2014年1月23日木曜日

精油の化学⑩ モノテルペン類

モノテルペン類
 モノというのはC原子が10個ある化合物の意。
 
  ・効果① ー コルチゾン様作用
    コルチゾンとは、コーチゾンとも呼び、副腎皮質ホルモンの1種である(コルチゾン様とは、それに類似した効果を示すということ)。糖代謝を促進し、血糖を増加させ、リンパ系の作用を弱める力をもつ物質。医薬品として、その誘導体ヒドロコルチゾンが利用されている。これは、アディソン病、結膜炎、関節リウマチなどに用いる。長いこと使うと、浮腫、高血糖症などの副作用が生じる。
     ② ー 空気中の細菌を殺す作用
     ③ ー 心身の刺激作用
     ④ ー 強壮作用
     ⑤ ー 充血作用
     ⑥ ー リンパ系活性化作用
 
 ◎注意すること
  この成分が皮膚焼灼(しょうしゃく)作用を示すことがあるので要注意。とくに、ピネン、パラシメンおよびリモネンにその効果が著明。にもかかわらず、その殺菌力は比較的弱い。
 
 ◎モノテルペン類を多く含有する精油類
  アンジェリカ(Angelica archangelica)油
   このセリ科の草本(北欧・アイスランド・グリーンランド・中部ロシアなどの水の多いところを好む植物)の種子と根とから蒸留抽出する精油。
  レモン(Citrus limon)のエッセンス
   カンキツ類のミカン科の果樹の果実の果皮を圧搾してとる。リモネンというモノテルペンを、52%ないし80%も含む。
  スウィートオレンジ(Citrus sinensis)のエッセンス
   ミカン科の果実の果皮を圧搾抽出したもの。モノテルペン類をおよそ80%含有する。
  サイプレス(別名イタリアイトスギ)(Cupressus sempervirens)の精油
   ヒノキ科の木本の葉・毬果・葉のついた小枝を蒸留して得る。モノテルペン類としては、α-ピネン(45.5%)、δ-3-カレン(25.5%)を含んでいる。木部のみを原料とする場合もある(これはフェノールメチルエーテルに属するカルバクロールメチルエーテルの含量が多くなる)。
  ジュニパー(Juniperus communis)油
   ヒノキ科の木本。これは、その液果のついた小枝を蒸留して得る。非常に多量のモノテルペンを含んでいる(α-ピネンを40〜90%、β-ピネンを1.5〜4%、サビネンを10〜40%、リモネンを含有)。
  フランスカイガンショウ(Pinus pinaster)の精油
   マツ科の木本。オレオレジン(含油樹脂)または樹皮あるいは針葉を蒸留して抽出する。針葉由来のものは、αおよびβ-ピネン、δ-3-カレン、テルピノレンを含み、樹皮由来のものはモノテルペンの含量はきわめて少量で、オレオレジン由来のものはαおよびβ-ピネンをおのおの63%および27%含む。
  スコッチパイン(Pinus sylvestris)油
   マツ科の木本の針葉を蒸留して抽出。モノテルペンとしては、αおよびβ-ピネンを、それぞれ40%および13%、リモネンを20〜30%含む。
  マスティックス(Pistacia lentiscus)の精油
   ウルシ科の木本のついた小枝から蒸留抽出する。モノテルペンとしてはα-ピネン(6.5〜20%)、ミルセン(4〜15%)、サビネン(1.5〜15%)、δ-3-カレン(0.3〜0.8%)を含んでいる。
  テレビンノキ属(Pinus sylvestris、P. palustris、P. maritima)油
   このマツ科木本類の松脂、すなわちターペンタインを蒸留するとテレビン油が抽出される。これは各種のモノテルペンをそれぞれ多量に含有している。
  タイム パラシメンケモタイプ(Thymus vulgaris paracymeniferum)油
   シソ科の小低木。パラシメンを主要成分とし、さらにγ-テルピネンを含む。
 
 ◎主要なモノテルペン類
  α-ピネン     リモネン
  β-ピネン     ミルセン
  カンフェン    パラシメン
  カレン      フェランドレン
  シメン      サビネン
  ジペンテン    テルピネン

2014年1月14日火曜日

カユプテ(カヤプテ、カジュプト)| 精油類を買うときには注意して!④


カユプテ(カヤプテ、カジュプトなどとも呼ばれる) 
 
このフトモモ科の常緑高木には種類がいくつかあり、それぞれ学名が異なる。
Melaleuca leucadendraM. cajuputiiM. linariifoliaなど。この木の小枝・新鮮な葉を蒸留したものが、カユプテ油である。
 
 原産地はインド、ベトナム、インドネシア付近と考えられている。
 
 ・主要成分(%で示す)
  1,8-シネオール     14〜69%
  α-ピネン        8.0%
  β-ピネン        1.1%
  リモネン        痕跡量
  リナロール       3.5%
 
 ・この精油の偽和の問題
 「カユプテ油」というラベルが貼ってある精油びんを見ても、すぐ信じてはいけない(何事も無批判に信じるものは救われない)。
 カユプテ油だと称して、もっとずっと安価に手に入るユーカリ(Eucalyptus globulus)油を売るものも多くおり、またユーカリ油をベースにして、ここに少量の合成したテルピニルアセテート、テルピニルプロピオネート、各種テルピネオールエステルを混入させたニセものを販売する輩(やから)もいる。よくよく注意して頂きたい。
 同じフトモモ科の木の葉からとるニアウリ(Melaleuca quinquenervia)油は、このカユプテ油ときわめてよく似た成分構成をもつが、値段はほぼ同じである(しかし、ニアウリ油には、シネオールケモタイプとネロリドールケモタイプとがあり、両者には成分の差、したがってその特性の差があることをお忘れなく)。
 
 ・毒性
  ラットだとLD50値は4g/kg(経口)、ウサギの場合、>5g/kg(経皮)
  刺激性/感作性は、ヒトの皮膚に濃度4%で適用したが、これらはいずれも認められなかった。
  光毒性は、いっさいない。
 
 ・効果
  ー 弱い鎮痙作用 モルモットの回腸で、弱い鎮痙作用を示した。
  ー 抗菌作用 ひろいスペクトラムの抗菌作用がある。直接皮膚につければもちろんのこと、これを室内などに蒸散させても、空気中の細菌を殺す、かなり強力な力を示す。
  ー 抗真菌作用 真菌の種類にもよるが、多かれ少なかれ真菌の増殖を抑制したり、殺したりする作用がある。
  ー 抗酸化作用 ないといってよい。
 
カユプテ油は、内用すると(0.05ml〜0.2ml)駆風作用を発揮する。つまり腸内にたまったガスを屁として出してくれる。また、この精油を外用すると、穏和な発赤作用を示す。この効果があることから、カユプテ油は、打ち傷や捻挫や擦過傷(すり傷)などのためのいろいろな塗布剤によく配合されている。「発赤(ほっせき)」というのは、血液が特定の部分の皮膚の下に集中することで、これによって傷害の治癒が促進されるわけである。
 

2014年1月6日月曜日

精油の化学⑨ エーテル類

 ◎エーテル類
  ・効果① ー 非常に強力な鎮痙作用
     ② ー 神経平衡回復作用
     ③ ー 鎮痛作用・不安緩解作用
     ④ ー 抗うつ作用
     ⑤ ー 抗アレルギー作用

 ◎注意
  エーテル類は、エステル類にきわめて類似した作用を示すが、人間をリラックスさせる力は、さらに強力である。

 ◎エーテル類を豊富に含む精油類
  エストラゴン(別名タラゴン)(Artemisia dracunculus)油
   キク科のこの草本の花の咲いた全草を蒸留抽出した精油。ジャン・バルネ博士は「(エストラゴンは)ヨモギ属の食用草本で非常にすばらしい香味料であり、必要な場合に、塩、ペッパーおよびビネガーの代用もつとめられる」と述べ、この精油にしゃっくりをとめるパワフルな効果があることを自分が扱った実例をあげて示している。この生の葉をハーブとして食べても同じ効果があるそうである。
  バジル(Ocimum basilicum)油
   バジルにはいくつか種類があるが、O. basilicum var. "grand vert"(グランベール変種)、O. basilicum var. minimum(ミニマム変種)、O. basilicum var. “feuilles de laitue”(「レタス葉」変種)の花の咲いた全草を蒸留して得る精油がいずれも利用される。

 ◎主要なエーテル類
  カルバクロールメチルエーテル
  メチルカビコール
  メチルオイゲノール
  ミルテノメチルエーテル
  チモールメチルエーテル 

2013年12月24日火曜日

カモミールローマン・カモミールジャーマン| 精油を買うときには注意して!③

 カモミール(ローマン)(Chamaemelum nobile)油
  カモマイルとも発音する(英国ではこれがふつう。英国ロンドン付近が原産地とは意外な感じもする)。しかし、米国人の多くはカモミールと呼ぶようだ。カモミールを和製英語とカンちがいをしていたさる博学の方がおられたので念のため。
  このハーブは江戸時代から知られており、蘭学者たちはこれをオランダ語のKamille(カミッレと発音する)を音写して「カミツレ」と書いた。江戸時代には促音を現代のように小さい「ッ」で表わすことを人びとはしなかったので、こう蘭学者たちは表記した。元の正確な発音を知らない人びとは、これを文字どおり「カ・ミ・ツ・レ」と読んだ。のちに、それがさらに変化して「カミルレ」などと記されるようになった。
また、これをカモミラなどという人もいる。
 
 ・主要成分(%で示す)
  メチル-アンゲレート            16%
  3-メチルペンチルイソブチレート      12%
  2-メチルブチルアンゲレート        4〜25%
  メチル-アンゲレート-3-メチルペンチル    16%
  イソブチレート               12%
 
 カモミール(ジャーマン)(Matricaria recutita)油
  シス-スピロエーテル            1%
  カマズレン                 1〜18%
  α-ビサボロールオキシドB           11%
  α-ビサボロールオキシドA           9〜23%
  α-ビサボロール              10%
  ファルネセン               15〜28%
 
 一般にジャーマンカモミール油のほうが高価。濃青色の青インクのような色。ただし、これは時間の経過とともに、色が薄れていく。この色は、これに含まれるカマズレン分のためである。ジャーマンカモミールの原産地はその名の通りドイツ辺りが原産地である。
 
 ・偽和の問題
  ジャーマンカモミール油として売られているものには、合成したカマズレンを入れた製品がある。こうすると、天然のものよりずっと安あがりにできるからだ。一部の業者はジャーマンカモミールから溶剤でアブソリュートを抽出している。すると非常に粘性が高いアブソリュートがとれる(この溶剤は人体に危険をもたらす)。そして、ここにうんと安ものの化学合成物質類を加えると、もっともらしいジャーマンカモミール油が多量にできあがるというわけである。また、良心的なジャーマンカモミール油も、棚おき期間が長いと、さきにものべたようにカマズレンが変化して、精油はブルーから濃緑色に変ったり、茶色になったりする。こうした加齢油は当然ながら薬効がぐんと落ちる。しかし、精油のびんが褐色だとなかなかその変りようがわからない。何とかして中身を見せてもらうように、販売者と交渉するしか方法がないが、これは出来ない相談かもしれない。
 
 ジャーマンカモミールは、現在アルゼンチンで野草としてたくさん生えていて、採取する人もいない。もったいない気もする。これには、こんなわけがある。第二次大戦でナチスを支持したドイツ人(民間人のみならず軍関係者も含む)をローマ教皇庁(教皇庁が戦時中、600万のユダヤ人その他の大虐殺を黙認し、ナチスに実質的に協力したことを忘れてはならない)がこっそり援助し、アイヒマン(ナチスのユダヤ人絶滅計画の実行責任者)を含む多くの旧ナチス関係者を助けて、金銭・旅券・難民証まで与えて、彼らを、親ナチス派のペロン大統領が君臨していた南米アルゼンチンに逃げこませて、彼らを保護させた。
アルゼンチンはカトリックが国教で、国民の95%がカトリックの信者だ。ローマ教皇猊下(げいか)の仰せとあらば、大統領は何でもした。
このナチスの残党どもの旅行カバンのなかにはジャーマンカモミールの種子が知らぬ間にたくさん入っていた。これが、こぼれこぼれてアルゼンチンの山野にひろく一面に花を咲かせ、はしなくもナチスの言語に絶する悪業のしるしを残したということである。風にそよぐジャーマンカモミールの花には何の罪もないのだが。もし芭蕉がそうした事情を脳裏に浮かべつつ、この風景を眺めたら、どんな句を作っただろうか。
 
 ・効果
  ジャーマンカモミール油は、含有するα-ビサボロールとビサボロールAおよびBのため、またシス-スピロエーテルのためにモルモットの回腸で鎮痙作用を示すことがわかっており、ローマンカモミール油にも同様の効果がある。
 
  抗菌作用
   ジャーマン・ローマンともにこの作用があることが判明しているが、その力は弱い。抗真菌作用もあるが、これも特筆するほどでない。抗酸化作用がジャーマンには認められる(ローマンにはない)。ジャーマンにもローマンにも鎮静作用があり、これはCNV(随伴性陰性変動)によってわかる。
 

 

 なお、ジャーマンもローマンも比較的、精油としては高価だが、ヨーロッパではこれらのカモミールはハーバルティーとして多く使われるためだ。ローマンのハーバルティーには鎮静効果があり、ジャーマンのハーバルティーには抗炎症作用があるので、これで患部に湿布すると有効。また、寝つきの悪い人間にはどちらのカモミールティーも卓効がある。マリア・リズ=バルチン博士によると、12人の不眠症の人間にこれらのティーを飲ませたところ、10人までが10分後に入眠した。そして、深い眠りが90分あまりもつづいたそうである。 

2013年12月17日火曜日

精油の化学⑧ エステル類

 ◎エステル類
  ・効果① ー 抗痙攣作用
     ② ー 鎮静作用
     ③ ー 強壮作用
     ④ ー 神経平衡回復作用
     ⑤ ー 不整脈正常化作用

 ◎特徴
  精油類のなかに存在する各種のエステルは、その精油中のアルコール類の量にそれぞれ規則的に対応した分量で含有されている。ここに注意すること。

 ◎エステル類が豊富な精油(エッセンス)類
  ローマンカモミール(Chamaemelum nobile)油
  ビターオレンジ(別名ビガラディアオレンジCitrus aurantium ssp. amara)エッセンス
   ミカン科のこのオレンジの果皮を圧搾(熱を加えない冷搾法で)して抽出したエッセンス。各種のエステルを含んでいる。
  ヘリクリスム(Helichrysum italicum serotinum)油
   キク科のこの草本の花の咲いた先端部分を蒸留してとる精油(アブソリュートを抽出することもある)。この精油はエステル分としてネリルアセテートを75%も含有する。ネリルブチレートも含む。
  真正ラベンダー(Lavandula angustifolia)油
    少なくとも40%、最高で60%ものリナリルアセテートを含む。
   ヨーロッパのAFNOR規格(日本のJAS規格とJIS規格をあわせたようなもの)ではこのリナリルアセテート分が少ないと、ラバンジン油とみなされてしまう。
   日本の秋田県で試験的に植えた真正ラベンダーでも60%ものリナリルアセテートを含んでいた例が報告されている。
  ラバンジン(Lavandula hybrida)油
   真正ラベンダー(L. angustifolia)とスパイクラベンダー(L. spica, L. latifolia)との属間交雑種で、2代めができないラベンダーの一種であるため、すべて挿し木で畑に植える。現在、フランスでは真正ラベンダーは10%ぐらいしか栽培されておらず、それよりずっと育てやすく、収油率もはるかに高いラバンジンが90%も植えられており、真正ラベンダー油の生産量は以前にくらべて、大幅に少なくなってしまった(現在、真正ラベンダーがもっとも多く植栽され、その精油の生産量も世界一なのは、ブルガリアである)。ラバンジンも何種類かあり、リナリルアセテート、ボルニルアセテート、ラバンズリルアセテート、ゲラニルアセテート(それぞれの量はシュペール、アブリアリス、グロッソなどラバンジンの種類によってかなり差異がある)を含んでいる。
ラベンダーの畑として紹介されている写真は、ほとんどがラバンジンのものである。
ピュアな真正ラベンダー油と称していながら、真正ラベンダーの精油にラバンジン油を混ぜて増量したものは、なかなかGC/MS(ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー)で検査しても見分けることは難しいため、この偽和はいちだんとタチが悪い。


 ◎主要なエステル類
  ボルニルアセテート(酢酸ボルニルともいう。以下同様)
  ゲラニルアセテート
  ラバンズリルアセテート
  リナリルアセテート
  メンチルアセテート
  ミルテニルアセテート
  ネリルアセテート
  テルペニルアセテート
  イソブチルアンゲレート(アンゲリカ酸イソブチル)
  ベンジルベンゾエート(ベンジル酸ベンジル)
  シトロネリルフォルミエート(蟻酸シトロネリル)
  ゲラニルフォルミエート(蟻酸ゲラニル)
  メチルサリチレート(サリチル酸メチル)

2013年12月10日火曜日

Ylang ylang / Ilang ilang(イランイラン)|精油を買うときには注意して!① (50音順)

 「精油の化学」は12まで続きますが、ちょうど真ん中まできたので、ここらで一休みして気分転換に、精油やエッセンスを買うときに注意しなければならないことをいつくか挙げてみました。このシリーズは50音順で書いていきます。

 イランイラン(Cananga odorata)油

  バンレイシ科の木本の花を蒸留して抽出する精油。
  この木の花を早朝摘んだものを蒸留する。レユニオン島、コモロ島、フィリピン、インドネシア原産。現在はほとんどマダガスカルで生産されている。
 
 ・主要成分(%で示す)
  ゲルマクレンD            5〜10%
  リナロール              2〜19%
  p-クレシル-メチル-エーテル(PCME) 0.5〜16.5%
  ベンジルアセテート          3〜25%
  ベンジルベンゾエート         2〜10%
  ゲラニルアセテート          3〜10%
  β-カリオフィレン           1%
 
 最初に蒸留抽出されるエクストラグレードのイランイラン油は、ほかの各種グレードのイランイラン油よりも、ベンジルアセテート分とp-クレシル-メチル-エーテル(PCME)分を多量に含み、反対にセスキテルペン類の含有量は比較的低い。しかし、この比率はその蒸留のつど大きく変化するので、提供業者同士間でのそれらの比率の差をきちんと示すことはムリである。
 イランイランの花は、そのまま何回も蒸留されるが、それぞれの成分の割合は、大きく異なっている。当然、香りも変化する。
 
 この精油が何度めの蒸留でとったものかによって、精油の品質は高いものから低いものになっていく。最初に抽出されるいちばん高価な留分は、もっとも抽出時間が短く、3時間ほどである。これをエクストラシュペリアーオイルと呼ぶ。さらにまた時間をかけてとるのがエクストラオイル(グレード1)といわれるものである。そしてさらに30分強かけて抽出するものがグレード2のオイル、そして最後にさらに16時間もついやしてとるのがグレード3のオイルである。最高品質のエクストラシュペリアーオイルが最も薬理効果が高いのは言うまでもない。
このグレードの低いイランイラン油は、エクストラシュペリアー、エクストラの各精油の増量剤としてよく使用される。ガージャンバルサム油も増量剤として使われるが、これはα-グルユネンがあることで、検査すればそれとすぐわかる。偽和(要するにニセモノをつくること)は、安物のオイルに合成化学物質のバニリン、p-クレシル-メチル-エーテル、メチルベンゾエート、ゲラニオール、イソゲラニオール、イソサフロール、ベンジルベンゾエート、ベンジルアルコール、ベンジルプロピオネート、シンナメート、アニシルアセテート、アニシルアルコール、コバイバ油、ペルーバルサム油その他の天然精油などを、どしどし添加して行われる。安物のイランイラン油には、アロマテラピー効果などを期待するほうが愚かである。第一、その香り自体、下品そのもので、こんなものを用いてつくった香水や香粧品などを嗅いでいると、私などは吐きけを催し、卒倒しそうになってくる。残念ながら市販の「イランイラン油」はほとんどこのようなニセモノである。
最高級のイランイラン油ならばだが、鎮痙作用、抗菌作用、抗真菌作用などがある。さらに、その『催淫作用』は有名だ。 これは脳に影響を与えることで、CNV(随伴性陰性変動)のデータの観察によっても確かめられている。したがって、この精油もローズマリー油同様に脳の老化を遅らせる効用もあるのではないか。
 
付け加えると、これからシリーズ的に各種の精油をご紹介するが、お読みになる方には「すべての希望を捨てよ」といいたくなる。つくづくこの業界の人間には、安い原価でつくったニセモノを高く他人に売りつける業者が多いと感じないわけにいかない。精油を見たらニセモノと思え、といわざるを得ない、と悲しい気持ちになる。ただまあ、香料用だと言われれば仕方ないが。
 
ルネ=モーリス・ガットフォセのころはもとより、あるいはジャン・バルネ博士の時代でも、今日にくらべれば、偽和の技術は幼稚であったからこそ「アロマテラピー」などというものを考えることができたのだと思う。
ロシアから精油に合成アルデヒドを加える技術をもたらし、「シャネルの5番」をつくったエルネスト・ボーに呪いあれ!と叫びたくなる。もちろんこれは、アロマテラピーの観点から見れば、ということである。

精油の化学⑦ ジオン類およびラクトン類

 ◎ジオン類およびラクトン類

  ジオン類とラクトン類とは、いずれも微量の成分であるが、きわめて強力な活性を有する。

  ・効果① ー 非常に強い抗凝固・凝血作用
     ② ー 抗痙攣作用
     ③ ー きわめてパワフルな粘液分泌阻止作用
     ④ ー 体温低下作用

 ◎ジオン類・ラクトン類を豊富に含む精油類 ー 
  ローマンカモミール(Chamaemelum nobile)油
   キク科のこの多年草の花頭を蒸留して抽出する精油
  ジャーマンカモミール(Matricaria recutita)油
   キク科のこの1年草の花頭を蒸留して得る精油
  ヘリクリスム(Helychrysum italicum var. serotinum)油
   キク科の草本の花の咲いた先端部分を蒸留してとる。ヘリクリスムは別名イモーテル、あるいはイタリアン エヴァラスティングとも称され、多くの種類があり、それぞれ精油あるいはアブソリュートとして利用される。

 ◎主要なジオン類とラクトン類
  アラントラクトン
  イリジオン
  セスキテルペンラクトン類