2014年10月28日火曜日

ミント類| 精油を買うときには注意して!(32)

ミント類
 
  ミントはシソ科のハッカ属の一年草または多年草。40もの種類があるが、どれにも強弱の差こそあれ、芳香がある。北半球の温暖な地域に広範に分布している。ハッカの仲間は古来有名で、古代エジプト、古代ローマでも香味料、薬剤原料として利用された。新約聖書でも、これについての言及がある。
 ミント類でとくに有名なのは、ペパーミント、スペアミント、コーンミント(別名 ジャパニーズミント)である。そのほかベルガモットミント、フィールドミント、ホースミントなども広く知られている。現在、ミント類の主要生産国は、米国と南米である。
 
ペパーミント 学名 Mentha x piperita L.
 セイヨウハッカとも呼ばれる。ヨーロッパに生育する多年草で、ベルガモットミント(M. aquatica)とスペアミント(M. spicata)との自然交雑によって生じた。これは各地で栽培される。草丈は30〜40cm。茎の先端に紫または白色の穂状の花序をつける(ここが、ジャパニーズミントすなわち和種ハッカとの外観上の大きな相違点)。花は8〜9月ごろ咲く。この花の咲いた先端を蒸留してとった精油は、チューインガム・洋菓子・ゼリーの香料にされ、練り歯磨き・化粧品の賦香にも利用される。また、薬剤として強心剤・興奮剤などとしても用いられる。
 
スペアミント 学名 Mentha spicata L.(別名 M. viridis L. ミドリハッカ、オランダハッカ)
 中央ヨーロッパ原産の多年草。M. longifoliaとM. aquaticaとの交雑種。中国では留蘭香という。メントール含量が少なく、カルボンを58〜70%含む。米国ミシガン州、日本では北海道で栽培される。
 
コーンミント(別名 ジャパニーズミント) 学名 Mentha arvensis var. piperascens Holms
 日本、朝鮮、シベリアに生える多年草。草丈は60cmぐらいにまでなる。7〜8月に葉腋に淡紫色の花を咲かせる。中国語で家薄荷という。このハッカはメントール(ハッカ脳とも呼ぶ)含量が高く、以前は世界のハッカ脳の需要量の四分の三を日本がまかなっていた。生産地は北海道の北見だった。しかし、第二次大戦後は、主要生産地は米国や南米などに移り、合成品も多量に生産されるようになって、北見では昔の面影はなくなってしまった。
 
・精油の抽出
 ミント類は、いずれも花の咲いた時期の先端部を採取して、水蒸気蒸留して、それぞれの精油を得る。原料植物を生乾き状態にして蒸留する場合もある。
 
 
主要成分(%で示す)各成分含量はおおよその目安である。
           ペパーミント     スペアミント     コーンミント
 メントール     27〜51      0.1〜0.3       65〜80
 メントン      13〜52      0.7〜2        3.4〜15
 イソメントン    2〜10       痕跡量        1.9〜4.8
 1,8-シネオール   5〜14       1〜2        0.1〜0.3
 リモネン      1〜3        8〜12       0.7〜6.2
 カルボン      0          58〜70      0
 
 
・偽和の問題
 いちばん偽和されるのは、ペパーミント油である。たいてい、ずっと価格の安いコーンミントで増量する。あるいはコーンミント油自体をペパーミント油と詐称する。詳しい説明は省くが、この偽和は看破するのがかなり困難である。
 
・毒性
 LD50値
   ペパーミント 4.4g/kg(経口) ラットにおいて
   コーンミント 1.2g/kg(経口) ラットにおいて
   スペアミント 試験例は報告されていない
 
 刺激性・感作性
  ペパーミント
   刺激性を示すことがあり、また各種のアレルギー反応を生じさせる場合がある。角砂糖にこの精油を数滴落として服用しただけで、胸焼けを生じさせたり、その強烈な香りのせいで窒息しそうになったという人もいる。
   アレルギー反応は、この精油を多量に配合した練り歯磨きをたくさん使用したり、またこの精油を入れたスウィーツ類を食べすぎたりしたときに生じるケースがある。しかし、あまり多量に摂取しない限り、そんなに心配することはない。それほど危険なものだったら、厚生労働省が放置しておくわけがない。
  スペアミント
   4%濃度で摂取しても、問題はない。アレルギー反応をおこした人間の例も皆無ではないが、まず心配する必要はない。よほど非常識に大量を摂取しない限り、ペパーミントより危険性はずっと低い。
 
 光毒性
  ミント類の精油で、光毒性を見出したケースはない。
 
・作用
 薬理作用 イヌにおいて、ペパーミント油、スペアミント油を水によくまぜて(水には不溶性だが)4%(敏感な人間には0.1%)濃度くらいで与えたところ、胃壁を弛緩させる効果がみられ、回腸・大腸の緊張・収縮力が減退した。ペパーミント油はマウスの大・小腸とモルモットの回腸とにおいていずれもin vitroで鎮痙作用を示した(マリア・リズ=バルチン博士による)。
 
 抗菌作用 細菌の種類により、ペパーミント油の抗菌力は多様で、強弱さまざまである。
 
 抗真菌作用 あまり強くない。
 抗酸化作用 なし。
 抗てんかん作用 各種のミント精油をエアロゾルとして噴霧することで、てんかんの発作を抑制ないし緩和する効果がみられた。
 
付記 ミント類には、ほかにペニロイヤルミント(M. pulegium〔これは有毒成分が多いので要注意。これには北米種とヨーロッパ種との2大ケモタイプがある〕)、スコッチペパーミント(M. cardiaca)など多数の種類がある。フランスのハーバリスト、モーリス・メッセゲが来日したとき、彼はmenthe verte(スペアミント)と講演で発言したのに、植物に詳しくない通訳が「ソフトミント」などと妙な訳をした。ソフトミント、ハードミントなどという英名のハッカ類は存在しない。通訳は、最低限の専門用語はマスターしなければいけない。ひどい通訳になると、problem(一般には「問題」という意味だが、そこでは「障害・病気」などと訳すべきところだった)を誤訳した。私は見かねて、その通訳にメモを渡して注意した。「問題が解決した」は「病気がなおった」と訳しなさい、と。 

2014年10月21日火曜日

精油のシナジー効果を利用した精油の新しいレシピ(2)

症状 ー 怖気(おじけ)、人前であがること
   (俳優の)舞台負け、実力の発揮の不能など
 
人間は、人にもよるが、実力はちゃんとあるのに、人の前では何かのパフォーマンスをしようとするとき、「あがって」しまい、心身が思うように働かなくなってしまうことが(うまく口がきけなくなることを含めて)ある。受験生などがこれに襲われると、落ち着いて試験問題に取り組めず、普段の学力が発揮できなくなり、その結果、試験に落ちてしまうことがある。入社試験などでも、同じことがいえる。
 
これもストレスの一種であろうが、これによって他の疾病が通常、随伴的に惹起されるほどのものではない。しかし、この「症状」に襲われた当人にとっては、これはことと次第によっては人生が左右されてしまう大問題ともなる。
 
これは日本人に特に多く見られるものと思っていたが、芝居っ気たっぷりのフランス人にもやっぱりあることを知った。私が若い頃、フランスのコメディー・フランセーズ(1680年ルイ14世の命で建設されたフランスでもっとも古い国立劇場)の所属俳優学校を出たばかりの男性俳優の一人が、私たちの前でヴェルレーヌだったか、ボードレールだったか忘れたが、そうした詩人の名詩を朗読した。ところがやっぱり「あがって」しまったのだろう。朗々と詩を詠んでいた彼がハタと口をつぐんでしまった。前の席にいた私が低い声で、その俳優にその詩句を教えると、彼はホッとした顔で無事にその詩を詠じ終えた。そして、私にチラッと感謝の視線を投げた。これは自慢でも何でもない。私だって人前で「あがって」しまって、妙なことを口走った経験は何度もある。しかも肝心なときに。
 
私はオペラ歌手と話したこともある。その歌手が言うには、ヴェルディーとかプッチーニとかといった作曲家による歌いなれた歌劇ではどうということもないが、新しい歌劇、それも稽古量が少ないもの、とくにそれを自覚しているときに何度も失敗したものだ、神様は意地悪な方さ、と笑って言っていた。
 
○今回のレシピ
 使用する精油は以下のとおり。
 
 Laurus nobilis(ローレル、ローリエ、ゲッケイジュ)油
 Lavandula angustifolia(真正ラベンダー)油
 Mentha pipertia(ペパーミント)油
 Ocimum basilicum(バジル)油
 
これらの精油をホホバ油のキャリヤーに5〜6%濃度に稀釈して、腎臓の上に1日に3〜4回すりこむ。おわかりかと思うが、念のために申し上げる。下腹に両手の親指をあてて手のひらを背中にあてる。その手のひらのところが腎臓の部位である。これにより、標記の「症状」(医学的な意味とは少し違うが)が好転すれば、これにこしたことはない。「症状」が好転したと思ったら、塗布はやめる。
 
 
このブレンドに用いる精油について
 
 ローレル油
   活性成分として ー
    モノテルペン類:α-ピネン(4〜6%)、β-ピネン(3〜5%)他
    モノテルペノール類:リナロール(8〜16%)、α-テルピネオール他
    テルペンエステル類:テルピニルアセテート(2.5〜6.5%)他
    フェノール類:オイゲノール(3%)
    フェノールメチルエーテル類:オイゲノールメチルエーテル(2.5〜7.5%)
    オキシド類:1,8-シネオール(35〜45%)
    セスキテルペンラクトン類(3%)
 
 
   特性として ー
    交感神経と副交感神経の平衡回復
    強力な鎮痙、冠状動脈拡張
    強力な鎮痛の各作用
 
 真正ラベンダー油
   活性成分として ー
    エステル類(非テルペンおよびテルペン):リナリルアセテート(42〜52%)他
    アルコール類(非テルペンおよびテルペン):リナロール(32〜42%)、テルピネン-1-オール-4(2.8〜3.6%)他
    ケトン類(非テルペンおよびテルペン):1-オクテン-3-オン(1.3%)他
 
   特性として ー
    強力な鎮痛、神経鎮静、筋肉弛緩、血圧低下、他
    強壮、強心
    血流のスムーズ化
   指示 ー
    神経症、不眠症、苦悶(強力な作用がある)、痙攣、頻脈、やけど、血液の凝固性過多
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、特にない。
 
 ペパーミント油
   活性成分として ー
    モノテルペン類(2.5〜18%):α-ピネン(2%)、β-ピネン(4%)、リモネン(2.3%)他
    モノテルペノール類:メントール(38〜48%)
    モノテルペノン類:メントン(20〜60%)、イソメントン、ネオメントン、プレゴン、他
    テルペンオキシド類:1,8-シネオール(5.75%)他
    テルペンエステル類:メンチルアセテート(2.8〜10%)他
 
   特性として ー
    神経強壮(およびその平衡回復)
   指示 ー
    自律神経ジストニー、無力症、頭痛
 
 バジル油
   活性成分として ー
    テルペンアルコール類:リナロール(0.6〜3.45%)、シトロネロール(0.3%)他
    フェノールメチルエーテル類(およそ90%):カビコールメチルエーテル(85〜88%)、オイゲノールメチルエーテル(1.6%)他
    オキシド類(<3%):1,8-シネオール(2.2%)他
 
   特性として ー
    強力な鎮痙、延髄および交感神経の調整作用(きわめて強力)
    鎮痛(強力)、血管内のうっ血除去
   指示 ー
    神経症、不安症(強力)、一部の抑うつ症、無力症
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
付記:
 現在、何かほかの疾患で病院・医院等を受診し、処方薬を服用している場合には、かならず、かかりつけの医師にこのブレンド精油の使用の可否を相談すること。
 
また、
あてに注文した精油をかならず用いること。それ以外の精油を使用した場合には、効果はないものと思って頂きたい。
これは、あくまで自己責任において自己治療するものであることを心に刻んでほしい。
「精油のシナジー効果」については、前回挙げたレシピ(1)の説明をじっくり参照されたい。 

2014年10月14日火曜日

マージョラム | 精油類を買うときには注意して!(31)

マージョラム(Origanum majorana)油
 
 マージョラムは、シソ科のハナハッカ属の双子葉植物で、多年草または亜低木(一部が木質化する)。地中海沿岸のフランス・スペインなどが原産地で、25種類ほどあり、現在も、この地域で香味料にされ、また観賞用に植栽されたりしている。
英語で、スウィートマージョラム、フレンチマージョラムと呼ばれるOriganum majoranaがマージョラムの代表格になっている。
 
 学名 Origanum majorana Moench.
 別名 Majorana hortensis L.
 
 これのごく近縁種にハナハッカ(コモンマージョラム、ワイルドマージョラム、オレガノ、オリガナムとも称される)がある。これもマージョラムとよく似た多年草で、マージョラム同様、香味料にされ、観賞用にもされる。マージョラムとほとんど同一視されている。この学名はO. vulgareという。オレガノはイタリア料理・メキシコ料理に不可欠の香味料。
マージョラムもハナハッカも、草丈30〜60cm。葉にはいずれもよい香りがあり、食べるとやや苦みがあるが、いける味だ。マージョラムは、以前はマヨラナと呼んだ。
 
1980年代に日本にハーブブームがおこったとき、そのリーダー的な存在だった熊井明子氏は、ちゃんと「マージョラム」と正しく発音しておられたのに、その弟子の一人で、ハーブ界に影響力をもつある女性が、これを「マジョラム」という奇怪な呼び方をした。しかも、「ジョ」の部分に変に高いアクセントをつけて。以来、この誤った呼称が一般に広まってしまった。悪貨が良貨を駆逐したのだ。
 
だから、私はこのハーブの話を人の前でするときには、「マーーーーーーーージョラム」とホワイトボード、黒板いっぱいに書いている。「盗んだ棒を返せ!」といいながら。
 
このハーブは、日本には江戸末期に渡来した。マヨラナは、学名の属名(あるいは種小名)をとったものである。これを「マヨナラ」などと、とんでもない発音をまじめでする連中が、20年くらい前までいた。それもたいてい男性だった。こんな奴らは絶対インポだったに相違ない。失礼、ちょっと興奮してしまった。英国人にも、この学名の種小名をmarjoranaなんて書くバカがいるからご注意下さい。
 
・精油の抽出
 マージョラム、ハナハッカともに葉と花の咲いた先端とを水蒸気蒸留して精油を得る。
 
マージョラムには、上述のスウィートマージョラム(O. majorana)のほか、スパニッシュマージョラムと呼ばれるハーブがある。これは、ハナハッカ属のスウィートマージョラムと違い、イブキジャコウソウ属で、学名はThymus capitatus(これはタイムの近縁植物。これもアロマテラピーで用いられる)という。
 
主要成分(%で示す)
          スウィート(フレンチ)マージョラム   スパニッシュマージョラム
 1,8-シネオール      0〜58               50〜62
 α-テルピネン       0                  1〜4
 γ-テルピネン       3〜16               0.4〜5
 テルピノレン       13〜19              10〜20
 α-テルピネオール     2〜6                2〜4
 テルピネン-4-オール    0〜30               0
 β-カリオフィレン     0〜2                0〜2
 
マージョラムには、スウィート・スパニッシュの両種とも、様々な種類があり、またケモタイプも多々あるので、それらの精油の成分にも、大きな変動がある。
 
・偽和の問題
 真正のスウィート(フレンチ)マージョラム油に、ティートリー油を加えたり、他の精油を脱テルペン処理して、本来捨てるはずのテルペン分をたっぷり添加したり、フレンチマージョラム油にスパニッシュマージョラム油やタイム油などを大量に混入させたり、スパニッシュマージョラム油自体をフレンチマージョラム油と詐称して販売する悪党も多い。いわゆるブランド品など、もっともヤバいといってもよい。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで2.2g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて濃度6%で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  スウィートマージョラム油については、まだ報告例がない。スパニッシュマージョラム油では光毒性はなかった。
 
・作用
 薬理作用 スウィートマージョラム油は、モルモットの回腸で、in vitroで、軽微な鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 スウィートマージョラム油は、各種の細菌にたいして殺菌・抗菌作用を示したとする報告がいろいろとなされている。フレンチ・スパニッシュの両精油にこうした効果があるとされてきた。しかし、リステリア菌(食中毒をおこす細菌)には不活性だったとの報告例もあるので、今後、さらに研究を重ねていく必要がある。
 
 抗真菌効果 スウィートマージョラム油・スパニッシュマージョラム油ともに、中程度ないし強力な作用を発揮する。
 
 抗酸化作用 試験に供したマージョラム油により(スウィート、スパニッシュ両種とも)ゼロから強力と言えるまでの効果を示すので、一概にはいえない。
 
 その他の作用 CNVの波形では、スウィートマージョラム油は鎮静効果を示した。
 
付記
 スウィートマージョラムには「制淫作用」があるとかまびすしく言われるが、本当だろうか。この精油が副交感神経を興奮させ、血管を拡張させ、結果として血圧を降下させて気分を鎮静させることは事実であるが、それがそのまま性的強迫感を抑制し、性器の過敏を鎮めるまでの効果につながるかどうかを、しかと見極めるにはもう少しコントロール(実験対照)をおいた各種の動物実験などを十分に行うべきだと私は考える。性急な結論は控えよう。ことに人間のような複雑な存在を考える場合には特にそうだろう。

2014年9月30日火曜日

芳樟(ホウショウ、芳〔ホウ〕) | 精油類を買うときには注意して!(30)

芳樟(または芳)(Cinnamomum camphora var. nominale)油
 
 学名 Cinnamomum camphora var. nominale Hayata subvar. hosho Hatusima
 別名 C. camphora L. Ness & Ebermeier, C. camphora Sieb.
 
 カンファー(クスノキ)の亜変種のクスノキ科の常緑樹。中国南部から台湾に分布している。クスノキに比べて、花も果実も小型である。日本では薩摩半島南部で36haほど栽培されている。英名はHo leaf。葉と小枝とを蒸留して精油を採取する。
 原産地は日本、ブラジルと言われるが、こいつは少々怪しい。やっぱり中国南部だろう。現在では、華南、台湾が主産地になっている。ホウショウ油はクスノキすなわちカンファーの精油に比較して上品な香りの精油で、高級香料とされる。むかし、台湾が日本の領地になっていた時代には、この精油は年間300トンから400トンも同地で生産されていた。カンファー油が日本人の手で台湾で広く生産され、セルロイド原料として欧米に盛んに輸出されていたころ、原木のクスノキにホウショウがまじってしまうことがあった。ホウショウにはカンファー分が含まれず、リナロール分ばかりが多いため、この木がカンファー油の質を落とすとしてカンファー油生産者たちに憎まれ、こいつは芳樟じゃねえ、「臭樟」だなどとののしられ、鼻つまみものにされたことも再三あった。
 
主要成分(%で示す)
 リナロール       85〜95
 リナリルアセテート   2〜5
 各種のテルペン類化合物 0.1〜0.5
 
注) ごらんのように、この精油には、カンファー分が全く含まれていない。クスノキすなわちカンファーには、カンファーが50.8%も含有されている。組成成分がカンファー油と全く異なることがおわかりと思う。
また、毒性が低いため、欧米で一時、食品添加物として承認されたこともあった。
 
・偽和の問題
 合成したリナリルアセテート、合成リナロールで真正精油が増量されることがよくある。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで3.8g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて濃度10%で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  まだ試験例は報告されていない。
 
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 各種の細菌を殺したり、その増殖を抑制する力がかなり強力。
 
 抗真菌効果 強力。
 
 抗酸化力 みるべきものがある。
 
付記
 現在、Aniba rosaeodora、すなわちローズウッドが乱伐のせいで絶滅が危惧され、真正のローズウッド油は、まず入手できない。これは、サンダルウッド同様に原木を伐採してしまうせいである。現在、このローズウッド油(ボア・ド・ローズ油)に代えてそれに成分的に近く、しかも木を伐採せず葉・小枝のみを利用するこのホウショウ油を用いようと主張する人びとが増加しつつあり、環境保護面で明るい展望が開けつつある。ただし、香りが違うのはいかんともしがたい。しかし、このホウショウ油もよい香りである。
また、精油としても近縁のカンファーの精油よりも、ホウショウ油ははるかに毒性が低い点も評価される。生理的に適切な用量なら、こども・妊婦の使用も何ら問題はない。 
なお、このホウショウ油が有毒であるために、ローズウッド油の代用にはならないと主張する人が一部にいるが、これは全くの間違いである。

2014年9月23日火曜日

ベルガモット Citrus bergamia | エッセンスを買うときには注意して!(29)

ベルガモット(Citrus bergamia)エッセンス
 
 ベルガモットは、南国産のミカン科の常緑低木である。
 レモンに近いカンキツ類。ダイダイの近縁植物。白い香りの良い花を咲かせる。シトロンとも近縁である。ちなみに、フランス人はレモンのことをシトロンと呼ぶ。そこでいわゆるレモネードのことをシトロナードと俗称する。しかしレモンとシトロンとは別種のカンキツ類で、レモンはCitrus limon、シトロンはC. medicaである。
 イタリア南部、シチリア島などが主要な産地で、数百年前からベルガモットエッセンスが利用され、輸出されてきている。
 英名はBergamot orange、中国名は香檸檬(シャンニンメン)。
 
学名 Citrus bergamia Risso
    Citrus aurantium L. ssp. bergamia Wright & Arn.
 
エッセンスの抽出 ベルガモットの果皮を圧搾してエッセンスを抽出する。ベルガモット油というと、果皮を蒸留したベルガモット精油と混同されるので、果皮を冷搾したものはかならずエッセンスと呼んでほしい。
 
主要成分(%で示す) 産地やその年の気候などの要因でこの数値は変動することは言うまでもない。
 リナリルアセテート  23〜25
 リモネン       19〜38
 リナロール      4〜29
 α-テルピネン     4〜13
 β-テルピネン     3〜13
 
微量成分として注目に値するのは、
①フロクマリン(およそ0.44%)が光毒性の原因物質である。FCFベルガモット油というのは、この果皮を水蒸気蒸留してとる精油であり、エッセンスと違って、フロクマリンが分解してしまうため、光毒性がない。
②痕跡量成分類
 (-)-グアイエノール、ネロリドール、(+)-スペツレノール、ファルネソール、β-シネンサール
 
これらがベルガモットエッセンスの芳香に大きく寄与する。このエッセンスはオーデコロンによく利用され、石けんの香料としてもひろく用いられる。日本でも小豆島などで試験的に栽培されるが、およそ商売にならない。経済的にひきあわないのである。
 
・偽和の問題
 安いエッセンスには、合成したリナリルアセテート、リナロールが入っている。
 合成リモネンも往々添加される。
 また合成したものではないが、ビターオレンジエッセンス、ライムエッセンス、さらに、いずれも合成したシトラール、テルピニルアセテート、ジエチルフタレートなどが増量剤として加えられることも多い。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>10g/kg(経口)
   ウサギで>20g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて30%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  ベルガモットエッセンス(その他のカンキツ類エッセンスも、程度の差はあるが)を皮膚につけて日光あるいはサンベッドのUV光線にあたると、皮膚にシミができる。ベルロック皮膚炎という。ベルロックはフランス語でペンダントの意味で、このエッセンスを配合した香水をつけた女性に、この形の皮膚炎が生じたことからこう命名された。配合されたエッセンスの量に依存して皮膚炎ないしヤケド様症状はさまざまである。
 同じカンキツ類エッセンスといっても、その症状の度合いは、ベルガモットエッセンスが最高最悪で、つぎにライムエッセンス、ビターオレンジエッセンス、レモンエッセンス、グレープフルーツエッセンス、スウィートオレンジエッセンス、タンジェリンエッセンス、マンダリンエッセンス、タンジェロエッセンスという順になる。
フロクマリンの含有量が0.0075パーセント以下なら問題は特にないとマリア・リズ=バルチン博士は指摘している(つまりベルガモット以外のエッセンスは、フロクマリン含量が格段に少ないのでさほど心配するにはあたらないのだ)。
また、良質のベルガモットエッセンスを肌につけて、日光やUV光源などにあたらずに8時間たてば、もうトラブルを恐れることはない。11時間も待つ必要などない。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、最初痙攣を惹起したが、その後鎮痙作用を示した。
 
 抗菌効果 各種の細菌にたいして、かなり強力な効果を発揮した。蒸散させた場合にも、相当な殺菌力があった。
 
 抗真菌効果 あまり強くない。
 その他   CNVの波形を調べて、ベルガモットエッセンスは鎮静効果があることがわかった。また、抗酸化作用もかなり強いことが判明している。 このエッセンスは、疱疹のウイルスを抑制する力があるので、帯状疱疹(ヘルペス)の痛みを和らげることができる。また、ベルガモットは気分を晴朗にすることでも有名である。

2014年9月16日火曜日

ベチバー | 精油類を買うときには注意して!(28)

ベチバー(Vetiveria zizanoides)油
 
 イネ科の単子葉植物。多年草。熱帯アフリカ、アジア、オーストラリア、アフリカ、南米などに、およそ10種が分布する。
 
学名:Vetiveria zizanoides Staph.
   V. odorata Virey
   Andropogon muricatus
 
 英名ベチバー(vetiver)で広く呼ばれる。ベチベル(ソウ)といったころもあった。
 
精油の抽出:この草(1年に2度収穫できるところもある)の根および根茎を採取して日光にあてて干したものを水蒸気蒸留して抽出する。
      生育地によって、その芳香と化学組成とに大きな差異がある。
 
 
主要成分(%で示す)
 ベチベロール     10
 ベチベロン      9
 ベチベロンエステル類 各種各様
 
 (注)ベチバー油は、米国のFDA(食品医薬品局)で食品添加物に認定されている。
 
・偽和の問題
 サイベラスのような他の草本の根とともに蒸留され、精油の量を増やす手が使われている。他の植物からとったベチベロールが加えられることもある。合成したカリオフィレン、シダーウッドの成分、アミリス油が添加されることも多い。
 
・毒性
 LD50値
   ラットで>5g/kg(経口)
   ウサギで>5g/kg(経皮)
 
 刺激性・感作性
  ヒトにおいて8%濃度で、これらはいずれも認められなかった。
 
 光毒性
  なし。
 
・作用
 薬理作用 モルモットの回腸で、in vitroで、弱い鎮痙作用が生じた。
 
 抗菌効果 ベチバー油を蒸散させて、5種類の細菌のうち1種に有効であった。
 
 抗真菌効果 弱い。 
 
英国のアロマテラピー研究家、マギー・ティスランドは、毎日乳房を美しく保つためにツバキ油のキャリヤーにこのベチバー油あるいはゼラニウム油を混ぜてマッサージをしているそうである。

2014年9月11日木曜日

精油のシナジー効果を利用した精油の新しいレシピ(1)

①精油のシナジー効果について
 現在、フランスならびに、とくにスイス(そのフランス語圏)において、各種の精油のシナジー(英語:synergy、フランス語でsynergie〔シネルジー〕)効果を活用したブレンドを利用する、アロマテラピー実践家が増えてきている。
シナジー、あるいはシネルジーは「ある一つの目的を達成するために、複数のファクターを恊働させること」と定義できる。
したがって、精油のシナジー(シネルジー)という場合には、それぞれの精油成分の秩序のとれた、複合的な各種の働きが、極めて明確な一つまたはそれ以上の効果を的確に発現させることを含意する。
 
基本的なシナジー効果
 a) 鎮静:神経筋、自律神経系鎮静、蓄積され停滞したエネルギーの分散、筋肉拘縮弛緩
 b) 強壮:精油を適用した箇所のエネルギーの喚起、あるいはその部分へのエネルギーの供給。脊柱上部(頸部と肩甲骨上部)にブレンド精油を適用する。神経系ならびに心臓・呼吸器関連神経系へのエネルギーの充足を目的とする。
 c) 刺激:上述のb)とほぼ同じ目的であるが、c)ではとくに脊柱下部(その下部背面・仙腰椎)の強壮をめざす。腎臓の排泄・消化機能のエネルギー充填をめざす。
 
これのほか、個人個人の体質に応じたシナジー効果、体組織の刺激と強化とをめざすシナジー効果の発現を目的とする。
 
 
②現実にブレンド精油を適用する箇所は、そのほかさまざまある。
①でのべたのは、あくまでも現在行われているトリートメントの基本的な概略を示したもので、実際には、足裏の反射ゾーンや太陽神軽叢(みぞおち)の部分その他にも、ブレンド精油を適用して、めざす効果の発現を図る。
 
今回のレシピ
 ストレスは、さまざまな病気の原因となる。これはストレスが主として自己免疫力、自己治癒力の低下を招来するためである。
 今回は特に、ストレスに起因する心理的なわだかまりがいつも心を離れず、うつうつとしたり、夜もよく眠れぬような状態におちいったときに適用するとよいレシピである。
 
④注意事項
 ストレスに悩まされている場合、以下の精油を、それぞれホホバ油のキャリヤーに5〜6%の濃度に稀釈し、これらを合わせる。そして、この含剤を胸部全体に、また太陽神経叢(みぞおち)に、また両足の裏の「腎臓」の反射ゾーンにそれぞれ1日に3回ないし4回、1回に10〜20分かけてよくすりこむ。
使用する精油は以下のとおり。
 
 Chamaemelum nobile(ローマンカモミール)油
 Hyssopus officinalis(ヒソップ)油
 Ocimum basilicum(バジル)油
 Pelargonium graveolens(ローズゼラニウム、ゼラニウム、ニオイテンジクアオイ)油
 Thymus vulgaris linaloliferum(タイム・リナロールケモタイプ)油
 
これらの精油について若干の説明を加えたい。
 
 ローマンカモミール油
   ストレス関連活性成分として ー
    テルペンアルコール類 :トランスビノカルベオール、ファルネソール、脂肪族アルコール類(75〜80%)
    アセテート類     :イソアミルブチレート、イソブチルイソブチレート、その他
    モノテルペンケトン類 :ピノカルボン(13%)
    セスキテルペンケトン類:3−デヒドロノビリン
   などがあげられる。
   特性として ー
    鎮痙、中枢神経系鎮静(強力)
    抗炎症(かなり強力)
    抗神経性ショック(強力)
   禁忌はない。
 
 ヒソップ油
   ストレス関連活性成分として ー
    モノテルペン類(<20%):α,β-ピネン(それぞれ3.66%、2.78%)、カンフェン(2.46%)、ミルセン(2.07%)、リモネン(5%)
    セスキテルペン類(<8%):α-コパエン、γ-ブルボネン、他
    テルペンエステル類(<2%):リナリルアセテート(1.2%)、ラバンズリルアセテート、ゲラニルアセテート
    オキシド類(およそ60%):トランスリナロールオキシド(57%)、他
   特性として ー
    交感神経および太陽神経叢への作用
   指示 ー
    神経性抑うつ症(強力)、苦悶、心拍異常
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
 バジル油
   ストレス関連活性成分として ー
    モノテルペン類(2%):α,β-ピネン
    セスキテルペン類:イソカリオフィレン、β-カリオフィレン、β-エレメン
    非テルペンおよびテルペンアルコール類(65%)
    フェノールメチルエーテル類(10〜15%)
    テルペンオキシド類(6%)
   特性として ー
    神経強壮(かなり強力)
   指示 ー
    神経性抑うつ症、無力症
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
 ローズゼラニウム油
   ストレス関連活性成分として ー
    モノテルペノール類(55%):リナロール(3.8%)、シトロネロール(44.5%)、ゲラニオール(6.5%)
    テルペンエステル類(25%)
    モノテルペン類
    テルペンオキシド類
   特性として ー
    全身的強壮、鎮痛
   指示 ー
    神経疲労、無力症、他
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
 タイム(リナロールケモタイプ)油
   ストレス関連活性成分として ー
    モノテルペノール類:リナロール(60〜80%)、テルピネン-1-オール-4
    テルペンエステル類:リナリルアセテート
   特性として ー
    強壮、神経強壮(中枢神経系、延髄、小脳)
   指示 ー
    神経疲労(強力)、ブドウ球菌性腸炎(強力)、他
   禁忌 ー
    生理学的用量においては、知られていない。
 
 
付記①
 私は、知り合いの心療内科の医師2名(いずれも大学病院の准教授)、メンタルクリニックの院長1名、ならびに有名製薬会社の研究開発部長1名に、これらの精油の外用によって、万が一、そのトリートメントを自分の体にたいしておこなう人間が、たとえばストレスに起因した疾病を患っていて、医師から処方された薬剤を摂取している場合、それと望ましくない相互作用を惹起しないかどうか尋ねてみた。
 この人々は、ストレス性の各種疾患を列挙して、消化器系、各種神経系、循環器系、呼吸器系、生殖器系、泌尿器系、内分泌系などにストレスが原因して発症し得るほとんどすべての疾患において、これらの精油のブレンドがまず危険ではない、少なくともその精油類が100%天然自然のもので、化学的増量剤など一切配合されていないかぎり、それらの精油が体内に浸透する量を考慮して、まず心配は不要であるとの見解を一致して示した。むろん、この医師たちはアロマテラピーについて、すべて一定の理解をしている人びとである。
 
付記②
 アロマテラピー用精油を販売しているショップは、全国に多数ある。そうした店の責任者には、責任感が強く、精油とその効果とについて不断に勉強を怠らない人もいるが、中には残念ながら、精油についての知識が乏しく、精油につけてある成分表、分析表すら理解できず、詳しく聞いても何一つ答えられず、回答を求める顧客に逆ギレして、ヤクザまがいの対応をする店長がたくさんいることも確かである。最近、マスメディアで話題になった認知症予防騒動をふまえて、このことをハッキリ申し上げておく。
人間には本来自己免疫力、自己治癒力がある。そうしたものを強化すること自体は現行の薬事法・医師法になんら抵触するものではない。そこで、これから紹介する各種のブレンド用精油は、かならず下記の注文先から購入して頂きたい。他店でお買いになった精油について生じた結果については、当方としても責任のとりようがないからだ。
ここで言っておくが、現在有名なブランドの精油は9割以上は、増量剤などが加えられたニセものである。そうしたことを十分にご考慮願いたい。
 
 問い合わせ先・注文先(ご注文の精油の在庫がない場合もあるかも知れない。その場合は、少々時間を頂きたい。何らかの原因で入手不能になるケースもあろう。ここでは一定のブランド品を売ることを目的とせず、世界で入手できるもっとも信頼できる精油をさがしてお取り次ぎすることをめざしているからである)
 
 
繰り返すが、アロマテラピー用の精油は100%天然のものでなくてはならない。
このブレンドを使用するにあたって、現在、何らかの疾患で医師の処方した薬剤を摂取している場合は、かならず医師の見解を問い、それに従うこと。
精油は購入後、出来るだけ早く使い切ること(冷暗所に保存して頂きたい)。
精油は各種の不自然な処理をうけたものであってはならない(脱テルペン、調合、過度の高圧高温下での抽出など)。