2015年3月28日土曜日

精油の原料植物のフランス語名‐その1

精油・エッセンス、あるいはアブソリュートの原料となる植物名は、日本ではおおむね英語名で呼ばれる。でも、これらをフランス語では何というかと尋ねられることが往々ある。アロマセラピストとしてアロマサロンを開設しようとする人が、店名にしようとしてか、そんなことを私に聞いてきたときもあった。 

そこで、主要な芳香植物のフランス語名と学名とを合わせてご紹介してみようと思う。しかし、カナで原語の発音を正確に表現するのは所詮、不可能である。あくまでも「近似的」なものと考えて頂きたい。順不同に記すことにする。

アンジェリカ (仏名)angélique alchangélique 〔アンジェリク・アルカンジェリク〕 /(学名)Angelica archangelica (天使ange 〔アンジュ〕の中でも上位のクラスである、上から2番目の天使をarchange 〔アルカンジュ〕という。ミカエル、ガブリエル、ラファエルなど。その形容詞がarchangéliqueである。)

バジル (仏名)basilic 〔バジリク〕 /(学名)Ocimum basilicum

ベルガモット (仏名)bergamote 〔ベルガモット〕 /(学名)Citrus aurantium ssp.bergamia

カモミール(ローマン) (仏名)camomille romaine 〔カモミーユ・ロメーヌ〕 /(学名)Chamaemelum nobile (camomille noble 〔カモミーユ・ノブル〕という仏名もある。)

カルダモン (仏名)cardamome 〔カルダモム〕 /(学名)Elettaria cardamomum

キャロット (仏名)carotte 〔カロット〕 /(学名)Daucus carota

シナモン(セイロン) (仏名)cannelle de Ceylan 〔カネル・ド・セラン〕 /(学名)Cinnamomum zeylanicum

キャラウェイ (仏名)carvi 〔カルヴィ〕 /(学名)Carum carvi

シダーウッド(アトランティック) (仏名)cèdre de l'Atlantique 〔セドル・ド・ラトランティク〕 /(学名)Cedrus atlantica

セロリ (仏名)céleri 〔セルリ〕 /(学名)Apium graveolens

レモン (仏名)citron 〔シトロン〕 /(学名)Citrus limon

レモングラス(ウェスト) (仏名)citronnelle 〔シトロネル〕、verveine des Indes 〔ヴェルヴェーヌ・デ・ザンド〕 /(学名)Cymbopogon citratus

コリアンダー (仏名)coriandre 〔コリアンドル〕 /(学名)Coriandrum sativum

クミン(仏名)cumin 〔キュマン〕 /(学名)Cuminum cyminum

サイプレス (仏名)cyprès toujours vert 〔シプレ・トゥージュール・ヴェール〕 /(学名)Cupressus sempervirens

エストラゴン(タラゴン) (仏名)estragon 〔エストラゴン〕 /(学名)Artemisia dracunculus

ユーカリ(レモン) (仏名)eucalyptus citronné 〔ユーカリプチュス・シトロネ〕 /(学名)Eucalyptus citriodora

ユーカリ (仏名)eucalyptus officinale 〔ユーカリプチュス・オフィシナル〕 /(学名)Eucalyptus globulus

ウィンターグリーン (仏名)gaulthérie 〔ゴルテリー〕 /(学名)Gautheria procumbens

ジュニパー (仏名)genévrier commum 〔ジュネヴリエ・コマン〕 /(学名)Juniperus communis

ゼラニウム(ローズ)(仏名)géranium rosat 〔ジェラニヨム・ロザ〕 /(学名)Pelargonium x asperum

ジンジャー (仏名)gingembre 〔ジャンジャンブル〕 /(学名)Zingiber officinale

クローブ (仏名)girofle 〔ジロフル〕 /(学名)Eugenia caryophyllata

ヘリクリサム (仏名)Hélichryse italienne 〔エリクリズ・イタリエヌ〕 /(学名)Helichrysum italicum

ヒソップ (仏名)hysope officinale 〔イゾプ・オフィシナル〕 /(学名)Hyssopus officinalis

ローレル (仏名)laurier noble 〔ロリエ・ノブル〕 /(学名)Laurus nobilis

スパイクラベンダー (仏名)lavande aspic 〔ラヴァンド・アスピック〕 /(学名)Lavandula latifolia, L.spica(フランスではかんたんに、aspic 〔アスピック〕とも称する)。

真正ラベンダー (仏名)lavande vraie 〔ラヴァンド・ヴレ〕 /(学名)Lavandula angustifolia(以前には、L.veraともいった)

ラバンジン (仏名)lavandin 〔ラヴァンダン〕 /(学名)Lavandula hybrida, L. intermedia

今回は、このくらいにしておきましょう。

2015年3月14日土曜日

ローズマリー|精油類を買うときには注意して!(42)

ローズマリー油

学名:Rosmarinus officinalis L.

 学名は上記のとおりだが、P.フランコム氏は、これの「ケモタイプ」を3種あげ、それぞれに下記のような学名をあてている。すなわち、
  1. Rosmarinus officinalis L. camphoriferum(カンファーケモタイプ)
  2. R. officinalis L. cineoliferum(シネオールケモタイプ)
  3. R. officinalis L. verbenoniferum(ベルベノンケモタイプ)
さらに、また同氏はR. officinalisの近縁種として、R. pyramidalisを紹介している(“Aromatherapie exactement”邦訳題名『フランス・アロマテラピー大全』高山林太郎訳)。

 ローズマリーは、シソ科マンネンロウ属の常緑小低木で、南欧地中海周辺に上掲の4種が生育している。和名はマンネンロウ、英語でrosemary、フランス語でromarin(ロマラン)、中国名は迷迭香(ミディエシャン)、ドイツ語でRosmarin(ロスマリン)、イタリア語でrosmarino(ロスマリーノ)、スペイン語でromero(ロメロ)という。

 学名は、ラテン語のros marinus(海の露、海のしずく)、すなわち波がうちよせる岩場の近くにこの植物がむらがって生え、4~5月ごろに咲く薄紫の小さな無数の花々が、あたかも砕ける波のしぶきを連想させることからRosmarinusと命名されたらしい。ローズマリーとか、ロスマリンとかという名は、女性の名としてよく使われる。

 この小低木は、高さ60~130㎝、葉は細長く、長さは3㎝ほど。葉の裏側には、びっしりとワタ毛が生えていて、葉がたくさんついた茎をかるく握ってスーッと滑らせると、てのひらに独特の爽やかな芳香が移る。これがローズマリーのエッセンスの香りである。この精油は、香料として広く利用される。また、ローズマリーはハーブの1種として、野菜料理、肉料理によい風味を添え、シチューやスープなどにも加えられる。
 
 ローズマリーの花の蜂蜜は私の好物で、フランスに行ったときには、ラベンダーの蜂蜜とともに、よく味わっている。日本でも、モーリス・メッセゲのハーブティーを扱っているショップなどで、この手の蜂蜜が購入できるだろう(ユーカリの蜂蜜、ヒマワリの鮮黄色の蜂蜜、タイムの蜂蜜なんていうのもオツなものですよ、それぞれの植物の風味がちゃんと残っている)。

 ヨーロッパでは、このローズマリーはハーブ薬として黄疸(おうだん)の治療に、また堕胎の目的などに使われ、さらに病気をもたらす瘴気(しょうき)を消し、悪魔を払うのに燻蒸剤として使用された。今日のチューインガムのように、この葉を噛んで口臭を消すのにも用いられた。

 中国では迷迭香として、胃を健やかにし、各種の痛みを鎮めるなどの目的で薬用される。
 日本には、文政年間(1818~1830)に入ってきた植物である。

原産地
フランス、イタリア、スペインなど地中海沿岸。今日ではロシア、中東などでも生育している。

精油の抽出
葉、あるいは木質化した部分をとり除いた花の咲いた先端・葉・茎の全体を水蒸気蒸留して精油を得る。

精油の化学成分(%で示す。各種のケモタイプにより大幅な差がある)
1,8-シネオール 7-60
ミルセン 0-10
α‐ピネン 3-34
β‐ピネン 1-8
p‐シメン 0-3
カンファー 3-30
ベルベノン 15-37
ボルネオール 1-12
ボルニルアセテート 2-3

(注)
R. officinalis camphoriferumは、カンファーを30%も含み、カンフェンは22%、1,8‐シネオールは30%それぞれ含有する。
R. officinalis cineoliferumには、1,8‐シネオールが60%も含まれる。
R. officinalis verbenoniferumは、ベルベノンを37%、α‐ピネンを最高34%おのおの含有する。
R. pyramidalisについては、含まれる成分の正確な数値はまだ十分に把握されていない。ただ、1,8‐シネオール分、αおよびβ‐ピネン分の含量はかなり高いとみられる。

偽和の問題
少量のローズマリー油に合成したシネオール、各種のテルペン類(αおよびβ‐ピネン、カンフェンその他)、サイプレス油、カンファー油、ユーカリ油(Eucalyptus globulusおよびE. radiate)、ターペンタインの留分、合成テルピネオール、シダーウッドの留分などでうんと増量したものが市場に出回っている。低価格で入手できるスペインのローズマリー花の脱テルペン精油を添加して、高級感をかもしだすという手のこんだ詐欺行為をする業者もいる。いわゆるブランド品の精油など、もっともタチが悪いと心得られよ。喝!

毒性の問題
・LD50値
 >5g/kg(経口)ラットにおいて
 >5g/kg(経皮)ウサギにおいて

・刺激性・感作性
 ヒトにおいて、10%濃度で皮膚に適用したが、これらはいずれも認められなかった。

・光毒性
 まだ、この試験報告はない、しかし、真正ローズマリー油の成分からみて、この作用はあまり考えられない。


作用
・薬理学的作用
ローズマリー油は、モルモットの回腸で(in vitroで)著明な痙攣惹起作用を示した。しかし、逆説的に一定の平滑筋弛緩作用、鎮痙作用も看取された。ウサギを用いての試験で、その気管の平滑筋を弛緩させる効果が認められた。

・抗菌作用
ほとんどの細菌にたいして、きわめて強力。ただ、この精油を蒸散させた場合は、その効果はかなり落ちる。

・抗真菌作用
真菌の種類によって、弱から中程度の効果を示した。

・その他の作用
抗酸化作用は、さまざまなテストの結果、この精油には期待できないことが判明している。ローズマリー油は、マウスを刺激し、興奮させる作用を示した。CNVの波形の観察によって、この精油がヒトの脳にもマウスと同様の効果があることがわかった。でも、だからといって、ローズマリー油に記銘能力を向上させるとか、果ては認知症を予防したり治療したりする力があるなどと性急な結論を出すのは、つつしみましょう、どこかの大学の先生がた。…

また、癲癇患者はもとより、遺伝的にその素質のある人間にローズマリー油のオイルマッサージを施すと、その発作を惹起するとされている。なにせカンファー分が多いからね。

付記1
 ヨーロッパでは、古代ギリシャの昔から、バラを花の女王と考える人びとが多い。古代ギリシャの美の女神アプロディーテー、古代ローマの美の女神ウェヌスを象徴する花として香り高く、色も美しいバラが選ばれたのも当然であった。こうしたヘレニズム文化と、そこに突如わりこんできたヘブライズム文化(ユダヤ教も母胎としたキリスト教的世界観を核とする文化)とのせめぎ合いが、のちのヨーロッパ文化を形成した。古代ギリシャ文化が後世のヨーロッパ文化に直結したものだなんていう奴には、ウソもいいかげんにしやがれ、とドヤしつけてやりたい。

 ところで、カトリック教会は宣教の方便として聖書にもろくな記述がない「聖母マリア」なる1種の女神を発明した。けだし母親への慕情はsomething internationalだからだ。で、この女神を崇敬するためにささげるものとして、ユリの花が選ばれた。汚らわしい、淫乱な多神教の女神を賛えるバラなど、もってのほかだというわけである。しかし、rosemaryというコトバの誕生後、その語源とは関係なくrose + mary、すなわち聖母マリアとバラが結びつけられて考えられるようになり、バラがこの一神教では本来、存在してはならぬ「女神」の像や絵画などに添えられるようになった。これも一種の「ルネサンス」だろう。このことはハーブとしてそのローズマリー、アロマテラピー用精油としてのローズマリー油とは、直接結びつくものではないが、ちょっと私がつれづれなるままに連想した一席である。

付記2
 シェークスピアの四大悲劇の1つ『ハムレット』で、忘れがたいセリフの一つに,復仇のために狂人を装ったハムレットにじゃけんに扱われ、なかば気がふれた哀れなオフィーリアのこういうことばがある。
“There’s rosemary, that’s for rememberance.”
(ローズマリーをどうぞ、忘れないで、というしるしよ)

 中近世のヨーロッパのハーバリズム(植物療法)でも、これの香り、あるいは香りのもとのローズマリーが、記憶を留める効果があるとされていたようである。また疫病の蔓延防止(これは理解できる)、不老、魂の不滅化(これはあまりアテにはならない)の目的でローズマリーが使用された。

 ローズマリーの花言葉は「変わらない愛と記憶」、「貞節・誠実」などである。どれもアテにならぬものばかりです。

付記3
 なんでもそうだが、CO2抽出法にもポジティブな面とネガティブな面とがある。たとえばラベンダー油に含まれるリナリルアセテート、ジャーマンカモミール油に含有されるカマズレンはいずれも水蒸気蒸留中に一定の圧力と熱とのもとで、化学的に自然に生成する成分なので、CO2抽出法でとったこれらのアブソリュートには、リナリルアセテートもカマズレンも入っていない。だから、それらの成分のもたらす諸効果も全く期待できない。

 しかし、ローズマリーのエッセンスは、CO2抽出法でとった場合、成分が変化しないので、なまのハーブそのままの成分が保持され、香りもローズマリー精油より格段によい。一度嗅ぐと、あっと驚くことうけあいである。ぜひ専門家にこの「効果」を臨床的に研究してほしいと願うこと切なり、だ。
ただし、原料植物が有機栽培・無農薬品でなければダメだが。


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2015年3月5日木曜日

ローズウッド(ボア・ド・ローズ)|精油類を買うときには注意して!(41)

ローズウッド(ボア・ド・ローズ)油

学名 Aniba rosaeodora var.amazonica Ducke.
         Aniba parviflora Mez.
         Ocotea caudate Mez.

 南米の熱帯地方ガイアナ、ブラジル、ペルーなどに生育するクスノキ科の常緑高木、樹高30~40mになる。このローズウッドは南米ガイアナ、アマゾン川流域の低地の熱帯雨林にとくに広く分布する。
この木材には、リナロールが多量に含まれ、バラを思わせるその香りからrosewoodの名がつけられた。
香料業界ではこの木はもっぱらそのフランス語のbois de rose(ボア・ド・ローズ)の名で呼ばれ、かなり以前からこの材から採れる精油が香水などの原料に使用されてきた。
アロマテラピーにこの精油が用いられるようになったのは、比較的近年になってからである。

精油の抽出
 ローズウッドの原木をチップ状にしたり、オガクズのように細かく砕いたりして、それを水蒸気蒸留して精油を得る。

主要成分(%で示す)
リナロール 85.3-94
1,8‐シネオール 0-1.6
リモネン 0.6
シス‐リナロールオキシド 0-1.5
トランス‐リナロールオキシド 0-1.3
テルピネン‐4‐オール 0.4
α‐テルピネオール 3.5

偽和の問題
 ローズウッドは、現在、ワシントン条約で商取引が禁じられている絶滅危惧種の植物の一つなので、まともなルートでは本物のローズウッド油はまず入手できない。そこで、合成リナロール、合成リナリルアセテートそのほかの成分で偽造した「ローズウッド油」が横行することになる。

 ローズウッドは生長するのに時間がかかるので、その木を切り倒したら、かならずローズウッドの苗木を1本植えることがブラジルで義務づけられたりしたが、これで自然破壊を食い止めることは無理である。そこで、ローズウッドの葉を採取して、その木材に代用しようという提案も行われた。
しかし、葉と材とでは含有成分が異なるので、これも却下された。そこで成分がかなり似ている芳樟(Cinnamomum camphora)の精油がローズウッド油に代えて利用されることが、近年とみに多くなっている(本ブログの「芳樟油(30)」を参照されたい)。以下参照
http://rintarotakayama.blogspot.jp/2014/09/blog-post_30.html
ローズウッド油は、それに代わるもっと安い精油は複数あるので、それらの活用をおすすめしたい。

毒性の問題
・LD50値
 >5g/kg(経口)ラットにおいて
 >5g/kg(経皮)ウサギにおいて

・刺激性・感作性
 ローズウッド油をヒトの皮膚で、12%濃度で適用したが、いずれも認められなかった。

・光毒性
 これまでに報告された例はない。

作用
・薬理学的作用
 モルモットの回腸で(in vitroで)、鎮痙作用がみられた。

・抗菌作用
 細菌の種類にもよるが、総じてきわめて強力である。

・抗真菌作用
 試験に供した真菌の種類によって、強弱さまざまな力を示すので、一概にはいえない(弱ないし中程度というところだろう)。

・その他の作用
 ローズウッド油には、抗酸化作用は、まず期待することはできない。この精油は、ヒトの皮膚にも粘膜にもきわめて穏和である。


付記
 Aniba属には、40種以上ある。Aniba terminalisからもA. rosaeodoraと似た精油がとれる。また、A. canelillaの樹皮にはシナモンと同様の芳香があって、ペルーではこれを茶として利用しているそうである。こんど、折があったら日本緑茶センター株式会社の北島社長にこれについてご教授を仰ごうと思っている。

2015年2月25日水曜日

レモングラス|精油を買うときには注意して!(40)

レモングラス油

学名 Cymbopogon citratus Stapf.
主産地 インドネシア、ベトナム、西インド諸島、ブラジル、グアテマラ、米国など

 レモングラスは、イネ科オガルカヤ属の単子葉の多年草。英語でWest Indian lemongrass、中国語で檸檬香茅(ニンモンシャンマオ)と呼ぶ。フランス語では、Citronnelle(シトロネル)あるいはVerveine des Indes(ヴェルヴェーヌ・デ・ザンド)と称する。

 インド原産。草丈は高く、1mから1.5mにもなり、茎は太く、葉は長さ50cm(幅は1.5㎝)ぐらいにまで生長する。葉の色は淡い緑色。多数の花序をもつ。

 草全体にレモンを思わせる芳香を放つエッセンスが含まれる。レモングラスは熱帯、亜熱帯で香料用に栽培されている。葉を細かくきざんでスープやカレーなどの香りづけに使うほか、中国では草全体を薬用にし、風邪に伴う頭痛、関節痛の緩和などに利用してきた。

 上述の植物「ウェストインディアンレモングラス」とは近縁ながら別種のものがあり、これも「レモングラス」、あるいは「イーストインディアンレモングラス」と呼ばれる。主産地は東南アジアである。その学名を下に示す。

学名 Cymbopogon flexuosus(Steud.)Wats

 これも前記のレモングラスと同様に、香料植物としてその精油がひろく使われる。

精油の抽出
 ウェスト、イーストの各レモングラスとも、生長した茎・葉を刈りとって細切し、水蒸気蒸留して精油を得る。

精油の成分(%で示す)

(ウェストインディアンレモングラスの場合)
リモネン 1-11
シトラール ネラール(22-33)、ゲラニアール(37-45.5)
シトロネラール 1-13.5

(イーストインディアンレモングラスの場合)
α‐テルピネオール 2.25
ボルネオール 1.9
ゲラニオールおよびネロール 1.5
ファルネソール 12.8
シトラール類 ネラール(2.8-33)、ゲラニアール(47)
ファルネサール 3

偽和の問題
 レモングラス油は、数ある精油のなかでも、もっとも安価なものの一つなので、これにわざわざ合成化学成分などを加えたりすることは、まずないといってよい。中国では、レモングラス油に代えてリツェアクベバ油を利用するケースもあるが、これはもとより「偽和」ではない。このリツェアクベバ油も、シトラール含量が多い。レモングラスは、ビタミンA剤ならびに香料のイヨノン類の生産原料としても利用されている。

毒性の問題
・LD50値
 (ウェストインディアンレモングラスの場合)
 >5g/kg(経口) ラットにおいて
 >5g/kg(経皮) ウサギにおいて

 (イーストインディアンレモングラスの場合)
 >5g/kg(経口) ラットにおいて
 >2g/kg(経皮) ウサギにおいて

・刺激性・感作性(ウェスト・イースト両種)
 ヒトにおいて、4%濃度で皮膚に適用しても、問題はみられなかった。

・光毒性(ウェスト・イースト両種)
 これまでに報告されたケースはない。

作用(ウェスト・イースト両種)
・薬理的作用
 モルモットの回腸において(in vitroで)、強い痙攣惹起作用を示した(この点で、P.フランコム氏の見解には疑義がある)。

・抗菌作用
 かなり強力である。空気中の雑菌にたいして、殺菌ないし静菌効果が期待できる。

・抗真菌作用
 これもかなり強力。皮膚糸状菌(ひろい意味での白癬菌)を起因とする各種の疾患の治療に利用できそうである。

・その他の作用
 レモングラス油をヒトが嗅いだ場合、そのCNVの波形を見ると、若干ではあるものの、この精油に刺激興奮作用があることがわかる。また、この精油にはある程度、抗酸化作用が認められる。

付記①
 フランスではレモン様の香りをもつハーブ類、あるいはそれらから採れる精油類を、あまり区別しないで、ひとまとめにCitronnelle(シトロネル)と俗称している(もちろん学者は、そんなことはしないが)。
例えば、
Cymbopogon citratus → Citronnelle
C.nardus → Citronnelle
さらに、Melissa officinalis → Citronnelle
といったぐあいである。まあ、M.officinalisは「メリス」とちゃんと区別して呼ぶ人もいるが、やっぱり少数派である。

付記②
 レモングラス油は、昆虫忌避剤としては、あまり有効でない。蚊やり目的だったら、従来の蚊とり線香のほうがずっとよい。

2015年2月18日水曜日

レモン | エッセンス類を買うときには注意して!(39)

レモン エッセンス
学名 Citrus limon (L.) Burm.f.
    C. limon Risso
主産地 イタリア、スペイン、米国、アルゼンチンなど

 レモンは、ヒマラヤ、インド北東部が原産地のミカン科の常緑のカンキツ類果樹。フランス語ではシトロン(Citron)と称する。しかし、学問的にはこれは誤りで、本物のシトロンはCitrus medicaである。
 しかし、C. limonとC. medicaとが近縁であることは確かであり、C. medicaからC. limonが派生したようだ(Citrus limonという学名は、以前はC. limonumと表記した)。

 ヨーロッパにはアラブ人によって北アフリカに伝えられ、12世紀にはスペインやカナリア諸島などに伝播(でんぱ)し、13世紀にはイタリア半島にもちこまれ、シチリア島を中心にレモン栽培が産業化された。

 中国には宋の時代(960~1279)に伝わった。米大陸にはコロンブスの新大陸到達の1492年の翌年に早くももちこまれ、以降カリフォルニア、アリゾナで広範に栽培された。

 日本には1873年に伝来し、太平洋戦争前には気候が地中海に似た瀬戸内海の島々で、レモンの果実が年間3000トンほど収穫されていたが、敗戦後は米国からの輸入レモンに圧倒され、わが国のレモン栽培は衰えてしまった。

 現在では米国から年間10万~1 3万トンもの果実を輸入しているが、米国の業者は日本向けに輸出するレモンには発ガン性のある防カビ剤をたっぷりかけ、そうしたポストハーベスト剤にやかましい欧州への輸出レモンには、こうしたことをしないようにしている(だから、紅茶にはミルクを入れて飲むことを、ぜひともお勧めする。「レモンティー」はおやめなさい。紅茶にレモン片などを入れて飲むのは、そもそも邪道です、と警視庁特命係の杉下右京が言っていた)。

エッセンスの抽出
 レモンの果皮を集めて、これを冷搾してエッセンスを得る。レモンエッセンス1kgを採るのに、3000個分の果皮が必要。この果皮を水蒸気蒸留して抽出したものはレモンエッスンスではなく、レモン油である。ここをまちがえないでいただきたい。このエッセンスは、爽やかな香りを放ち、無色、淡黄色ないし緑がかった色を呈する。

レモンエッセンスの主要成分(%で示す)


d‐リモネン 60-80
α‐ピネン 1-4
β‐ピネン 0.4-15
γ‐テルピネン 6-14
ゲラ二アール 1-3
ネラール 0.2-1.3
ミルセン 0-13
p‐シメン 0-2
α‐ベルガモテン 0-2.5

微少成分
 フロクマリン類

偽和の問題
 レモンエッセンスを含むいろいろなカンキツ類のエッセンスは、folding(フォールディング)とwashing(ウォッシング)という方法で処理することが多い。これらの処置を施すと、原料が希薄な空気中で加熱されてテルペン類の一部が蒸散し、またアルコールを溶かした水に原料を入れて洗い24時間も撹拌すると、さらに脱テルペンがどんどん進行する。これでは、天然自然のエッセンスからほど遠いものになってしまう(ルネ=モーリス・ガットフォセが、これをよしとしていたことを忘れてはならない)。

 レモンエッセンスは、果皮を蒸留してとったレモン精油で偽和されることも多い。脱テルペン精油、脱セスキテルペン精油、合成リモネン、合成シトラール、合成ジペンテンを加えて増量することも多々ある。

 この手の偽和は、ガスクロマトグラフィーによる分析でも看破することはむずかしい。安く手に入るレモングラス油からとったシトラールを添加する業者も少なくない。オレンジ油をレモンエッセンスに加えて増量する輩もザラである(真正のレモンエッセンスは、オレンジ油の10倍もすることを念願におかれたい)。

 また、カンキツ類のエッセンスはいずれも酸化して劣化しやすいために、各種の抗酸化剤をこっそりこれらに加えて棚おき寿命を伸ばそうとする悪党どももアトを絶たない。

毒性の問題
・LD50値
 >5g/kg (経口) ラットにおいて
 >5g/kg (経皮) ウサギにおいて

・刺激性・感作性
 10%から100%まで濃度を変えてテストしたが、いずれも認められなかった。

・光毒性
 試験に供したレモンエッセンスの化学的な組成、ならびに被験者の感受性に依存して結果が変動するので、一概にはいえない。

作用
・薬理学的作用 モルモットの回腸において(in vitroで)、強烈な痙攣惹起作用を示した。

・抗菌作用
 最近の研究によれば、一般に弱いことがわかった。ジャン・バルネ博士が強力な殺菌力があるといっているのは、あくまでもレモンの果汁のことである。

・抗真菌作用
 テストした真菌の種類によって、各種各様の結果がみられた。一概にはいえない。

・その他の作用
 レモンエッセンスはCNVの波形を見ると鎮静効果があることがわかる。しかしまた、病院にいる患者の近くでこれをスプレーすると、その「うつ状態」が改善をみたとの報告もある。さらに、d‐リモネンを配合した薬剤が胆石を溶解するために利用されてきたことも付言しておきたい。

2015年2月2日月曜日

間もなく再開いたします

中国洛陽で行う講演の準備のため、ブログ更新が遅れています。

間もなく再開いたしますのでしばらくお待ち下さい。

2015年1月6日火曜日

〔コラム〕CNV (Contingent Negative Variation - 随伴性陰性変動) について ー 鳥居鎮夫先生の思い出

 私たちの脳(正しくいえば脳の神経)が活動するときに発生するごく微弱な電気をいろいろな方法で増幅して、その時間とともに変化するようすを記録すると波形図が得られる。これを「脳波(electroencephalogram EEGと略称)」と称する。
 ヒトの脳波を最初に発見し、観察したのはドイツの精神科医、Hans Berger(ハンス ・ベルガー)で、1942年のことである。
 脳波にはいろいろな種類がある。脳波はふつう、頭皮の上に置いた電極から電流を導き出す。おとなの場合、心身ともにリラックスしているとき、α波という10ヘルツぐらいの、あるいはβ波なる20ヘルツ前後のちょっと速めの脳波が観察される。興奮すると、α波が消失してしまう。眠っている間には、ゆるやかな大きなδ波(4ヘルツ未満)が現われる。脳細胞が生み出す電気の電圧は、最大でも100マイクロボルト程度である。
 
 そこで、脳波を調べることは、脳がいまどんな活動をしているかを知るうえで、大切な手がかりになる。脳精神疾患、とりわけ癲癇(てんかん)とか頭部に外傷をうけたとき、あるいは器質的な脳疾患などでは、それぞれの症状の程度に応じた異常な脳波がみられる。
 
 とまあ、基本的な脳波の知識を頭に入れておいて頂いて、標記のCNV、すなわち随伴性陰性変動についてお話しする。
 
 私たちの脳は、生命にかかわる重要な働きをし、学習の中枢となっている。脳の大切な部分は大脳、間脳、中脳、小脳、橋(きょう)、延髄などからなっていて、私たちの心と体との多種多様な働きをさまざまな形態で司っている。
 
 大脳半球の内側・底面、それに機能上一体となって作動する視床下部をひっくるめて「大脳辺縁系(limbic system cerebrum)」と呼ぶ。
 ここは自律系の統合中枢で、呼吸・循環・排出・吸収に関与する。それとともに、この部分は怒り・喜び・悲しみといった人間の基本的な情動を生み出し、また性欲・食欲という種族維持・個体維持に必要な「本能的欲求」の形成にかかわる、ヒトという動物を生かし続けるベースとなる、人間にとっての最重要部分である。
 ここはさらに、古くから嗅覚に関係するところだということが知られている。だから古くはここを「嗅脳」と称した。
 先ごろ他界された東邦大学医学部名誉教授の鳥居鎮夫先生は、におい・芳香が脳の活動に及ぼす効果、あるいは心理的な効果を客観的に測定するために、香料(精油およびアブソリュート)を使った実験をなさった。
 鳥居先生は、随伴性陰性変動(CNV)と称される特殊な脳波に着目された。この脳波については重ねて後述するが、先生は鎮静作用があるとされたきたラベンダー精油、並びに刺激・興奮作用を示すといわれてきたジャスミンアブソリュートを使用して被験者の脳内部から導出されたCNVをグラフにして発表なさったのである。
 
CNV graph
 
 鳥居先生の発表なさった上述のことを、もう一度レジュメして、ここで解説すると、およそ次のようになるかと私は考える。
 人間の大脳の内奥部には、いくつもの電気的な現象が観察される。それがつまり脳波と呼ばれる形態で私たちが把握するものだが、その一つ随伴性陰性変動は、被験者が「さあ、これから何かがおこるぞ」と、いわば「期待している」状況のもとで生まれる、期待波とも称される脳波だ。
 
 香りの刺激をうけて興奮する部分は、今もいったように私たちの脳の深部に位置する。それを直接捉えるには、脳の奥深く電極を挿入しなくては、その嗅覚による刺激で生じる脳波の変化をダイレクトにキャッチすることは、本来できない。しかし、現実に人間を対象にしてそんなテストを行うことは無理である。
 そこで、この脳波に生じる異常をなんとかして頭皮に接着した電極によって捕捉しなくてはならない。この脳波の変動は脳内から脳の表面部分に、一定の状況のもとで「上方に」移動して伝達される。
 たとえば、ある音を被験者に聴かせてその刺激を与え、それに続いて、ちょっとしたタイムラグを置いて光による刺激をその被験者に、つまり被験者の脳に与える。そして、テーブルなどの上に置いたボタンを示して、「光が見えたら、できるだけスピーディーにそのボタンを押して、その光を消してくださいよ」と依頼しておく。
 この音と光という二つの刺激の、そのあいま、つまり被験者が「これからコトがおこるぞ、おこるぞ」と「期待」しているときに、被験者の脳波(電気脳造影図 - EEG)の基準線から比較的緩慢な、上方への移動が看取される。そして、被験者がボタンを押してその光の刺激を自らシャットダウンすると、この移動は見られなくなる。つまり音と光という両方の刺激に随伴してEEGがマイナスの方向に変動する移動現象(CNV)が生じるわけである。
 
 鳥居先生は、これを被験者に香りの刺激を与えてテストし、CNVで香り・においの刺激が惹起するとされてきた、たとえば「刺激効果」あるいは「鎮静効果」を客観的に提示できるのではないかとお考えになり、その試験にチャレンジなさったのである。
 
 先生は、刺激・興奮作用があると言われるジャスミンアブソリュートの芳香がこのCNVの「振幅」を確かに増幅させること、そして、他方、鎮静効果を示すとされるラベンダー精油の香りが被験者のCNVを抑制することをそれぞれ客観的な形で示せることを証明された。
 
 従来、ジャスミンアブソリュート、ラベンダー精油のヒトに及ぼす効果は、アロマ関係者、アロマテラピー関係者の間でひろく語られてきた。しかし、それは科学的な裏付けを欠いていて、万人を納得させるものではなかった。それに対して先生はこのCNVを利用して、これらの香りの人間に与える「効果」を科学的に、大脳生理学的に、きちんとすべての人にわかるように図示され、科学の面から立証なさったのである。
 
 このことは、世界中のアロマテラピー関係者を狂喜させた。無理もない。いままでそうした作用があると、いわば「伝承」されてきた香りの、あるいは精油などの芳香の「効果」が科学という銀の裏打ちを施され、アロマテラピーというもの自体に不信・疑惑の目を向けてきた人びとを説得する道が開拓されたからだ。
 鳥居鎮夫先生は、ひきつづいてさまざまな精油の人間の心理面への作用をCNVを用いて解明された。そうした成果は諸外国に広範に伝えられ、多くの香料化学者たち、アロマテラピー関係者たちをいまもなお「励起」しつづけている。
 鳥居先生と個人的にも親しくさせて頂いた私は、先生の生前のお姿をじかに脳裏に刻んだもののひとりとして、ここであらためて先生の、このご功績を讃えさせていただく。
 
 付記① 確か、1992年だったと思うが、このころから1985年いらい私がわが国に紹介し、伝え続けてきたアロマテラピーという新しい自然療法がようやく日本人にかなり浸透してきたことから、テレビ朝日から「芳香の生理的・心理的効果」について語って欲しいとの依頼をうけた(その後、私はNHKのテレビにも招かれた)。
 この東京のテレビ局での生放送番組には、私の他に後の日本アロマテラピー協会会長の鳥居鎮夫教授、香水専門家の平尾京子さん、さらに個人的には存じあげない香道の男性の先生などが同席された。
 私は、限られた時間の中で、できるだけ一般のテレビ視聴者の方がたにわかりやすくアロマテラピーについて解説したつもりだ。私の話の後、鳥居先生が、パネルに図示したCNVの波形の意味するところを学問的な立場から述べられた。香道の先生は、「そういえば、私ども香道の関係者は、日ごろから香りを聞き慣れて(つまり嗅ぎ慣れて)いますので、年齢を重ねてもボケたりするものはおりません」と発言したのも印象深かった。
 このテレビ放送は、夜遅く行われたので、後日、ハーブ専門家・園芸家の槙嶋みどりさんから、「夜、ふとテレビをつけてみたら高山先生が映っているじゃないの、どうしてこの放送のことを知らせてくれなかったのかしら」と思いながら番組に見入ったとのお話があったことも頭に浮かんでくる。
 番組の司会者(というのかキャスターというのかよく判らないが)が、飯星景子さんだったこともよく覚えている。彼女はこの直後に統一協会/教会に入り、その父の著名なルポルタージュ作家で元読売新聞記者だった飯干晃一氏が娘を脱会させようと必死に活動し、やっとそれに成功したことがマスコミで大きな話題になったからだ。
 
 付記② それにしても、鳥居鎮夫先生は実に謙虚な学者・教育者でいらっしゃったとつくづく思う。放送の後、鳥居先生は私に、「いやあ、私の知り合いのH香料会社が、香りについて何か数値を出せ、数字で示してくれとウルサクいうものですから、こんな図を作ってみたんですよ。私はね、仕事がら、まあこんなことしかできないものですから。私、ご存知のように日本のアロマテラピーの権威なんて言われているんですが、私自身アロマテラピーについてはまったく知らないんですよ。これからアロマテラピーを勉強することにします。高山さん、ぜひご教授願います」とおっしゃった。私は、後に日本アロマテラピー協会(現在の日本アロマ環境協会)の会長になられる先生の、この率直なことばに驚き、感激して、「もちろんです、何でも私の知っている限りのことはお話しいたします。その代り、今夜先生が発表なさったグラフを私の講演とか著書とかで引用させていただけませんか」とお願いした。先生は快諾(かいだく)して下さった。だから、ここでこの図表を載せる許諾は泉下の鳥居先生から直接いただいたのである。そして、私は先生にフランスのベルナデ、ラプラス、ブレーシュその他のアロマテラピーや、フィトアロマテラピーなどの専門家の知識をお取り次ぎさせていただいた。そして、先生にはこのことを第三者には決して洩らされぬように、私なりの考えからご依頼申しあげた。私のほうは、鳥居先生の専門の大脳生理学の知識を代りに頂いたことは申すまでもない。このことは本日まで、私は誰にも口外しなかった。しかし、もう時効だろう。
 私は、日本の、いや世界のアロマテラピーの歴史上、エポックメーキングな先生のご研究とその発表との一部にいわば皮膚で触れられたことを、生涯の幸福と考えている。
 
 フランスの詩人、ルイ・アラゴンは「教えるとは、希望を語ること、学ぶとは、誠実を胸に刻むこと」とその詩でうたった。教育というものの本来あるべき姿を、これほど明晰かつポエティックに魂をこめて表現したことばを、私は寡聞(かぶん)にして知らない。
 私はこのブログを通じて、ずいぶん現在のアロマテラピー界のことについて「毒舌」を吐いてきた。でも、それは逆説的な形で希望を語ろうとしたのだ。この療法への愛情を述べようとしたのだ。私の意図が皆さんに十分にお汲みとりいただけなかったとしたら、その責任は挙げて私にある。ご叱責・ご批判はいつでもお受けするつもりである。ぜひご指導願いたい。
 
 私は残り少ない命を、誠実にアロマテラピーの知識を脳裏に刻み付けることに、そしてこのアロマテラピーへの希望を可能なあらゆる方法で語りつづけることに献げたい。
 
 ことしも、みなさんの本ブログのご愛読をお願いして、筆を擱(お)く。
 
2015年1月6日
 高山林太郎