あり、E. smithiiの精油にも合成ゲラニルアセテートが添加され、増量されることがある。
 
・毒性
 LD50値
   E. globulus ラットで4.4g/kg(経口)  ウサギで>5g/kg(経皮)
   E. citriodora ラットで>5g/kg(経口)  ウサギで2.5g/kg(経皮)
   E. radiata 経口毒性・経皮毒性とも未試験
 
 刺激性・感作性
  E. globulusおよびE. citriodoraの各精油を、ヒトにおいて10%濃度で皮膚に適用したが、これらの毒性は見られなかった。
 
 光毒性
  E. globulusおよびE. citriodoraの両精油において、光毒性は皆無であった。
 
(付記)ユーカリ油(たぶんE. globulusだろうと思われる)を内用した例について報告する。3.5ないし21ミリリットルを経口摂取した人間が死に至った。また致命的ではなかったものの、この精油の内用によって、上胃部の灼けつくような痛み、吐き気、めまい、筋肉の弱体化、頻拍、窒息するような感じ、せん妄(知覚障害、思考・記憶の障害など)、激しい痙攣などにみまわれたケースは数多く報告されている。
 
・作用
 薬理作用 E. citriodora精油は、モルモットの回腸で(in vitroで)強い鎮痙作用を示した。同じ濃度でE. globulus油でテストしたが、そうした効果は見られず、E. radiataでは微弱な作用しか観察されなかった。
 
 抗菌効果 E. citriodora油は、5〜6種の細菌にたいして強い活性を発揮した。その他の種類のユーカリ油も、総じて抗菌・殺菌作用がある。
 
 抗真菌効果 E. citriodora油は、各種の真菌にたいして高い抗真菌・殺真菌活性を示した。ことにカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)には、この精油が、E. globulus油・E. radiata油よりもはるかに有効であった。カンジダ症へのこの精油の適切な利用が強く示唆されるところである。 

2014年11月13日木曜日

〔コラム〕ペットへのアロマテラピーについて一言

 近ごろでは、少子化と裏腹にペットを飼う人間が異常というか、異様にふえている。
ペットとして飼養される動物のチャンピオンは、なんといっても、イヌとネコだろう。あとは、小鳥や魚類(古典的な金魚、あるいは熱帯魚、広い池が邸内にあればニシキゴイなんてところか)や、ゲテモノ好きにはヘビ・トカゲ・カメレオン・カメなどの爬虫類などもあげられるだろう。
 
 ここでは、イヌ・ネコに限ってお話ししたい。身近にこれらを飼っている人間がとくに多いからだ。
 では、本題に入る。
 私がアロマテラピーを足かけ30年前に日本に紹介してから、英国・フランス以上に、わが国ではそれこそ猫も杓子(しゃくし)もこの自然療法を、その実体を、その本質をろくに理解しないままもてはやすようになった。
 その結果、インチキな「アロマテラピー」がさまざまな形態で横行することになり、市販の「アロマテラピー用精油」の90パーセント以上が完全な偽物精油という状況が生まれてしまった。これについては、強調しすぎることはあるまい。
 
 日本人は、本当におとなしい。こんな精油で効果(プラシーボ効果以上の効果)が生じたら、キリストの復活以来の奇跡といってよい。高価な精油を購入し、それを自分の体に適用して効果がみられない場合、欧米人だったら精油の販売店に、精油のメーカーないし販売代理店にクレームをつけずにはおくまい。しかし、「お・も・て・な・し」の「美風」をよしとする大半の日本人は、それが中国産・韓国産のものだったら、目を三角にしてイキリ立つかもしれないが、おフランス産とかオーストラリア産とかいったラベルの精油・エッセンスになると、「アタシの体のほうが悪いんだわ」とムリヤリ自分を納得させてしまう。そして、この療法自体にムリがあるのではないかとの疑問を公けにするとか、「アタシの買った精油、本当にピュアなの? その証拠を見せてちょうだい」などと販売店にネジこんだりとかする行為には、まず絶対に走らない。私のようなヘソ曲がりは、千人に一人ぐらいなんだろう。
 
 しかし、その精油を使ったら、体調を崩してしまったと口に出していえる人間はまだよい。近ごろでは、自分の飼っているイヌ・ネコに、強引にアロマテラピーを施す人間がいる。よく考えてほしい。精油はテルペン類・アルデヒド類・テルペノール類・エステル類・ケトン類・酸類・フェノール類・オキシド類、例外的だが硫化物類などからなっている。人間の肉体は、これらを吸収してしかじかの効果を発揮させたのち、これらを代謝・分解し、排せつする働きが備わっている。むろんその精油が本物で、用法・用量が適切だったらの話ですよ。
 しかし、イヌ・ネコのような本来、肉食系の動物には、これらの成分のうち、代謝・分解できないものがあるのだ(代謝するための酵素がもともとつくれない)。それは、イヌ・ネコにとって毒物になってしまい、イヌ・ネコを病気にしたり、その命までも奪ったりしてしまう結果をもたらす。比喩として、穏当を欠くかもしれないが、ネコもヒトも体内で代謝分解できないメチル水銀が原因で、水俣病がおこったことを想起されたい。いま、たくさんのペットが、無知な飼い主の施す「アロマテラピー」の犠牲になって死んでいる。古い昔からの人類の友であるこうした動物たちの日本における実状を知ってほしい。
 
 半可通の、というより何も知らぬ人間の得手勝手なひとりよがりで「アロマテラピー」の犠牲にされるペットたちこそ哀れである。
 獣医師でもアロマテラピーについて、またそれを動物に施す際の的確な技術について十全に通じているものは、稀有といってよい。いままで、従来のさまざまな技術で動物の病気をちゃんと治してきた獣医たちが、何が悲しくて「アロマテラピー」などをいま慌てて採用する必要性が、必然性があるのか。
 
 結論として申しあげる。イヌ・ネコなどのペットを対象としたアロマテラピーは、不必要の一語に尽きる。 

2014年11月6日木曜日

メリッサ | 精油類を買うときには注意して!(33)

メリッサ(Melissa officinalis)油
 
 メリッサは、セイヨウヤマハッカ属のシソ科の多年草。地中海沿岸地域からユーラシア大陸東部にかけて、数種が分布する。寒さに強い植物である。
 
 学名 Melissa officinalis
 別名 レモンバーム、ビーバーム、和名 セイヨウヤマハッカ、コウスイハッカ、メリッサソウ
 産地 原産地はヨーロッパ南部。現在の主要産地はフランス。しかし、英国その他の土地でもひろくみられる。
 特色 草全体に芳香がある。香味料として、サラダやスープなどの香りづけに利用される。メリッサはハーバルティーとしてもヨーロッパで愛飲され、またこれが、頭痛・歯痛止めに、さらには発汗を促すために薬用された。
 精油の抽出 葉とこのハーブの先端部分、さらに茎部もあわせて水蒸気蒸留して得る。しかし、このハーブは水分ばかり多く含んでいて、エッセンスの分泌腺が極端に少ないので、非常に多量の原料からごく少量の精油しかとれない。もっぱら香料として使われる精油である。
 
 
主要成分(%で示す)マリア・リズ=バルチン博士は、2カ所の蒸留所で試験的に抽出したメリッサ油の組成成分を次のように示している。
           A蒸留所のメリッサ油      B蒸留所のメリッサ油
 β-カリオフィレン     11.7              29.0
 ゲラニアール       25.0              17.3
 ネラール         15.3              10.9
 シトロネラール      24.6              2.2
 フムレン         0               2.1
 γ-カジネン        0               2.1
 
 以上は、それぞれにメリッサの精油の組成成分の比率が、その原料植物の生育地によって大きく異なることを示している。どちらも、いっさい化学合成物質を入れたりしていない真正メリッサ油である。
市販品は99.9%まで化学合成物質ないし別の植物に由来する精油を加えて増量したニセモノと考えられるので、分析すればどんな成分が、どれほど検出されるか知れたものではない。真正メリッサ油の価格は真正のバラ油と同じくらいと心得られたい。つまり同じ重さの黄金と同価格だということだ。
 
・偽和の問題
 上述したように、メリッサ油は莫大なコストをかけても、ほんの少量しか原料から得られないために、真正メリッサ油は極めて高価である。市販の「メリッサ油」と称するものは、ほとんどが化学合成した成分のブレンド品か、さもなければレモンエッセンス、レモンバーベナ(Lippia citriodora)油、レモングラス(Cymbopogon citratus)油、シトロネラ(Cymbopogon nardus)油のうち1種ないし複数の精油の留分をごく少量の真正メリッサ油にたっぷり加えて増量したものかのいずれかである。つまりニセモノということだ。
 
・毒性 真正のメリッサ油の正確な信頼のおけるデータは残念ながらまだ得られていない。インチキ市販品などを用いてテストしてもナンセンスである。
 LD50値 データなし
 刺激性・感作性 データなし
 光毒性 データなし
 
注)もっともらしい研究結果報告に接したこともあるが、それが真正メリッサ油を用いたという、信じるに足りる証明がないかぎり、私たちは信じるべきではない。
一般にメリッサ油は、過度に速い呼吸と心拍を鎮め、月経周期を規則的にする効果があるとされる。だが、それはその精油がホンモノだという確証がなければ、いずれも説得力がない。
 
・作用
 市販のあるブランドの「メリッサ油」は、モルモットの回腸で(in vitroで)弱い鎮痙作用を示した。しかしこのメリッサ油が真正品だという保証はないので、真正メリッサ油の作用として、これをあげるわけにはいかない。
また、抗菌作用についても、抗真菌作用についても、書店のHow to本にもっともらしく書かれているものは、およそ信頼に値しない。
さらにメリッサ油には、抗ウイルス特性があるなどというデタラメな報告もなされたことがあるが、絶対に真に受けないでほしい。
ハーブとしてのメリッサを利用すれば、確かに抗ウイルス効果があるが、それはこのハーブをハーバルティーとして用いたときに出てくるタンニンの効果である。タンニンは水溶性成分であるために精油中には含まれない。したがってメリッサ油を蒸散させても、空気中のウイルスを殺したりすることは不可能である。まず「メリッサ油」は敬遠なさったほうがよい。香料としてならともかく、アロマテラピー用にこれを買う人の気が知れない。
 
・ハーブとしてのメリッサ
 アロマテラピーではないが、メリッサを乾燥させてハーバルティーとして飲用すると、駆風作用があり、心身をリラックスさせることが経験的に確かめられている。英国などでは干したメリッサを枕につめて安眠を促すために用いた。どれほど実効があったか疑問だが。なおメリッサは別名レモンバームというが、これをクマツヅヅラ科のレモンバーベナ、同じくクマツヅヅラ科のバーベイン(Verbena officinalis)と混同しないでいただきたい。 

2014年10月28日火曜日

ミント類| 精油を買うときには注意して!(32)

ミント類
 
  ミントはシソ科のハッカ属の一年草または多年草。40もの種類があるが、どれにも強弱の差こそあれ、芳香がある。北半球の温暖な地域に広範に分布している。ハッカの仲間は古来有名で、古代エジプト、古代ローマでも香味料、薬剤原料として利用された。新約聖書でも、これについての言及がある。
 ミント類でとくに有名なのは、ペパーミント、スペアミント、コーンミント(別名 ジャパニーズミント)である。そのほかベルガモットミント、フィールドミント、ホースミントなども広く知られている。現在、ミント類の主要生産国は、米国と南米である。
 
ペパーミント 学名 Mentha x piperita L.
 セイヨウハッカとも呼ばれる。ヨーロッパに生育する多年草で、ベルガモットミント(M. aquatica)とスペアミント(M. spicata)との自然交雑によって生じた。これは各地で栽培される。草丈は30〜40cm。茎の先端に紫または白色の穂状の花序をつける(ここが、ジャパニーズミントすなわち和種ハッカとの外観上の大きな相違点)。花は8〜9月ごろ咲く。この花の咲いた先端を蒸留してとった精油は、チューインガム・洋菓子・ゼリーの香料にされ、練り歯磨き・化粧品の賦香にも利用される。また、薬剤として強心剤・興奮剤などとしても用いられる。
 
スペアミント 学名 Mentha spicata L.(別名 M. viridis L. ミドリハッカ、オランダハッカ)
 中央ヨーロッパ原産の多年草。M. longifoliaとM. aquaticaとの交雑種。中国では留蘭香という。メントール含量が少なく、カルボンを58〜70%含む。米国ミシガン州、日本では北海道で栽培される。
 
コーンミント(別名 ジャパニーズミント) 学名 Mentha arvensis var. piperascens Holms
 日本、朝鮮、シベリアに生える多年草。草丈は60cmぐらいにまでなる。7〜8月に葉腋に淡紫色の花を咲かせる。中国語で家薄荷という。このハッカはメントール(ハッカ脳とも呼ぶ)含量が高く、以前は世界のハッカ脳の需要量の四分の三を日本がまかなっていた。生産地は北海道の北見だった。しかし、第二次大戦後は、主要生産地は米国や南米などに移り、合成品も多量に生産されるようになって、北見では昔の面影はなくなってしまった。
 
・精油の抽出
 ミント類は、いずれも花の咲いた時期の先端部を採取して、水蒸気蒸留して、それぞれの精油を得る。原料植物を生乾き状態にして蒸留する場合もある。
 
 
主要成分(%で示す)各成分含量はおおよその目安である。
           ペパーミント     スペアミント     コーンミント
 メントール     27〜51      0.1〜0.3       65〜80
 メントン      13〜52      0.7〜2        3.4〜15
 イソメントン    2〜10       痕跡量        1.9〜4.8
 1,8-シネオール   5〜14       1〜2        0.1〜0.3
 リモネン      1〜3        8〜12       0.7〜6.2
 カルボン      0          58〜70      0
 
 
・偽和の問題
 いちばん偽和されるのは、ペパーミント油である。たいてい、ずっと価格の安いコーンミントで増量する。あるいはコーンミント油自体をペパーミント油と詐称する。詳しい説明は省くが、この偽和は看破するのがかなり困難である。
 
・毒性
 LD50値
   ペパーミント 4.4g/kg(経口) ラットにおいて
   コーンミント 1.2g/kg(経口) ラットにおいて
   スペアミント 試験例は報告されていない
 
 刺激性・感作性
  ペパーミント
   刺激性を示すことがあり、また各種のアレルギー反応を生じさせる場合がある。角砂糖にこの精油を数滴落として服用しただけで、胸焼けを生じさせたり、その強烈な香りのせいで窒息しそうになったという人もいる。
   アレルギー反応は、この精油を多量に配合した練り歯磨きをたくさん使用したり、またこの精油を入れたスウィーツ類を食べすぎたりしたときに生じるケースがある。しかし、あまり多量に摂取しない限り、そんなに心配することはない。それほど危険なものだったら、厚生労働省が放置しておくわけがない。
  スペアミント
   4%濃度で摂取しても、問題はない。アレルギー反応をおこした人間の例も皆無ではないが、まず心配する必要はない。よほど非常識に大量を摂取しない限り、ペパーミントより危険性はずっと低い。
 
 光毒性
  ミント類の精油で、光毒性を見出したケースはない。
 
・作用
 薬理作用 イヌにおいて、ペパーミント油、スペアミント油を水によくまぜて(水には不溶性だが)4%(敏感な人間には0.1%)濃度くらいで与えたところ、胃壁を弛緩させる効果がみられ、回腸・大腸の緊張・収縮力が減退した。ペパーミント油はマウスの大・小腸とモルモットの回腸とにおいていずれもin vitroで鎮痙作用を示した(マリア・リズ=バルチン博士による)。
 
 抗菌作用 細菌の種類により、ペパーミント油の抗菌力は多様で、強弱さまざまである。
 
 抗真菌作用 あまり強くない。
 抗酸化作用 なし。
 抗てんかん作用 各種のミント精油をエアロゾルとして噴霧することで、てんかんの発作を抑制ないし緩和する効果がみられた。
 
付記 ミント類には、ほかにペニロイヤルミント(M. pulegium〔これは有毒成分が多いので要注意。これには北米種とヨーロッパ種との2大ケモタイプがある〕)、スコッチペパーミント(M. cardiaca)など多数の種類がある。フランスのハーバリスト、モーリス・メッセゲが来日したとき、彼はmenthe verte(スペアミント)と講演で発言したのに、植物に詳しくない通訳が「ソフトミント」などと妙な訳をした。ソフトミント、ハードミントなどという英名のハッカ類は存在しない。通訳は、最低限の専門用語はマスターしなければいけない。ひどい通訳になると、problem(一般には「問題」という意味だが、そこでは「障害・病気」などと訳すべきところだった)を誤訳した。私は見かねて、その通訳にメモを渡して注意した。「問題が解決した」は「病気がなおった」と訳しなさい、と。 

2014年10月14日火曜日

マージョラム | 精油類を買うときには注意して!(31)

マージョラム(Origanum majorana)油
 
 マージョラムは、シソ科のハナハッカ属の双子葉植物で、多年草または亜低木(一部が木質化する)。地中海沿岸のフランス・スペインなどが原産地で、25種類ほどあり、現在も、この地域で香味料にされ、また観賞用に植栽されたりしている。
英語で、スウィートマージョラム、フレンチマージョラムと呼ばれるOriganum majoranaがマージョラムの代表格になっている。
 
 学名 Origanum majorana Moench.
 別名 Majorana hortensis L.
 
 これのごく近縁種にハナハッカ(コモンマージョラム、ワイルドマージョラム、オレガノ、オリガナムとも称される)がある。これもマージョラムとよく似た多年草で、マージョラム同様、香味料にされ、観賞用にもされる。マージョラムとほとんど同一視されている。この学名はO. vulgareという。オレガノはイタリア料理・メキシコ料理に不可欠の香味料。
マージョラムもハナハッカも、草丈30〜60cm。葉にはいずれもよい香りがあり、食べるとやや苦みがあるが、いける味だ。マージョラムは、以前はマヨラナと呼んだ。
 
1980年代に日本にハーブブームがおこったとき、そのリーダー的な存在だった熊井明子氏は、ちゃんと「マージョラム」と正しく発音しておられたのに、その弟子の一人で、ハーブ界に影響力をもつある女性が、これを「マジョラム」という奇怪な呼び方をした。しかも、「ジョ」の部分に変に高いアクセントをつけて。以来、この誤った呼称が一般に広まってしまった。悪貨が良貨を駆逐したのだ。
 
だから、私はこのハーブの話を人の前でするときには、「マーーーーーーーージョラム」とホワイトボード、黒板いっぱいに書いている。「盗んだ棒を返せ!」といいながら。
 
このハーブは、日本には江戸末期に渡来した。マヨラナは、学名の属名(あるいは種小名)をとったものである。これを「マヨナラ」などと、とんでもない発音をまじめでする連中が、20年くらい前までいた。それもたいてい男性だった。こんな奴らは絶対インポだったに相違ない。失礼、ちょっと興奮してしまった。英国人にも、この学名の種小名をmarjoranaなんて書くバカがいるからご注意下さい。
 
・精油の抽出
 マージョラム、ハナハッカともに葉と花の咲いた先端とを水蒸気蒸留して精油を得る。
 
マージョラムには、上述のスウィートマージョラム(O. majorana)のほか、スパニッシュマージョラムと呼ばれるハーブがある。これは、ハナハッカ属のスウィートマージョラムと違い、イブキジャコウソウ属で、学名はThymus capitatus(これはタイムの近縁植物。これもアロマテラピーで用いられる)という。
 
主要成分(%で示す)
          スウィート(フレンチ)マージョラム   スパニッシュマージョラム
 1,8-シネオール      0〜58               50〜62
 α-テルピネン       0                  1〜4
 γ-テルピネン       3〜16               0.4〜5
 テルピノレン       13〜19              10〜20
 α-テルピネオール     2〜6                2〜4
 テルピネン-4-オール    0〜30               0
 β-カリオフィレン     0〜2                0〜2
 
マージョラムには、スウィート・スパニッシュの両種とも、様々な種類があり、またケモタイプも多々あるので、それらの精油の成分にも、大きな変動がある。
 
・偽和の問題
 真正のスウィート(フレンチ)マージョラム油に、ティートリー油を加えたり、他の精油を脱テルペン処理して、本来捨てるはずのテルペン分をたっぷり添加したり、フレンチマージョラム油にスパニッシュマージョラム油やタイム油などを大量に混入させたり、スパニッシュマージョラム油自体をフレンチマージョラム油と詐称して販売する悪党も多い。いわゆるブランド品など、もっともヤバいといってもよい。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで2.2g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて濃度6%で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  スウィートマージョラム油については、まだ報告例がない。スパニッシュマージョラム油では光毒性はなかった。
 
・作用
 薬理作用 スウィートマージョラム油は、モルモットの回腸で、in vitroで、軽微な鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 スウィートマージョラム油は、各種の細菌にたいして殺菌・抗菌作用を示したとする報告がいろいろとなされている。フレンチ・スパニッシュの両精油にこうした効果があるとされてきた。しかし、リステリア菌(食中毒をおこす細菌)には不活性だったとの報告例もあるので、今後、さらに研究を重ねていく必要がある。
 
 抗真菌効果 スウィートマージョラム油・スパニッシュマージョラム油ともに、中程度ないし強力な作用を発揮する。
 
 抗酸化作用 試験に供したマージョラム油により(スウィート、スパニッシュ両種とも)ゼロから強力と言えるまでの効果を示すので、一概にはいえない。
 
 その他の作用 CNVの波形では、スウィートマージョラム油は鎮静効果を示した。
 
付記
 スウィートマージョラムには「制淫作用」があるとかまびすしく言われるが、本当だろうか。この精油が副交感神経を興奮させ、血管を拡張させ、結果として血圧を降下させて気分を鎮静させることは事実であるが、それがそのまま性的強迫感を抑制し、性器の過敏を鎮めるまでの効果につながるかどうかを、しかと見極めるにはもう少しコントロール(実験対照)をおいた各種の動物実験などを十分に行うべきだと私は考える。性急な結論は控えよう。ことに人間のような複雑な存在を考える場合には特にそうだろう。

2014年9月30日火曜日

芳樟(ホウショウ、芳〔ホウ〕) | 精油類を買うときには注意して!(30)

芳樟(または芳)(Cinnamomum camphora var. nominale)油
 
 学名 Cinnamomum camphora var. nominale Hayata subvar. hosho Hatusima
 別名 C. camphora L. Ness & Ebermeier, C. camphora Sieb.
 
 カンファー(クスノキ)の亜変種のクスノキ科の常緑樹。中国南部から台湾に分布している。クスノキに比べて、花も果実も小型である。日本では薩摩半島南部で36haほど栽培されている。英名はHo leaf。葉と小枝とを蒸留して精油を採取する。
 原産地は日本、ブラジルと言われるが、こいつは少々怪しい。やっぱり中国南部だろう。現在では、華南、台湾が主産地になっている。ホウショウ油はクスノキすなわちカンファーの精油に比較して上品な香りの精油で、高級香料とされる。むかし、台湾が日本の領地になっていた時代には、この精油は年間300トンから400トンも同地で生産されていた。カンファー油が日本人の手で台湾で広く生産され、セルロイド原料として欧米に盛んに輸出されていたころ、原木のクスノキにホウショウがまじってしまうことがあった。ホウショウにはカンファー分が含まれず、リナロール分ばかりが多いため、この木がカンファー油の質を落とすとしてカンファー油生産者たちに憎まれ、こいつは芳樟じゃねえ、「臭樟」だなどとののしられ、鼻つまみものにされたことも再三あった。
 
主要成分(%で示す)
 リナロール       85〜95
 リナリルアセテート   2〜5
 各種のテルペン類化合物 0.1〜0.5
 
注) ごらんのように、この精油には、カンファー分が全く含まれていない。クスノキすなわちカンファーには、カンファーが50.8%も含有されている。組成成分がカンファー油と全く異なることがおわかりと思う。
また、毒性が低いため、欧米で一時、食品添加物として承認されたこともあった。
 
・偽和の問題
 合成したリナリルアセテート、合成リナロールで真正精油が増量されることがよくある。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで3.8g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて濃度10%で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  まだ試験例は報告されていない。
 
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 各種の細菌を殺したり、その増殖を抑制する力がかなり強力。
 
 抗真菌効果 強力。
 
 抗酸化力 みるべきものがある。
 
付記
 現在、Aniba rosaeodora、すなわちローズウッドが乱伐のせいで絶滅が危惧され、真正のローズウッド油は、まず入手できない。これは、サンダルウッド同様に原木を伐採してしまうせいである。現在、このローズウッド油(ボア・ド・ローズ油)に代えてそれに成分的に近く、しかも木を伐採せず葉・小枝のみを利用するこのホウショウ油を用いようと主張する人びとが増加しつつあり、環境保護面で明るい展望が開けつつある。ただし、香りが違うのはいかんともしがたい。しかし、このホウショウ油もよい香りである。
また、精油としても近縁のカンファーの精油よりも、ホウショウ油ははるかに毒性が低い点も評価される。生理的に適切な用量なら、こども・妊婦の使用も何ら問題はない。 
なお、このホウショウ油が有毒であるために、ローズウッド油の代用にはならないと主張する人が一部にいるが、これは全くの間違いである。

2014年9月23日火曜日

ベルガモット Citrus bergamia | エッセンスを買うときには注意して!(29)

ベルガモット(Citrus bergamia)エッセンス
 
 ベルガモットは、南国産のミカン科の常緑低木である。
 レモンに近いカンキツ類。ダイダイの近縁植物。白い香りの良い花を咲かせる。シトロンとも近縁である。ちなみに、フランス人はレモンのことをシトロンと呼ぶ。そこでいわゆるレモネードのことをシトロナードと俗称する。しかしレモンとシトロンとは別種のカンキツ類で、レモンはCitrus limon、シトロンはC. medicaである。
 イタリア南部、シチリア島などが主要な産地で、数百年前からベルガモットエッセンスが利用され、輸出されてきている。
 英名はBergamot orange、中国名は香檸檬(シャンニンメン)。
 
学名 Citrus bergamia Risso
    Citrus aurantium L. ssp. bergamia Wright & Arn.
 
エッセンスの抽出 ベルガモットの果皮を圧搾してエッセンスを抽出する。ベルガモット油というと、果皮を蒸留したベルガモット精油と混同されるので、果皮を冷搾したものはかならずエッセンスと呼んでほしい。
 
主要成分(%で示す) 産地やその年の気候などの要因でこの数値は変動することは言うまでもない。
 リナリルアセテート  23〜25
 リモネン       19〜38
 リナロール      4〜29
 α-テルピネン     4〜13
 β-テルピネン     3〜13
 
微量成分として注目に値するのは、
①フロクマリン(およそ0.44%)が光毒性の原因物質である。FCFベルガモット油というのは、この果皮を水蒸気蒸留してとる精油であり、エッセンスと違って、フロクマリンが分解してしまうため、光毒性がない。
②痕跡量成分類
 (-)-グアイエノール、ネロリドール、(+)-スペツレノール、ファルネソール、β-シネンサール
 
これらがベルガモットエッセンスの芳香に大きく寄与する。このエッセンスはオーデコロンによく利用され、石けんの香料としてもひろく用いられる。日本でも小豆島などで試験的に栽培されるが、およそ商売にならない。経済的にひきあわないのである。
 
・偽和の問題
 安いエッセンスには、合成したリナリルアセテート、リナロールが入っている。
 合成リモネンも往々添加される。
 また合成したものではないが、ビターオレンジエッセンス、ライムエッセンス、さらに、いずれも合成したシトラール、テルピニルアセテート、ジエチルフタレートなどが増量剤として加えられることも多い。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>10g/kg(経口)
   ウサギで>20g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて30%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  ベルガモットエッセンス(その他のカンキツ類エッセンスも、程度の差はあるが)を皮膚につけて日光あるいはサンベッドのUV光線にあたると、皮膚にシミができる。ベルロック皮膚炎という。ベルロックはフランス語でペンダントの意味で、このエッセンスを配合した香水をつけた女性に、この形の皮膚炎が生じたことからこう命名された。配合されたエッセンスの量に依存して皮膚炎ないしヤケド様症状はさまざまである。
 同じカンキツ類エッセンスといっても、その症状の度合いは、ベルガモットエッセンスが最高最悪で、つぎにライムエッセンス、ビターオレンジエッセンス、レモンエッセンス、グレープフルーツエッセンス、スウィートオレンジエッセンス、タンジェリンエッセンス、マンダリンエッセンス、タンジェロエッセンスという順になる。
フロクマリンの含有量が0.0075パーセント以下なら問題は特にないとマリア・リズ=バルチン博士は指摘している(つまりベルガモット以外のエッセンスは、フロクマリン含量が格段に少ないのでさほど心配するにはあたらないのだ)。
また、良質のベルガモットエッセンスを肌につけて、日光やUV光源などにあたらずに8時間たてば、もうトラブルを恐れることはない。11時間も待つ必要などない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、最初痙攣を惹起したが、その後鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、かなり強力な効果を発揮した。蒸散させた場合にも、相当な殺菌力があった。
 
 抗真菌効果 あまり強くない。
 その他   CNVの波形を調べて、ベルガモットエッセンスは鎮静効果があることがわかった。また、抗酸化作用もかなり強いことが判明している。 このエッセンスは、疱疹のウイルスを抑制する力があるので、帯状疱疹(ヘルペス)の痛みを和らげることができる。また、ベルガモットは気分を晴朗にすることでも有名である。

2014年9月16日火曜日

ベチバー | 精油類を買うときには注意して!(28)

ベチバー(Vetiveria zizanoides)油
 
 イネ科の単子葉植物。多年草。熱帯アフリカ、アジア、オーストラリア、アフリカ、南米などに、およそ10種が分布する。
 
学名:Vetiveria zizanoides Staph.
   V. odorata Virey
   Andropogon muricatus
 
 英名ベチバー(vetiver)で広く呼ばれる。ベチベル(ソウ)といったころもあった。
 
精油の抽出:この草(1年に2度収穫できるところもある)の根および根茎を採取して日光にあてて干したものを水蒸気蒸留して抽出する。
      生育地によって、その芳香と化学組成とに大きな差異がある。
 
 
主要成分(%で示す)
 ベチベロール     10
 ベチベロン      9
 ベチベロンエステル類 各種各様
 
 (注)ベチバー油は、米国のFDA(食品医薬品局)で食品添加物に認定されている。
 
・偽和の問題
 サイベラスのような他の草本の根とともに蒸留され、精油の量を増やす手が使われている。他の植物からとったベチベロールが加えられることもある。合成したカリオフィレン、シダーウッドの成分、アミリス油が添加されることも多い。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、弱い鎮痙作用が生じた。
 
 抗菌効果 ベチバー油を蒸散させて、5種類の細菌のうち1種に有効であった。
 
 抗真菌効果 弱い。 
 
英国のアロマテラピー研究家、マギー・ティスランドは、毎日乳房を美しく保つためにツバキ油のキャリヤーにこのベチバー油あるいはゼラニウム油を混ぜてマッサージをしているそうである。

2014年9月2日火曜日

フランキンセンス(乳香) | 精油類を買うときには注意して!(27)

フランキンセンス(Boswellia carterii)油
 
 フランキンセンス(ニュウコウジュ)は、カンラン科ボスウェリア属の常緑の低木あるいは小高木。アフリカ・アラビア半島・インドなどに数種類が分布している。
 ジャン・バルネ博士は、アラビア半島のオマーン産のものを特に上質と考えていたそうだ。
 
学名 Boswellia carterii Birdw.(乳香樹〔ニュウコウジュ〕)
 
 英名はfrankincence(フランキンセンス)、 olibanum(オリバナム)。アラビア半島からトルコにかけて分布する。この樹(樹皮)からとれる芳香性のガム樹脂を乳香、フランキンセンス、オリバナムと称する。幹に切り傷をつけると汁液がミルクのような色を呈して滲み出すところからこの名がある。もっとも、「乳香」という語は中国語で、薫陸香(くんろくこう)の異名もある。古代から薫香として用いられた。
 
主産地はソマリア、アラビア南部ドラマウト地方など。没薬とともに古代オリエントの代表的薫香。
 
西暦前4〜3世紀の古代ギリシャの哲学者で「植物誌」「植物原因論」などを書いたテオプラストスもこれについて触れ、西暦1世紀の大プリニウス(プリニー大公ではない!)の「博物誌」にもこの植物についての記載が見られる。
新約聖書で、これが没薬・黄金とともに幼な子イエスに捧げられたエピソードはあまりにも有名(マタイによる福音書)。
 
精油の抽出 樹皮から滲出した涙滴状あるいはその他の形状をしたオレオ ガム レジン(含油樹脂)を水蒸気蒸留して得る。
 
主要成分(%で示す)
 α-ピネン       1.0(ないし43)アデン産
 α-ツエン       0〜2(インド産のものは、61にも及ぶ)
 p-シメン       0.1(アデン産のものは8に達する)
 リナロール      0.2(エリトレア産のものは3にもなる)
 n-オクチルアセテート 0〜5(エリトレア産は>5)
 n-オクタノール    0〜4(エリトレア産ではおよそ8)
 
 この成分は、産地によって大幅な変動がある。国際的なグレードの基準は、ピネン含量で決められる。最高級のものは、その含有量が37〜42%のフランキンセンスである。もっとも、インド産のものはピネン含量が極めて低いにもかかわらず非常によい香りを放つことで有名。α-ツエン分のためであろう。
フランキンセンスは食品添加物としても使われる。
 
 
・偽和の問題
 フランキンセンス油の成分の多くが、合成したもので代用される。とくに品質基準物質のα-ピネンを化学合成品でごまかした製品がでまわっている。こうしたニセモノには、くれぐれもご用心のほどを。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  まだ試験例は報告されていない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、強烈な痙攣惹起作用を示した。
 
 抗菌効果 フランキンセンス油は、多種多様な細菌にたいして非常に強力な殺菌・抗菌作用を示す。
 
 抗真菌効果 弱い。
 
 抗酸化作用 認められない。
 
(注)ダニエル・ペノエル博士らによると、この精油は免疫機能不全に起因する各種症状に有効とのことである。 

2014年8月26日火曜日

プチグレン | 精油類を買うときには注意して!(26)

プチグレン(Citrus aurantium L. ssp. amara、別名 C. bigaradia)油
 
 プチグレンという植物は存在しない。俗にビターオレンジ、あるいはビガラディアレモン、ビガラディアオレンジと呼ばれるミカン科のカンキツ類果樹の葉・小枝を、ときにはそのほかのカンキツ類の同じ部位を水蒸気蒸留して抽出した精油を、一般にプチグレン油と称する。
 
 フランス、イタリア、アルジェリア、チュニジア、モロッコ、スペイン、パラグアイなどで生産される。
 ミカン科の果樹は、東南アジアあるいはインドなどが原産地と考えられており、12世紀以降、ヨーロッパにポルトガル人・スペイン人らにより導入された。
 
 ミカン科の果実は、非常に多い。日本でもウンシュウミカン、イヨミカンを筆頭に、ネーブルオレンジ、スウィートオレンジ、ナツミカン、ポンカン、デコポン、キンカン、ブンタン、カボス、ユズ、スダチ、サンポウカン、シトロン(Citrus medica)、レモン(フランスではレモン〔C. limon〕のことをシトロンという)、ハッサク、ベルガモット、イヨカン、ライム、サワーオレンジ、タンカン、タンジェリン、マンダリン、沖縄のシークヮーサーなど、いくつもこの仲間があげられる。交配すると、すぐに雑種ができる(美味かどうかは別として)。
 最近では、ユズのエッセンスが高知県で生産されている。私はこれをイカのシオカラにちょっとたらして食べるのが大好きだ。一度ためしてごらんなさい。ヤミツキになるから。
 
主要成分(%で示す。これはC. aurantium L. ssp. amaraの成分だが、それも、産地により大幅な変動がある。一つの目安とされたい)
 リナロール     19〜20
 リナリルアセテート 46〜55
 ネリルアセテート  2〜3
 α-テルピネオール  4〜8
 ゲラニオール    2〜4
 ミルセン      1〜6
 
注) C. aurantium L. ssp. amara以外のミカン科果実を併用したり、あるいは代用としたりすることが多いため、その成分も、同じ「プチグレン」といいながら、大幅に製品によって異なり、当然その香りもちがってくる。いわんや偽和品においておやである。
 
・微小成分について
 プチグレン油には、400種以上の成分が含まれる。今後の研究で、この数はさらに増えるだろう。それがプチグレン油の特異な香りの源になっている。私は南仏グラースで、ビターオレンジの葉をとって、揉んで香りを嗅いだが、あの香りこそ、ほんもののプチグレン油の香りだったと、いまにしてつくづく思う。
 
これの微小成分としてβ-ダマスケノン、β-イオノン、2-イソプロピル-3-メトキシピラジン、それにα-テルピニルアセテートなどがあげられる。これらは、薬効にはさして寄与するものではないが、これらもプチグレン油の香りを形成するのに大きく貢献する。
 
・偽和の問題
 プチグレン油の偽和には、レモングラス油がよく利用される。レモングラス油をプチグレン油と詐称して売るヤカラもいる。また、合成したシトラール、レモン油なども偽和・増量のためによく使われる。
また、プチグレン油自体も、もっとずっと高価なネロリ油の偽和に使われる。プチグレン油をネロリ油だといって販売するメーカーもたくさんある。
同じ果樹の花を使うか、葉・小枝を用いるかの差だけなので、こんなインチキはかんたんにできるわけだ。
 
petit grain(プチグレン)は、フランス語で「小さい粒」という意味。この精油を顕微鏡でのぞいて見ると、小さい粒々がたくさん浮いていることから、この名ができたとされる。また、その他の説もいろいろある。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ビターオレンジのプチグレン油では7%濃度で、またビガラディアレモンでは10%濃度でいずれも認められなかった。ただし、極めて稀な例として、200人の皮膚炎患者のうち1人が感作性を示したケースが報告されている。
 
 光毒性
  認められない。
 
注)プチグレン油は、ビガラディアレモンまたはビガラディアオレンジの葉・小枝を水蒸気蒸留して抽出する文字通りの精油である。だから、果皮を冷搾して得られるエッセンスではない。したがって、光毒性のあるフロクマリン類などは一切含まれない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、最初痙攣惹起作用をおこし、ついで鎮痙効果を示した。
 
 抗菌効果 各種細菌にたいして強力な抗菌作用を示したとの報告があるが、そうした作用は認められなかったとする学者もおり、最終的な結論は、まだ出ていない。
 
 抗真菌効果 一般的に、真菌の種類により強弱の差はあるものの抗真菌力はかなりあるといってよい。
 
 抗酸化力 微弱ながら、あるとされる。 

2014年8月12日火曜日

フェンネル(ウイキョウ) | 精油類を買うときには注意して!(25)

フェンネル油
 
 フェンネルは、セリ科ウイキョウ属の1年草あるいは多年草。私にはさして魅力的とは思えないその散形花には、開花期には昆虫がたくさん集まる。
 ヨーロッパからアジアにかけて数種が分布する。
 
学名① Foeniculum vulgare var. amara Miller
    英名はBitter fennel(ビターフェンネル)、日本ではフェンネル、茴香(ウイキョウ。これは、中国語の茴香〔フイシャン〕に由来し、鮮度の落ちた魚類を用いた料理で、この実を香味料にすると、その香りを回〔かえ〕す、すなわちフレッシュなよい香りに戻すとの意味をあらわす)と称される。
 草高1〜2メートルになる大型草本。中国には4〜5世紀に西城から伝来し、日本には9世紀前に中国から渡来した。フェンネルは古代ギリシャではマラトン(Marathon)と呼ばれた。これはマラソン競技が行われた土地が、これの群生地だったことによる。それはどうでもいいが。中世以来、ヨーロッパではフランス、イタリア、ロシアなどの料理にこの実が香味料としてひろく利用されるようになった。
 インドでも香味料として古来から使用された。
 中国では、腹部・胸部の鎮痛剤としても用いられている。
 日本では、長野・岩手・富山の各県で栽培される。
 
学名② Foeniculum vulgare var. dulce Miller
    英名はSweet fennel(スイートフェンネル)、Florence fennel(フローレンスフェンネル)、日本ではイタリアウイキョウ、アマウイキョウと称される。
 このウイキョウは、①のビターフェンネル同様に、その実が香味料としても使われるが、それよりもウドのように軟白栽培して、野菜としてその群生葉の基部(直径10cmくらいになる)を煮て食べる。これがうまいんだな。
 
 ビター、スウィートの両種とも、その実を採取して水蒸気蒸留して精油を抽出する。
 現在、スペイン・東欧諸国で多く栽培されている。
 
 
主要成分(%で示す。ビター・スウィート両種をひっくるめたおおよそのパーセンテージである)
 トランス-アネトール   30〜75
 シス-アネトール     0〜0.3
 フェンコン       10〜25
 メチルカビコール    1〜5
 リモネン        1〜55
 α-ピネン        1.5〜55
 
・偽和の問題
 アロマテラピーで、というよりも、香料工業において重要視されるのは、スウィートフェンネル油のほうである。そこで、ビターフェンネル油でこれが偽和されることは往々ある。そしてまた、いずれも安あがりに合成したトランス-アネトール、フェンコン、メチルカビコール、リモネンなども偽和のために大いに利用される。そのほか、フェンネルの近縁のセリ科植物の実を蒸留した各種留分も、増量のために使われる。
 
・毒性
 LD50値
  ビターフェンネル油:
   ラットで4.5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
  スウィートフェンネル油:
   ラットで3.8g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ビター・スウィートの両種で、ヒトにおいて4%濃度でこれらは一切認められなかった。しかし、スウィートフェンネルを未稀釈でマウスの皮膚に適用したところ、激烈な反応を呈し、ウサギの皮膚でテストしたところ、相当な反応が見られた。
 アネトールは一般にアレルギーを惹起する作用を示し、有毒成分の一つに数えられる。
 
 光毒性
  認められない。
 
・作用
 薬理作用 スウィートフェンネル油は、モルモットの回腸で、in vitroで強烈な鎮痙惹起作用をあらわし、ついで鎮痙作用を示した。
 フェンネル油は、エストロゲン様作用(女性の発情性ホルモン的な働き)を示すとされる。これが、女性のバストを大きくするか、また泌乳量を増加させるかは目下、研究中。
 ハーブとしてのフェンネルを摂取させた家畜にも、そうした作用のせいで繁殖上の問題を生じたというケースがいくつも報告されている。なお、妊娠中の女性のこの精油の摂取を禁忌とする学者もいる。
 抗菌効果 あまり強力とはいえない。あることはあるといった程度。
 
 抗真菌効果 かなり強力。
 
 駆風作用 とくに小児において顕著とされる。しかし、私はこれを摂取した子供がブウブウ放屁するのに接した記憶はいまのところない。 

2014年8月7日木曜日

パルマローザ | 精油類を買うときには注意して!(24)

パルマローザ(Cymbopogon martinii Stapf. var. motia、別名 Andropogon martinii Roxb. var. motia)油

 イネ科のオガルカヤ属の多年草。これに属するものは、アフリカ・アジアの熱帯と亜熱帯との各地方に生える。
 イーストインディアン油、ターキッシュゼラニウム油とも称される。バラを思わせるフローラルな甘い香りの精油。
 原産地 インド、マダガスカル、中央アメリカ、ブラジル。
     現在も、これらの地域で栽培されている。ほかにコモロ諸島およびセーシェル諸島でも、これが栽培され、精油が生産される。
 精油 花の咲く前に収穫した全草を、1週間ほど乾燥させてから水蒸気蒸留して搾油する。

主要成分(%で示す)
 ゲラニオール     76〜83
 ゲラニルアセテート  5〜11.8
 リナロール      2.3〜3.9
 ネラール       0.3〜0.6
 ファルネソール    0.3〜1.5
 β-カリオフィレン   1〜1.8

 以上はおおよその目安であり、産地その他の条件により、成分に相当な変動がある。
 パルマローザの近縁植物に、Cymbopogon martiinii Stapf. var. sofiaがある。これは「ジンジャーグラス」と呼ばれる。これからジンジャーグラス油を蒸留抽出する。
 C. martinii var. motiaとC. martinii var. sofiaとをまとめてパルマローザ油と称することもある。Var. motiaのほうが品質のよい洗練された香りの精油と考える人のほうが多い。

・偽和の問題
 ジンジャーグラス(Var. sofia)は、野生で収穫しやすいことから、これからとった精油を偽和剤とすることがひろく行われている。しかし、ジンジャーグラス油のゲラニオール含有量は、Var. motiaよりも少ない。偽和のために、さらにテレビン油、シトロネラ油、合成したゲラニオールが加えられることもよくある。
 また、このパルマローザ油自体も、ゼラニウム油、バラ油の増量のために利用されることが多い。

・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)

 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で認められなかった。

 光毒性
  報告例なし。

・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで鎮痙作用を示した。
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、かなり強力な抗菌力を発揮する。

 抗真菌効果 中程度の抗真菌作用を示すことが報告されている。

 その他の作用 かなりの酸化防止力がある。また、CNVの波形を見ると、この精油の芳香にはリラックス作用があることがわかる。